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"Unripe Fruits Paradise" web版ライナーノーツ



「音源は出会いだ」。ストリーミングだYouTubeだなんだってのは便利で最高だけど、そんなのは世の中全体の話で、あんまり僕たちには関係ない。好きなものはやっぱり手にしたいし、オフラインで聴けるようにローカルに保存しててもそれはそれ。お店で買っても友達に借りても、郵送で送られてきてもなんでも、荷物になったり壊れたり無くしたりするけど、そんなめんどくさいモノが僕らはずっと好きなんだ。あいつと初めて話したのは同じバンドが好きだったから。お気に入りのカセットテープやレコードは自分の部屋を飾るなによりのインテリアでもある。

2000年に現カクバリズム角張氏とGOING STEADY安孫子氏がやっていたstiffeen recordsからリリースされた当時の西荻wattsのパンク・ハードコア・スカパンクなどのアンダーグラウンドシーンを切り取った「SMALL CIRCLE OF ROCK」(SNOTTYやDASH BOARDなどが参加)。
もっと遡れば、FRUITYがHUMBERG TAPESというレーベル名で出した『MEDIUM RARE COMP』(NUTS&MILKやOACなどが参加)。

筆者もI HATE SMOKE RECORDS(以下IHSR)のOSAWA17も漏れなくそんなPUNKコンピに当時の興味や関心をガンガンに持っていかれていたひとりである。それこそ昔はディスクユニオンやブックオフで棚のラインナップにどこか溶け込めていないパンクっぽいコンピCDの裏ジャケを眺めては、知っているバンドを見つければ買っていたし、そこで思いがけず出会って好きになったバンドもたくさんいる。

前述のような名物コンピのように、なにかが始まりそうな前夜感、いやどうやら何か今おもしろい動きがすでに始まってるぞという、その未成熟だけどこれから色づきどんどん好き勝手な成長をしていきそうな天然モノの熱量、それをそのままタイムリーにパッケージして記録したいね、とOSAWA17とよく話題にしていたこともあり、今回若手から中堅まで、誘いたいバンドなんて全国各地大量にいる中で縁があったみずみずしい9バンドでCASSETTEという自分だけのお気に入りを集めたMIX TAPEの形でリリース。畏れ多いが今回少しばかり関わらせていただいたのでありがたく筆をとらせてもらっている。

せっかくなので簡単に各バンドのことにも触れておきたい。

先頭を駆け抜けていく痛快なイントロはCHINESE HOODIE。結成から約1年だが、抜群のソングライティングとガチャガチャな勢いとファニーな要素が前面に出た3ピース。今回の参加メンバーの中では最年少。フェイバリットにあげるschool youthの人懐っこさと2019年のメロディックの感覚が織りまざっているのが肝だろう。

騒がしい夜を越えて、金八よろしくな河原の土手を全力で駆け抜けていくような淡い気持ちと青春感が気持ち良いeither。遠くに逢いたい人がいたらきっと距離も季節も越えて気持ちだけで走り出すんだろうな、なんて思わせてくれるバカみたいに蒼く清々しいナンバー。
メンバーそれぞれの趣味と躍動する個性もうまくブレンドされた楽曲と、周囲を巻き込むライブに定評のあるファストコアでかき乱す、NINJA BOYZ。あっという間に終わる曲の短さはハードコアマナー。名前がじわじわと浸透中だが、圧倒的にスタジオライブばかり呼ばれるのもおもしろい。

そんなNINJAともスプリットをリリースしているSendoは初期こそスカパンクをベースにしていたが、海外の現行インディーやエモを独自に音楽的咀嚼し、彩り豊かなサウンドと期待を裏切るアレンジがおもしろく、外し方と盛り込み方にセンスを感じる要注目な存在。今回のコンピでは突然リゾート感を感じさせてくるのに、なんだか最後は泣きの要素プンプン。

お茶の間にもわかりやすい日本語でのメッセージがスッと入ってくるが、時折ドキッと純粋な自分に立ち還らせてくれるような言葉に溢れる直球なグッドソングをやさしく届けてくれるのはMY SHOES MY CAP。クイックポップなスカパンクを得意とするが、ここ数年のストレートなパンクへと変貌を遂げた新たなバンドとしての惹きつける力はますます磨きがかかっている。

東京で活動しているバンドの中で今回、宮崎という場所から参加してくれているのがマッハエスカルゴ。「地元で全然好かれてないです」と笑いながら、2018年の春に東京でライブをした3日間を皮切りに、そのライブでの振る舞いや愚直ながら憧れだけではなく、自分たちがやってやるんだという衝動溢れるパフォーマンスと中毒性のある楽曲に皆謎のギアが入り胸を焦がすものが続出。いつだってでたらめな鼻歌をでっかい声で歌いたくなる。

今回の発起人でもあるOSAWA17率いるTHE SENSATIONSは最近ではあまりなかった、勢い抜群のホロリとくる爆走ショートチューンで参加。やるからには若い者には負けたくないという大人気ないくらいの負けん気を感じてしまう。僕らが好きなツボをぐいぐいと刺激するようなフレーズの応酬に思わず体が動き出す。

Sendoと同様、今回のコンピの中で異彩を放っているのはshuto。軽やかなメロディーに女声ボーカルを乗せ、ノイジーなギターが印象的。落とし所の良さと退屈さを感じさせないバランスの良さとソングライティングがどうにも居心地が良い。都会的で洗練された街並みもあるけれど、冷たさばかりではない東京という場所を連想させる不思議な温もり。繊細な声も耳に残って仕方がない。

最後を飾るSUMMERMANはじわじわと気持ちが良くなるようなあいさつ代わりの一曲。好奇心と戸惑いを両脇に抱えながらも、自分たちのイマの気持ちに忠実に大人の階段を上っていく曲たちがエモとかそんなん関係なくとても眩い。朝起きてカーテンを開けながらこんな曲が流れてきたらよい一日になるに決まってる。

「ぼくらは未来を忘れ、過去を忘れ去るべきだ。ぼくらが考えなければならないのは現在だけだ。何しろ、ぼくらは今この時、何にも持っていないから。何にも!」
-かつて、かのポール・ウェラーがこんなことを言っていたらしい。オトナも若手も、若気の至り、おおいに結構じゃないか。10年後どうなってるかもわからないし、こんな小さな入れ物の音源をひとつ作るのに本気で夢中になっているのも、こっ恥ずかしくもあるけど、その何倍も最高と思えるし。その今を更新していけたら。

『Unripe Fruits Paradise』はごくごく一部ではあるけれど、この時代のライブハウスで人知れず起きている、瞬間のきらめきみたいなものがすごく込められているカセットテープだと思う。「これからこのバンドたちが絶対にくるよ!」なんて競争や早物買いにはそんなに意味を見出せないから。誰かが身近な誰かに。知らず知らずのうちに影響しているように、誰かの大事な音楽と人との出会いになれれば最高だなと思う。

何も流されない意思とスタイルを持ったバンドを時代に記録(record)するIHSRのテーマに強く賛同し、よく言えば瞬間のきらめきと言う名の一発書きで、他に類を見ない文字量と解説になってしまったこの文章をライナーノーツと呼ばせてもらうことをお許しください。

4x5chin(KYO-TEKI/インディーインタビュアー)

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