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『 30歳の制服デート 』 劇団ユニット・サキクサが "" わたし "" に寄り添う

 俳優・大塚由祈子さん(@yukko_otsuka)が主宰する劇団ユニット『サキクサ』の舞台『30歳の制服デート』を観た。


◾️ステージナタリーの事前情報

 『サキクサ』はステージナタリー経由で知った劇団ユニットで、わたしは今回の舞台が初見だ。掲載内容を抜粋すると物語の概要は……▼

今年で30歳を迎えるタケルとミナミは、付き合い始めて5年、同棲を始めて4年になるカップル。ある日、押入れの奥から制服を発見した2人は、マンネリ解消のための“制服デートの旅”に出かけ……。

 というもの。どんな脚本になっているかとても気になるし、演出の味付けによってコメディにもシリアスにもなりそうだが、想像ばかりしていても仕方ないのでとにかく観てみようとおもった。


◾️じぶんは誰に寄り添うか?

 舞台での登場人物は、ミナミとタケルの2人である。ただ、「じぶんは誰寄りの視点でこの物語をみてしまうか?」となると出来事の回想ついでに特徴があきらかになるタケルの両親も含むのではないかとおもう。なぜなら、制服デートという状況をつくりあげるきっかけとなったのが、彼らであるかもしれないからだ。タケルの両親を、「世間の目パターン1」と捉えてもいい。


◾️ミナミに寄り添うか?

 ちなみにわたしは、身体の性は「女」、性自認も「女」、性的対象となる性は「異性愛者の男」で、その3点においてはおそらくミナミと同一だとおもう。

 ただ、こどもをふたり授かっており、不妊治療が必要なカラダではなかった。根本的にミナミとはそこが大きく違うし、人生の選択肢もだいぶ異なる。彼女のきもちをはかり知ることはできないだろうとおもう。ただ、わたしにだって選択したくてもできなかった道はあるのだ。そうやって「はじめから地図になかったフィールド」を羨んで泣く経験があるという意味で、ミナミの絶望感を察することができる。

 マンネリ回避のために使われた "" 制服 "" は、きっと、誰にだって必要な「武装」や「手当て」「気付け薬」のようなものだ。ひとによっては、その意味合いが若干変わるというだけで。


◾️タケルに寄り添うか?

 そして、わたしからみてまったくわからないのがタケルだ。なぜなら、彼自身の思想や願いが、はっきりとは描かれていないからだ。つまり、「結婚願望があるかないか」「家族(実の子)がほしいかどうか」が彼の口からは語られていないのである。

 ミナミの現状や、それによって発せられた言葉に反応してはいるが、元々どうだったのか?が、わからない。ただ、ミナミのことを誰よりも考えようとしている姿勢は伺える。

 主体性があるようでないかんじや、空気の読みかたが独特でミナミの欲するものと噛み合わないときがあることを、物語上でもかなり指摘されているとおもう。……が、なにも考えていないわけではない。不器用だが、「ミナミ一筋」なのをずっと貫いているとかんじる。


◾️タケルの両親に寄り添うか?

 その点、タケルの両親(世間の目パターン1)はある意味わかりやすい。「こどもを産めない女に価値はない」という偏見や固定観念の押し付けをする。

 きっと、そういった考えを、ふだんはわざわざ露呈させないだろう。ヨソの家族の話ならば別にどうでもいいともおもっていそうだ。が、じぶんたちの息子の妻になる人物だとNGで、堂々と「不妊」や「子なし家庭」を否定してしまう。

 当事者を前にその思想をもちだすと、どれだけ遠回しに表現してもイヤなかんじになるだろう。が、「孫がほしい、世話をしたい、ふつうはそうなるはずだ」という彼らなりの常識や願望や人生設計をぶちまけたのかもなぁ、とか、憶測だけはしやすい。


◾️その感情は、誰のもの?

 そんなわけで、じぶん自身の経験や特徴をもとに、誰に寄り添って舞台をみるか?で、ずいぶん喜怒哀楽の出方が変わってしまう物語だったのではないかとおもう。ミナミに不快感を抱くひともいるんじゃないか?タケルを受け付けられないってひともいそうだな?とか。

 いろんな伏線がはじめから張られている。回収されるたび少しずつ誰かの心中が解き明かされていくかんじ。けっこう細かい人物設定だなぁ、とおもいながら観た。いやはや、おもしろかった!

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