見出し画像

【読書履歴】木挽町のあだ討ち

著者:永井紗耶子
初版:2023.01.20
初出:小説新潮 2019.10 2020.04/07/10 2021.04/07
受賞:山本周五郎賞 第169回直木賞

 雪の降る夜に、木挽町にある芝居小屋・森田座の裏通りで、芝居の一場面のようにおこなわれた仇討。

 物語では、第一幕から終幕までの六幕を芝居仕立てで構成し、この芝居小屋で働くわけアリの人々がなぜここ芝居小屋に落ち着いてきたかを描いています。語られるのは、幇間:一八(第一幕)、殺陣師:与三郎(第二幕)、衣装部屋のほたる(第三幕)、小道具師:久蔵とその妻お与根、戯作者:篠田金治の来し方。その物語ひとつひとつが人情もの物語となっていて読んでいてメインの仇討ちの話を忘れるくらい丁寧に綴られていきます。その描き方は筆者の周到な時代考証に基づいて描かれているだろうことはそれの生活の息遣いがビジュアルで見えてくる事で明らかでした。

 仇討ちの話は、各幕の物語の中で伏線として同じように描かれますが、やがてジクソーパズルのピースを埋めるように一つの大きなあらすじとなっていくところは、読んでいて骨太感がありとても面白い構成だと思います。
 主人公菊五郎が乗り越えなければならない二つの矛盾した思いを、その面々たちが彼ら流の受け取り方で果たしていくところは、全く筋書きは違いますが、ロバートレッドフォード主演の「スティング」を彷彿とさせる大どんでん返しで、読み手が『ああ読んでよかった〜』と終幕(第六幕)で思わせるところと、その大どんでん返しの仕掛けも“芝居”をテーマにしていて、幾重にもなった“芝居”に絡む要素が、従来の時代小説が持つ人情もののそれとは違った清々しさを与えてくれました。

 タイトルの「あだ討ち」の持つ意味もしっかりと文字で描かれ「小説っていいですよね」って思わせてくれました。

山本周五郎賞、直木賞のW受賞納得です。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?