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welq騒動の結果、編集・メディア界隈に蹴鞠チームができないことを願う

もちろんわたしも、welq が出してた記事と運営スタンスはひどいものだと思います。

が、DeNA 社の圧倒的なテクノロジーとマーケティング力は、メディア運営企業として賞賛に値すると思っています。

もともと Web の世界は参入障壁が皆無なので、一儲けしたいベンチャー企業、楽して暮らしたい個人アフィリエイターが毎日のように新しく Web サイト(メディア)をつくっている無法地帯です。

そこで「検索で上位化するテクノロジーと戦略」を極めれば、1つの大きな戦場において有象無象共を蹴散らすことができます。Web マーケティングという血の海で戦っている軍人からすれば憧れるような強力兵器ですよ。

言うまでもなく、今回の騒動はあくまで「強力な兵器を持ってる会社がひどい侵略戦争をしてしまった」ことが問題なので、「最新兵器で武装して侵略するのはやめよう! ラストサムライらしく清く正しく生きよう」みたいな風潮にしてはいけません。そんなことしたら Web 業界の発展が10年遅れてしまう。

※「広告や SEO なんてそもそも本質的じゃない」とか本気で言っちゃう人はこの界隈にはいないと思うのでそのへんの説明は省略。

Web の戦い方ができなければ、ライターや編集者がいくら頑張っても第二の welq に負ける

今回の騒動における最悪の展開は、Web 編集者や Web ライター界隈に

「やっぱり SEO 屋やマーケターという人種、事業会社は信頼できないですなぁ。編集者はこの醜い Web の世界で戦うラストサムライとしての矜持を持ち、しっかりと取材や調査を重ねて作り込んだ “いいコンテンツ” を増やすことに集中したいものです。Google も馬鹿ではないから、いずれ私達がつくる “いいコンテンツ” を1位にしてくれるはずですぞい。あ、それ読みづらいからすぐ直せ。Word ファイルに履歴とコメントを残しておきましたぞ、ホッホッホ」

みたいな蹴鞠チーム(専用のグラウンドに集まってよくわからん競技をやってる軍団)を増やしてしまうことだと思います。

(↑ × 1位は → ○ 1位を )

Web はとにかく無法地帯なので、いずれ「DeNA はさすがにやりすぎたから、あの一歩手前で踏みとどまろう。やり方は DeNA を完コピしよう。くすぶってる医師の名義だけ大量に借りて監修してるという名目にして、反論が来たら “この分野は今も研究者たちが実験と議論を重ねており、さまざまな学説があります” と返す応対マニュアルをつくろう」みたいな企業が現れないとは限りません。

組織に所属してない個人アフィリエイターなんて、未来の不労所得が眠る金脈を死ぬ気で探して掘ってくるでしょうし、そんな人を「楽して月10万稼ぐノウハウ教えます!」と釣り上げる情報商材屋さんも増える一方でしょう。「楽して稼ぎたい」という人間の根本的な欲求は絶対になくならず、そのためなら悪いことと分かっていても手を出すことでしょう。歴史が証明しているように。

で、Google や Facebook や YouTube のアルゴリズムを考える方々も別に頭がお花畑なわけではなく、とても合理的で賢いので、Web の世界の管理人たちは蹴鞠リーグの審判のような超属人的な仕様にはならないと思います(コンテンツの独自性自体は評価されるとか、オーサーランクの話とかはまた別に色々とありますが)。

welq 騒動はあくまで氷山の一角であることを忘れてはいけません。Web は無法地帯であり、まだ見ぬクリーチャーがたくさん生息しており、だからこそ最高に楽しい世界なのです。

個人的に理想の展開は、編集者界隈が「テクノロジーやマーケティング戦略みたいな近代兵器は節度を守って正しく使いたいよね」みたいな勢力を味方につけること。しっかりした制作担当者と流通担当者が密に連携したチームが増えれば、 Web 上の秩序を守ることができるわけで。

気に入らないものを大勢で寄ってたかって潰すよりは、黙って上書きするほうがかっこいいし、“Web らしい” と思います。



// ちょっと別の話になってしまいますが

とはいえ、それは現在の業界を見ているとなかなか難しいのではないかと思っています。welq 騒動に対する Web 上の反応とか見てても「??」ってなったりするので。

ここまでの話と関連するテーマなので、

1. Web 編集者やライターたちの今の状況だと、事業主や異職種のメンバーと組みづらい
2. 地位が向上しているデザイナー軍と比べて大きな差がついている現状

について、ちょっと掘り下げていきます。興味ない方は、読まんでいい(真田丸の叔父上ボイスで)。



編集・ライター界隈の蹴鞠チームは Web 業界で孤立していく

超極端に言えば「私たち(編集者やライター)に頭を下げればいいコンテンツは作ってあげるから、君たち(マーケターやエンジニア)はこれを検索結果の1位に押し上げたり、テクノロジーを使って多くの人の目に触れるようにしなさい」は絶対に NG だという話です。

価値の定義にしても、「私たちのリーグ戦で鍛えられた筆力を見せてやりますよ(方法論からくる価値)」ってスタンスではなく、「ちゃんと仕事するんで定性的にも定量的にもある程度良いものつくりますよ(結果からくる価値)」ってスタンスでやるべきだと思います。短期的成果だけ追うならマーケターだけでよくて、結果を一切追わないのは Web の仕事ではナンセンスなので。

事業主やマーケターだって、コンテンツ制作の重要性を理解していたとしても、「じゃあちゃんと取材して信憑性あって面白いコンテンツつくりますので、1本あたり○万円ください」って言われたら普通に「高っ!!」って思うじゃないですか。「拡散するんで ○PV くらいはいけますよ」とだけ言われても「それって一瞬だよね?」「ターゲットの属性は? それはあなたのファンであってうちの商材の情報は必要としてない人たちじゃないの?」ってなるじゃないですか(長期目線のブランディングならいいけど)。

生存競争が厳しい Web の世界、というかすべてが Web と一体化する21世紀の産業界においては、よその人が持ってきた文化がどんなに素晴らしく美しいものだろうが、「金を生むか」「金にならなくても手元に置きたいと思える価値があるか」という審査をされます。

日本は残念ながら IT 後進国なので国家として豊かになっていくとは考えづらく、21世紀では「目に見える成果出てなくても、美しいからいいや」と考えてくれる人、そもそも文章だけで感動してくれる人は減っていくと予測されます。

そんな殺伐とした世の中では、エンジニアやデザイナーの仕事は「素人にはできない、難しそうな仕事」だからまだ比較的守られますが、日本語を書く仕事なんてものは尊重されづらいです。論理的には納得できても、感情的に納得しづらいです。仕事ですから。

ってことで、編集者やライターは「力を貸してやろう」的なスタンスで交渉できる立場にはないと個人的には思っています。

ていうか、普通に考えれば、事業をやるにあたっては編集者やライターよりエンジニアとマーケターとマネージャのほうが偉いじゃないですか。専門職として尊重はされても、神格化されるポジションではないのです。

Web ライターの給料が安いから上げてくれみたいな話はたびたびバズりますが、若手のエンジニアとか営業マンが月給25万前後しかもらってない企業が、経験1~5年くらいのライターに月給25万換算の業務委託料とか払わないでしょう。確実に暴動が起きますよ。

コンテンツ企画やライティングで儲けたいなら、もっと優先度高い職種を富ませてからです。日本企業全体を富ませてからかもしれないし。今高い給料をもらいつつ自由に働きたいなら、21世紀型の企業で最も尊重されるエンジニアになればいい話ですからね。


UI デザイナーを見習って、まず「Web のチームの一員」になろう

さて。

儲けるまではいかずとも、適切な評価を受けるためには、まず他の職種の方々と相互理解を深め、尊重する必要がありますよね。

実際に、近年では、

* エンジニア文化に合わせて GitHub や Slack といったツール、分報みたいな文化を取り入れるビジネス組織

* エンジニア領域に片足つっこんで、実装力もつけながら対等に議論しようとする UI デザイナーやプロダクトマネージャ

* そして逆にビジネスサイドやデータ解析に片足つっこむエンジニア

などが増えてます。事業を伸ばすため、会社を大きくするため、チーム内での自分の価値を最大化し、1つのチームとしてもっと良くなろうというムーブメントがあります。

しかし、Web 編集者やライターの文化はどうでしょう。

未だに Word のコメント機能や修正履歴欄で激論を交わしながら「美しい文書ファイル」を作成したり、Web サイト上の文言修正などをテキストベースでメール送信したりしています。

WordPress 製のメディアを運営してはいるものの、書いてあるコード (php, js, CSS など) には呪詛の言葉のような恐怖を感じるという声も聞きます。「Web 編集者」とか名乗ってるのにね。

対照的に、デザイナー界隈には、かなり異職種に歩み寄った人が増えている印象があります。「ユーザーの滞在データを見ながら、エンジニアやマーケターと一緒に最適な UI をつくっていこう」という仕事にシフトしていたり。彼らは別に昔と違う仕事をしているわけではなく、「デザイン」の仕事をしていることに代わりはないといいます。

あとフロントエンド兼デザイナーはやっぱパラディン感ありますよね。ちょうかっこいい。

>昔は、デザイナーは筐体を、プログラマは中身をそれぞれ別に作っており、アウトプットは物質でした。けれど、情報化社会のアウトプットはデジタルなので、境界が曖昧です。
>昔のケータイはどこを誰が作ったかが分かりますが、iPhoneはどこまでプログラマがデザインしてどこからデザイナーがデザインしたかが分からないと思うんです。

>情報化社会では、専門性は深く境界線は曖昧になります。そのように、専門性が高い人が集まり、境界線なくチームでものを作っていくのがいいと思ったのです。

>引用:http://www.jobweb.jp/post/a-26712

そもそも、最新・特定分野で突出するか、ビジネスやマーケやデザインなどとのハイブリッドにならなければ、ただ指示された機能を実装できるだけのエンジニアでさえ地位が下がっていくような時代です。

UI や企画面まで考え抜き、ある程度は定量的に評価されるデザインをしなければ、ただ美しいデザインができるだけのデザイナーでさえ地位が下がっていくような時代です。

ただ美しく読みやすい文章を書けるだけの人がどうなるかは明白ですよね。

そんな時代ではありますが、たとえば、コーポレートサイトやサービスサイトのテキストが良くないと思ったとき、GitHub の PR ベースで直接修正すれば、「こいつアナログだと思ってたけど Web のことわかってんな」と一目置いてもらえるかもしれません。

そして、修正後のテキストがとても腹に落ちやすくなっていたり、問い合わせ獲得数 UP 効果が出たりという体験ができると、「良い文章を書けば、こんなに変わるのか」と見直してもらえるかもしれません。

まずは、信頼を積み重ねて、異職種の方々から “頼れる仲間意識” を持ってもらうことが、今後わたしたち Web 編集者に求められるのではないかと思います。

(↑機関銃というか、ビームサーベルとか、見えない刃のほうがしっくりくるな)


「文章を書く仕事の価値をもっと認めてほしい」なら、仕事の領域を広げよう

「Web 編集者やライターが他の職種と仕事する機会なんてあまりない」と思うかもしれませんが、それは「メディア」という狭いフィールドばかり見ていて、職種の定義が狭いからです。

本来、一般的な企業の予算規模での新規事業および Web マーケティング戦略の中では、メディア運営なんてのは貴族の遊びです。そもそも、お客さんにとっての優先順位はそんなに高くないし、お客さんはもちろん自社の異職種メンバーにとっても成果が見えづらい。

各種 Webサイト、SNS、採用 PR コンテンツ、販促・集客広告のほうがはるかにわかりやすく、経営的な優先順位も高い。特に短期的に結果が出てダイレクトに売上貢献できるネット広告とかは(いろいろ闇はあるけど)まさに **Dead or Die** の血なまぐさい戦争です。

しかし Web 編集者や Web ライターみたいな人材も彼らの志向性もメディア界隈に集中しているし、お客さんから「トリアエズオウンドメディアヤレッテイワレタ」事案を相談されたときの代替案として広告運用代行とかを提案できなかったりする。

結果として、

* 各種 Web サイト上の文章を書くのはディレクター(会話は得意でも書くことが苦手な人はいる)

* プレスリリースを書いたり SNS を運用するのは広報担当者かバックオフィス担当者(同上)

* Web 動画の構成考えたり字幕テキストの訴求文を書くのは映像ディレクター(同上)

* 提案書やプレゼン資料のストーリーを考えたり短いフレーズでポイントをまとめるのはディレクターやマネージャ(若いときは時間なくて雑になったりする)

* 求人広告を書くのは求人広告ライターという限定的な職種(そしてフォーマットが決められすぎていて表現に限界が…)

* 情報商材屋さんが毎日更新する FB ページやメルマガを書くのはセールスライターという限定的な職種(まず彼ら自身が率先してナントカライティング術みたいな情報商材を売っててこわい)

* ネット広告の文章を書くのは代理店とかの広告運用スタッフ(時給 1,000 円のバイトの場合もある)

みたいな状況になっています。

そもそも、この Web の世界の中で、編集者やライターが「文章の大切さを知ってほしい」「書ける人をもっと評価してほしい」「文章を書く人の地位を上げたい」とか言うのはさすがに滑稽です。みんなそもそも書いてないし。

異職種の方々からしたら遠すぎる存在なのです。書いてる記事は SNS で流れてくるから物理的にはよく目に入るけど、自分の身近なとこで仕事してる姿は観測できず、精神的にはすごく遠いところにいるから「身内感」がない。

「Web ライター=note と LINE BLOG でなんかよくわからんこと書いてるよくわからん職種(会社にいても『SNSで拡散』以外のどこで貢献してくれるのかが想像つかん)」「Web 編集者=Web ライターと何が違うのかわからん」みたいなイメージ持たれてそうだし。

ていうか、すでに蹴鞠プレーヤーだと思われてるんじゃないかと感じます。

文章を書く仕事が大切だという認識は広まりつつあり、インハウスエディターが増えていくだろうという話は同意です。しかし、現状の「エディター」「ライター」たちの志向を考えると、日本の大部分を占める中小企業やベンチャー企業からしたらコストセンターになって継続しないのではないかと思います。


結論

マーケターほどガチにはならなくてもいいと思うけど、Web 編集者名乗る人は割とガチめに Web マーケティングやろうぜ!!

マーケティングって言葉も編集者とかメディアばりに定義が曖昧ですけどね。まぁ察してください。

補足:まぁ才能ある人には関係ないんだけどね

わたしは一貫して

「いいコンテンツをつくることだけ考えたいってスタンスは、ごく一握りの天才にのみ許される。凡人がそのスタンスで仕事をしたいなら紙媒体 (結果として数値があまり出ないので) か趣味でやるべき」

というスタンスです。感情はしばしば数値や理屈を超越するってことは理解しています。『人は理屈で来られすぎると心を閉ざす』と。

弟子がものっすごい不器用で繊細なライターなので、「ライターたるものもっと数字を意識したり技術を意識したりすべきだと強要してくる人たちの言うことなんか聞き流しとけ」と常日頃から言っています。

そう考えるとこの記事は相当なダブスタっぽくなるんですけど、何よりもまず「才能は美」がベースにあるってことで。つまり自分には才能があると信じていたり勇気づけてくれる先輩とかがいる人は好きにやればいいって話です。


補足 その2

ところどころ、特定のインフルエンサーの方の発言を想起させるような部分がありますが、わたしのスタンスは

「彼等が言ってること自体はだいたい正しいし応援している(まずああいう才能ある人たちはやりたいようにやればいいと思う)が、そこに金魚のフンみたいにくっついてよくわからんまま賛同・拡散してる、国会のヤジみたいな無名の編集者・ライターたちは気に入らない」

って感じなので誤解しないでくださいませ。\そうだー!/ 一応補足として。\そうだー!/

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