貝がこうぶつの小さき者

学校で貝を発掘する会なるものを発足した。

裏庭の隅にある鉄棒1の横からサザエが取れたので、いろんなところを掘り出した。

大昔、学校があった場所は湖、いや、海だったのではないかと夢想する。

プール横の木が数本生えたところもクサイと見て、友人と手をつけはじめた。

その頃には鉄棒1の横は穴だらけになっていた。

プール横は小さな崖のようになっていて、子供にとっては危険な場所だった。

それでも小さな手は掘るのをやめない。

本来の目的を忘れて、ぴかぴかの石ころが土から出てくるのをつい期待した。

だが、見つかるのは身のないかたつむりの貝ばかり。

かたつむりの死骸は手に取った瞬間、もろもろと崩れる。

つんとすっぱい雨の匂いがした。

綺麗な石や貝が出てこないとわかると、一人また一人と会員が減っていく。

貝は昔、誰かが食べて埋めた物だと元会員に告げられる。

それでも夢想と掘る作業はやめなかった。

ついには、会員が二人となった。

いい石を拾ってきて見せるとおばあちゃんが十円と交換してくれるんだよねと、自分以外では唯一の会員に言われた。

白昼夢をそのままにしてはおれず、ついには売っている物に手を出し始めた。

金を出してまで鉱物集めに精を出す。

親は呆れていた。

 学校では掘れる貝がなくなって(付き合ってくれる友人がいなくなる)わざわざ冬の海に連れて行ってもらった。

スーパーの袋一杯に拾うと、満たされた。洗いもしなかった。眺めるのも少し怖かった。

しばらくたって、工作の授業でその貝が有効活用できる機会が巡ってきた。

しかし、どう使えばわからない。

一人の友人に相談すると洗ってあげると申し出てくれたので、快くビニールごと手渡した。

次の週にはきれいになって返ってきた貝をうっとりと眺めていたのも束の間、その友人は自分が洗ったのだから、その貝を半分分けろと言ってきた。

初めからそれが目的だったのである。渋々分けた。

 それから一年後、今度はグラウンドの水飲み場の横から黄鉄鉱と呼ばれる鉱物が獲れ出した。

男子たちが一生懸命、休み時間に発掘作業をする。その中にマドンナ的に女子が一人入る。

自分も入れてほしいと懇願したが、だめだと言われ撃沈。

そのすぐ後に黄鉄鉱の正体は先生がクラブ活動で余ったのを埋めた物だと知る。

天然ではない物を掘っている男共がなんだかちっぽけに見えた。

黄鉄鉱なんかに興味などないと意地を張ったが、その腕には鉱物のブレスレッドが六つもぶら下がっていた。

いつもじゃらじゃらうるさかった。

その前には同じところに手製の細いミサンガが2,30本巻かれていた。

親は辟易した。

ついにはブレスレッドの順番や位置、向きまで気にしていた。

末期だった。

今やブレスレッドと貝たちはがらくた箱で埋もれて混ざり合って腐臭を放っている。





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