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人、時々天使/1029日記

  悪夢の中で日記を書いていた。「傷口みたいなやさしさ 傷口みたいなやさしさ」と何度も。
 リスカしてる女の子の絵、美しかったけど、目だけは何度描き直してもぐちゃぐちゃだった。目覚める直前後にアパート全体が揺れ動いてて、あれが夢か現実か未だにわからない。こういうことが時々ある。あの感覚がもし夢ならば、もう現実の感覚なんて、リアリティなんて信じられない。
それはどういうことですか、と夢の中で少女ふたりに問うと、ふたりは怒ったり悲しそうにしていた。もし私が現実世界でも「それはどういうことですか」と聞いたり、「いやです」と拒絶できたら、ああなるのだろうか。聞き分けのいい子を演じるきらいがあって、治らない。処世術みたいなやさしさだと自覚している。

昔から、人が沢山いる空間はグレーに濁ってみえる。空気が冷たくよそよそしい。空間全体に明確な白い部分がなくて、話せない。あの曖昧さの中で生きること。重圧。憂鬱な鈍いグレーの中にいろいろな人の、いろいろな思惑が入り交じっていて、恐ろしい。

じっとりと重苦しい雨に降られ、沈丁花がこうべを垂れるとき。

「夜、私はナイフを出して、机の上に並べる。買いこんださまざまの形のナイフはひんやりして、銭湯の湯で火照った肌に心地好い。美しいナイフ。美しい修。君たちは私のものだ。」

『ガラスの愛』

  するどく光り輝くナイフの切っ先  ハッとした、恋心に隠れた殺意がきらきらしくて   
 少年誘拐ホルマリン漬け事件について、よく調べている。

 R-18の捨て垢からいいねされる度に感じる、むなしさ   中身ではなくツイートそれ自体に反応されている、インターネットなのに現実世界みたいだ。
LINEの未読7件が「ごめんなさい」と「許して」を言っている幻聴、そういえば部屋の中に赤い服の男の人が立っていた。幻覚だった。リアリティとは何だろう。

 店の陳列棚に残ったレモンとオレンジ。毒々しい色。道端に落ちた靴下。ティッシュ。パチンコ屋前の煙草の匂い。翠色の非常灯。シルバニア。アマレットのミルク割り。田舎のフリーク・ショー。葬式。家の中。『素粒子、象とピエロギと101語のポーランド』。害蟲。精神科医の先生。日常と非日常。

生徒が自殺した!
生徒が自殺した!
生徒が自殺した!
ネットニュースの見出し、無力感。秋晴れが澄んでいて、澄みすぎて 憂鬱なとある朝。

 あなたは何をそう苦しそうな顔をしているんですか。

 友達がただマックを食べている写真。笑顔の写真。消せない。


 悪夢に侵食される、生活を。

 夕方目覚めて、痛む頭を抑えて台所に立つ。スープと炒飯、キャベツの千切り、にんじんともやしのナムル、肉団子。すぐに満腹になって、半分以上も残して、布団に入った。音楽が流れている。
「どうしようもない僕に天使が降りてきた」

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