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【ザ・マン・オブ・ラ・マンチャ】


【ザ・マン・オブ・ラ・マンチャ】

(占いニンジャぴるす・プレディクターの予言に従いスペインへと向かうホワイトパロット。襲撃ぴるすによる航空機トラブルを乗り越え、白きバイオオウムへと姿を変えた彼を導くのは、言葉で言い表す事の出来ぬカブキ直感であった)

 スペイン中部、ラ・マンチャ地方。その名が由来する通り水気の無い枯れた大地が広がり、植物は樹木はまばらに生えるのみ。強い風が絶え間なく吹き荒れ、むき出しの地表を削りながら砂塵嵐となって吹き付ける。この風を利用すべく、丘の上にはメガコーポ群の設置した近代的メカニカル風車が並ぶ。

 そして…見よ。その荒野に、一枚、二枚と白い羽が落ち、一人の男が着地する。その男は白黒のカブキ装束に身を包み、装束に描かれているのはフォースハナビシのエンブレム…すなわちコウライヤ紋。カブキ装束の男、ホワイトパロットは警戒し、己の周囲を見渡す。

 彼は己の姿をオウムへと変え、大海原を越えてこの地まで飛翔した。いかなニンジャといえど、それだけの連続的運動を休みなく続けて疲弊しないはずもなし。優れたニンジャ観察眼を持つ者であれば微かに上下する肩、僅かに精彩を欠いた視線からその疲労の色を感じ取れたであろう。

 休む暇など無し。スペイン行きを決めてから行動に移すまでの間に1日と時間は無かった。…だがそれでも航空機には刺客が潜み奇襲を仕掛けて来た。侮れぬ情報網。今ここに辿り着いたことを知り刺客を送り込むまで猶予はないだろう。

「…」ホワイトパロットは眼前を注視する。何もない空間。だが、何かが存在する。彼の直感がそう告げていた。「スゥーッ…ハァーッ…」ホワイトパロットは呼吸を整えて目を閉じ、探るように手を前へと差し出した。そして一歩、また一歩と歩みを進める。

「…!」4歩目、右手に感触が伝わる。ホワイトパロットは目を開いた。彼の目前、手に触れた存在。それは憮然と佇む、神さびた漆黒の石柱であった。「これは…!」思わず声を零す。ほんの数秒前まで目視し得なかった物が、今確かに存在する。如何なる技術か、ジツか。…それを考えるのは後で良い。ホワイトパロットは石柱を観察する。

 漆黒の鉱石で作られたその石柱はホワイトパロットの背丈と同じ程度の長さでタケノコめいて地面から生え、その表面には模様が彫られている。否、それは模様ではない。悠久の時の中、砂塵嵐に僅かずつ削られ続け、ついには風化しかけているが…これは文字だ。

 ホワイトパロットは掠れ果てた文字に指を這わせる。「…ラ・マンチャの地に眠る…」かろうじて解読できる一文。これより先は、もはや字であると認識することすら難しい。

 ニンジャぴるすの予期せぬ奇襲に伴い、旅順は大幅に乱れた。相棒とも呼ぶべき対のナギナタ、ベッカクとデンショウ。二本を運ばせた使いとも合流できていない。また、今は名目上「コウライヤとは無関係な元CEO」という立場であり、この地にコウライヤのカブキ研究員チームを集めて調査することもままならぬ。

『スペインへ行くが吉』予言の言葉が脳裏を掛ける。(…この地で自分は何を成せばよい?何がぴるす正教会と相対する上で『吉』となるのだ…?)心の声に答える者はいない。「…この石碑が何をもたらすというのだ」

 …その時だ!「ケオケオケオケオーッ!」突如、荒野にぴるすシャウトが響き、「イヨーッ!」ホワイトパロットは状況判断し、咄嗟に側転回避を行う!一瞬後、彼が寸前までいた空間を裂いて石柱に4枚のスリケンが突き刺さった!

「これは…!」「ケ、オーッ!」「イヨーッ!」ホワイトパロットは息つく間もなく飛び退く!KRAAAAASH!巨大な拳が乾いた大地を砕いた!それは14フィートはあろうかという大男!そしていつの間にか彼の肩に乗る小男!二人はニンジャであり、そして二人はぴるすだ!

(バカナ…早すぎる…!)ホワイトパロットは心中で唸る。彼は元々スペインへと向かうことを決めてはいたが、この地に辿り着いたのは予定通りではない。ニンジャ第六感、カブキセンスとも呼ぶべき直感に導かれてのことである。それを僅か数十分の内に探り当て、刺客を送り込むなど普通であれば考えられぬ!

 タタミ数枚の距離を取り着地したホワイトパロットは、瞬時に手を合わせオジギする。「ドーモ、ホワイトパロットです」「ドーモ、ピクシーです」「ドーモ…パタゴンです…」三人は即座にアイサツを済ませ、向かい合う。「相も変わらず騒々しい奴らだ。…どうやってこの地を知ったのかね」「ケーオケオケオ!答える必要など無し!」不遜!

「ケオケオケオケオーッ!」ピクシーがスリケンを複数同時投擲!その枚数は4枚!「イヨーッ!」ホワイトパロットはバックフリップ回避!「ケ、オーッ!」パタゴンが乱雑に腕を振り下ろす!カラテとも呼べぬ無造作な一撃。だが、重い!「イヨーッ!」スプリントで回避!

「イヨーッ!」ホワイトパロットは跳び、即座にパタゴンの懐へと踏み込もうとする。ビッグニンジャ・クラン対策のセオリーだ。だが!「ケオケオケオケオーッ!」4枚のスリケンが飛来し、行く手を塞ぐ!「ヌウッ!」なんたる瞬間的判断能力による的確なサポートであろうか!「ケ、オーッ!」パタゴンの危険な一撃!「イヨーッ!」バックステップ回避!

「ヌゥーッ…!」ホワイトパロットは攻めあぐねる。素早く的確なスリケン攻撃による補助。隙は大きく大振りだが恐るべきカラテの威力。…隙の無いコンビネーション。これを崩さねば勝利は難しいであろう。

 素早いサポート役のピクシーを潰すにしろ、堅牢でタフなパタゴンを潰すにしろ、ベッカク、デンショウさえ手元にあれば話は早い。…だが、今はない。ベンケの武器も無い。黄金のカブキモーゼル銃も無い。(…無い物ねだりをしても意味はあるまい!)身一つしかないのであれば、身一つで戦うよりほか無し。

「ケ、オーッ!」「イヨーッ!」振り下ろされた拳を踏み、ホワイトパロットは跳ぶ!「イヨーッ!」「ケ、オーッ!?」逆上がりめいて回転し、パタゴンの顎を蹴り上げる!「イヨーッ!」「ケオケオケオケオーッ!」蹴り上げた反動で、一気に飛び降りスリケンを回避!

「イヨーッ!」「ケ、オーッ!?」回し蹴りでパタゴンの膝裏を打つ!強制的に膝を折り曲げられたパタゴンはバランスを崩し膝を付く!「チィーッ!愚鈍な!」ピクシーはパタゴンの肩上でスリケンを構える!その瞬間。

「…イヨォーッ!」鋭いカブキシャウトが響き、「ケオーッ!?」「ケ、オーッ!?」恐るべきカブキの爆炎がぴるす達を襲う!これは暗黒カブキ奥義、ミエ!揺らぐ爆炎を睨み、ホワイトパロットは息を吐く。…だが。

「…ケオケオケオケオーッ!」爆炎を切り裂いてスリケンが飛来!ピクシーは死んでいない!ホワイトパロットはスリケンを払う!その瞬間!「…ケ、オーッ!」黒く焼けた巨腕が煙の中から伸び、叩きつけた!パタゴンも健在!なんたるニンジャ耐久力!そしてそれ以上に憂慮すべきはぴるすを仕留め損なうほどのホワイトパロットの疲労!

「ケオケオケオケオーッ!」「イヨーッ!」ホワイトパロットはスリケンを回避!「ケオーッ!」パタゴンが拳を振り下ろす!それはホワイトパロットへ向けてではなく…石柱へと!「なんだと!?」

 KRAAAAASH!恐るべき一撃を受け、石柱は無残に砕け散る!…そして、砕かれた破片は散弾のシャワーの如く飛ぶ…ホワイトパロットへと向けて!「…!」それは驚くほどに効果的な攻撃であった。ニンジャを銃で殺すのならば回避できないほどの飽和攻撃を行えばよい。飛び散る無数の石片は正しくニンジャを射止める飽和攻撃。(…アブナイ)ホワイトパロットは半ば客観的に自分を眺めた。

 ホワイトパロットは腕を伸ばす。致命的な石片を破壊する。時間が泥めいて緩やかに進む。全ての石片をやり過ごす他に路は無し。危険な石片を受け流す。受け切れぬ石片が刃となって身を切り裂く。気にしない。

 時間がさらに遅くなる。ゼリーを裂くように進む石片を摘み、弾く。視界の端で何かが銀色に輝いた。時間が遅くなる。指数関数めいて減速する世界で石を壊し、弾き、ずらし、受け止め、受け入れる。何かが銀色に輝く。

 石、石、石、石。視界を埋め尽くすほどの無数の石片。その中で銀色に輝く何か。その銀色が迫る。石の中。身を斬られながら、腕を伸ばす。指先が触れる。それは銀色の…。

「イヨーッ!」ホワイトパロットの腕が、銀のヤリを掴んだ。

101010110101101011011010010丘の上。古い風車が無数に並び、回り続ける丘の上を1人のニンジャが駆ける。愛馬を駆り、銀のヤリを構え、巨体のニンジャ達へと向かってゆく。010101011011010010101101011010110

「イヨーッ!」ホワイトパロットが腕を振る!「ケオアバーッ!」「エッ」パタゴンが断末魔の叫びを上げた。「エッ」ピクシーは呆然とパタゴンを見下ろす。胸に開いた大穴。ホワイトパロットの手元で輝くヤリ。「…サヨナラ!」パタゴンは爆発四散した。

「ケ…ケオーッ!状況判断!」ピクシーは爆発四散の寸前にパタゴンの肩から飛び退き、一目散に逃げ出していた。その姿は一瞬のうちに彼方へと遠ざかる!なんたる一般的ニンジャを大きく上回るニンジャ脚力か!

 だが…見よ!「ハイヨーッ!」紅白のカブキ馬に跨がり、追うホワイトパロットを!「イヨーッ!」「ケオアバーッ!?」ヤリの柄が強かにピクシーの背骨を打ち砕く!転倒し地面を転がるピクシーをカブキ馬が踏み止めた!「ケオアバーッ!?」

 ホワイトパロットはカブキ馬から飛び降り、ピクシーへと歩み寄る。「イヨーッ!」「ケオーッ…!?」首を掴み、ピクシーの体を宙へと持ち上げた。「…さて、インタビューだ。」低い声で告げる。「な…何をされても話さないんですけお!」

「君の意思は関係ない!イヨーッ!」「ケオアバーッ!?」ホワイトパロットの鋭い水平チョップがセプクめいてピクシーの腹を切り裂く!「さあ話したまえピクシー君。何者が君をここへ導いた」

「ア…アバッ…誰が話す…『…プロファシー=サンのウラナイによって…』ケ…ケオ…!?…アバッ…」おお…ナムサン。いかなるジツか、ピクシーの腹の傷が、内臓をまろび出させながら口めいて開閉し、亡者じみた声を発した。腹の口は当人の意に反し、情報を告げる。

「プロファシー=サンとやらはどこに居る」「ケオアバッ…『ネオサイタマ…詳しくは…知らない…』」「君達は次に何をするつもりかね」「ケ…ケオ…『極北……ピル=ドラド……』」「君達のボスは誰だ」「『ボス……………ポー………プ…』」「それは誰だ」「『…』」言葉は返ってこない。「……フン、もう無理か」…ピクシーは死んだ。



ネオサイタマのプロファシー、極北、そしてポープ。ハンドヘルドUNIXを操作し、ホワイトパロットは情報を送る。相手はサルファリック。「ネオサイタマのプロファシーは彼に任せるとして…」自らが行くべき先、極北の地。「移動手段、道具…まあ道中で揃えればよかろう。…ちょうど武器も届いたようだ」

 バララ…バラララ…上空からヘリのローター音が響き、「ケオーッ!」大きな黒漆塗りカンオケを背負った1人のニンジャぴるすがホワイトパロットの傍らへと着地した。「ドーモ、遅くなりました。ポーチュラカです」


【ザ・マン・オブ・ラ・マンチャ】終わり

【ホワイトアウト・エルドラド】へ続く



カブキ名鑑

◆歌◆カブキ名鑑#17【ピクシー】◆舞◆
ぴるす正教会のニンジャぴるす。非常に小柄かつ素早い。逃げ回りながら、あるいは物陰に潜みながらスリケンを4枚連続でばら撒く。スリケン自体の破壊力はさほどではないが厄介。

◆歌◆カブキ名鑑#18【パタゴン】◆舞◆
ぴるす正教会のニンジャぴるす。4メートルをも超える規格外の巨体を持ち、腕を乱雑に振り下ろすだけでも恐るべき破壊を引き起こす。巨大な体は血流や燃費に悪影響を与えており、知性は通常のぴるすよりも低い。

◆歌◆カブキ名鑑#19【キホーテ・ニンジャ】◆舞◆
ナイトニンジャ・クランから派生したリアルニンジャ。邪悪な巨体ニンジャクランのドージョーを単身で滅ぼした伝説が有名か。晩年、ドージョーに銀の槍のみを残し、愛馬と共に遥かなる旅へと向かったと伝えられている。





K-FILES

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K-FILESは原作者コメンタリーや設定資料等を含んでいます。
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ピルストロフィ・オブ・カブキエイジ第3話。スペイン中央、ラ・マンチャへとたどり着いたホワイトパロットは、ニンジャ第六感の導きにより謎めいた石柱と巡り合う。襲い来る刺客との戦闘の最中、石柱から現れた銀のヤリを手にしたホワイトパロットは荒野を駆ける太古のニンジャ騎士の姿を見るのだった。


主な登場ニンジャ

ピクシー / Pixie:ぴるす正教会のニンジャぴるす。フェアリー・ニンジャクランのレッサーニンジャソウル憑依ぴるす。彼は元々低身長であったが、ニンジャソウルの影響により1m弱という異常なまでの低身長と化した。フェアリー・ニンジャクランは素早い動きで戦場を駆けながら敵へと牽制を行い、また戦場の至る所に罠を仕掛けフーリンカザンを生み出す戦法を得意としたニンジャクランである。

パタゴン / Patagon:ぴるす正教会のニンジャぴるす。ビッグニンジャ・クランから派生した傍流のアーチニンジャ「パンタグリュエル・ニンジャ」の憑依者である。彼自身はニンジャソウルの強大さに耐えうるだけの精神力を持っておらず、知性は大きく減退した上にニンジャソウルの本来持つ力を十全に使えていたとは言い難い。14フィートを越すという身長は実際規格外の大きさではあるが、パンタグリュエル・ニンジャ当人は比較にならぬほどのさらなる超巨体ニンジャであった。

キホーテ・ニンジャ / Quijote Ninja:古の時代のリアルニンジャ。彼の冒険譚を纏めた書物は改訂・改竄を経て現在伝わる「ドン・キホーテ」の物語となった。ナイト・ニンジャクランの出身であり、愛馬ロシナンテと共に戦場を駆け、馬上槍を用いたランス・ドーで多くの敵を葬った。現代にも巨人狩りやレオ・ニンジャの討伐といった伝説が残るが、その晩年を知る者は少ない。


メモ

ホワイトパロットはスペイン、ラ・マンチャ地方へと至り、新たな何かを手にする…。タイトル、そして名鑑のキホーテ・ニンジャからもお分かりの通りこのエピソードの主軸はラ・マンチャの男だ。コウシロ…いやハクオウといえばカブキに留まらず数々の映像作品への出演や歌手活動なども挙げられるが、やはりこのミュージカルが印象深いと思う。…我々は特にね。けれどこの作品、カブキスレイヤーにおいては彼はカブキアクターであるという部分が重点されているから、今更ラ・マンチャの要素を足すのは難しかった。そこで、「まったく別のニンジャでありながら、その力の一端を借りる」という形でドン・キホーテを出したんだ。当初は同じ形でサリエリ・ニンジャなんていう存在の力も借りるストーリーを考えたりもしたんだけど、こっちは事実上ボツになった形だ。今後機会があれば再チャレンジしてみたいね!

そして今回ある種の伏線的に登場させた銀のヤリだけど、何も考えずに入れたものだから道中ではさっぱり忘れつつあったんだ。場当たり的な設定の扱いに困るのはもはや手癖なんだけど、これが終盤うまく繋がることになるから物語を書くっていうのは面白いよね。

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