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【イニシエイション・オブ・ピルストロフィ】


【イニシエイション・オブ・ピルストロフィ】


 その時、彼はモノクロの浜辺で空を見上げていた。なぜそこにいたのか、なぜ空を見上げたのか、それ以前の記憶はとうに彼方に流れ去った。もはや『それ以前』などという物が本当にあったのかも定かではない。空では黄金の立方体が輝き、光が流星めいて空へと昇ってゆく。存在する次元が異なるような畏怖すべき光が。

(((我が姿を見たな)))光が問うた。(((我がソウルを見たな)))光が問うた。(((我が死を見たな)))光が問うた。彼にはただ頷く他なかった。大いなる祖。誰がその問いに抗うことなど出来ようか。(((ならばこれは呪いだ。我が死を見、冒涜した者への呪い。我が蘇るその日まで生き続けよ)))

 ……それから、彼は永い時を生き続けた。ニンジャの時代も、その終わりも。モータルの時代の始まりも。モータルが宙を目指した時も、翼をもがれた時も。時に微睡み、時に覚醒し、彼はこの世界で生き続けた。

「ああ、我らが父よ」彼は……ポープは呟く。「貴方は今、近くに居る。これまでのどの時よりも」歓喜に満ちた声が遺跡の中で反響する。「ならば、せめてもの手伝いをしましょう。貴方の福音のために」「……何だか知らないが、君に手伝いなど出来ぬよ。ぴるす君」

 凛とした鋭い声が遺跡に響く。「君はここで死ぬのだ」カブキエテルの揺らぎに白黒のカブキ装束がはためき、その顔には炎の如くクマドリが燃える。「ドーモ、ポープ、カルタピルス、そしてヨセフ・ニンジャ=サン」

「……私はホワイトパロットです」



【序】


 ニンジャ装束の上に宗教服を纏った男が振り返り、ホワイトパロットへアイサツを返した。「ドーモ、ホワイトパロット=サン。ポープです」白ヴェールで隠れた口から響いた声は凛と澄んでいる。ポープは聖ヌンジャイコンを一瞥し、ホワイトパロットへ向き直る。

 彼の姿はほんの少し前……プロヴォストとのイクサの最中見えた老人とはあからさまに異なっている。青年の姿だ。サルファリックらの見つけた資料。同じ人物でありながら様々な時代の歴史書や物語に現れ、その外見年齢は時に若く時に老いた奇怪な存在。

 ポープは椅子に腰をかけ、厳かに話し出した。「神聖なる至聖所に立ち入るなど、この地の謂れを知らぬのですか?ここはかつて……」「そんなものは私の知った事ではない。御託はいらんよ。……他のぴるすは全て殺した。そして増援を呼ぶ間もなく君も殺す、それだけだ」

「フン……下賤なる憑依ニンジャが知るはずもありませんか」ポープは不服気に立ち上がり、リピタを手に構える。「良いでしょう、この至聖所は我らが偉大なる父へと」「イヨーッ!」

「……!」ポープはホワイトパロットのカラテを躱し、間合いを取った。「……聞く耳も持ちませんか!蛮人!」「言ったはずだぞ!貴様の戯言など私の知った事ではないと!イヨーッ!」ホワイトパロットがベッカクを振り抜く!ポープは神速の斬撃をブリッジめいて上体を反らし回避!「イヤーッ!」瞬時に復帰しリピタを振るう!ベッカクを振り戻す暇は無し!ホワイトパロットはベッカクを勢いのまま投げ捨て、構えるはデンショウ!「イヨーッ!」「イヤーッ!」リピタとデンショウ、二つの武器の柄が鍔迫り合い、悲鳴のように軋む!

「……イヨーッ!」ホワイトパロットのフロントキック!「イヤーッ!」ポープはバックステップで避ける!「イヨーッ!」ホワイトパロットはデンショウを瞬時に長く持ち変えロングレンジの斬撃を繰り出す!ナギナタ特有の変幻自在の間合い!「……コシャクな!」ポープは……おお!デンショウの刃をシラハドリめいて両掌で押さえ込んだ!

「イヨーッ!」ホワイトパロットのサイドキック追撃!「イヤーッ!」ポープのサイドキックが相殺!そして!「イヤーッ!」ポープは両腕に力を込め、デンショウの刃を破壊しにかかる!……その時!

 SLAAASH!黒き刃が背後からポープの胸を貫いた!「ヌウッ……!」増援か!否、それは……ベッカク!投げ捨てられたベッカクは地に落ちることなく宙を舞っていた。そして部屋内を旋回し、今持ち主の元へと帰ったのだ!これこそホワイトパロットのカブキ十八番、カブキネシス!

「この程度……!」ポープはデンショウの刃を放しバックフリップで距離を取ろうとする!「イヨーッ!」ホワイトパロットは逃がさぬ!スプリントで瞬時にポープの目前へと駆け寄り……デンショウを床へと突き立てた!「ヌウッ!?」刃がポープの右足を貫通し床に縫い付ける!回避行動不能!そしてホワイトパロットは床に刺さるデンショウを支えに棒高跳びめいて跳ぶ!

「イヨォーッ!」脚力、腕力、そしてデンショウのしなりを加えた跳躍。その凄まじき勢いと回転が、上昇する鋭利な蹴りがポープの顎へと突き刺さる!「グワーッ!」強烈な衝撃がポープの顎を砕き、そして!その頭部をも刈り飛ばした!おお、コウライヤ!

 ポープの千切れた頭部が天井で跳ね返り、床をバウンドしながら転がる。首を失ったポープの身体はよろめき、前へとうつ伏せに倒れた。

 ぴるす正教会の主は死んだ。



 ……死んだ?こんなにもあっさりと?何をバカな。ホワイトパロットはカブキの構えを解かず、ポープの背中からベッカクを瞬時に引き抜いた。彼は知っている。ポープの素性を。歴史の闇に残された彼の正体を。

「……先ほど私の名を呼びましたね。なるほど、こちらもご存知か」床を転がるポープの頭部が砕けた顎で笑う。その生首が、切り落とされた腕が、そして倒れた身体が光の粒子へと分解され空気中に霧散した。

 今度こそ死んだのか?違う、散り去ったはずの01粒子は再び1ヶ所に集まり、一つの塊へと凝縮してゆく。……やがて粒子は人の形を取り、五体満足のポープが再形成された。「フーッ……このような目に遭うのはいつ以来でしょうか」その体に一切の傷は無し。

「なるほど……不死の伝説はあながち嘘では無いようだなポープ君」ホワイトパロットは油断なく構える。「ええ、だから……」「イヨーッ!」無防備に歩み寄るポープの頭蓋をウォーハンマーが砕き、光が飛び散る!しかし……刹那、瞬き1つの間に粒子は再び凝縮し失われた頭部を形成した。(……再生が早い!我々が今まで生み出した半不死身のニンジャぴるすの誰よりも!)

「……このような無駄な事は」「イヨーッ!」デンショウがポープの胴を切断する。「無駄な……」「イヨーッ!」ベッカクが胸部を切断する。「事は……」「イヨーッ!」首を切る。「イヨーッ!」頭部を両断する。「イヨーッ!」正中線両断。「イヨーッ!」切断。「イヨッイヨッイヨッイヨーッ!」切断、切断、切断。ベッカク、デンショウによる無数の斬撃。神速の刃が巻き起こす破壊の竜巻がポープをネギトロへと変えてゆく。

 だが。「無駄な!」瞬時に再形成されたポープがベッカクを受け止める。「イヨーッ!」デンショウによるナギナタ斬撃!「事は!」ポープがデンショウを受け止める。「止めなさいと!イヤーッ!」「グワーッ!」ポープの鋭いケリ・キックがホワイトパロットの鳩尾を抉る!「言っているのです!イヤーッ!」「グワーッ!」ドロップキック!

 ホワイトパロットは後ずさりし、見開いた目でポープを睨む!「イヨォーッ!」鋭いシャウトと共に激しいカブキ爆発が引き起こされる!ミエ!「ヌウッ!」カブキエナジーの爆発がポープの全身を砕き、01粒子を四方六方へと四散させる!

「ハァーッ……ハァーッ……!」ホワイトパロットはカブキ急速消費に呼吸を乱しながらザンシンする。その時、ミエの爆炎の中から悠然とポープが歩み出た。彼の体に傷は無し。

「分かりましたか?私は不死身であり、このイクサに何の利点も無いと」ポープが続ける。「私としてもカブキアクターは邪魔ではあるが……別に障害ではなし。大人しくしていれば必要以上の被害は与えません」その声はどこか温かく、ぴるすでありながら、ともすれば神や聖人として崇めてしまいかねぬ魅力があった。

「……ウズムシめいて再生力だけは無駄にあるようだな。下等生物同士仲が良いと見える」ホワイトパロットが挑発するように言う。その瞳はポープを凝視していた。「弱点を、探っていますね?」ポープは微笑んだ。「彼のフジミ・ニンジャのように、アワレなオオカミのように、私にも何かの弱点があるはずと。あるいは仲間が調べる時間稼ぎか」ポープは挑発に乗らぬ。冷静な状況判断。「生憎このノロイはそんな甘いものではない。それを教えてあげましょう」

「……フン、ぴるす君から物事を教わったら人として終わりだよ」ホワイトパロットは息を整え、両ナギナタを構える。活路は未だ見えず。が、ここで折れては何にもならぬ。何よりもぴるす君に負けるなどという事は性分上、絶対に許せぬ。

「教えるのは私の方だポープ君。たかだかこの短時間でカブキの全貌を見知った気になっていないかね?死なぬことだけが取り柄の増上慢に、私が真のカブキを教えてやろう」



【破】


「真のカブキを……教える?私に?ンン……!」ポープは笑いを噛み殺す。「何がおかしいのかね。頭か?イヨーッ!」ワン・インチに踏み込む!カブキパンチ!「イヤーッ!」ポープはホワイトパロットの拳を逸らし、アイキドーめいて投げた!ホワイトパロットは空中で逆さになりながら、鳩尾にケリを繰り出す!「イヨーッ!」「イヤーッ!」ポープはクロス腕でガード!ホワイトパロットは反作用で跳躍、タタミ3枚程の距離を取った。

「……カブキ、いじらしいものですね」ポープが微笑む。「ニンジャと戦うため、モータルが産み出した復讐の力」「知ったような口を」「実際知っているのです」ホワイトパロットの言葉をポープが遮る。「貴方とは生きた時間が違いますので」

「……」ホワイトパロットはポープを凝視した。ポープが凝視を返す。「今も見ているのでしょう?カブキアクター達が知識を、怨嗟を書き込んだ勧進帳……おおいなるカブキを」「……それが、どうした」ホワイトパロットはポープを凝視した。ポープが見返す。「カブキに関しても、私が貴方から教わることなど何一つ無い」ヴェールの奥でポープが微笑む。

 ホワイトパロットはポープを凝視した。ポープはホワイトパロットを凝視し返す。奴の灰色の瞳は何を見ている?……ほんの一瞬のシシオドシめいた静寂。次の瞬間。「イヨーッ!」「イヤーッ!」両者は弾かれたように跳んだ。

「イヨッイヨーッ!」ホワイトパロットは何処からか取り出したダイ・ノコ、ウォーハンマーを投げる!「イヤーッ!」ポープはダイ・ノコを蹴り上げ、ウォーハンマーを掴む!そして「イヤーッ!」背後へと投げ捨てた!両武器は天井と壁に深く突き刺さりカブキネシスによる回収は困難!

 ホワイトパロットのローキックを僅かな跳躍で躱し、ポープはミドルキックを側頭部目掛け放った。「イヤーッ!」「イヨーッ!」ホワイトパロットはローキック後の低姿勢のままクロス腕で防御し、身体を丸めボールめいて転がる!

「イヤーッ!」追撃のトゥーキック!「イヨーッ!」ホワイトパロットは瞬時に跳び、ポープの背後に着地!「イヨーッ!」チョップ突きが背部から心臓を狙う!

 ポープは振り返ることなくホワイトパロットの腕を掴み……イポン背負いで投げた!「イヨーッ!」その手を払い空中で技から逃れたホワイトパロットは、スリケンを4枚投げながら着地した。ポープは意に介さずスリケンをチョップで払う。

 タタミ5枚ほどの距離で両者は仕切り直しとばかりに停止し、互いを見合う。カラテを構えたままじりじりと足を地面に擦りながら距離を縮めあう。タタミ4枚……3枚……2枚、そして!「イヨーッ!」ホワイトパロットが先に動く!サスマタによる刺突!「イヤーッ!」ポープは腕で進路を逸らしわずかな動きで受け流し、そのままヤリめいたサイドキックでカウンター!「ヌウッ……!」サスマタを手放し寸前で回避!

「イヨーッ!」ホワイトパロットは無数のトゲを持つボーで刺突を繰り出す!「同じことを!イヤーッ!」ポープは腕で進路を逸らし、わずかな動きで受け流す。その瞬間!「イヨーッ!」ホワイトパロットはボーを軸回転させた!「ヌウ……!」ボーの先に付いたトゲがポープの装束を巻き込み、その動きを封じる!これこそがかつてベンケも用いたトゲ付きボー、ソデガラミの真価!

「イヨォーッ!」僅かに動きを止められたポープをマサカリの渾身の一撃が正中線で両断する!ホワイトパロットは勢い余り地面に突き刺さったマサカリを放棄し、次なる武器レーキを……「イヤーッ!」ポープの両掌がホワイトパロットの両手首を捕らえる。断面は01粒子を放ち、既に癒着が終わっている。「イヨ……」ホワイトパロットは振り解こうと……。

Chrétien,au voyageur souffrant tends un verre d’eau sur ta porte……

「グワーッ!」ポープから溢れ出す光がホワイトパロットを苛んだ。「私も少し本気を出しましょう」温かき聖なる光がホワイトパロットを優しく包み込み蝕む。それは物理的な破壊を伴う攻撃ではない。むしろ安らかな幸福感に満ちていた。光はただポープへの敵対心を咎め、それを削ぎ、そして改心を……和解を迫る。「グ……イヨーッ!」ホワイトパロットは光を拒絶した。

「ヌウーッ……!」連続側転で距離を取ったホワイトパロットが唸る。ポープの体を聖なる光が流れ、彼の周囲を包む。力の正体をカブキ集合知が……おおいなるカブキが警告する。(……ディバイン・カラテのたぐいか……!)

「これで分かったでしょう?」ポープが優しく微笑みかける。「全てが無意味、私に対し貴方は無力であると」「……」呼吸を整えながら、ホワイトパロットはポープを凝視する。その灰色の瞳を見つめる。奴は何を見ている?

「ちょうど良い。そのままそこで見ていなさい……Dieu m’a changé pour me punir : À tout ce qui meurt je m’attache……」ポープが謎のモージョーを唱えると、彼の身体から光の奔流が溢れ出した。「これは……!」光が洪水となって天へと昇る!「Seul,au pied d’arbustes en fleurs,Sur le gazon,au bord de l’onde,Si je repose mes douleurs,J’entends le tourbillon qui gronde……」ポープはモージョーを紡ぎ続ける。

#SCRTKORAI:rien: 通告!|

 ホワイトパロットのIRCに緊急連絡が入り、警告音が流れる!

#SCRTKORAI:rien: 黄金の光、全世界に展開!|

「全世界だと!?いかにリアルニンジャと言えどこのような……」「あなた方はぴるす達を沢山殺しました……いいえ、殺してくれましたね」ポープは優しく語る。「彼らの残滓が中継器に、増幅器になってくれる……Vous qui manquez de charite,Tremblez a mon supplice etrange……

 おお……今まで各地で行われたぴるす正教会による破壊行為はぴるすの救済などではなく、全ては信者ぴるす達を殺させるためであったと言うのか!?ナムアミダブツ……ぴるす相手とはいえなんたる……なんたる無慈悲!

Reste debout quand tout succombe. Tes aïeux ne t’ont point ici Gardé de place dans leur tombe……ああ、我らが祖なる父よ……!」増幅された光の洪水が世界を巡り、そして天へと昇り消えてゆく……虚空に輝く黄金立方体へと!ZGGN……超自然的な鳴動が世に響く!「Toujours,toujours,Tourne la terre où moi je cours……」この世に……我々の知り得ぬ不吉な何かが起きる!




 その時。「……オン・アビラ・ウン・ケン」ザゼンをしていたホワイトパロットが、力強くマントラを唱えた。「Toujours,toujours……!?」ポープが目を見開く。彼らのすぐ頭上で、何かが音も無く消滅した。……ぴるすの残滓が。

 光の波と混ざったカブキ・マントラがウイルス・プログラムめいてぴるすの残滓を渡り歩き、そして全てを消し去った。光の濁流はもう流れる先を持たぬ。もはやポープの光が広がることはない。黄金立方体の鳴動は止まった……さほど現世への影響を出さずに。

「バカな……何を……」「君たちが何を成そうとしていたかなど正確には分からぬ」ホワイトパロットが立ち上がる。「ぴるす君の脳みそで展開されたぴるす思考など人間の私には理解できぬからな」ポープを睨む。「だからぴるす案件対応のため、ぴるす君がやりそうな事は思い付く限り全て対策を講じてあるのだよ。これはその一つだ」

「かつて似たような事をしたぴるす君がいたよ。何といったかは忘れたが……ぴるすの魂を中継器に世界と脳を繋ごうとした愚か者が。その時にこの対策手段も作られた。今回それが効くかは賭けだったが……同じ程度の発想だったようで助かる」

「Toujours……」ポープが呻く。「Toujours……!toujours!toujours!いつも!いつも!いつもいつも!私の邪魔を!カブキアクターッ!」ポープが吼える!その表情に今までの余裕は無し!

「ほう、いつの時代も邪魔をされていたのかポープ君。二度ある事は三度四度と続く……そんなコトワザもあるぞ。つまり君の野望はもうオシマイだな」「ケオオオオオオオオーーーーーッ!!!」咆哮が遺跡を、至聖室を揺らす!ポープの灰色の瞳に憤怒が燃える。ホワイトパロットは憮然と構える。

 形勢は未だに不利。だが相手は余裕を失った。強い感情は揺らぎを生む。そこに付け込むべし。
……ぴるす、殺すべし!



【急】


「ケオーッ!」ポープはタタミ二枚の距離を光めいて瞬時に踏み込み、心臓を目がけチョップ突きを放つ!それは今までの余裕ある反撃主体の洗礼されたカラテではない。猛獣めいた憤怒の苛烈なカラテ!……だが!荒い!「イヨーッ!」ホワイトパロットはベッカクを振るい、突き出されたポープの左腕を瞬時に刎ねた!

 もはやポープは乱心し集中を欠いたのだろうか?……否!「ケオーッ!」腕を斬られながらも、ポープは勢いそのままに己の肩から背中にかけてをホワイトパロットへ衝突させる!カラテ奥義ボディチェック!「グワーッ!」ホワイトパロットは吹き飛びながらもウケミ着地で衝撃を大地へと逃がす!

 そう、ポープにとって負傷は怯む要因とならぬ!たとえ腕をもがれようと腹を貫かれようと、首を折られようともポープは止まらぬ!暴走するバッファロー殺戮鉄道めいて!なんたる不死身ゆえに可能な守りを捨て無理に後の先を取る破滅的な危険カラテであろうか!

「ケオーッ!」ポープは間髪を入れず、ウケミ姿勢のホワイトパロットへサッカーボール・キックを繰り出す。当たれば頭部粉砕死は免れぬ恐ろしき一撃。「イヨーッ!」ホワイトパロットは地を蹴って跳ね起きる!紙一重!

「イヨーッ!」振り向きざまの横薙ぎベッカク斬撃!SLAAAASH!胴体切断!癒着!「ケオーッ!」右ハイキック!「イヨーッ!」瞬時に短く握り直したデンショウが右足を膝から切断し、断面がホワイトパロットの目前を蹴り抜ける!「ケオーッ!」反回転の踵蹴り!既に右足は完治!「イヨーッ!」ホワイトパロットはブリッジで回避し、そのまま下から顎を蹴り上げた!蹴りの勢いを使いバック転で距離を……「ケオーッ!」

 千切れた頭部を無視し、断面から光粒子を溢しながら頭のないポープが瞬時にホワイトパロットへと接近する。危険な間合い!「イヨーッ!」鋭く突き出したデンショウがポープの胸部を貫通し、ポープは更にデンショウの柄を捻った。ポープの胸に刺さった刃が360°回転し、無慈悲に心臓部を撹拌破壊する。

 しかし……それすらもポープの動きを止めるには至らぬ。ポープは貫かれながら、心臓を破壊されながら右腕を弓めいて強く引き絞る。ホワイトパロットは状況判断した。瞬時にデンショウを引き抜き、後方へと跳躍回避を……「ヌウッ!?」

 宙を舞っていたポープの切断頭部が瞬間、強烈な光へと変わり、聖なる輝きが至聖所を白く塗り潰した。「これは……!」ほんの一瞬、視界を白く焼く閃光にホワイトパロットは意識を奪われた。ほんの些細な隙。だが、回避が間に合わぬ!

 ニンジャアドレナリンが過剰分泌され、ホワイトパロットの時間感覚が泥めいて鈍化する。意識だけが加速した時間の中、ホワイトパロットは咄嗟にデンショウで我が身を守った。

「ケオーッ!」鋭く引き絞られた腕から放たれたポン・パンチが、粘る空気を掻き分けゆっくりと迫る。拳はデンショウの柄へと衝突し、シラカシの柔軟な柄が緩やかにたわみ、軋む……そして。

 ボキリと音を立て、デンショウは折れた。

「グワーッ!」未だ鈍化した時の中、ホワイトパロットはゆっくりと地面をバウンドしながら転がる。デンショウにより致命打は防がれた、だが。「ケオーッ!」床へと倒れ込むホワイトパロットへ、殺人ストンプ追撃が迫る。

 その時、静止寸前にまで減速した時間の中でホワイトパロットは半ば無意識に動いた。ベッカクを構えるでもなくカブキを構えるでもなく、羽織の中へと手を入れる。ヒヤリとした感触。ホワイトパロットはそれを握りしめ、取り出す。

 それは銀色に輝くヤリであった。かつてキホーテ・ニンジャが愛用したと言われる神話的レリック。ヤリ・ドーの師たるマスターヤリ、彼の得物を模して作られた……ヤリ・オブ・イミテイション。

 ヤリはポープの胸を貫き、銀色に輝いた。



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 モノクロの砂浜。黒い波が押し寄せては返し、白い飛沫を上げる。風化した街を潮風が吹き抜け01の破片が散る。色の無い森がざわ、と揺れる。空は雲に覆われ、ぼんやりとした光が世界を照らす。

 カルタピルスは砂浜に立ち尽くしながら、墨汁めいた海をただ眺める。黄金の輝きを見たあの日から。呪いを受けたあの日から。祝福されたあの時からただひたすらに。

 この世界には彼以外に何者も存在しない。変化することもない。完全性の保たれた閉ざされた箱庭。……そのはずだった。

 SPLAAAAAAAAAAAASH!銀色の光が海を裂き、地を割り、そして空へと消えた。木々がざわめく。海が荒れる。……完全性が乱される。このようなことはあってはならぬ。一体どこからだ……全てが狂いだしたのは……。

「ドーモ、初めましてと言うべきかね、ポープ君」鋭い声が響く。この世界にあってはならぬ声。「今まで戦っていたのは現世に伸びた君の影であったということか。君本人は斯様な地に引きこもりコソコソと……ぴるす君らしい卑怯さだな」

 ああ……そうだ。カルタピルスはローカルコトダマ空間への侵入者を睨みつける。「全てが狂ったのは貴様と関わってから……貴様を関わらせてしまってからだ、ホワイトパロット=サン」「君が狂っているのは生まれたその時からだろう」

 モノクロの砂浜で二人のニンジャは向かい合う。言葉を発することも無く、ミエ・コンダクトめいて互いを睨み合ったまま。黒い波が寄せては沖へと去る。風が吹き抜け髪を揺らす。01のノイズが舞う。一際大きな波が打ち付け、飛沫が浜を濡らした。

「ケオーッ!」「イヨーッ!」瞬間、両者は駆け出し、すれ違うように交錯した。「ヌウッ……!」ホワイトパロットの頬が深く裂け、赤い血がモノクロのノイズとなって宙に溶ける。カルタピルスはホワイトパロットへ向き直る。切断されたカルタピルスの左腕が飛び、離れた海面へと落ちた。

「ここなら殺せるとでも思ったか?……今までもこの地に踏み込む無礼者が少しはいた」カルタピルスが笑う。海面に浮かぶ左腕が光に変わる。「それでも私はここにいる。未だ健在。それが全ての証明よ!貴様一人増えようとこの世界は完璧なままだ!」

「……それはどうかな、ポープ君」ホワイトパロットが向き直る。「何を」光がカルタピルスの腕切断面へと集まる。……だが、光のおよそ半分は空へと吸い上げられ、消えた。「な……!?」カルタピルスは空を見上げた。彼の頭上、空を覆う分厚い雲にくり貫かれたような丸い大穴が開き、そこからモノクロの空が見えていた。

「カブキは万物を見て真似る技術。故に私も観察眼には自信があるのだよ。……よく見えているぞ。滞水めいて溜まり淀んだ君のソウルも、この空に開いた大穴も!」銀の槍によって開かれたモノクロの空から黄金の光が射し込み、空の彼方で黄金立方体が静かに自転している。……ニンジャソウルの昇る地が!「ケオオオオオーッ!?」カルタピルスは目を見開く!

 この特殊なローカルコトダマ空間こそが、カルタピルスのソウルを閉じ込めあらゆる変化を、爆発四散を、アセンションを拒む魂の檻。こここそが彼をこの世へと無理矢理に繋ぎ留めるオヒガンの牢獄であった!だが、その完全性はもはや失われた!

「まやかしは去ったぞ!さあ、大人しく眠りにつきたまえポープ君!イヨーッ!」ベッカク斬撃!「……ナメるなァーッ!」カルタピルスの右拳が刃を弾く!「私は今ッ!ようやくお前と同じ土俵に立ったッ!それだけなんですけおーッ!」「ヌウーッ!」続けざまの肘打ちがベッカクを叩き落とす!

「イヨーッ!」ホワイトパロットの回し蹴り!「ケオーッ!」カルタピルスは右腕で受け止めハイキックを返す!「イヨーッ!」右腕で受け止めながら足を掴む手を振り払う!そして力強く目を……「ケオーッ!」素早い右ストレートが鳩尾に刺さる!「グワーッ!」ミエ阻害!

 カルタピルスはホワイトパロットの手の内を、カブキを知っている!大技を繰り出そうとすれば今の様にたちまち手痛い反撃を受けるだろう。「イヨーッ!」踏みとどまり右拳を返す!「ケオーッ!?」カルタピルスは避けきれず腹に受ける!血反吐の如く光がこぼれる!「ケオーッ!」カルタピルスの右フック!「グワーッ!」左頬に痛打!血が赤い01ノイズとなり散る!

 ホワイトパロットの右ストレート!「イヨーッ!」「ケオーッ!?」カルタピルスの右ストレート!「ケオーッ!」「グワーッ!」ホワイトパロットの左ストレート!「イヨーッ!」「ケオーッ!?」カルタピルスの左ストレート!「ケオーッ!」「グワーッ!」ワンインチ距離での木人拳めいた近接カラテ応酬が繰り返される!

 ホワイトパロットの右拳!「イヨーッ!」「ケオーッ!?」カルタピルスの右拳!「ケオーッ!」「グワーッ!」ホワイトパロットの左拳!「イヨーッ!」「ケオーッ!?」カルタピルスの左拳!「ケオーッ!」「グワーッ!」ジツもカブキもかなぐり捨て、強大なニンジャが二人、泥臭く至近距離で殴り合う!

 右拳!「イヨーッ!」「ケオーッ!?」右拳!「ケオーッ!」「グワーッ!」左拳!「イヨーッ!」「ケオーッ!?」左拳!「ケオーッ!」「グワーッ!」拳が交錯する度、両者のカラテ速度は等比級数的に増してゆく!限界すらも超え、瞬きも出来ぬ速度の応酬が繰り返される!

 右!「イヨーッ!」「ケオーッ!?」右!「ケオーッ!」「グワーッ!」左!「イヨーッ!」「ケオーッ!?」左!「ケオーッ!」「グワーッ!」相手のカラテを追い越すため、殺すため!破壊的な殺人カラテが加速する!カラテが、カブキが白熱し、目視可能な程に色付く!

「イヨーッ!」「ケオーッ!?」「ケオーッ!」「グワーッ!」「イヨーッ!」「ケオーッ!?」「ケオーッ!」「グワーッ!」「イヨーッ!」「ケオーッ!?」「ケオーッ!」「グワーッ!」「イヨーッ!」「ケオーッ!?」「ケオーッ!」「グワーッ!」「イヨーッ!」「ケオーッ!?」

「ケオーッ!」「グワーッ!」「イヨーッ!」「ケオーッ!?」「ケオーッ!」「グワーッ!」「イヨーッ!」「ケオーッ!?」「ケオーッ!」「グワーッ!」「イヨーッ!」「ケオーッ!?」「ケオーッ!」「グワーッ!」「イヨーッ!」「ケオーッ!?」「ケオーッ!」「グワーッ!」

 嗚呼……そして!

「イヨーッ!」「ケオーッ!?」「ケオ」「イヨーッ!」「ケオーッ!?」

 ホワイトパロットのカラテ速度が!

「ケ」「イヨーッ!」「ケオーッ!?」

 カルタピルスを上回る!

「イヨーッ!」「ケオーッ!?」

 右拳!「イヨーッ!」「ケオーッ!?」一回転しながら左裏拳!「イヨーッ!」「ケオーッ!?」右回し蹴り!「イヨーッ!」「ケオーッ!?」ホワイトパロットが舞う!左後ろ回し蹴り!「イヨーッ!」「ケオーッ!?」かつてベンケが見せた舞の如く!演舞めいた打撃の連打がカルタピルスに振り下ろされる!

「イヨーッ!」「ケオーッ!?」「イヨーッ!」「ケオーッ!?」「イヨーッ!」「ケオーッ!?」「イヨーッ!」「ケオーッ!?」「イヨーッ!」「ケオーッ!?」「イヨーッ!」「ケオーッ!?」「イヨーッ!」「ケオーッ!?」「イヨーッ!」「ケオーッ!?」「イヨーッ!」「ケオーッ!?」

「イヨーッ!」「ケオーッ!?」「イヨーッ!」「ケオーッ!?」「イヨーッ!」「ケオーッ!?」「イヨーッ!」「ケオーッ!?」「イヨーッ!」「ケオーッ!?」「イヨーッ!」「ケオーッ!?」「イヨーッ!」「ケオーッ!?」「イヨーッ!」「ケオーッ!?」「イヨーッ!」「ケオーッ!?」

「イヨーッ!」「ケオーッ!?」「イヨーッ!」「ケオーッ!?」「イヨーッ!」「ケオーッ!?」「イヨーッ!」「ケオーッ!?」「イヨーッ!」「ケオーッ!?」「イヨーッ!」「ケオーッ!?」「イヨーッ!」「ケオーッ!?」「イヨーッ!」「ケオーッ!?」「イヨーッ!」「ケオーッ!?」

「イイイイイイィィィィッ……」カブキが極度凝縮され、空気が震える。クマドリめいて血に染まったホワイトパロットの顔、その瞳が決断的な殺意に燃える。「私はッ……!」カルタピルスの身体には無数の亀裂が走り、裂け目からステンドグラスめいた光が溢れる。「まだ私は……ッ!」カルタピルスはチョップを構えた。

「……ヨオオォォォォォォーッ!」

 カブキに燃える手刀が、モノクロの世界に紅白の軌跡を残し閃く!「ケオォォォォォーッ!?」カルタピルスの構えた両腕が切れて落ち、一瞬遅れてその首が宙を舞う!カルタピルスの生首は天高く舞い上がり、頭部を失った身体は3歩後ろへよろめき、そして仰向けに倒れた。身体が光の粒子に変わり散り始める。呪われしぴるすの、そのあまりにも永い命がついに終わりを迎える。


 ……はずであった。だが……「……私はァーッ!」カルタピルスの生首が空中で吼える!「まだ終われぬ!」呪いが……執念が、執着が!散りゆく光の粒子を束ね、無理矢理に現世へと留まる!「まだッ……死ねないんですけおォォーッ!」「グワーッ!」カルタピルスの右拳がホワイトパロットの頬に捩じ込まれた!

 カルタピルスを形成する光はもはや薄く、そのカラテは軽い……だが、ホワイトパロットも既に満身創痍!「あの方に私はまだ!ケオーッ!」「グワーッ!」鮮血が飛び、モノクロノイズとなって消える!「何も返せていない!ケオーッ!」「グワーッ!」間髪を入れぬ連続パンチ!

 ホワイトパロットを殴る度にカルタピルスの拳から光が散り空へ消える。もはやカルタピルスとてその命は風前の灯火なのだ。執念のみが彼を動かしている!「この不死の命に!ケオーッ!」「グワーッ!」「……祝福に!ケオーッ!」「グワーッ!」「報いれていないんですけお!ケオーッ!」「グワーッ!」

「ケオーッ!」「グワーッ!」「ケオーッ!」「グワーッ!」「ケオーッ!」「グワーッ!」「ケオーッ!」「グワーッ!」「ケオーッ!」「グワーッ!」「ケオーッ!」「グワーッ!」「ケオーッ!」「グワーッ!」「ケオーッ!」「グワーッ!」「ケオーッ!」「グワーッ!」

 息もつかせぬ連続左右ストレートを受けたホワイトパロットは5歩6歩と後ずさり、その身体がぐらりと前に傾いた。倒れゆくホワイトパロットに、カルタピルスはカイシャクの拳を構える。不死性はもはや戻らぬやもしれぬ。だが此奴を殺し身を潜め身体を癒せばまた次の機会が……。そして彼は気付いた。

「……イイイイイイイイ」ホワイトパロットは倒れてなどいない。彼は倒れるように前に傾きながら右足を踏み出し、そして両手を地に着けた。それはクラウチングめいた前傾姿勢だった。マズイ。「ケ……」「ヨオオオオオオオオーーーーッ!」

「ケオアバアアアアアアーーーーッ!」おお、おお!コウライヤ……コウライヤ!ホワイトパロットが大地を踏みしめ、跳ぶ!跳ぶ!跳ぶ!暗黒カブキ奥義トビ・ロッポーがカルタピルスを捉え、彼を乗せたまま加速し、加速し、加速する!「イヨオオオオオオオオオーーーーッ!」「ケオアバアアアアアアーーーーッ!」

 彼らの周囲で空気が熱を帯び、赤く尾を引き始める!危険な速度!ホワイトパロットとて肉体的体力的共に無事では済まぬ。肌が焼け肉が焦げ、カブキが底をつく。それでも止まらぬ!地を穿つ程の力で踏み込み、更に加速する!「イヨオオオオオオオオオオオーーーーッ!」

「「「サ!」」」カルタピルスの腕が千切れて後方に散る!「「ヨ!」」」カルタピルスの足が千切れ、光が溢れる!「「「ナ!」」」体が亀裂から崩壊を始め、溢れ出す光が後方に散る!ホワイトパロットが大地を踏み締め、更にもう一度跳躍した!「「「ラ!」」」カルタピルスの肉体全てが光の粒子へと変わり、後方の空に舞った!

 赤熱するトビ・ロッポーの背後でポープが、ヨセフ・ニンジャが、カルタピルスが爆発四散した!


 もはや力を持たぬ聖なる、そして呪われた忌まわしき光が口惜しげに戦慄きながら空へと昇ってゆく。「ハァーッ……ハァーッ……ハァーッ……!」光が天の穴へ、黄金立方体へと昇る様を見届けながらホワイトパロットは荒々しく呼吸し、そして脱力して大地へと仰向けに倒れた。

「スゥーッ……ハァーッ……スゥーッ……ハァーッ……
」大の字に横たわり、深く呼吸する。此度のイクサ、己の限界を五度は超えた。カブキもカラテも既に尽き果てている。もはや指一本も動かせぬ。

 視界の端で世界が崩壊を始める。持ち主の消え去ったローカルコトダマ空間がそのまま維持されるはずも無し。ホワイトパロットは動じなかった。元より偶発的に訪れた地。帰る手段など持ち合わせてはいない。ホワイトパロットは目を閉じる。

 モノクロの世界が、虚無の空白へと消える。



【エピローグ】


「どうなっている……これは……」コウライヤ社屋内、サルファリックはUNIXを操作しながら呟く。彼の眼前のモニタには地図が映し出され、各地に無数の点が動く。カブキアクターは義務装備ハンドヘルドUNIXによって、ぴるすは埋め込まれたチップによって、コウライヤの人材は全て位置と健康状態が把握される。これはその所在を示す地図である。……しかし。

「反応の消失……」ホワイトパロットのハンドヘルドUNIX信号は地図上に存在しない。

「……父さん」


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01010ホワイトパロットは訝しんだ。想像ではポープの箱庭消滅に伴い己も消え去るはずであった。だが彼の予想は外れた。ホワイトパロットの存在は未だ消えず、無重力めいた浮遊感を体が覚える。ゆっくりと目を開く。彼の目前に広がるのはポープのローカルコトダマ空間ではなく、虚無の空間でもなく010100


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011010戦火がセキバハラの野を焼く。雄叫びを上げ戦う無数のモータル、そしてニンジャ。スリケンが飛び、額を貫かれたサムライは死んだ。スリケンを投げたニンジャは別のサムライにより両断された。屍が積み重なり、流れた血が大地を染める。

 カブキ装束を血に染めながら、マツモト・コウシロは己が目前に立つ敵を睨む。それは人でもニンジャでもない。火縄銃を構えた、意志無き絡繰。……ジョルリの力。「殺す……!」コウシロは呟く。憎悪を込めて。彼は両手のナギナタを強く握りしめた。「必ずや殺す!」


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010010チャブが割れ、接待の為に並べられた豪華な食事が、サケがタタミへ広がる。カブキアクターでありながらニンジャの力によって街を牛耳る実悪、トクゾは強大なニンジャ、ゴールデンドーンの誘いを蹴ったのだ。

 交渉役のニンジャがあきれたように首を振った。「愚かな……ゴールデンドーン=サンの元に付けば安泰だと言うのに」「関係ない」トクゾは真っすぐに女ニンジャを見据える。「ゴールデンドーンなど私には関係ない……用があるのは貴様だ」トクゾ……マツモト・コウシロは二本のナギナタを構える。

「全てはこの日のため……舞台の裏からジョルリめいて操る貴様を引きずり出すために!」コウシロが叫ぶ!01001001001010


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010010101「これは…」無数のカブキアクターが現れ、消えて行く光景をホワイトパロットは宙に浮きながら眺める。彼らとの面識などはない。だが、ホワイトパロットには彼らが皆マツモト・コウシロであることが直感的に分かった。

 ある男はキョートのカブキアクターと戦いを繰り広げ、ある男は力で冷酷な支配者となり、ある男は志半ばで早逝し、ある男は正義として戦い、ある男は己のために戦い、ある男はただのカブキアクターとして生きた男たち。そして010010101


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0101001011「ソメゴロよ」病床から身体を持ち上げ、座姿勢となったマツモト・コウシロが声をかける。「マツモト・コウシロの名を、コウライヤをお前に託そう」やせ衰えながらもその瞳は力強く凛としていた。

「そんな遺言めいたこと……」「同じ様なものだ、そう長くはない」寂しげに笑う姿が印象的だった。彼は難儀そうに立ち上がり、二つの桐箱をソメゴロへと差し出した

 ホワイトパロットはその姿を知っている。その場面を知っている。「父さん」0100100101


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 人里離れた険しい山中、森が開け、山の抉れた地にその鍛冶屋は存在した。カナチと呼ばれる鍛冶師はただ一人金槌を振るい、赤熱する鋼を鍛え上げる。

「……失礼する」戸を開け入ってきたのはカブキ装束姿の男であった。「ナギナタを作って頂きたい。この鋼にて」男はそう言い、背に負っていた風呂敷を降ろし広げた。それは美しく、どこか恐ろしき鋼。白と黒が巴めいて混ざり合う……。

 カナチは死んだ。ニンジャに殺された。ナギナタはニンジャの手に渡り……カブキ装束の男、マツモト・コウシロによって取り戻された。

 月明かりの中、コウシロはナギナタに銘を刻む。世を格し、ニンジャを別つ黒きナギナタ、即ちベッカク。憎悪を承け、憤怒を伝うる白きナギナタ、即ちデンショウ。

 ナギナタは次のマツモト・コウシロへと受け継がれた。コウライヤの歴史はマツモト・コウシロの歴史であり、そしてベッカクとデンショウの歴史でもあった。

 ホワイトパロットは己の隣に浮かぶ黒きナギナタ、ベッカクを見つめる。「これは……お前の記憶なのか」ナギナタが答える事はない。次いで、ホワイトパロットは置き去りにしたデンショウを想った。

 ……ホワイトパロットは意志を持って目を見開く。「ああ、そうだな……」虚無にただ揺蕩う事をやめた。失伝してはならぬ。正しく次代へと受け継ぐまで。ホワイトパロットはベッカクを握りしめる。死んではならぬ。表舞台を退き、息子へと全てを受け渡すその時まで。そのためにどうやってでもここを抜け出さなくてはならない。生きるために。

 その時、虚無の彼方で白い光が瞬いた。ホワイトパロットは光に向かい右手を伸ばし0101101010010101000101010101


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 ……ホワイトパロットが目を開けると、そこは石造りの遺跡であった。ポープとの戦いを繰り広げた部屋。銀の槍を突き立てたその時まで己が存在していた場所。もはやポープも銀の槍も残ってはいない。

 ブガー!ブガー!UNIXがエラー音を上げ、凄まじい量の通知が流れ込む。身体が悲鳴を上げもはや立つこともできぬ。ホワイトパロットはそのまま床へ全体重を任せた。彼のニンジャ聴力は近づく足音を捉えていた。聞き覚えのある足音、おそらくはポーチュラカ。

「フーッ……」脱力し息を吐く。苦しい戦いであった。ぴるすでありながら実際恐るべき強者であった。全身が軋む。ホワイトパロットは思考を止め、しばしの微睡へと沈んでゆく。

 彼の左手に握られたベッカクが黒く輝くと、呼応するように折れたナギナタ……デンショウがホワイトパロットの右手で白く輝いた。



【イニシエイション・オブ・ピルストロフィ】完




◆カブキスレイヤー 第10代目◆

◆「ピルストロフィ・オブ・カブキエイジ」第1部◆

◆ここに終わる◆







「まあ、そこそこの働きであった」男は一人呟く。彼は抱えた謎めいた腕を速やかに布で覆い、懐へと仕舞った。「コウライヤの監視を抜けるのは面倒、敵に回すのも面倒。よく気を引いてくれた」闇の中、その表情は窺い知れぬ。

「世界に眠る怪物共が目覚め、魑魅魍魎が闊歩する跳梁跋扈の時代がいずれ来る。母なるぴるす、呪われしヒルコの腕は必要なのだ」男の姿は闇に溶けるように消えた。

 ……ぴるすによる破滅の脅威は、いまだ去らぬ。





カブキ名鑑

◆歌◆カブキ名鑑#76【カルタピルス】◆舞◆
かつて聖者を冒涜し、死ねぬ呪いと放浪する運命を与えられた男。永遠に近い時間の中、修行の果てに彼はリアルニンジャとなりヨセフ・ニンジャのカイデン・ネームを得た。聖者が再臨した時、彼の宿痾は終わるという。




K-FILES

ピルストロフィ・オブ・カブキエイジ第1部最終話。謎めいた至聖所にて、ついにホワイトパロットとポープは向かい合う。互いの目的を果たすため、不死のぴるすとカブキアクターの命を懸けたイクサが幕を開ける!戦え!ホワイトパロット!


主な登場ニンジャ

カルタピルス / Cartaphilus:ぴるす正教会の創始者にして法王、そして教会内で崇められる聖人。はるか古の時代にコウライヤと無関係にこの世に誕生したぴるすであり、大いなる存在にノロイを受けた『さ迷えるぴるす』。不死のノロイによって彼自身の望む望まずを問わず彼の命が尽きることはない。

リアルニンジャが戯れに授けたニンジャトレーニングを彼は永い時の中で続け、やがてリアルニンジャとなる。そして更に永い時を生きる中でヨセフ・ニンジャ / Joseph Ninjaの名をカイデンされるまでに至った。その後彼はヨセフ・ニンジャクランを一時的に作るが、第二のノロイ……安寧を許さぬノロイによって定住できぬ運命の彼はドージョーを維持できずレッサーニンジャを数名産み出した段階で空中分解した。セイクリッド・ジツは修行の中で彼が編み出したユニークジツであり、攻撃性を持たぬ代わりに他者を祝福することに長けた聖なる光のジツである。このジツによって他者に力を授け、他者の傷を癒し、攻撃を拒み、敵対者の心を苛み改心を促す様はまさしく聖人。

オヒガンの牢獄に囚われた魂こそが、永遠不変の特殊ローカルコトダマ空間に潜むニンジャソウルこそが彼の本体であり、現世の肉体はジツの光で遠隔形成されたかりそめの器に過ぎぬ。そのため不死者を無力化する「閉じ込める」「沈める・埋める・死なせ続ける」「無力化したまま生かす」などの方法は器を自由に作り直せる彼には通じない。


メモ

このエピソードについて僕から新たに追加して語るべきことはほとんど無い。彼らのイクサとその顛末に全てを注ぎ込んだつもりだ。カルタピルスの生きざま、そしてホワイトパロット・コウライヤの使命。その全てをぶつけあう彼らの姿がきちんと伝わるように書けていると信じたい。

これにてピルストロフィ・オブ・カブキエイジの1部が終わったわけだが、ここからはボーナストラックめいたエピソードの始まりだ。みんなにはもう暫しのお付き合いをお願いしたい。

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