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【ボンノ・べルズ・ピーリング】


【ボンノ・べルズ・ピーリング】


 ゴーン、ゴーン、ゴーン……。新年を前に、ボンノ鐘の音がネオサイタマに厳かに響く。この鐘の音は日を跨ぎ108打鳴らされる、テックが進歩した今でも続く古き風習だ。鐘の音は人々の抱えたボンノを打ち払い、人々は今年の因果を断ち切って来年へと踏み出す。神聖なる音。

 ……しかしこの夜、その厳かな鐘の音に邪悪なる陰謀が紛れ込んでいた!



 街はずれのテンプル。「ケオーッ!」屋根の上で1人のニンジャぴるすが己の青銅めいた腹を叩く。ゴーン……。鐘の音と寸分違わぬ音が響く。だが、その音色には邪悪な力が込められていた。音は街へと響き人々の中に溶け込んでゆく。人々は何も気付くことなくニューイヤーを待ちわびる。

「ケオーッ!」ニンジャぴるす、ピーリングベルが己の青銅めいた腹を叩く。ゴーン……。音が街中へと響いてゆく。ゴーン、ゴーン、ゴーン……。様々なテンプルから鐘の音が鳴り響き街で反響する。……その一つが邪悪な音色であろうとは誰も知るよしがない。

「ケオーッ!」ピーリングベルが己の青銅めいた腹を叩く。ゴーン……。彼が放つ音はジツの力を帯び、聞いた人々の体内に振動として残る。彼の音を聞くたびにその残響が体内に蓄積し、そして108回目の音を聞いた時……体内の残響同士が急激に共振を始めるのだ。

 共振によって爆発的に増幅された振動は破壊力を持ち、人々の身体はその振動によって内部から熟れすぎたトマトのごとく無惨に破裂する。……ニューイヤーを祝うはずの街は一転、ペスト蔓延地めいた惨状へと変わり果てるだろう。

「ケオーッ!」ピーリングベルが己の青銅めいた腹を叩く。ゴーン……。果たしてその大量虐殺めいた惨状を生み出して彼に何の利があるというのか。「降臨したまえ……祝福したまえ……おおいなる者よ。ケオーッ!」ゴーン……。ピーリングベルの瞳はただ狂気に光る。

「……もう幾つ鳴ればオショガツな。ケオーッ!」ピーリングベルが己の青銅めいた腹を叩く。ゴーン……。「ケオーッ!」ピーリングベルが己の青銅めいた腹を叩く。ゴーン……。「ケオーッ!」ピーリングベルが己の青銅めいた腹を叩く。ゴーン…。

「ケオーッ!」ピーリングベルが己の青銅めいた腹を……「イヨーッ!」「ケオーッ!?」突如、背後からの衝撃がピーリングベルを襲った。何者かが彼の背中へとトビゲリを仕掛けたのだ!ゴーン……。反作用で浮かび上がっていた影がふわりと舞い降りる。

「この厳かな夜に汚い音を鳴らすのは君かね」それはモノクロのカブキ装束を纏う白塗りの男。……その顔にはジゴクめいた赤で威圧的なクマドリが描かれていた。「ドーモ、私はホワイトパロットです」

 起き上がったピーリングベルがアイサツに応じる。「ど……ドーモ、ホワイトパロット=サン。ピーリングベルです。なぜここが……」「ボンノ鐘の澄んだ音色と君の薄汚い音を聞き分けるなど一流カブキアクターである私には容易いことなのだよ!」「ケオーッ……バカな……!」決断的な言葉にピーリングベルは狼狽えた。

「だ……だが!貴様がいようが関係などないんですけお!ケオーッ!」ピーリングベルは意を決し己の青銅めいた腹を叩く。ゴーン……。「……その耳障りな音を止める気は無しか。よかろう、ならば君の心音ごと止めてやる!イヨーッ!」鋭いケリキックがピーリングベルの腹に突き刺さる!

「ケオーッ!?」ゴーン……。悶えるピーリングベルの体から悪しき音が響いた。「なんだと……!」ホワイトパロットは困惑する。そう、このジツは音さえ出れば他人によって加えられた衝撃でも構わぬのだ!「……フハハハハ!このまま俺を108回鳴らせるがいいんですけお!」カラテを打ち込めば打ち込むほどに死のカウントダウンが進む忌まわしき肉体!「ヌウーッ……!」

「……ならば!イヨーッ!」電光めいた右のカブキパンチがピーリングベルの顔面を打つ!「ケオーッ!?」ピーリングベルは悶え、そして。ゴーン……。悪しき音が響いた。「……胴体でなければ鳴らないと思ったんですけお?」ピーリングベルが邪悪に笑う!「フハハハハ!甘い!我が体であればどこでも同じことなん……」

「イヨーッ!」電光めいた左のカブキパンチがピーリングベルの顔面を打つ!「ケオーッ!?」ゴーン……。「……待て!話を聞いてないんですけお!?俺を殴ればそれだけ……」「イヨーッ!」右のカブキパンチ!「ケオーッ!?」ゴーン……。

「……私が手を止めたところでどのみち君は音を鳴らし続けるだろう!イヨーッ!」左のカブキパンチ!「ケオーッ!?」ゴーン……。「ならば!イヨーッ!」右のカブキパンチ!「ケオーッ!?」ゴーン……。「手を止める意味など無し!イヨーッ!」左のカブキパンチ!「ケオーッ!?」ゴーン……。

「君が音を鳴らし終えるよりも先に!イヨーッ!」右カブキパンチ!「ケオーッ!?」ゴーン……。「このまま殴り殺す!イヨーッ!」左カブキパンチ!「ケオーッ!?」ゴーン……。「それだけだ!イヨーッ!」右カブキパンチ!「ケオーッ!?」ゴーン……。

「イヨーッ!」左!「ケオーッ!?」ゴーン……。「イヨーッ!」右!「ケオーッ!?」ゴーン……。「イヨーッ!」左!「ケオーッ!?」ゴーン……。「イヨーッ!」右!「ケオーッ!?」ゴーン……。殴るたびに忌むべき音のカウントダウンが進む。だがそれ以上の速度でピーリングベルの顔面が破壊されてゆく!

「ぴるす君のくせに!イヨーッ!」左!「ケオーッ!?」ゴーン……。「無駄に頑丈な!イヨーッ!」右!「ケオーッ!?」ゴーン……。カブキパンチを何発も食らい無惨に顔を崩壊させながらもピーリングベルは耐える!なんたるニンジャ耐久力か!「ケオッ……アバッ……!」だが、それももはや限界!

「イヨーッ!」左!「ケオーッ!?」ゴーン……。「イヨーッ!」右!「ケオーッ!?」ゴーン……。己の命が尽きかけているのを感じながら、ピーリングベルは決死の覚悟を決めた。「イヨーッ!」「ケ……ケオーッ!」

 ゴーン……。音が響き、顔面を無防備に殴られたピーリングベルはカラテ衝撃で吹き飛んだ。判断を誤ったのか?……否。「ケオーッ!」ピーリングベルは空中で姿勢制御し、勢いを利用し高速バックフリップし……ホワイトパロットに背を向け即座に駆け出す!ホワイトパロットのカブキを正面からあえて受け、その力を逃走へと利用したのだ!「待て!逃がすものか……!」

「あと……あと1発で……!」おお……ナムサン!これまでの攻防で既に鐘の音は107回にまで至っている!あと一打でジツが完成してしまう!「これで!ケオーッ!」ピーリングベルが己の青銅めいた腹を叩いた。ナムアミダブツ……もはやオシマイだ。街はゴアめいた地獄へと成り果ててしまう。

 ……だが、音が鳴ることはなかった。「ケオーッ!?」ピーリングベルが困惑しながら痛みに呻く。背中にスリケンが深々と刺さっている。ピーリングベルが腹を叩く寸前、ホワイトパロットが投擲したロッポースリケンが。

 だがよく考えていただきたい。ピーリングベルの体は全身が鐘であり、スリケンを投げ当てたのならば忌むべき最後の一音が鳴ってしまうのでは?ピーリングベルが己の腹を叩くのを阻止できたとしても自ら音を鳴らしてしまえば意味はない。何故音は出なかったのであろうか。

 ……厳密に言うのであれば、実際スリケンが当たった瞬間に音は鳴っていた。ホワイトパロットが投擲したスリケンはピーリングベルが己の腹を叩くのと寸分違わず同時に命中し、その瞬間ピーリングベルの体からは2つの忌むべき音が放たれていたのだ。

 しかし……おお、コウライヤ!その2つの音は誰の耳にも届かぬままピーリングベルの周囲で互いを打ち消し合い、相殺して消えた!ホワイトパロットはスリケンを当てることであえて音を生じさせたのだ……逆位相の音を!なんたる精密なカブキ!なんたるワザマエ!そしてなんたる一歩間違えば己が大量死の引き金を引きかねぬ行為を躊躇なく行える恐るべき胆力か!

「ケ……ケオーッ!」ピーリングベルは諦めてはいない!己の腹を決断的に叩く!「イヨーッ!」「ケオーッ!?」再びスリケンが命中し、音が相殺された!「ケオーッ!」ピーリングベルはもう一度腹を叩こうとした。「イヨーッ!」だがそれよりも早く……音よりも速く、ホワイトパロットが彼の背後に駆け寄っていた。

「イヨーッ!」音速を超えたカブキ・ツキが衝撃波を放ちながらピーリングベルの心臓を背中から貫いた。「……サヨナラ!」心臓を貫かれ、ピーリングベルは爆発四散した。

 ゴーン……。その一瞬後、音が遅れて鳴り響いた。もはや何の力も篭らぬただの音が。


 ゴーン、ゴーン、ゴーン……。無数の鐘の音が響く。イクサの最中、いつの間にか既に日は変わっていた。街では花火がいくつも打ち上げられ、人々は皆ニューイヤーを祝っているのだろう。ホワイトパロットがテンプルの屋根から飛び降りる。

 鐘の前に着地したホワイトパロットは拳を構えた。「イヨーッ!」拳が優しく鐘を打ち、ゴーン……。厳かに新年を告げる鐘が鳴り響く。ホワイトパロットはその響きにしばし聴き入り、やがて夜の闇に溶けるように消えた。



 ゴーン、ゴーン、エブリワン、ゴーン……。誰もいなくなったテンプルで、厳かな鐘の残響がネオサイタマへ響く。


【ボンノ・べルズ・ピーリング】終




カブキ名鑑

◆歌◆カブキ名鑑#079【ピーリングベル】◆舞◆
野良ニンジャぴるす。青銅の如き硬質の体と優れたニンジャ耐久力の持ち主。体から発する音を108回聞かせ共鳴共振により内部から破壊を引き起こすボンノ・ジツを使うが、これは彼が本来持つジツではない。



K-FILES

年越しを前に盛り上がる大晦日のネオサイタマに悪しき鐘の音が響き渡る。その音は人々を死に至らしめる死の晩鐘であった。いったい何者が何の目的でこのような非人道的殺戮を起こそうとしているのか…。ホワイトパロットは駆ける!人々のため、平和のために!


主な登場ニンジャ

ピーリングベル / Pealing Bell:怪しげな力を持つ野良のニンジャぴるす。メタル・ニンジャクランのソウル憑依者でありその肉体は金属めいて硬化している。そして、いかなる理由によってか……ベル・ニンジャクランの秘技であるボンノ・ジツも彼は使うことができる。本来であればボンノ・ジツはベル・ニンジャクランの高位ニンジャが己で作り上げたジツの力を宿す鐘を使って初めて成り立つジツであるが、ピーリングベルは青銅のごとく硬化した自身の肉体をジツの宿る鐘と見立てることで成立させている。



メモ

年越しを題材にした短編エピソードであり、言うまでもなく年末年始記念エピソードだ。スレッド連載時には元日の午前0時代から更新を開始していたまさに時事的な作品である。

このエピソードは連載の初期エピソードとも似た『悪いニンジャぴるすが悪巧みをしているからカブキアクターが殺す』という非常にミニマルかつ端的な短編作品であり、話に関して特に多く語ることはない。長編作品やシリアスな雰囲気が強くなりつつあった故の箸休めエピソードなんだ。

ピーリングベルは本来のソウルとは異なるジツを持つ異常存在であり、察しの通りサツガイにジツを与えられたニンジャだ。基本的に作中で触れることは少ないがカブキスレイヤーのストーリーの裏ではニンジャスレイヤー本編が進んでいることになっている。カブキスレイヤーに映らぬ裏で再定義が阻止され月が砕けアマクダリが滅びリアルニンジャが目覚めシトカでヒャッキ・ヤギョが起きカナダをタイクーンが支配しカリュドーンが行われていたのだ。今回の『ピーリングベルがサツガイ接触者』というのはそういう点を表に出したクロスオーバー要素である。(なお作中で触れることはないが、アマクダリ支配社会においてコウライヤは表向き恭順の意を示しながら抵抗の隙を探し、暴動発生時に期を察しカブキザ・タワー周辺を陣取り抵抗した。…という設定になっている。細かい矛盾点は二次創作である以上仕方ない)


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