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【ブレイク・フリー・オブ・プレディクション】

【ブレイク・フリー・オブ・プレディクション】

 ネオサイタマ地下水道内に作られたアンダーグラウンド無許可教会の廃墟、その最奥に二人のニンジャぴるすが佇む。「ケオッ…」死の脳波パルスが与える不快な痛みに、一人のぴるす、パサーは顔をしかめた。「今、プレーブス=サンが爆発四散…これで防衛部隊は全滅なんですけお」

「予知を元に対策を取ってこの体たらく…いや、むしろ敵を褒めるべきなんですけお」ザゼンするもう一人のぴるす、プロフェシーはこめかみに指を当てたまま答えた。敵…コウライヤのサルファリックが襲撃を仕掛けることは想定内であり、防衛部隊が敵わぬ事も想定内であった。よく消耗させた方か。

「ヌゥーッ…」プロフェシーは意識を極度集中させる。彼の並外れたニンジャ第六感が、コトダマ空間適正がオヒガンから流れ込む神秘のエテルを受信し、彼に未来のヴィジョンを見せる。彼のニューロン内に一人の男の姿が浮かび上がる。男…サルファリックは地下の秘密通路を進み、階段を上がり、扉を蹴破った。



「イヨーッ!」サルファリックのケリ・キックが扉を勢いよく破壊し、扉は直線状に吹き飛んで壁に衝突した。寸前まで完全に気配を消した襲撃。この一撃が隙を生めば有り難かったが…。「ケオーッ!」一人のニンジャぴるすが、この突入を事前に知っていたかの如くにスリケンを投擲した。

「…ふむ」サルファリックは無造作に掌を差し出し、スリケンを受け止めた。「まあ、アンブッシュが効くとも思ってはいなかったけれど」スリケンはシュウシュウと音を立てながら煙を上げ、掌の中で解けて消えた。「ドーモ、サルファリックです」「ドーモ、プロフェシーです」「パサーです」

「逃げずに残っているとは、大人しく観念したのかい?」サルファリックはカラテを構える。「バカな、我らが観念など!」パサーが間合いを計る。プロフェシーはザゼンを解かぬ。

「イヨーッ!」サルファリックのトビゲリが稲妻めいてパサーを急襲する!
生半可なニンジャであれば次の瞬間には首無し死体と化していただろう。だが!「ケオーッ!」パサーはわずかに身を反らし回避!「…!」

「ケオーッ!」パサーはサルファリックの着地点へ向けスリケンを2枚投擲!「イヨーッ!」サルファリックは右掌に毒液を浮かばせ、スリケン軌道の先に構えた。…だが!CRACK!二枚のスリケンは空中で衝突し、軌道を変えた!「グワーッ…!」一枚は軌道を逸らし地面へ、もう一枚は左太腿に命中!

「…ヌウーッ!」サルファリックはアイソメトリック力を込め、筋肉の圧力でスリケンを排出する。軽度の損傷、運動に問題無し。「イヨーッ!」跳び、パサーへ袈裟状に右チョップを振り抜く!「ケオーッ!」パサーは右チョップをぶつけ相殺!「イヨーッ!」右ハイキック!「ケオーッ!」左腕で防御!「イヨーッ!」再度の右チョップ!パサーは右腕を…「…ケオーッ!」出しかけた右腕を戻し、半身になって回避!毒を帯びたチョップは空を切り、滴る飛沫が床石を溶かす!

 行動が全て裏を読まれたかのように返される。フェイントを一度入れてからの毒チョップすらパサーは見切り、受け止めず回避した。(想定はしていたが…)サルファリックのニューロンを一つの予測が駆ける。こちらの手を全て見切り適切な反撃を加えるなど普通のぴるすでは不可能。(…未来かこちらの思考が見えでもしなければ…!)

「イヨーッ!」サルファリックは空振りしたチョップの勢いを殺さず、その場で回転し…回し蹴りを放った!「ケオーッ!」パサーは半ばブリッジめいて回避!瞬時に姿勢を立て直し、「ケオーッ!」流れるように首刈鎌めいたハイキックを繰り出す!

 …やはり、事前に知っていたかのような的確な行動。このまま回避したとして恐らくはさらなる追撃が襲い来るのであろう。それを回避したとして更なる追撃が…。ならばどうする。むざむざぴるす君風情に遅れを取って良いものか?良いはずがない!カブキアクターたる者、ぴるす君が小細工で攻めるのならばその小細工ごと叩き潰さずしてどうしようか!

「イヨォーッ!」サルファリックは回避行動を取らず、あえて決断的に自身の回転速度をさらに加速させた!「イヨォーッ!」そしてハリケーンめいた回転速度から瞬時に跳び、恐るべき速度の二段空中回し蹴り、アルマーダ・マテーロを放つ!「…!」パサーはサルファリックの思考、そして未来を垣間見た。だがもはやハイキックを止めるには遅い!対応できぬ!蹴りがぶつかり合い、「ケオーッ!?」パサーは敗北したコマの如く弾かれた!

「フゥーッ…」地面に二本の焦げた軌跡を残し、回転の余波を殺しながら着地したサルファリックはパサーへと構える。「予知だろうが読心だろうが、君たちが対応できない力と速度を叩きつければ済む話だ」「ケオーッ…!」「そしてもう一つ」サルファリックは挑発めいて告げる。「いまだにコウライヤ襲撃に成功していない辺り、大した予知でも読心でもなさそうだ」

「ケオオオオーッ!我が予知を舐めるなァッ!」プロフェシーが挑発に乗り、憤怒しアグラ姿勢のまま叫んだ。「我が予知は敵無き力!カブキアクターなど!どうということも無いんですけお!ケオーッ!」プロフェシーは更に意識をコトダマ空間へと集中させる。ニューロンが負荷を受け、血が鼻から、耳から、目から溢れる。

「イヨーッ!」サルファリックはパサーへスリケンを投擲!間髪を入れず駆け寄る!「ケオーッ!」パサーは紙一重でスリケンを回避!「イヨーッ!」サルファリックの手刀が心臓を目掛け繰り出す!「ケオーッ!」パサーは身を捻り最小限の動きで回避!「ケオーッ!」そしてキドニーブローで迎撃する!「イヨーッ!」サルファリックは拳を掌で逸らし、毒液を発する!

「ケオーッ!」毒が回るより早く、パサーはサルファリックの手を振りほどいた。そのまま肘打ちでこめかみを狙う!「イヨーッ!」サルファリックはパサーの肘打ちを受け止め、左手で袖を掴む。「ヌウッ…!」パサーは振り解こうとした。サルファリックの右手が襟を掴み、動きを封じ込めた。振り解けぬ。そして…「イヨォーッ!」勢いよくパサーを床へ背負い投げた!

「ケオーッ!」パサーは袖と襟を掴まれたままブリッジめいた姿勢で着地、技の完遂を防ぎ、衝撃を殺す!(…ぴるすの分際でよく錬られている!)サルファリックは無防備な背中を目掛けキックを…「ヌウッ!」サルファリックは咄嗟にスリケンを回避する。視界の端、スリケン投擲姿勢のまま極度疲労で動けずにいるプロフェシーを捉えた。

 ジツのみのニンジャぴるすだと、ジツ使用中はアグラも解けぬカラテ弱者と侮っていた。実際プロフェシーの投擲したスリケンは有効打とはなり得ぬ物ではあった。だが、気が逸れた。それはイクサにおいて致命的な…。「…隙ありなんですけおーッ!死んでくだち!サルファリック=サン!死んでくだち!」パサーが体を捻り、ポン・パンチを構え、放つ。

 時間が泥めいて鈍化し、ソーマト・リコールがニューロンを駆ける。

 サルファリックは咄嗟に左腕を腰に構えた。左膝を突いて片膝立ちになり、ポン・パンチを受け止めようとする。無意識でありながら、それはカブキめいた姿勢であった。…見知らぬ記憶が流れ込む。それは個人の記憶ではなく、伝承されしカブキの…。「ケオーッ!」パサーの拳が迫る。

「…イヨーッ!」サルファリックの左拳がパサーのポン・パンチを受け止めた。…無傷で。「ケオッ!?」それは失伝せしエンシェント・カブキが1つ。通常なら爆発的に拡散するミエのカブキエナジーを体内に留め、己の肉体を一時的にムテキとする。そして、左拳で受け止めたカラテ衝撃を切っ掛けに体内のカブキエナジーは爆ぜ、体内を駆け巡りながら行き場を求め…振り上げられた右腕へと再凝縮される!

「イヨォォォーッ!」赤くカブキに燃え滾る右腕を、袈裟状に振り下ろす!「ケオ…」パサーは咄嗟にクロス腕を構え、受け止めようとした。その腕を手刀が切断した。手刀はパサーの左肩を斬り、胸を断ち、右脇腹へと一瞬のうちに駆け抜けた。

「…ケオアバーッ!?」袈裟状の断面を晒しながら、両断されたパサーは爆発四散した。「サヨナラ!」これこそが攻防を兼ね備えた恐るべきエンシェント・ミエ。古代に置き去りにされ忘れ去られていた暗黒カブキが一端。…ストーンスロー・ミエ!



 サルファリックは決断的に拳を構え立ち上がる。敵はもう一人。プロファシーへと向き直る。「…」そして、構えを解いた。プロフェシーは床へ倒れ、すでにバイタルフラットへと至っている。

カロウシか、ジツが緑のノイズを呼び寄せたか、或いは大いなる存在の不興を買い削除されたか…。「…私の知るところではないだろう」予知ニンジャぴるすは死んだ。これで今後コウライヤへの強襲は減るだろう。サルファリックは一通り教会を探り、火を放つと教会に背を向けて歩き出した。任務は完了した。

地下水道の密閉空間の中、協会は静かに燃える。


【ブレイク・フリー・オブ・プレディクション】終わり



カブキ名鑑

◆歌◆カブキ名鑑#21【プロフェシー】◆舞◆
ぴるす正教会のニンジャぴるす。コトダマ空間に入り混じる様々な時間軸の中から未来のヴィジョンを選び抜き、疑似的に未来予知を行う。彼のようなコトダマ空間への深いアクセスはニューロンへの負荷が大きく、危険だ。

◆歌◆カブキ名鑑#22【パサー】◆舞◆
ぴるす正教会のニンジャぴるす。テレパス・ジツの使い手であり、ぴるす間の情報共有を担当する。カラテにも優れており、戦う相手の思考を読むことでイクサを優位に進める。

◆歌◆カブキ名鑑#23【プリミピルス】◆舞◆
ぴるす正教会の古代ローマカラテ使いニンジャぴるす。古代ローマカラテぴるす部隊の隊長であり、独自に編み出した「ぴるすの型」を用いる。作中で戦闘シーンが描かれることはなかった。

◆歌◆カブキ名鑑#24【ピルムムーリアリス】◆舞◆
ぴるす正教会の古代ローマカラテ使いニンジャぴるす。彼の用いる古代ローマ戦闘杭を用いたカラテは驚異的である。作中で戦闘シーンが描かれることはなかった。

◆歌◆カブキ名鑑#25【プーギオー】◆舞◆
ぴるす正教会の古代ローマカラテ使いニンジャぴるす。プギオ・ダガーと呼ばれる古代ローマバトルナイフを用いたワンインチ距離での戦闘を得意とする。作中で戦闘シーンが描かれることはなかった。

◆歌◆カブキ名鑑#26【パラディン】◆舞◆
ぴるす正教会の古代ローマカラテ使いニンジャぴるす。古代ローマカラテによる攻めとムテキ・アティチュードによる守りを的確に切り替え、隙の無いカラテを振るう。作中で戦闘シーンが描かれることはなかった。

◆歌◆カブキ名鑑#27【プレーブス】◆舞◆
ぴるす正教会の古代ローマカラテ使いニンジャぴるす。これといって特徴はない。作中で戦闘シーンが描かれることはなかった。



K-FILES(設定資料、原作者コメンタリー)

ピルストロフィ・オブ・カブキエイジ番外。ホワイトパロットからネオサイタマ内にぴるす正教会の指揮本部が存在することを知らされたサルファリックは、単身ぴるす正教会秘密アジトへと突入する。

主な登場ニンジャ

プロフェシー / Prophecy:ぴるす正教会のニンジャぴるす。バク・ニンジャのソウル憑依者であり、未来を予知する力を持っている。ネオサイタマ内の秘密教会に潜伏しながら己の予言を用いてぴるす正教会に都合の良いように事を運ばせようとした。バク・ニンジャは占星術や予知夢といったまじないに精通したニンジャである。

パサー / Passer:ぴるす正教会のニンジャぴるす。サトリ・ニンジャクランのグレーターニンジャソウル憑依者。ローカルコトダマ空間を介した自他間での思考パルスの送受信を行うことで、他人の思考を読み他人に思考を伝える。ぴるすニューロン間の強固な結びつきによりはるか遠くのぴるす正教会員とも思考の送受信が可能であったため、彼は情報共有の連絡経路として重宝されていた。戦闘においては自身のテレパスによる思考盗聴、そしてプロフェシーの予知という二段構えによって相手の行動を潰しながら戦う。

古代ローマカラテぴるす部隊

ぴるす正教会の中でもその戦力を特に認められた、古代ローマカラテ使いのニンジャぴるすを集めた部隊。正教会内でも重要な扱いをされているプロフェシー、パサー両名の護衛を任せられていた。彼らは侵入したサルファリックと戦闘になり、その油断ならぬカラテで競り合った末に爆発四散したのだがその戦闘を描くシーンは存在しない。

プリミピルス / Prīmipīlusぴるす正教会のニンジャぴるす。部隊長を務める。独自に古代ローマカラテ「ぴるすの型」を編み出したと嘯く。水路水中からアンブッシュを仕掛けたサルファリックのトビゲリを回避できず、その実力を発揮することなく爆発四散した。

ピルムムーリアリス / Pilum murialisぴるす正教会のニンジャぴるす。ボーの両側の穂先に刃を持つ木製の特殊な杭槍を用いた古代ローマカラテを使う。その実力は確かでありサルファリックとは善戦したものの、最後はその杭槍ごと毒手刀によって両断された。

プーギオー / Pugioぴるす正教会のニンジャぴるす。プギオ・ダガーと呼ばれる、グラディウスから派生してより小型となった剣を扱う。無手と思わせてからプギオ・ダガーで不意を突く暗殺カラテは非常に危険だが、サルファリックの毒液を貫通することは叶わなかった。

パラディン / Paladinぴるす正教会のニンジャぴるす。ムテキ・アティチュードのオンオフを巧みに切り替えて戦う。その守りはサルファリックでも突破できないほどに堅牢だったが、ムテキ状態のまま毒粘液に飲み込まれそのまま放置される。最後はムテキ持続限界を迎え、人知れず爆発四散した。

プレーブス / Plebsぴるす正教会のニンジャぴるす。他の仲間が死にゆく中で一人最後まで生き残るが、いま見習いであった彼ただ一人が残されても何も為すことはできず、サルファリックにカイシャクされた。



メモ

今回はホワイトパロットから目を離し、ネオサイタマにいるサルファリック、新コウシロへと目を向けるエピソードだ。多分今まで何回も語っただろうけどこのサルファリックの言動が特に難しい!彼自身のパーソナリティとしては「父より真面目」「父より冷静」「それでいてぴるす君の敵」といった所が想定されているんだけれど、かといってぴるす君たちにまで丁寧に接するでもない、そんな曖昧さが彼の口調を悩ませる。

今回の敵ぴるすは予知能力者という本家忍殺でも類を見ない厄介なタイプの存在だ。彼らは未来を知り、今の行動を変える。けれど未来を知って行動を変えた時点で訪れる未来は変わってしまうんじゃないだろうか。僕は日本のドラえもんというコミックが好きなんだけど彼らのストーリーの中でもしばしば「未来を知って行動を変えたら別の未来になる」パターンと「未来を知って行動を変える事すら織り込み済みで未来があった」パターンの両方があったりする。つまるところ…彼らは自分の爆発四散を予知したとして、それを回避することはできたんだろうか?回避しようと足掻くことすらより大きな檻の中、より長い鎖の先なのかもしれない。

今回のストーンスロー・ミエを書くにあたって実際にベンケの勧進帳を確認したんだけれど、大半の人はミエといったら『カッと目を見開いて開いた掌を差し出す』ポーズが浮かぶと思う(実際僕もそうだった)。けれどこのストーンスロー・ミエに代表するような他のミエ、そしてカブキの動き、その全てに計り知れないパワを感じた。

そして何気に今回が古代ローマカラテ使いのぴるす君が初登場だったりする(多分今まで出ていないよね?)。彼らに関しては本来であれば意気揚々とサルファリック相手に出向き、描写無く倒されるという役回しをさせていたんだけど、文字数の関係でその出番すらカットされてしまった。

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