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【テイク・ウィング、ホワイトパロット】

【テイク・ウィング、ホワイトパロット】

(磁気嵐が晴れ、メガコーポ群によって切り開かれたネオサイタマの空路。スペインの地を目指し巨大旅客機へと搭乗したホワイトパロットへとぴるす正教会の刺客、プランダラーが襲い掛かる!…逃げ場無き大空の密室!)


 「ヌゥーッ…!」ホワイトパロットの額から玉のような冷や汗が流れ落ちる。己のカラテが、命が外へ流出する感覚。「ケオーッ!」「イヨーッ!」一方、相対するプランダラーの力は比例するように増してゆく。

 (奴の攻撃の正体…それは分かっている)汗を拭い、ホワイトパロットはプランダラーへ剣呑な視線を向ける。そして、己の胸元を見る。もし皆様に彼と同様にエテルの流れを認識できる感覚が備わっていれば見えただろう。
…プランダラーからホワイトパロットへと伸びる非物理的なジツの糸が。

 ホワイトパロットへ伸びる1本だけではない。プランダラーからは無数の糸が伸び、その先は乗客やスタッフへと繋がっている。糸が不気味に脈動し、カラテをプランダラーへと吸い上げる。…分かっている。だが、対策が取れぬ!

 「イヨーッ!」「ケオーッ!」拳がぶつかり合う!両者のカラテは拮抗!ニンジャを屠るカブキウェポンであるベッカクとデンショウであればこのジツを容易く切り裂けたであろう。しかしナギナタは今どちらも彼の手元には無い。…飛行機内への危険物の持ち込みは禁止されているのだ!

 「イヨーッ!」「ケオーッ!」空中で鋭い2筋のチョップ軌跡が交錯し、「ヌゥーッ…!」ホワイトパロットは呻いた。力量差が逆転しつつある…!これ以上力を吸われてはならぬ。…だが、強力なカブキ・ムーブメントでは乗客が無事では済まない。フーリンカザンが、乗客たちの命がホワイトパロットを追い詰める…!

 「ケオーッ!」「イヨ…ヌゥーッ!」互いの拳がぶつかり合い、ホワイトパロットは大きく後ろへ弾かれる!そのすぐ背後には操縦席と客席を隔てる壁。「逃げる道無し!観念するんですけお!ケオーッ!」「グワーッ!」ローキックがホワイトパロットの姿勢を崩す!「獲ったりィ!」続け様に放たれる断頭ハイキック!おお…もはやこれまでか…!?

 だがその瞬間、ホワイトパロットの目がギラリと光った。「…カイシャクには大技を出すと思っていたよ」蹴りが頸を捉える寸前。「…イヨーッ!」「なっ…!?」ホワイトパロットの腕がプランダラーの足を掴み止めた。

 否!ホワイトパロットはその蹴りを受け止めてはいない!プランダラーの足を捻り、カラテのベクトルを捻じ曲げた!「ケオーッ!?」プランダラーは己の込めたカラテによって吹き飛ばされる!アイキドー!

 プランダラーの吹き飛ぶその先には…非常脱出口!KABUKRAAAAAASH!「ケオーッ!?」恐るべきニンジャの衝突に耐えかね、非常脱出口は無残に破損!プランダラーは機体にあいた穴から外へと放り出される!

 いかなニンジャといえど上空から地上、それもウケミの取りかねる海へと落とされれば助からぬ。だが。「イヨーッ!」ホワイトパロットは決断的に機外へと飛び出した。彼の視界は捉えていた。主翼へと着地するプランタラーを。




 6つのエンジンが唸る巨大な右主翼の上で、二人のニンジャは睨み合う。強い風が吹き抜ける。…正しく言えば彼ら二人が、そして足場の旅客機が高速で風を切る。モータルはもちろん、ニンジャであったとしても生半可な力量であれば即座に風に足を取られ後方の空へと消えていただろう。

 相手のカラテを受け体が浮けばもはや立て直しは不可能。空気抵抗に足を引かれ、上空にただ一人取り残されるのみ。ウケミを取ることさえ叶わぬ。このイクサがたった一撃で終わることを直感し、二人は睨み合いながらタイミングを見計らう。

 …無限にも感じられる時間の果て、張り詰めたニンジャアトモスフィアに機体前方で一羽のバイオスズメが失神し、巨大エンジンに吸い込まれた。ネギトロめいた肉片が後方の空に舞う。…その瞬間、両者は動き出す!

 この風の中で蹴りを出すのは得策ではない。反作用を片足で受けなければならず、少しでも受け止め損なえばバランスを崩しそのまま空へと落ちていくだろう。プランダラーは右腕にカラテを込め、心臓摘出チョップを構えて駆ける!(…?)そして、自らのカラテに違和感を覚えた。

 (なんだ…これは?)時間感覚が泥めいて鈍化する中、プランダラーは己の身体を見た。ホワイトパロットへと伸びるジツの糸。…そして、ホワイトパロットから己の身体へ伸びる糸。(バカナ)プランダラーは己のカラテが流出する感覚に震えた。状況を理解しようとした。プランダラーは…。

 「イヨォーッ!」ホワイトパロットのポン・パンチがプランダラーの腹部へと突き刺さる!「ケオーッ!?」致命傷ではない。だが、プランダラーの体は恐るべきカラテ衝撃によって右主翼の前方斜め上へと投げ出された。

 鈍化したままの主観時間でプランダラーは宙を舞う。激しい風が吹き付け、空気抵抗が彼の運動エネルギーを奪う。「ア…アア…」彼の飛行速度は瞬く間に減退し、一度は離れた旅客機機体が再び眼前に迫る。「アアア…」右主翼が、巨大なジェットエンジンが迫る。「…アアアアアアアーッ!」

 ジェットエンジンががプランダラーを飲み込む。悲鳴を上げる猶予も与えず、高速回転するファンがミキサーのごとくプランダラーの全身をネギトロめいて切り刻み、背後の空へと散らせる。…声も聞こえぬ遥か後方で、昼花火めいた爆発四散が起きた。

 「フゥーッ…」ホワイトパロットは深く息を吐く。秘匿せし奥の手、パロッティング・ジツ。神羅万象を見、真似るカブキの神髄とニンジャとしての彼の能力が奇妙に混ざり合い生まれたユニーク・ジツ。ニンジャぴるす達はなんらかの超常的手段で情報交換している。もはや不意打ちにも使えまい。

 KABOOOOM!プランダラーの最期の足掻きか、彼を巻き込んだエンジンが爆発を起こす。片翼に6つのエンジンを積んだ強靭な機体は1つ2つエンジンを失おうと墜落することはあるまい。だが、フライトは中止となり飛行機は最寄り空港へと引き返すだろう。(…そうなれば次の刺客を送り込む猶予を与えるだけだ)

 ホワイトパロットは主翼の上で目を瞑り、「イヨーッ!」鋭いカブキシャウトと共に機体から飛び降りた。





 「アイエエエ!?エンジン爆発!?」「ちょっと!私はカチグミだぞ!他の奴らを放り出してでも私を…」「ママ…コワイ…」「大丈夫だから…大丈夫…」「エンジンの不調により引き返しますがこの機体は実際安全で…」「引き返す!?こっちは大事な商談があるんだぞ!」「アイエッ!お…落ち着いて!暴力は…」

 機体の揺れ、爆発、黒煙を上げるエンジン…そして機内に残るニンジャ存在感の残滓。プランダラーのジツから解き放たれ意識を取り戻した乗客がパニックを引き起こす。「ああ…どうか…ブッダ…」怯える母を横目で見、少年は心配を掛けぬよう平静を装った。水平線の向こうから太陽が顔をのぞかせ始め、窓から朝日が差し込む。少年はふと外を眺めた。

 「…アッ」少年は息を飲む。彼の目線の先、窓の外には一羽の大きな白いバイオオウムが飛んでいた。どこか壮大で威厳を感じるバイオオウムは朝日を浴びて白く輝き、気高く羽ばたく。

 進路を変更した旅客機とバイオオウムの間隔は次第に広がり、やがてその姿は水平線の彼方へと去っていった。少年はただ、圧倒されるようにその姿に見入った。恐れや不安すらもいつの間にか忘れ去りながら。


【テイク・ウィング、ホワイトパロット】終わり

【ザ・マン・オブ・ラ・マンチャ】へ続く



カブキ名鑑

◆歌◆カブキ名鑑#16【プランダラー】◆舞◆
ぴるす正教会のニンジャぴるす。サザナミ・ニンジャクランのソウル憑依者であり、略奪者の名前の通り他人のカラテを奪い取る邪悪なジツの使い手。非常に用心深く、相手が弱るまでは気配を消して潜み、姿を現さない。




K-FILES

!!! WARNING !!!
K-FILESは原作者コメンタリーや設定資料等を含んでいます。
!!! WARNING !!

ピルストロフィ・オブ・カブキエイジ第2話。海外へとその舞台を移すため旅客機に搭乗したホワイトパロットへとぴるす正教会の刺客が襲い掛かる。本来の連載版では今話がホワイトパロットの初戦闘でありながらニンジャぴるすに苦戦を強いられるという衝撃的なものであった。


主な登場ニンジャ

プランダラー / Plunderer:ぴるす正教会のニンジャぴるす。サザナミ・ニンジャクランのグレーターニンジャソウル憑依ぴるす。ジツによって生み出した不可視の糸で他人の生命力を奪い取る邪悪なニンジャぴるす。大規模破壊を起こせば乗客を殺めかねず、愛用するナギナタを持ち込むこともできない旅客機内というフーリンカザンの上とはいえホワイトパロット追い詰めた実力者。一方、その逃げ場のない密室というフーリンカザンが早期に己の居場所を探り当てられ、本来用いていた『周囲に潜みながら力を奪い完全に弱り切らせてトドメを刺す』という戦法を果たせぬ原因ともなった。


メモ

カブキスレイヤーはこの第二部からは原作の4部の時間軸に存在するストーリーになっており、月は砕け、磁気嵐は去り、混沌としたワールドワイドな世界がホワイトパロットのイクサの舞台となる。その前段階として、悠久に広がる世界へと至る前の、いわば玄関口での戦闘を描きたかったんだ。

このエピソードが連載時ではホワイトパロットの初めての戦闘を描く話であり、多少変化した彼のパーソナリティや白い鸚鵡の名に由来するジツを主軸として取り扱っている。また、大きな技を使えない環境での彼の戦闘を描いてみたかったという部分もある。このエピソードの構想を練っていたとき、『白い鸚鵡が悠然と空を飛ぶ姿』、それが一番初めに浮かんだインスピレーションで、そこへ至る展開を連想しながらストーリーを肉付けしていくといった形で完成へと至った。

このエピソード以降、ホワイトパロットの戦う相手は基本的にぴるす正教会の刺客であり、鍛えられたニンジャぴるすである。その為、いかなコウライヤのカブキアクターであっても苦戦を強いられることが多くなる。そういった「これ以降はニンジャぴるすのワザマエも高くなるよ」というチュートリアルの意味も含めて今回敵として登場するプランダラーには厄介かつ実力のあるぴるすになってもらっている。そして、敵ぴるすの持つパーソナリティやエゴといったエッセンスにも今後は触れることが増えていくことになる。

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