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【コウライ・ピルス・チーム】



 薄暗い森を3つの人影が歩く。赤き竜のマントをはためかせる赤鎧の男、灰色ローブに身を包む男、そして両腕をサイバネアームに置換した男。異様なアトモスフィアを放つ3人。

「……あったぞ、あれだ」赤鎧の男が崖の側面に空いた大穴を指差し、彼らは暗い洞窟内部へと足を進める。洞窟は曲がりくねり、時に分岐しながら地下へと傾斜していた。「私の感覚では……こちらかと……」ローブの男が三叉路の1本を指差し、3人は迷わずその道を進む。

 もしこの3人を正面から眺める者がこの場に居たのならば彼らの顔がよく似通っている事に気付いただろう。そう、彼らはコウライヤが産み出した半クローンのバイオ生物、ぴるすなのだ。

 やがて洞窟の自然的な壁が人工物へと変わり、彼らの目の前には大きな金属の扉が現れた。赤鎧の男が扉を押すが金属扉はしっかりと溶接され開く気配はない。「なるほど、情報通り封鎖させている」「……で、どうするんですけお?」サイバネ腕のぴるすが問う。

「元より破壊して良いという指令だ。壊して入るんですけお」「アイアイ」サイバネぴるすは扉の前に立ち、戦闘用サイバネアームを構えた。「ケオーッ!」カラテシャウトが洞窟に響き、金属扉がひしゃげて大きな音を立てて飛んだ。……彼らはぴるすであり、そしてニンジャでもあった。

「この先何が待っているか分からぬ……できればもう少し静かに侵入したかったんですけお」「ンなこと今さら言われても仕方ないんですけお」「フフフ……フフ……」ぴるすたちは破損扉から施設へと足を踏み入れた。「ミッション開始だ」

 彼らの胸元ではフォースハナビシのバッジが光る。それはコウライヤ所属の証。彼らはコウライヤが派遣したニンジャぴるすの3人組であった!


【コウライ・ピルス・チーム】


「ハァー……つまんね……敵も居なけりゃ面白い物も無いんですけお」サイバネぴるす、パンチャーが欠伸を噛み殺しながら愚痴をこぼした。洞窟地下に存在するその施設は電源も未だに生きており、寿命寸前の照明が照らす薄暗い廊下を3人は歩く。長年放置されているはずの廊下は、しかし不自然なほどに綺麗なままであった。

「コウライヤにオレの実力を見せつける日が来たと思ってたのに、これじゃガキでも出来るお使いなんですけお……」「……実力に見合うミッションを与えられただけでは?……フ……フフ」ローブのぴるす、ペニテンスが陰気に笑う。

「……ア?ケンカ売ってるんですけお?」「あるいはこれは危険なミッションで……我らはステゴマであったり?……フフ」「チッ……そんなにケンカ売りたきゃ買ってやるんですけお」パンチャーがサイバネ腕でカラテを構えた。

 一触即発のアトモスフィアが満ちる中、「……パンチャー=サン、ペニテンス=サン、いい加減にせよ」沈黙を保っていた赤鎧のぴるす、ペンドラゴンが口を開いた。

「任された任務を地道にこなす、それが信頼への近道なんですけお、パンチャー=サン。そしてペニテンス=サン、あまり煽るな」「チッ……」「……私は可能性の話をしたまでですが……フフ……以後気を付けるんですけお……」

 2人が黙ったのを確認し、ペンドラゴンは再び沈黙思考に戻る。この地下研究施設はかつて重大な事故が発生し緊急閉鎖、そのまま放棄された……と聞かされている。この地を探索し重要資料を回収あるいは破棄し、最終的には施設丸ごと爆破処分する。それが今回の任務。

(てっきり危険な薬やらガスやら、あるいは実験生物やらが満ちているとばかり思っていたが……ここまで何一つ障害はなし。これなら一般事務員や下級カブキアクターのモータル職員であっても問題のない業務なんですけお。パンチャー=サンが不満を抱くのも当然ではある)ペンドラゴンは一人考える。

(……逆に言えば、モータル職員ではなくニンジャぴるす、それも3人も向かわせるだけの理由がまだこの施設のどこかにあるはずなのだ。……油断はできないんですけお)



「ハァ……結局ここまで何にも無しなんですけお」パンチャーが呟きながら階段を下る。「日頃の行いの賜物かもしれませぬ……フフフ……フ」ペニテンスが笑う。彼らは最下層までの探索を終えたが、道中では実験動物はおろか資料や本、紙切れ一枚すらも見つかっていない。UNIXの残骸が幾つか転がるのみである。(施設破棄の際に入念に処分されたということか?……事故による急な閉鎖のはず。そんな余裕あったんですけお?奇妙な……)

「……何も無いならそれはそれで楽で良い。だが何も無いと油断して何かあればオシマイだ。……ラスト1階集中するんですけお」思考を止め、ペンドラゴンは声をかける。「アイアイ」そう答えると、パンチャーは最下層の大扉を蹴破った。

「……これは」そこは強化ガラス壁によって2区画に区切られた大部屋であった。最下層はどうやらこの部屋一つのフロアらしく、他の部屋へと繋がるような扉は存在していない。ペンドラゴンらが踏み込んだ側の区画には巨大なマザーUNIXと薬品や資料があったであろう棚が並んでいる。

 そしてガラス壁の向こう側は。「……なんなんですけお、アレ」「あ……ああ……!なんと悍ましい……!カブキの神よ……どうかお守りくだち……!」

 ガラス壁の向こう側には……地下深くの施設でありながら天井の穴から外の光が微かに注ぐ奇妙な区画には、冒涜的な巨大肉塊が蠢いていた。『KEEEOOOOOOOO…』

「……そういえばイサオシを欲しがってたな、パンチャー=サン。どうだ?」「ケオッ!?い……いや……」「フッ、冗談ですけお。未だに部屋に閉じ込められているあたり、奴は部屋から出られぬのだろう。目的を果たせば終わりだ。無視して任務を進めてくだち、パンチャー=サン」「りょ……了解なんですけお」

 パンチャーは施設マザーUNIXへと近づくと、慣れた手つきでサイバネ腕と直結させる。「電源有り、機能正常……っと、あったあった。自爆装置も生きてるんですけお。……爆発は45分後。承認」決定キーを押すと、ブガー!ブガー!緊急アラートが鳴り響き、電子マイコ音声が警告アナウンスを行う。

『自爆装置の作動を確認な……速やかな退出を推奨しますドスエ』

「これで完了か。さっさと脱出するんですけお」
時間に余裕はあるが、もし逃げ遅れればニンジャぴるすであっても死は確実。肉塊を一瞥し駆け出そうとする彼らを、しかし、部屋の外から現れた無数の影が押し留めた。

「ケオー……」「ケオー……」「ケオー……」ナムアミダブツ!それらは人ではなく、ぴるすですらない……!人型でありながらその顔には目も鼻も耳もなく、ただ一つ巨大な口らしき穴が空いた悍ましき茶色の肉塊!

「「「ケオーッ!」」」腐ってもニンジャであるニンジャぴるす三人はその風貌に怯むことなく素早くスリケンを投擲、人型肉塊の頭部を破壊した!……だが!「ケオー……」肉塊は死なぬ!そもそも脳や心臓に当たる臓器を持っているのか?それすらも分からぬ。「チィーッ!面倒な!」人型肉塊を前に止まらざるを得ぬ!

 そして、彼らの背後でガラス壁に備わる唯一の扉が……飼育区画とこちら側を繋ぐ両開きの大きな扉がゆっくりと開いた。

「KKKKKKEEEEEOOOOO……」肉塊が伸ばした触手でドアノブを捻り、扉を開けている。……明らかに知性がある。「ケオーッ!?ヤバいんですけお!」(出られないフリを……部屋に閉じ込められているフリをしていたんですけお……!?私達を油断させるために……!)

「KKKKKEEOO……ドーモ……パナシーアです」恐ろしき肉塊は、どこに存在するのかも分からぬ口からゾッとするようなアイサツを繰り出した。「……ドーモ。ペンドラゴンです」「パンチャーです」「ペニテンスです」3人はオジギを返す。勧進帳にもある通りニンジャはアイサツされれば返さねばならない。そう、この肉塊はこれでもニンジャなのだ……!

「ケオーッ!」1秒未満の恐慌から脱したペンドラゴンが先陣を切り、口から炎を吐き出す!カトン・ジツ!ペンドラゴンが吐き出す特殊なカトンは竜を象って宙を舞い、扉を塞ぐ人型肉塊群へ飛来!「ケーオオー……」「ケオオー……」「ケオー……」人型肉塊たちは焼き焦がされ悶えて倒れ伏せた。だが……炭化した組織すら回復の兆しあり。

「これ以上の戦闘は不毛!構うな!行くぞ!」「ケオーッ!」「ケオーッ!」3人は部屋から駆け出す!「KEEEEEOOOOOOO……」背後から聞こえるパナシーアの呻き声は、どこか邪悪な愉悦を感じさせた。



「ケオーッ!」「ケオオー……」「ケオーッ!」「ケーオオー……」肉塊群を打ち倒しながら3人は廊下を駆ける!「こんな奴ら……さっきの探索の時はいなかったんですけお!ケオーッ!くまなく探索したハズなのに!」

「恐らくは……ケオーッ!隠れていた!通気孔か何かの中に!ケオーッ!我々を誘い込んだんですけお!あの部屋まで!」「ケオーッ!……あのような姿になっても生きているとは……ああ……なんと冒涜的な……」

 ペンドラゴンは背後を確認する。パナシーアが追ってくる気配は無し。あの巨体では部屋の外までは出られぬか……?「この角を曲がれば出入り口なんですけお……!」速度を緩めず、半ばドリフトめいて3人は直角の曲がり角を曲がる!……だが、その先には絶望めいた壁が立ちはだかっていた。

「バカな……」出入り口通路を、肉塊の壁が埋めている。肉塊たちは……パナシーアは施設の構造を全て理解し、こちらの行動を予測しながら動いているというのか……?そこまでの知性が奴にあるとしたら……。ネズミ袋の文字が脳裏をよぎる。

(襲い来る肉塊と戦いながらこの肉壁を壊す……?そもそも壊せるのか?不死身の壁を……無理があるんですけお。どうする……)「非常口がもう一つある!そっちに向かうんですけお!」パンチャーが呼びかけ、駆け出した!「……!」2人も咄嗟に追従する!

「……非常口だと?どこで知ったんですけお」駆けながら尋ねるペンドラゴンへ、パンチャーが右腕を差し出す。彼のサイバネアームからはホログラフが投影されていた。この施設の立体地図が。「さっきマザーUNIXから取っといたんですけお」

「なるほど、でかした」「それで……出口は何処にあるんですけお……?」ペニテンスが並走しながら尋ねる。「この先に……」だが、角を曲がった彼らの前に現れたのは肉壁であった。……非常口へと通じる通路も無慈悲に封鎖されている。「クソッ!ここもなんですけお!?」

「パンチャー=サン、他に外へ通じる出口は」「……ある。もう1つだけ」パンチャーは右腕のサイバネを操作し地図を拡大した。「地図と一緒にあのニンジャ、パナシーア=サンについての資料も回収したんですけお」


 パナシーア。コウライヤが産み出したバイオニンジャぴるす。かつてこの地で行われていた強力なバンテリンを生み出す研究、その実験体。

 彼には薬や治療に関わるなんらかの高位ニンジャソウルが憑依しており元々その体液にはニンジャの回復力をブーストする力があった。そして、治療効果を高めるためにコウライヤは彼にバイオ手術を行いバイオガマガエルの遺伝子を後天的に注入したのだ。

 結果だけで言うのならば実験は成功であった。パナシーアのジツは強化され、彼は強力なバンテリン体液を生成するニンジャぴるすとなった。……だが、彼の生み出すバンテリンは強力過ぎた。己の細胞すら異常活性させてしまうほどに。

 彼の体内を流れるバンテリン体液は彼の細胞全てを異常に活性させ、異常活性細胞は絶え間なく分裂と増殖を繰り返した。彼の体は異常細胞分裂によって膨れ上がり、そして日に日に人の形を失っていった。

 異常細胞増殖による苦痛、エネルギー不足に伴う極度の飢餓感、そして己が異形になりゆく恐怖。パナシーアは次第にその精神を崩壊させ、やがて彼の自我は千々に裂け狂気だけが残った。

 こうして忌まわしきニンジャぴるす肉塊はこの世界に誕生し、やがてある日重大な脱走事故を引き起こし……そして研究所は永久閉鎖されることとなった。


「あの肉塊、自己増殖のために選り好みもせずあらゆる有機物を分解吸収するらしくて……アイツをまだ飼育、観察してた頃どっかから有機物の補給をしてたはずなんですけお。……それもできる限りローコストで」

 ペンドラゴンが地図を確認する。地上から最下層へと地面を貫き直通のパイプが走っている。そして先ほど見た部屋の、光が射し込む天井の穴。「……地上から落ち葉や昆虫でも集めて投下させていた、ということか」「そしてその穴なら地上まで出られるはずなんですけお」

「ですが……そこから逃げようにも……最下層にはその肉塊本人がいますけお……?」ペニテンスの言葉にパンチャーは口を閉ざし目を伏せた。

「なるほど……」ペンドラゴンが指を鳴らす。「ここに資料も死体も何一つ残ってない理由……あいつが紙や布、木材すらも全て食い尽した。そしてこちらを追ってこない理由。全ての出口を封鎖し、唯一残った逃げ場の下で……自分の根城で我々を待っている」

「つまるところ……ペニテンス=サンの言う通り、穴に向かったとしてもあいつが余裕で待ち構えてやがる。ネズミ袋ってコトなんですけお」悲観めいてパンチャーが言う。

「……ならばここで爆発を待つかパンチャー=サン?確かにあと10分程度待つだけで全てが済むんですけお」ペンドラゴンが鼻を鳴らした。「そうしたいのならば好きにすればいい」

「ペニテンス=サン、お前はどうなんですけお」問い掛けにペニテンスは震えながら答えた。「抗う事こそが生きる事……そう……抵抗した上での死ならば……カブキ神も認めましょう……」「はっきりと一言で言え」「……脱出を目指しますけお」

「……だそうだ。お前はどうする、パンチャー=サン」パンチャーは数秒目を瞑り、力強く見開いた。「……ハ!元よりイサオシを求めてのミッション!これをこなせればカブキマスターの覚えもめでたいってもんなんですけお!」言い、サイバネ腕の拳を握りしめる。

 3人は互いに顔を見合せ、力強く頷いた。



「KKKEEEEOOOOOOOO……」最下層、ガラスの壁の向こう側。パナシーアは再び定位置へと戻っていた。彼は知っている。外へ出られる場所が3つしか無いことを。その内の一つが頭上にあることを。そして自分の巨体はこの施設から抜け出せぬことも。彼には確かな自我と知性がある。歪み、壊れながらも。

 施設内のあらゆる有機物は既に食い尽くし、己の肉体をすり減らしながら天井の穴から生物が落ちてくることをただ待ち続けるだけの日々に降って湧いた3体のご馳走。……逃がしてなるものか。歓喜か空腹か、肉塊が震える。その時。

 KRAAAAAAAAASH!突如天井が崩落し、「ケオーッ!」ペンドラゴンが落下する瓦礫に紛れて頭上からアンブッシュを仕掛ける!「KKEEEOOOO!」パナシーアは瞬時に肉塊の一部を触手めいて伸長させトビゲリを防いだ!彼は肉塊となる中で目や耳、鼻を失ったが、その代替として彼の表皮全てが鋭敏な感覚機器へと変貌しているのだ!彼に360°死角は無し!

「KEOOOOOOOO!」触手による追撃!空中のペンドラゴンに回避は不能!「ケオーッ!」共に瓦礫に紛れていたペニテンスがインタラプトし、聖なる光を帯びたカラテが触手を切断!「KKKEEOOOOO!」叫びと共に更なる触手が伸長し2人を狙う!

「ケオーッ!」「ケオーッ!」床に着地した2人は触手をチョップで迎撃し切断!だが間髪を入れず更なる触手が迫る!「ケオーッ!」「ケオーッ!……ヌウッ!」ペニテンスを包む光が触手を弾くが、ペンドラゴンは触手の一つに腕を捉えられた!「ケオーッ!」ペンドラゴンは腰の剣を抜き、触手を斬り刻み拘束を脱する!

 しかし……おお!読者の皆さんには気を強く持ってこの光景を見ていただきたい!斬り落とされ無数の触手が互いに絡み合い……そして人の形を取ったではないか!パナシーアから切り離されながらも己の治癒力で死ぬことすらできぬ肉がこうして寄り添い集まって人型肉塊を形成していたのだ!その姿はあるいはパナシーアの望郷であろうか。

 常人であれば発狂しかねぬおぞましき光景だが、彼らはニンジャぴるす!狂気に対する耐性は常人と比ぶべくもなし!「ケオーッ!」「ケオーッ!」「ケオー……」「KKKKEOOOOOOO!」触手を!肉塊をカラテで打ち倒す!

「KEEEEOOOOOOOO!」「ケオー……」しかし、何度倒そうとも肉塊達は立ち上がり、触手は再び襲い来る。これではサウザンド・デイズ・ショーギだ。長期戦となれば無限めいた体力を持つ相手にグンバイが……否、それ以前の問題である。『爆発まで5分を切ったドスエ』電子マイコ音声が警告する。ペンドラゴン達にはタイムリミットが存在する!

 このままではパナシーアに殺されるか爆発で死ぬかの二択だ。脱出をしなくてはならない。だが、パナシーアは地上直通パイプの真下を陣取り動かぬ。「KKKEEOOOO!」攻撃は全て伸ばした触手で行い、本体は決してパイプ真下から動こうとはしない。……邪悪な知性を感じさせる位置取り!「ケオーッ!」一体どうすれば!

「完了!したんですけおッ!」その時、瓦礫による粉塵の向こうからパンチャーの声が響いた。「了解!」「ケオーッ!」ペンドラゴン、ペニテンスは声の元に迷わず後退する。「KKKKEEOOOO!」逃がさぬとばかりに触手が2人を追うが、それよりも早く3人は合流した。

「ペニテンス=サン!やれ!」「ケオーッ!」ペニテンスのカラテシャウトに応じて彼の周囲に聖なる光球が展開し、3人を包み込む。「KEEOOO!」触手が光球に阻まれ焼け焦げた。

 彼らの背後では、壁に開けられた穴から白い煙が噴出している。火事であろうか?違う、噴出しているのは自爆用に施設中に仕込まれていた可燃ガス、エアロバンテリンである!2人の戦闘に乗じたパンチャーが壁に埋め込まれたエアロバンテリンを探り当て拳で壁ごとタンクの1つを破壊していたのだ!

 可燃ガスが部屋に充満し視界が霞む!そして!「備えよ!ケオーッ!」ペンドラゴンが炎の竜を吐き出した!炎の竜は光球を越え、可燃ガスに満ちた空間へ!

 KABOOOOOOOOOOM!

 ガスが瞬時に燃焼し爆発!光が、炎が、衝撃が部屋を駆け抜ける!「ケオーッ……!」光球の中で3人は衝撃に耐える!「ケオー……!」人型肉塊が吹き飛ばされ燃え尽きた!そしてパナシーアの巨大な肉塊すらも爆風に浮き上がり……「KEEEEEOOOO!?」ついには吹き飛ばされた!爆風と共にガラスを突き破り肉塊が隣の区画へと転がり込む!

「……今だ!行くんですけお!ケオーッ!」「ケオーッ!」「ケオーッ!」ペンドラゴンの合図で3人は駆け出す!彼らの目的はパナシーアと戦うことではない!未だ残る熱に肌を焼かれながら天井に空いたパイプ穴へと跳んだ!

「ケオーッ!」「ケオーッ!」「ケオーッ!」
掴む突起も存在しない滑らかな垂直パイプ内を3人は連続トライアングル・リープによって駆け登る!「KKKKKKKEEEEEEOOOOOOOOOOOO!」おぞましき怒りの咆哮が下で響き、触手群がパイプ内へと侵入した!パナシーアは下で既に立て直している!なんたる大爆発を直に受けながらその傷をも瞬時に治癒させる異常と言うべき再生能力!

 触手群が3人を追い、パイプ内を高速で伸長しながら進む!その速度はトライアングル・リープ上昇する3人よりも速い!このままでは追い付かれる!「ケオーッ!」最後尾のペンドラゴンが真下を向きカトンを吐く!「KKKKEEEOOOO……!」炎の竜が触手を噛み、肉を焼き焦がす!その横を別の触手が抜ける!

『爆破1分前ドスエ』下の部屋から警告電子マイコ音声!もはや爆発は寸前だ!ニンジャの脚力といえどここはまだ遥か深層。地上まで時間の余裕はいくらもない!ここで足を止めるわけにはいかぬ!

「ケオーッ!」「KEOOOOOOOOOO!」ペンドラゴンは触手への対応で一歩遅れながらパイプ内を駆け上がる!「クソッ……!ケオーッ!」「ケオーッ!」先を行くパンチャー、ペニテンスはペンドラゴンに構わずただ一心不乱に跳ぶ!2人はペンドラゴンを援護する術を持たぬ!承知の上での順番だ!

「ケオーッ!」「KEOOOOOOOOOO!」ペンドラゴンがカトンを吐き触手を足止めする!そして彼はまたその分パンチャー、ペニテンスらから一歩遅れる!『30秒前ドスエ』警告電子マイコ音声!

「見えて……!ケオーッ!きたんですけお……!ケオーッ!」「おお……!ケオーッ!愛おしき光……!ケオーッ!」地上は目前!『20秒前ドスエ』だが爆破もまた目前!「ヤベェ!ケオーッ!」「ペンドラゴン=サン……!ケオーッ!」

「ケオーッ!ゴホ……!」ペンドラゴンが血を吐き喉を押さえる。もはや限界か……!「……ケオーッ!」それでも苦痛に耐えながらカトンを続ける!(ここで止めればどのみち死だ……!)「KEOOOOOOOOO!」

「ケオーッ!」「KEOOOOOOOOOO!」「ケオーッ!ゴホッ!」「KEOOOOOOOOOO!」触手と炎竜、2つの群れがパイプ内で激しくぶつかり合い身を焦がす!「「「ケオーッ!」」」ペンドラゴンたちは天に昇る稲妻めいてジグザグに高速上昇を続ける!

「……見えた!」外の光がパイプ内を一層強く照らす!「ケオーッ!」「ケオーッ!」「ケオーッ!」『残り10秒ドスエ』電子マイコ音声が無慈悲にカウントダウンを進める!もはや一刻の猶予もなし!「ケオーッ!」先頭のパンチャーがついにパイプを抜け地上へ出た!「ケオーッ!」次いでペニテンス!

『9……8……』「ケオーッ!」カトン行使によって大きく遅れたペンドラゴンは未だパイプ内!「ケオーッ!ゴホッ!ゴホッ!」カトンを出し、吐血しながら跳ぶ!「KKKEEEEOOOOO!」カトンの火力が落ちたことで触手は既にペンドラゴンの足元寸前!

『7……6……』「ペンドラゴン=サン!早く!」外からの声!「ケオーッ!」ペンドラゴンは跳ぶ!『5……4……』「KKKEEOOOO!」触手がペンドラゴンを追う!「ケオーッ!」ペンドラゴンは跳ぶ!跳ぶ!跳ぶ!

『3……』「ケオーッ!」ペンドラゴンの眼には既に外の光が見えている!必死に跳ぶ!『2……』「KEOOOOOOOOO!」触手も獲物を逃さまいと……あるいは道連れにしようと、力を振り絞り加速した!……そして、ペンドラゴンの足に触手が触れた。

 触手が無慈悲にペンドラゴンの足を掴み止め、彼を地獄へと引きずり落とす。……その寸前。「ケオーッ!」サイバネ腕がペンドラゴンの手を掴み、彼を引き上げた。『1……』泥めいて鈍化した時間の中、ペンドラゴンは己の足のすぐ下で触手が空を切る様を見届けた。


『カラダニキヲツケテネ』


 ZGGGGGGTOOOOOOM!KRA-TOOOOOOOM!自爆機構が作動し、恐るべき爆発が地下施設を満たす!KABOOOOOOOM!KABOOOOOOOOOM!KABOOOOOOOOOOOM!施設内に設置された自爆用エアロバンテリンが次々と連鎖爆発を引き起こす!「KKKEEEEEEEEEEEEOOOOOOOOOOO!?」悍ましき断末魔の叫びが地下に響き渡る!

 爆発は地下だけには留まらぬ!施設外壁を破壊し地上にまで破壊と熱風が吹き上がり始めた!直通パイプが火を吹き溶け落ちる!自然洞窟が爆風を吹き出し崩落する!大気が鳴動し、大地が地震の如く揺れる!あちこちで地面が割れ、土が吹き上げられ、裂け目から間欠泉めいて炎と爆風が噴出!

「ケオオオーッ!神よ!カブキ神よ!ケオオオオオオオーッ!」衝撃波に空中へと巻き上げられながらペニテンスは祈る!聖なる光が空中の3人を包み、致命的爆炎から彼らを守護している!「ケ……ケオーッ!!」だが、ペニテンスのシャウトが弱まり、その光球直径も瞬く間に縮小してゆく!爆発が終わるのが先か、光球が失われるのが先か!

 その瞬間。DOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOM!一際大きな爆炎が大地を裂いて吹き上がり、全てを飲み込んだ。



「……無事か」ペンドラゴンが仰向けに横たわりながら声をかけた。「なんとか……生きてるんですけお」やや離れた場所から、同じように横たわったパンチャーが答える。「ペニテンス=サンは死んだかも」

「……生きておりますけお……フフ……フフフ……」同様に倒れ伏せながら、ペニテンスも答えた。「辛気臭せぇからそのまま死んでてくだち」「これも神の導き……まだ死ねませぬけお……フフフフ……」

「……まあいい。これでミッション完了……」ペンドラゴンは体を起こそうとし、上半身を半ば上げたところで苦痛に顔を歪め、再び大の字に倒れた。「ハァ……硬くて冷たくて湿ってて……疲れた体にいいベッドだ。……暫く休憩してから帰還するんですけお」「アイアイ」「了解……ですけお……フフ……」

 3人はもう一度目を閉じた。爆発の騒乱はどこへやら、薄暗い森の中は今や静まり返り、3人の呼吸音だけが響いた。

 彼らはどうにか、しかし確かに生きていた。





 獲物を求め地下を掘り進んでいたバイオミミズが不意に少し開けた空間へと落ちる。洞窟に掘り当たってしまったか?……もしもバイオミミズに知性が、そして時間があればそのような思索をしただろうか。

「keeeeoooooo」どこからか瞬時に伸長した触手がバイオミミズを掴み、その1000mmにも及ぶ体でのたうち暴れ回るバイオミミズを力ずくで引きずり闇の中へと連れ去った。

 ……そして、地下の闇を再び深い静寂が包んだ。


【コウライ・ピルス・チーム】終わり



カブキ名鑑

◆歌◆カブキ名鑑#77【パンチャー】◆舞◆
コウライヤのニンジャぴるす。両腕をサイバネ改造しており、その破壊力は常人の三倍を上回る。サイバネ腕には小型UNIXが内蔵されているのである程度のハッキングも可能。

◆歌◆カブキ名鑑#78【パナシーア】◆舞◆
コウライヤ医療部門バイオ班が秘密地下実験施設で生み出したバイオニンジャぴるす。身体からエクストラ・バンテリンを常に分泌しており、大きな傷すらも瞬時に治癒する。彼の脱走事故によって実験施設は閉鎖に追い込まれバイオ班は解散となった。



K-FILES

コウライヤの命を受けたニンジャぴるす、ペンドラゴン、ペニテンス、パンチャーの3名はコウライヤ廃棄施設へと踏み込む。かつて事故を起こし閉鎖されたというその地にはいったい何が待ち構えているのか。彼らは無事に任務を果たし生きて帰ることができるのか……!


主な登場ニンジャ

ペンドラゴン / Pendragon:コウライヤのニンジャぴるす。任務時には強化ナノカーボン製の赤い鎧を身に纏い赤竜のマントを棚引かせる。ズライグ・ニンジャクランの高位ソウル憑依者であり、燃え盛る炎の竜を吐き出し操る特殊なカトン・ジツの使い手。そしてイアイドーの使い手でもある。その他にもまだ奥の手も隠しているようだが……まだ語るときではない。【カースド・スウォーム・オブ・ザ・マリス】での登場から時間も経過し、ジツ・カブキ共にコウライヤで鍛え上げられている。

ペニテンス / Penitence:コウライヤのニンジャぴるす。ニンジャソウル憑依時に己を罪深い存在であると認識するようになり、贖罪のために自らコウライヤの門を叩いた。自虐的かつニヒリズムを拗らせた陰気な性格もその精神変調による部分が大きい。ヘイロー・ニンジャクランのグレーターソウル憑依者。自身を中心にバリア光球を展開し己や仲間を守る他、聖なる光を攻撃に転用することも出来る。ペンドラゴンと同様に初登場時よりも遥かに鍛え上げられている。

パンチャー / Puncher:コウライヤのニンジャぴるす。アカラ・ニンジャクランのソウル憑依者。両腕をコウライヤが独自にチューンナップした戦闘用サイバネアームに置換しており、そのパンチは鋼鉄の壁をも穿つ。また彼は機械類に強く、サイバネアームに内蔵された小型UNIXを使い現場でのハッキングやデータ解析もできる。サイバネアームには小型UNIXの他にも様々な機能が組み込まれており非常に小器用。

パナシーア / Panacea:コウライヤ医療部門でバイオ研究を担当していた班が実験・改造して産み出したニンジャぴるす。その体内ではエクストラ・バンテリンと命名されたニンジャピルが常に産み出され体液として体を循環しており、いかなる傷であっても傷口から染み出したバンテリンによって瞬時に治癒してしまう。それどころか彼の体から切り離された肉片すらも心臓も脳もあらゆる臓器すら無い状態でありながら生き続ける程である。一方でバンテリン生成に伴うエネルギー消費も激しいため全てのエネルギー供給を絶たれればやがて回復力は低下しその体も衰え小さくなるだろう。

クスシ・ニンジャクランのグレーターソウル憑依者でありニンジャピルを産み出すジツを持つ彼は元々医療部門に所属していた。バイオ班の提案でニンジャピルの効力を高めようとバイオ手術が行われバイオガマガエル遺伝子が彼に導入されたが、その結果ジツは暴走し精神も崩壊することとなった。


メモ

こちらも前作【コール・フロム・ディープウォーター】と同じく年末謝罪&まとめ用に書き下ろされたスレッド連載を前提としていないエピソードである。この書き下ろしエピソードたちは「コウライヤ負の遺産編」であり、コウライヤの廃棄施設で危険なニンジャぴるすと相対する話で構成されている。

おまけエピソードということで前作も今作も普段書かない、書けない内容をあえて書いている。前作では「特派員シリーズ要素」がそれであり、今作では「カブキアクターの出ないニンジャぴるすの話」という部分が該当する。そもそもスクリプトでぴるすしか出てこないなんてことはほぼあり得ず(まずスクリプトのスレッド画像自体カブキアクターのバストアップ画像だ)、そういう点ではある意味画期的な作品なのかもしれない。もっとも、ぴるすくんが管理権を欲しがるスレッド文の彼を主役に据えた作品なんかもあるけどね。

このエピソードを書くにあたって以前死なせず残したペンドラゴン・ペニテンス両名を出すことは真っ先に決まった。そして1度は2人のチームでこのエピソードを書き始めたが、どうにも話が弾まず悩まされた。ペンドラゴンとペニテンスのイメージは初登場の際にしっかり脳内に作ってあったんだけど、それが逆に災いしたんだ。つまるところ…ペンドラゴンは真面目なキャラでペニテンスもペラペラと喋るキャラではないから会話が盛り上がらない。そして彼らのカトンとバリアの組み合わせはイクサ的にもどこか一つ味が足りなかった。悩みに悩んで…そして追加されたムードメーカーにして近接カラテ役兼ハッカーがパンチャーなんだ。

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