無題000

【サプライズド・リエン】

【サプライズド・リエン】

 深夜、ウシミツアワー。ネオサイタマの一角に街中の夜景から切り取られたように静かな薄闇が横たわる。ここはリエンの園。カブキアクターが生活と修行を行う場。

 ドシン、ドシン…。静かな空間にスモトリがシコを踏むような大きな足音が響き、地面が揺れる。音源を見れば、白地に赤のクマドリ・ペイントを施された巨大機械が闊歩していることが分かるだろう。

 彼の名はカブキヤブ。かつてオムラ社が生み出したロボニンジャ、モーターヤブをコウライヤが独自にカスタムした機体である。AIにも手が加えられており、比較的安全にリエン敷地内の巡回警備を行っている。

 だが…この日は少し様子が異なった。ドシン、ドシン。通常のルートを外れ、カブキヤブがコウライヤの住居区へと歩き出す。

 「アー、ストップストップ。こっちは見回り順路じゃないでしょ」同行する見回り員が慌てて止める。「ドーモ、カブキヤブ、デス」「故障かなぁ…参ったなぁ…非常時のマニュアルなんて読んでないぞ…」

 「カブキ、ヤブハ、カブキノ、ト!」BRATATATATA!カブキヤブが突如ガトリングガン発砲!「アバーッ!?」見回り員無惨!そして同時刻!同様の事態がリエン中で同時多発していた!





 BRATATATATATATATATATA!無数のガトリングガンがコウライヤ居住家屋を狙い撃つ!高級家屋の堅牢なる壁は十発や百発程度の弾丸を通しはしないが、それでも無数のガトリングに絶え間なく晒されていればいずれ崩壊するだろう。危うしコウライヤ!

 …その時。「イヨーッ!」何者かが玄関のドアを一瞬の内に開け、瞬時に外に出、そして後ろ手でドアを閉じた。その所要時間およそ0コンマ5秒!

 「イヨーッ!」その男が仰ぐように腕を振ると、彼の手から放たれた液体がカーテン状に棚引き、銃弾の群れはそのヴェールを通り抜け…溶けて消えた。何らかの強酸性毒液!

 「…これは何事か」「ドーモ、カブキ、ヤブ、デス。投降ハ、無用!」
BRATATATATATATA!カブキヤブ群はターゲットを家屋からその男へ変更しガトリングを連射!

 「イヨッイヨッイヨーッ!」鋭い連続カブキチョップが飛来するガトリング弾を弾く!払われた弾丸は地面を転がり、毒液に侵食されて溶け消える。

 BRATATATATATATA!ガトリング追撃!「イヨッイヨッイヨーッ!」鋭い連続カブキチョップで迎撃する!BRATATATATATATA!更なる弾丸の嵐が襲い来る!「イヨッイヨッイヨーッ!」鋭い連続カブキチョップによる迎撃!

 BRATATATATATATA!絶え間ない連続射撃がこのリエン空間内に無数の弾丸を充満させる。回避不能。反撃不能。襲い来る致命的弾丸を迎撃する他無し。

 そして、いかなニンジャと言えど無数に飛来する弾丸を永遠に払い除け続けることなど不可能。いずれ体力の限界が訪れる。このままではやがて打ち漏らした弾丸により死ぬだろう。…このままの弾幕密度が続くのならば。(そう、続けられるのならばね…!)

 BRATATATATATATA!「イヨッイヨッイヨーッ!」BRATATATATATATA!「イヨッイヨッイヨーッ!」BRATATATATATATA!「イヨッイヨッイヨーッ!」永遠に続くかと思われる緊迫した戦況に、その瞬間は不意に訪れた。

 BRATATATA…TATA!突如発砲音に異音が混ざり始める!「…!イヨッイヨッイヨーッ!」BRATAT…TATA!カブキヤブ群の放つ弾数が明らかに減っている!「イヨッイヨッイヨーッ!」BRA…TATAT…!「オーバーヒート、ノ、キケン!」そう、カブキヤブのガトリングが無謀な連続稼働により過熱され、遂に限界へと達したのだ!

 (好機…!)男は力強く踏み出そうとし、しかし足を留めた。彼のニンジャ感覚は接近するニンジャの気配をはっきりと知覚した。「…ヤハリ、遠イト、勝手ガ、悪イン、デスケオ」カブキヤブが何者かの言葉を呟く。誰かが尊大に歩き来る。

 …やがて、二人のニンジャはカブキヤブに囲まれながら向かい合った。「ドーモ、私はコウライヤCEOを務めるサルファリックです」「ドーモ、サルファリック=サン、ぴるす正教会のポテンテイトです。コウライヤに放火しに来たんですけお」

 「放火に?君一人で?…それはいい度胸だ!イヨーッ!」サルファリックは稲妻めいて瞬時にポテンテイトへと駆け寄り、斬首チョップを繰り出す!

 だが!「イヨーッ!」カブキヤブがサスマタでインターラプトをする!「邪魔な!イヨーッ!」強酸性毒液を纏うチョップがサスマタを破壊!毒の飛沫がカブキヤブへと降り注ぐ!「ピガガーッ!?」痙攣し機能停止!

 「邪魔をするのならば!先に片付ける!イヨーッ!」サルファリックは目標をカブキヤブへ変更し、跳ぶ!恐ろしきチョップ突きがカブキヤブを貫き、内部基盤へと危険な毒液を直接注入する!「ピガガーッ!」機能停止!

 「イヨーッ!」「イヨーッ!」カブキヤブのサスマタ攻撃をチョップで受ける!毒がサスマタを溶かす!「イヨーッ!」再び恐ろしきドク・ツキがカブキヤブへと…だが!BRATATA!別のカブキヤブによるガトリング攻撃!銃身の冷却が一部完了したのだ!

 「イヨーッ!」追撃を諦め回避したサルファリックへと新たなガトリング弾幕が迫る!BRATATATA!「ヌウッ!」避けきれぬ!サルファリックの行動を先読みしたかのような通常のカブキヤブとは比べ物にならない反応速度!(…もしや、単なるハッキング操縦ではなくニンジャのジツ支配下か!)

 BRATATATA!ガトリングの追撃がサルファリックを追う!「イヨーッ!」側転回避!そこへポテンテイトが割り込む!「ケオーッ!」「グワーッ!」サルファリックの鳩尾にトビゲリが刺さる!

 BRATATATA!地面を転がるサルファリックへガトリングの弾幕が迫る!
「…イヨーッ!」サルファリックはポテンテイトから受けたカラテ衝撃を利用し高速で前転!寸前までいた地面を弾丸が抉る!

 サルファリックは高速前転状態から弾かれたように跳躍!「イヨーッ!」「ケオーッ!」ポテンテイトが空中で迎え撃つ!BRATATATA!ガトリングによる援護射撃は正確にポテンテイトを避ける!

 「チィッ…まったく面倒な…!」なんたる精密なジョルリ操作。その上、ジツの行使と同時に整った鋭いカラテまでも振るえるとは!(…否、ぴるす君程度の脳ミソにそんなマルチタスクが可能なはずが無い…別のニンジャぴるすも居るのか…?)

 BRATATATA!ガトリングの追撃!「イヨーッ!」サルファリックは側転回避をするが、全ては避けきれぬ!「ヌウッ!」弾丸が頬を掠める!「イヨーッ!」別のカブキヤブによるサスマタ攻撃!「イヨーッ!」回避!

 「イヨーッ!」カブキヤブが斜め上へと対空サスマタ攻撃を繰り出す!「イヨーッ!」突き出されたサスマタを踏み、再跳躍する!「イヨーッ!」「ケオーッ!」放たれたトビゲリをポテンテイトはクロス腕でガード!サルファリックは致命的なドク追撃を…BRATATATA!

 ガトリング攻撃が追撃を許さぬ!「イヨーッ!」サルファリックは追撃を諦め回避せざるを得ない!数の有利を生かした絶え間ない精密な攻撃が反撃させない!このままではカブキヤブの残弾やエネルギーが尽きるまで耐える他に無い。…ジリー・プアー(徐々に不利)!


 …その時。

 「ケオアバーッ!?」突然の悲鳴に、思わずサルファリックは声の主へと目を向けた。ポテンテイトも半ば反射的にそちらを見ていた。悲鳴を上げて
木から落ちてきたのは、ナギナタで胸を貫かれたケバブめいたぴるす。否、その姿を見よ。迷彩ニンジャ装束を身に纏い、顔をメンポで隠すその姿は間違いなくニンジャ!ニンジャぴるすだ!

 BRATATATATATA!そのニンジャぴるすは抵抗する事も出来ずガトリングの雨の真っただ中に落ちる。無慈悲なフレンドリファイアが彼の全身に銃創を刻んでゆく。「ケオアバババババ-ッ!?」そして、スイスチーズめいた姿へと変わり果て…爆発四散した。「サヨナラ!」

 「…チィーッ!パペティア=サンの役立たずめが!」「イヨーッ!」サルファリックのドク・ツキがポテンテイトへ迫る!「チィーッ!」「ピガガーッ!」カブキヤブを盾に防ぐ!…BRATATATA!ガトリングによる援護!だが反応が遅い!「イヨーッ!」サルファリックは既に移動し、別のカブキヤブのワンインチ距離!

 「…どうやらパペティア=サンとやらは重要な操縦士だったようだね。あからさまに操作が劣化しているぞ!イヨーッ!」「ピガガーッ!」そう、あれだけの数のカブキヤブを精密に操作するなどニンジャぴるす一人に、それもイクサの片手間でなど不可能。戦場に潜むパペティアと矢面に立つポテンテイト、二人がジツを同時に行使することで臨機応変かつ精密な操作を可能としていたのだ!

 「おのれ…こうなってはやむを得ないんですけお…!」ポテンテイトはカブキヤブの後方へと下がり、一帯のカブキヤブへと新たなコマンドを打ち込む。精密な行動が不能でもオーバーヒートするまでガトリングを掃射させ続ける事は可能だ。そしてその弾幕に紛れて逃げればいい。

 「…それではオタッシャデー!」「「「イヨーッ!」」」ポテンテイトの掃射命令を受けて全てのカブキヤブがガトリングを構え、掃射を開始する。BRATATATATATATATATA!ニンジャであっても避けきれぬほどの弾丸が空間に敷き詰められる!

 …だが。「…ケオーッ!?」ガトリングが狙ったのはサルファリックでもコウライヤ家屋でもなく、ポテンテイトであった。「そ…ソウサケンを奪い返されたんですけお…!?」「残念だけど…コウライヤは私一人ではないんだよ」

 「ケオーッ!」ぴるすと言えども腐ってもニンジャ!ポテンテイトは必死に弾幕を掻い潜り、致命弾を避ける!それでも手足を弾丸が掠め、貫き、その動きを鈍らせる。

 そして、弾丸の雨の中、サルファリックがポテンテイトのワンインチ距離へと強く踏み込んだ。後ろへ弓めいて引き絞った腕を解放する。鋭い拳がポテンテイトの顔面にめり込む。「…イヨーッ!」ポン・パンチ!

 「ケオアバーッ!?」ポテンテイトは顔面を砕かれ、血を撒き散らしながら凄まじい勢いできりもみ回転!そのままカブキヤブ群へと激しく衝突!「ピガ…」「ピガガガ…」KABUKOOOOOM!キルコマンドを打たれたカブキヤブが連鎖爆発し、同時にポテンテイトも爆発四散した。「サヨナラ!」




 「助かったよ、ありがとう」サルファリックは家屋の中へと声をかける。最後のカブキヤブの操作、あれはキンタロ…いや今はソメゴロだ…による遠隔ハッキングだ。

 ソメゴロの協力によりポテンテイトは逃がさず済んだ。「けれど彼らにインタビューはできず…か」だがそれ以上に気になる事。…もう一人のニンジャぴるすを仕留めたのは一体誰が。

 あのニンジャぴるすを貫いた、戦いを終えた時には既に消え失せていた、確かに見覚えのあるナギナタ。コウライヤに伝わる家宝。その持ち主は…。

 サルファリックは空を見上げる。夜空ではただ、白い星が瞬く。


【サプライズド・リエン】終わり



カブキ名鑑

◆歌◆カブキ名鑑#2【サルファリック】◆舞◆
コウライ・コーポレーションのCEOを務めるカブキアクターニンジャであり第10代「マツモト・コウシロ」。伝承されし伝統カブキ、独創的な創作カブキ、ドク・ジツを利用し、変幻自在かつ器用に戦う。

◆歌◆カブキ名鑑#13【カブキヤブ】◆舞◆
かつてオムラ社が作り出したロボニンジャ、モーターヤブをコウライヤが独自にカスタムした機体。全身が白く塗られて赤いクマドリ・ペイントが施されている他、
シャウト音声も「イヨーッ!」へと変更されている。

◆歌◆カブキ名鑑#14【ポテンテイト】◆舞◆
ぴるす正教会のニンジャぴるす。ジョルリ・ジツによって機械やサイバネを遠隔からハッキングし己の駒として戦わせる。本人のカラテも侮れないが、カラテ中にはジツの精密行使は不可能。

◆歌◆カブキ名鑑#15【パペティア】◆舞◆
ぴるす正教会のニンジャぴるす。クグツ・ジツにより大型機械などを操る。ニンジャ野伏力にも長けており、敵陣や敵基地に忍び込んで兵器を操作して壊滅させる。




K-FILES

!!! WARNING !!!
K-FILESは原作者コメンタリーや設定資料等を含んでいます。
!!! WARNING !!

ピルストロフィ・オブ・カブキエイジの記念すべき第一話。新たにCEOとなった新マツモト・コウシロ/サルファリックはリエンを襲撃したぴるす正教会のニンジャぴるすと相対する。そして秘密裏に動く何者かの影…。


主な登場ニンジャ

ポテンテイト / Potentate:ぴるす正教会のニンジャぴるす。ジョルリ・ニンジャクランのグレーターニンジャソウル憑依ぴるす。様々な機械やサイバネをジョルリ・ジツによって操作し、自身も平均以上のカラテを持つが、双方を同時かつ精密に行うことはできない。そのため基本的にはAIに介入し命令と標的を書き換えるに留まる。パ行ネームの通り彼は自身を支配者と自負しており、自らリエンの襲撃に名乗りを上げた。

パペティア / Puppeteer:ぴるす正教会のニンジャぴるす。ジョルリ・ニンジャクランのグレーターニンジャソウル憑依ぴるす。クグツ・ジツの使い手であり、奇しくもポテンテイトと同クランのソウルかつ同系統のジツを持ち同じぴるすであるという関係から互いのジツの相互シナジーが非常に強い。対象物を精密かつ複数同時に操ることに長けているがカラテは不得手。

カブキヤブ / Kabuki YABU:かつてオムラ社が製造していたロボニンジャ、モーターヤブ。会社の倒産時に何処からか廉価かつ大量に市場に流れた機体の一部をコウライヤが購入し、独自にAIや機体の塗装に手を加えたカスタム品がカブキヤブである。白地に赤のラインが走るその外見は見る者に威圧感と畏れを感じさせる。


リエン

コウライ・コーポレーションが所有する敷地の中、カブキアクターが日常生活やカブキトレーニングを行う区画をリエンの園 / Garden of Rienと呼び、一般人はもちろんごく一部の最上位ニンジャぴるすを除きコウライヤのぴるすであっても立ち入りは許可されていない。リエン内にはキョート然とした風景が広がり、様々な品種のオーガニック梨が多く植えられている。


メモ

新章第一話とも書いたが、このエピソードは正確にはプロローグと本編の間に挟まったプレストーリーとでも言おうか…とにかく次回以降始まる本筋の話よりも早い時間軸に位置する。この話の中ではカブキニスト、元コウシロはコウライヤには所属せず姿を消している。彼はシュウメイ儀式後、そのままコウライヤから暫しの間離れ、己と己のカブキを見つめ直し、鍛え直していた。己のカブキを研ぎ澄ませながら隙あらば襲い掛かる愚かなニンジャぴるすを打ち倒す日々の中、襲撃ぴるすの一人からぴるす正教会の存在を知り独自に調査するのだが…というのがシュウメイから今話までの空白期間に挟まる物語であり、そこからコウライヤに復帰するまでのもう一つの空白期間を越えた後の話が次話以降となる。この2つの空白期間…特に後者については今後新たなストーリーとして書き下ろしたいと思っている。

このエピソードでは早速多少賢く強くなったぴるすの脅威を描いており、今まで惰弱かつ大した被害を出してこなかったニンジャぴるすが明確に死者や被害を出し、危うくコウライヤのカブキアクターニンジャすら追い詰めかけている。今話はまさしくぴるすが侮れなくなっていることを端的に表した象徴とも呼べるエピソードだ。

支配者の名を持つニンジャぴるすが何故他者の支配下に甘んじ、無謀とも呼べる敵本拠地への襲撃を自ら行ったのか。何をきっかけに彼はぴるす正教会に心酔するようになったのか。そういったニンジャぴるす達の背景設定は実はきちんと用意されている。ニンジャぴるす、特に敵のニンジャぴるすは基本的に1話、生き延びても精々2~3話で死んでしまう。そんな中で彼らのキャラを少しでも立たせるためにはそういった背景や理念が重要になってくる。本文中で語らないにしても1本筋の通ったキャラとして描くためには欠かせないんだ。

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