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『ねほりんぱほりん』「こたつ記事」ライター特集をふまえ、大河記事の解析をする

 2021年1月13日に放送された『ねほりんぱほりん』は「こたつ記事」ライター特集!
 いろいろ腑に落ちたので、性懲りも無くまとめていきます。

文体問題

 Web系の記事を見ていると、どうにも薄々と気づくことはあった。
 それはテンプレの存在です。書き出し、あらすじまとめ、最後になんか疑念を呈して、記事一本系。これがまず鉄板。
 文体も何か違和感があった。
 私は最近、日本の作家の小説は読まなくなりましたし、専門書系か、翻訳書ばかり読んでいるのですが。理由は文体にありまして。専門書が「諸説あるから断言できない」とする系の文章はよいのですが。
 それ以外はファジーといいますか。すごく気取っているというか、お高い感じの文体が多い。なんだか受け付けないので、翻訳書を読むとそうじゃないので落ち着くという流れ。
 作家のことは知りません。頭のいい人の考えていることを推察するのは、ハッキリ言って苦手だ。できない。

 ただWeb記事に関しては、『ねほりんぱほりん』で種明かしされましたね。
 ゴシップを広める系の記事は、断言するとクレームがあったりして危険だから「ではないか?」「!?」というような曖昧なかたちでしめると。
「こちらは問題提起しただけ! 判断はあなた任せです!」
 こういうこと。胡散臭いと思ってきた理由もわかるし、ハッキリ言って私は苦手だし(結構編集さんに丸めてもらっている)、読んでいて曖昧模糊なベタベタ感があって、気分が落ち込むのでなるべく読まないようにしています。
 そういうコツとか、テンプレとか、やっぱり共有されているとわかって、積年の疑問が解決できたとは思えます。とはいえ、そういう文体できないんじゃお先真っ暗かとも思う。ルールが変わると思うから、そこまで落ち込んでも仕方ないとは思いますが。

 典型例、見つけてきました。

想定読者層は女性、40代以上か?

◆ いい役者が揃ってよかったね NHK大河『麒麟がくる』、視聴率13.6%に上昇! 吉田鋼太郎の“怪演”に「大河史上一番カッコいい」と絶賛の声

 この記事、この媒体、ライター名記名なし。勉強になるので参考にはしています。この記事は、『孫子』なんかにもあるような基礎中の基礎があって興味深い。

・「いい役者が揃ってよかったね」→
 アンチに目くばせしていますね。オリキャラが邪魔なのに、役者が褒められているから、好評なんでしょ……そういう意地悪なことを言いたい読者に目くばせしています。

・ネットでは→

「その後、織田家の討伐軍により、居城の信貴山城に追い詰められた松永は、『げに何事も一炊の夢』との言葉を残し、居室に火を放った後に自刃。これらシーンについて、ネット上では『吉田鋼太郎の松永久秀、もう最高!』『大河史上一番カッコいい松永だった』『吉田さんの怪演が素晴らしい! 実質、松永久秀の回だった』など、絶賛の声が相次ぎました」(芸能ライター)

 だから、そのネットの声って、どのアカウントのことですか? どれも個人の感想であり、裏付けも理詰めもない、感情由来の話です。それでも「ネットでは」と入れると、成人後にインターネットが新たなメディアとして登場した年齢層(40代以上)には、ポストトゥルースめいた輝きを持って受け入れられると。【ネット=ポストトゥルース】というか、いまだに『電車男』というか。

 けれども、ありがたいことに、このノリから、媒体の想定読者層の年齢もわかります。
 あ、そうそうそもそも芸能ライターって誰やねん! 『ねほりんぱぽりん』でバラされましたよね。こういう誰それの声だの、ネットの声だの。ライター自身の考えを書いているだけだとか、適当に拾っただけだって。

 この手はもう、通じなくなってきてますよ。私は気づいていたけどさ。

・オリキャラ→

「作中には、史実に存在しないオリジナルキャラクター3人が、狂言回し的に登場しています。彼らが要所要所で登場するため、ネット上では放送開始当初から『オリキャラが邪魔』『史実と違うことやってるから、脚本がぐちゃぐちゃ』といった批判が寄せられていました。一方で、役者の演技に対しては、毎回好意的な意見が多く、『麒麟がくる』は出演者たちに支えられているといえるでしょう」(同)

 オリキャラと言いますが、史実にない架空の人物には「時代世話」といった名前もあります。吉川英治『宮本武蔵』のお通のように、歴史ものにそういう人物がいることは特に違和感がないはず。それを「オリキャラ」という言葉で「史実にないからいらないんだ!」と判断する人は、かつてのそういう作品になじみがないのでしょうね。
 それに、「オリキャラが駄目!」なら貂蟬が出てくる『三国志』ものは全部ダメってことになりませんか? 
 こうした記事から、この媒体の想定読者層はわかります。

・年齢層は30代以上。それ以下はそもそもあまり大河を見ていない。
・想定読者層の使用するSNSはTwitterが多い。まずもってTiktokではない。
・意地悪く叩きたい、そういう気持ちを刺激する。
・歴史や文学知識はそこまでない。
・「私はドラマ通! だからうがった深い見方ができる!」という思い入れがある層が多い。
・あんまり海外ドラマを見ているわけでもない。『麒麟がくる』で叩かれる要素は、海外の歴史ドラマでは定番の手法です。

 こういう想定視聴者層を絞り、そこを刺激する記事を書けば、原稿料もいただけるのでしょう。
 チョロい仕事とは思わない。自分には絶対できないことをする人には、とりあえず敬意を払わなくちゃ。書いているほうだって楽だとは思えないし。

大河女優の品定め系

◆ 『麒麟がくる』門脇麦の「駒」が不要と言われてしまう理由 出演女優たちの「明と暗」 〈dot.〉(AERA dot.)
https://news.yahoo.co.jp/articles/1b139812ea14b584146e0ed214d01ca82b0d24ec

 こういうWebの「理由」とか「ワケ」という見出しが大盛況ですね。
 けれども、5W1Hのうち、理由を求めることが一番難しい。「理由」と「ワケ」と言い切る記事を読まないだけで、人生の無駄は節約できます……と思う私はきっと少数派でしょうが。

 この記事は『西郷どん』のヒロインを褒めているあたりで、自分にはあわないのでもう結構です。島妻ををエロ要因に描くという時点で、あのドラマは海外ではもう受け入れられません。黒人奴隷女性と白人農場主の恋愛をロマンチックに描いた、遺伝子解析会社の広告が大炎上しましたよね。西郷隆盛と愛加那の関係性は,そういうものです。それを「少女マンガのような萌え要素」とするあたりで、どうにも見解が一致しないのでもう仕方ありません。
 そういうことをしたら、ただの差別主義者になってしまう。私にも、差別主義者と呼ばれることを恐れる程度には、名を惜しむ気持ちはあります。
 「少女マンガのような萌え要素」か……BLM時代に、ねえ。萌え要素が「若者受けする斬新なもの」という感覚は、2000年代の気分が抜けない世代とそのフォロワー特有のものでして。そういうトロフィー的な女性キャラクターって、2020年代には古いだけです。『進撃の巨人』のミカサにせよ。『鬼滅の刃』のカナヲやしのぶにせよ。花を添えるわけではなく、戦力として有能です。
 『麒麟がくる』は、帰蝶は言うまでもなく有能。駒も換金できる商品を大量生産できるほどに有能。戦力として使える2020年代適応型ヒロインです。
 ただ……「女は無能だ、守られていればいい、内助の功」と言いたい層からすれば、そこが叩かれるといえばその通り。貴重だって「なんでもかんでも指図する生意気な女だ」という叩き記事が出ていましたからね。
 それをいつまでたっても、大河はヒロインの品定めをする場だと誤解していたら、こういう見解になるのでしょう。

 この媒体の大河記事をざっと見ましたが。

「大河通の意見を聞く!」
「女優を品定めする」

 そんな古いボーイズクラブ的なスタンスがあって、正直がっかりしました。他の記事で先進的であっても、エンタメ、こと大河と朝ドラ記事となると古びる。そういう典型例といえばそうですが。
 大河記事となると、「我々偉大なる日本史、大河の目利きが、若者向けの不埒な目線を斬る!」系のものが多いんですよね。

 いいんですか、AERAさんは。せっかく気鋭のジェンダー問題やレイシズムを扱う書き手も揃えているのに。こういうドラマ記事でミソジニーをバラして信用性を落としても構わないんですか? 戦術に統制がなく、ハッキリ申しまして不安です。PVを稼げればよいという時代も、そろそろ終焉でしょうに。

大河通の目は誤魔化せないぞ系

◆「麒麟がくる」で長篠の戦いがスルー クライマックス「本能寺の変」は大丈夫か(デイリー新潮)
https://news.yahoo.co.jp/articles/c7d1bebd65996097e6481b9e2f9fb752b2a9689b

 この記事ですが、まず前提条件としてここが引っかかります。

「長篠の戦いといえば、織田信長(染谷将太)にとってエポックメーキングですからね。史実としては様々な見方があるようですが、大河ファン、時代劇ファンにとっては、史上最強といわれた武田騎馬軍団を、織田・徳川連合軍が鉄砲三段撃ちという最新兵器を使って圧勝する重要な戦いです。旧時代VS.新時代を象徴し、時代が変わるポイントなんです。いくら主人公が明智光秀(長谷川博己)だからといって、これをスルーするとは思いませんでした」

 『麒麟がくる』は、『孫子』というか兵法好きが作っているし、やたらとこだわっているとは思う。ゆえに、こういう古臭い司馬遼太郎ファンが好きそうな合戦像は拒否反応が出ていると推察できるのです。
 三段撃ちはそもそも「最新兵器」ではなく「戦術」ではないか……というツッコミは無粋なのでやめておきますけど(しているけどさ!)。三段撃ちというか、物量差で勝利を収めることは、戦術としては基礎中の基礎なので、最新も何もあったものではありません。信長は物量差をつけておいて勝利を目指すセオリーが盤石です。ついでにいえば「史上最強の武田騎馬軍団」と言われたところで、勝頼の代ともなれば威力が低下していますので……って,めんどくさいこと書いてすみませんでした!

 『麒麟がくる』は、渋すぎるんですよね。
 物量確保、政治体制の整備、同盟の状況。開戦前に勝敗は決まっていると示しているので、合戦は割と飛ばすと。すごく渋い。兵数確認、高低差の意識、射程距離や命中率も踏まえていて、地に足がついていていいなあ……と毎回思っているのです。このドラマの戦国武将は、ちゃんと『孫子』はマスターしている。そうわかるからいい……とは思いますが。

 そういう史実(と、『孫子』)はどうでもいいんです。
 要は、感情を慰撫すること。『孫子』の一節をアリバイ的に叫ぶとか。「流石主人公じゃ!」とえらい人が褒めるとか。軍記小説の創作を入れるとか。そういう方が受けるのだとは思う。
 要するに、こういう記事は、そういう【感情を刺激すること】をすることがよい。新たな知識を得ようとか。新機軸を分析するとか。そういうことは求めていないのだということは、よくわかります。
 
 スルーという言葉にも、前述した40代以降の【ネット=ポストトゥルース】セオリーも生きています。あのですね、情報の価値はボトルのラベルではなく、中身の整合性で判断するものですよ。そういうことを『孫子』も言ってた!

 ロス、ナレ、スルー。もうちょっと古いので、個人的には好きじゃないし、むしろ封印する。けれども、いまだにそれが新しいという空気が蔓延していたら、そりゃキャッチーに使いますよね。

 そしてまた。私が真剣に危惧しているこれです。

「駒さん(門脇麦)や伊呂波太夫(尾野真千子)、そしてナイナイの菊丸(岡村隆史)ら、実在しない人々のシーンが多く、しかも活躍しすぎです。帝(みかど)や将軍にまで会うことができたり、歴史を動かしているのはこの人たちになってしまっているから、視聴者は納得いかないまま話が進んでいく。松永の死後、平蜘蛛が無事に残っていて、光秀の元に持ってきたのが伊呂波太夫ですからね。またかよ、と……」

 何度でも嫌味ったらしく言いますけど。周倉や祝融が出ている『三国志』フィクションは全部ダメですか? 
 こういう「史実で確認できないキャラクターはダメ」という論調は、ひいては日本社会にまで悪影響を及ぼしているんじゃないかと思いますよ。要するに、肩書きがない、えらくない、歴史に名を残せない奴は黙ってろという話じゃないですか。しょうもないし、差別的だし、いつの時代の歴史観なのやら。古すぎます。こういうことを肩書きのある人が大手メディアで流す、その弊害を認識しているのかどうか?

 これは日本特有の病理にもうなっているとは思う。海外の歴史ものでは、駒や菊丸のようなメインキャラクターはむしろ当然のように出てきます。

 それでも日本には日本のやり方がある! はいはい、そうですね、PCR否定論みたいだな……という嫌味はさておき。もう時代はVODです。そういう眠たいことをいつまで言えるのかってこと。ついでに言いますと、韓流や華流のフュージョンものとか。ファンタジックなものとか。そういうドラマに確実に視聴者流出が進んでいますからね。
 いつまでも保守層に迎合していたら先はない。だから『麒麟がくる』は、海外のドラマにある要素を意図的に取り入れていることは感じます。
 ついでにいえば、歴史学以外の最新研究も豊富に取り入れていると。来年は不透明ですが、再来年がガンガンそこを絶対に入れてくると私は確信しているから、目が離せないんですよね。
 ただ、真実よりも迎合とPVが大事ですから。こういう記事は尽きないのでしょう。ドラマはまだしも、Qアノン論調に乗っかった記事もありますからね。

米議事堂乱入を煽ったのはBLMのメンバーと判明か トランプ支持者の抗議活動に紛れ込んでいた左派活動家の存在 | JBpress(Japan Business Press) https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/63672

 こういう記事、ライターも、媒体も、惜しむ名を持っていないのでしょうか。あ、そういえば宇崎ちゃんを無理筋で庇っていたライターさんは今お元気でしょうか。そんなこと気にしてしまいますよね。

 話を大河に戻しまして。『麒麟がくる』の脚本が雑、ということですが。
 私基準で雑だと思うのは、駒や菊丸の存在じゃありません。

・幽霊がプロットをガンガン動かしている……スピリチュアルは危険です!
・なんか政治的な変な臭いがするぞ!
・BLM時代なのに、そういうことを無視するレイシズム描写は恥ずかしいのでやめて頂きたい!

 脚本が粗いドラマはある。けれども、粗すぎてザルになると、視聴率が低迷するから、むしろそこは突っ込まれなくなります。
 脚本の粗探しをする。書いている側、コメントする側、読み手の選民思想を刺激することに終始し、具体的なダメ出しをしない。こういうアンチ記事が多いということは、それだけ完成度が高いということでしょう。

 何度でも言いますが、『麒麟がくる』は戦っている指揮官連中がみんな『孫子』踏まえているから好きですよ! 合戦は始まる前に、ある程度勝敗が決まっているものですから。

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