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小学1年生の勇気

給食の時間にふってわいたような事件。それは、まさに、天国と地獄とは紙一重ということを象徴するかのような事件であった。
事の起こりは、給食の班を自由にしたことから始まった。班を自由にしたのは、インフルエンザの影響で、欠席者が12名と多く、班としての形が整わなくなったためであったが、まさか、このことから、疎外される者が出てこようとは、思ってもみなかった。

疎外されたのは、そうした芽を持つ女の子であった。普段から、一人で行動することが多く、気の強いところが、友達に受け入れられなかったようである。

給食の配膳が終わる頃、世話好きな女の子が、私に、班に入れない子がいると教えに来てくれた。見ると、彼女は教室の真ん中に一人ポツンと立って泣いていた。さっきの女の子が班を回って、彼女を入れてくれるように頼んだが、世話好きな女の子の班も含めて、どこの班も受け入れようとはしなかった。

事態は、ますます悪化の一途。

私は彼女に強い調子で言った。
「どこの班も入れてくれないのなら、廊下で一人で食べなさい!」
彼女は泣きながら、「いやだ!」と言った。
私は、彼女に聞いてみた。
「どうして、班に入れてくれないのか、分かるか?」
彼女は無言。

私は、他の子ども達に聞いてみた。
「どうして彼女を入れてあげないのか?」
子ども達もなかなか強かで、「嫌いだから」とは言わない。あれこれと、もっともらしい理由をあげて、問題の核心には誰も触れようとはしなかった。

そこで、私は、「彼女を好きかどうか」を聞いてみた。やっと、「きらい」という答えが返ってきた。次いで、私は、「彼女は良い子か悪い子か」を聞いてみた。子ども達は中中しぶとい。「ふつう」ときた。このまま問題をぼかすわけにはいかないので、「ふつうかどうかは、聞いていない。良い子か悪い子か、を聞いている。どっちだ!」と強く迫ったら、しぶしぶ、「悪い子だ」と答えた。

「僕も、嫌いな人と一緒に食事を共にしたいとは思わない。だから、君たちを責めることはできない。彼女は、君たちが言うように悪い子かもしれない。でも、一人ぼっちの子に、おまえは悪い子だから、ひとりっきりで食事をしろ、という子はどうだろうか。良い子だろうか。いや、悪い子だ!彼女も君たちも、そして、僕も悪い子だ。でも、僕だったら、嫌いな人であっても、もし、その人が一人ぼっちで一人寂しく食事をすることになれば、招き入れて、共に食事をすることだろう。」


さぁ、ここからが、子ども達の勝負のしどころだ。私は、内心、子ども達がどんな反応を示すか、気が気でなかった。

私は、冷たく彼女に言った。「このクラスは、悪い子の集まりだから仕方がない。一人で配膳をし、廊下でも、ベランダでもいいから、ひとりで好きに食べなさい」と。

彼女は肩を震わせながら、配膳を始めた。その後ろ姿は、何とも哀れで、気の毒であった。今までの私だったら、がまんしきれず、子ども達に罵声を浴びせながら、彼女の配膳を手伝っていただろう。でも、ここが、がまんのしどころだと思って、目の前の地獄絵を沈痛な面持ちで眺めていた。静寂が続いた。

彼女の配膳が半ばに差し掛かった時、その静寂の中を、ひとりの男の子がすくっと立って、彼女に歩み寄り、肩をたたいて、小さな声で、「ぼくのところへおいでよ。」と言った。その男の子は、私が、「廊下へ出て、ひとりで食べなさい!」と言った時に、「そうだ、そうだ、廊下でひとりで食べろよ。」と、快活に言ってのけた男の子であった。

静寂は破られた。

その勇敢な行動をきっかけに、数人の男の子たちが配膳台に集まって来て、彼女の配膳を手伝った。

結局、彼女は、女の子の班に招き入れられ、みんなと食事を共にすることができた。感動の一瞬であった。

「そうだ、こうでなくっちゃ!」・・・

心の中で、私はそう叫んでいた。その後は、もう言葉にならなかった。

(See you)