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伏線

気になっていた帽子を見に行こうと、駅に向かっていると、ティッシュ配りをしている人がいた。
横を通ると「◯◯やってます」とPRしながらチラシの入ったポケットティッシュを差し出された。
いつもなら「ティッシュはいくらあっても困らない」と思い受け取るのだが、今日は、すみませんと会釈を交えて受け取らず通り過ぎた。

暫く歩きながら、やはりこっちから行こうかなと、Uターンし、また同じ場所を通ると、先ほどと同じ人にまたティッシュを差し出された。
同じくすみませんと会釈をし、受け取らなかった。「さっき見た人だね」と思いながら改札に向かった。渡してきた人も同じく、そう思ったに違いない。

気になっていた帽子を買い終え、帰りの電車を待っていると、隣にいる乳母車を引いたお母さんが哺乳瓶を落としてしまい、盛大にミルクが散っていた。その後すぐに到着した電車の扉が開く。慌てた様子で床を拭かれていたので、“確かポケットティッシュを入れてたはず”と、私も急いで鞄の中を探った。
普段、出番の無かったマイティッシュが役立つ時がきたと思った。雑多な鞄の中でマイティッシュを掴む。

見つけた。見つけたはいいが、中身を見てうなだれた。
入っていたのはラスト一枚だったのだ。

ほぼ役には立たないかもしれないが、急いでその方に「どうぞ」と渡した。床に散ったミルク量に対して、一枚しかないティッシュを差し出す時の無力さよ。
電車に乗り込み、「やはり、人生において準備というものは大事だな」と思いを巡らせながら、ポケットティッシュを受け取らなかった事が頭をよぎった。
2度にわたり渡そうとしたポケットティッシュは、この時のためにあったのではないだろうか。
あの時2回とも受け取っていれば、意気揚々に渡せて万時解決できていたかもしれない。

ぶっつけ本番の人生で、あの時の選択の結果がこうなるとは思わないだろう。生きるなかでの「伏線」は、こうして巧妙に張られているのだ。

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