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Side-Bに登場した富豪の息子について(お題箱から)

※この記事は文豪ストレイドッグスの考察です。
※お題箱に頂いたお題への返信です。

■頂いたお題はこちら:

ものあしさんこんにちは。

組合の前組合長に関する考察及び、「太宰治を拾った日 Side-B」に出てくる本の元々の所有者の息子に関してずっと考えていたことがあり、聞いていただきたく思います。

一見関係ないように思える二つの事象ですが、これが誰かということを求めた時筋が通ること気づきました。

まず、組合の前組合長に関して、情報はとても少ないのですが、一つおそらくこうであろうと言えることがあります。
それは
・組合長になれる程度には稼いでいる人である
ということです
それこそ、フィッツジェラルド並に金を湯水のように使える人です。

その次にSide-Bに出てくる本の元々の所有者の息子に関して分かることは
・息子なので男性
・当時17歳(現在27〜29歳)
・孤児(絵と本の所有者は実の親ではない)
・養父は商売人で大稼ぎしていた
・当時既に1000万近く稼いでいた
ということです。

この二つの並べた時、私はある人物が思い浮かび、すぐ調べ、確信しました。

前組合長及びあの息子、ポオ君ではないか?

文豪としてのエドガー・A・ポオは両親を早くに失い、商人の養父に引き取られました。両親は旅役者だったとのことなので、文ストのポオ君の両親も旅役者で横浜で抗争に巻き込まれて亡くなり日本で商人の養父に引き取られたと考えると辻褄が合いますし、昔乱歩さんと推理対決をしたのも同じ日本にいたからと出来た思うと納得します。

オダサクが養父を殺害→2年後に当時17歳の息子と会う、という事実から息子は現在28歳、前後しても27〜29歳。
ポオ君は28歳なので年齢も一致します。

さらにいえばこの息子は17歳の時点で1000万近くを稼いでいる。ということはその技量を持ち合わせれば現在なら物凄く稼いでいるとおもいます。それこそ、組合長になれるくらいでもおかしくないでしょう。
ところでポオ君、2000万を次の日には使ったことも忘れる程度には稼いでるみたいですね。組合では三番目に偉かったとか。

もしかして前組合長って実はポオ君で、組合長に任命されてすぐコミュ障を理由に新組合長をフィッツジェラルドに指名し、メルヴィルさんをリスペストして二番目に彼を据えつつ自由がききやすい三番目にポオ君は収まったのではないですか?

そういえば彼の異能って、ちょっと白紙の本と似ていませんかね?

長文失礼致しました


■はじめに

めちゃくちゃ長い期間、回答をお待たせしてしまい大変申し訳ありませんでした。このお題を頂いたのは昨年の4月…実に9カ月もの間、そのままにしてしまっていました。
回答できずにいた理由…それは「答えがわからない…」という一言に尽きます。ああ無力。

ところで今回の文庫版には修正が入っておりまして、それが奇しくもこちらのお題への回答となっておりました。
劇場特典版では「十七歳」だった富豪の息子くんの年齢が文庫版では「十五歳」になっている。なんて大事な修正…。
そうなると、年齢的な整合性からポオくんであるというのが難しくなってきちゃうのかなと思います。
ギルドの前組合長は誰なのか?など、頂いたお題にはまだまだ気になるところもありますが、太宰を拾った日が発売されたばかりですので、今回は織田と息子くんの関係性の部分に重点を置いて考察させて頂こうと思います。

■織田と息子くん年表

まずは年表から。左側の数字は織田の年齢です。
息子くんの年齢は文庫版に合わせています。

富豪の息子くんは織田の1つ年下。ということは現在26歳になってそうです。26歳といえば、乱歩さんやゴーゴリと同い年ですね。

富豪の息子くんは、13歳の頃に養父を織田に殺されました。
そして殺害事件の2年後、15歳になったときに織田が家に突然本を返却しにやってきたことで、織田に当たり散らかします。同時に父の命の対価と本のレンタル代として絵画を取り戻してこいと織田に要求しました。

織田が絵画を返却しに来たのは、おそらく息子くんが17歳のとき。
だけどその時には絵画を受け取らず、父との約束の年である18歳まで絵画を預かっていてほしいと織田に頼みます。そうして織田はその絵画を自分の部屋で大切に大切に保管する。

織田と息子くん、二人の傷ついた少年の間で交わされる無言の信頼。どこかで心が通い合っているかのような、切なく胸の温まる良いお話。織田の誠実さと、変わろうとしたかった確かな意志が感じられる素敵なお話。

なのですが。
絵画が返却された時期が少し気になりますね。
小説を読んで導き出した私の年表によれば(これがどれほど正しいのかは議論の余地があるにせよ)息子くんはとっくに18歳になっている。それなのに、Side-Bでは息子くんが21歳になるまで絵画は返却されない。
それどころかSide-Aで織田はこんなことを言う。

織田:その絵がそれ以上どこかに移動する事は、少なくとも俺の生きている間はない
太宰:何故?
織田:俺がそう決めたからだ

『太宰を拾った日』Side-A

そして織田は「一度決めた事は、誰に頼まれても変える気はない(Side-B)」という変なところで強情な男。自分のベッドの下に死ぬまで保管する気でいるらしいのです。

織田はなぜ絵画を頑なに返そうとしないのでしょうか。一度は息子くんのもとに持って行ったはずなのに。
絵画を持っている人間は、犯罪組織や捜査機関から追いかけられ続ける運命にあるから、息子くんが持っていては困ることになるだろうという気遣いから、代わりに絵画を保管してあげてるのでしょうか。面倒事を面倒事とわかっていながら引き受けてしまう、自分で自分の首を絞めがちな織田の習性のあらわれでしょうか。

絵画を取り戻して息子くんのもとを訪れたときに、織田は絵画に込められた想いを初めて知ります。息子くんの養父が「お前には5億以上の価値がある」という大きな愛を込めた絵画。
その想いに触れてしまった織田は、要求されれば返そうとした自分の気軽な考えをたちまち捨て去って、どこか深いところで返さないことを決意したのかもしれません。
父の命は自分が奪ってしまったのだから、せめて父の想いだけでも、決して奪われないよう、自分がずっとずっと生涯を通して守ってあげようとした。

あるいは、もしかしたら、絵画を保管している間、織田は「親の愛」というものの存在感を感じとることができて、それがどういう感触のものなのかわずかながら理解できるような気持ちになったのかも。息子くんの姿がどこか自分自身と重なって見えたが故に、その絵画がまるで自分にまで愛情を捧げてくれているような気がしたのかも。孤児を拾って養ってあげることの偉大さと意味の大きさがじわじわと胸の中に沁み込んできたのかも。

だからこそ、Side-Bでは「大切なものを奪われた」と落ち込んだ様子を見せたのかもしれません。奪われたのは絵画ではなく、息子くんと織田がほんのひととき心を交わして共に受け取った「父の愛情」の形をしたなにかだったから。
それが奪われることの痛みを織田が心のどこかで理解していたからこそ、守ってあげることができなかったことがどうしようもなく無念だったというのも想像できますね。自分は再び、息子くんから一番大切なものを奪ってしまった、と。

しかし絵画は奪われたのではなく一時的にマフィアが保管しその後息子くんのもとに返されましたので、結果はオーライ。そのことを織田が知る機会があったかどうかはわかりませんが、太宰は最善を尽くしてくれたと言えます。

■Side-AのダンスとSide-Bの贖罪

太宰を拾った日Side-Aの後半パートの目玉といえば、織田作のダンスでしょうか。これを描くために今回の事件が用意されたのではないかと思えるほどに、注目に値するダンス。
銀幕BEASTで谷口さんのダンスを観たばかりだった当時は、Side-Aに描かれたダンスも谷口さんの姿で脳内再生されました。
織田作がいかに無敵ですごいやつかを存分に味わうために用意されたとっておきの舞台。

一方のSide-Bは織田の過去に迫っていて、織田の素朴な人柄と贖罪の意識とが感じられる。
富豪の殺害は織田の最後の仕事でした。仕事が終わったあと、富豪の家にあった夏目先生の本を持ち帰り、それを読み、さらには夏目先生と出会い、頭の中の色んなものが入れ替わって殺しをやめた織田。

織田と息子くんのやりとりの過程は、織田が息子くんから奪ってしまったものをひとつひとつ返却していく過程でもあったと言えます。はじめに本を、その次に絵画を、そして最後には孤児から父を奪ってしまったことの見返りとして、自らが孤児たちの父となった。
織田が孤児を養おうと思った背景には、富豪の息子くんと絵画の存在があったのではないかなと感じます。

Side-Aに描かれた織田の内心も興味深いものでした。
48に捕まった織田が意識を無くしている間、織田はこんな夢を見ている。

喫茶店。青い雨が、店の硝子につくる水滴模様。上巻と中巻しかない小説。
後悔。壁の血模様。
——この世界に赦しはない。
幼い頃の自分の声。
その通りだ。誰も自分を赦さない。私も自分を赦さない。

『太宰を拾った日』Side-A

後悔。自分を赦さない。
この二つの言葉がとても印象的で、強く迫ってくるように感じます。
しかしこの二つの観念は、黒の時代にはどうやら払拭されているらしい。
黒の時代でも織田は同じように喫茶店のシーンを回想しますが、そこには後悔の文字も赦さないという文字もなく、ただ小説家になる夢だけを握りしめていました。
孤児を養っていくうちに、次第に心の中の荷物を下ろしていけたのかもしれません。

織田自身は「罪滅ぼしのためではない」とよく言いますが、どこかで贖罪の気持ちがあったのではないかなと一読者としてはよく感じます。
そして贖罪の道のりの初めの一歩となったのが、富豪の息子くんとの対等な境遇の中で生まれた共感や絆といったような感覚だったのかもしれないなあと想像しています。

■絵画の謎

Side-Bには絵画にまつわる謎が多く散りばめられていますよね。
絵画はフランスの国際美術館に保管されていた最高傑作でした。言ってみれば、オルセー美術館からミレーの「落穂拾い」が盗み出されて個人宅の地下に保管されているようなもの。
それを盗み出したのは異能強盗団ということですが、この強盗団は一体なにものなのか、とても気になります。

貴重な絵画であるが故に、ユーロポールをはじめとする捜査機関が捜査に絡んでくることを懸念した画商が、48に依頼して強盗団の渡航記録を抹消したり、監視映像を書き換えたりした。そのことがきっかけで48は織田たちの前に現れたんでしたよね。

記録は書き換わっていますし、絵画もSide-Bでは美術館に寄贈されていますので、捜査機関の手からは一旦免れたと判断できますが、もし万が一、異能強盗団の長がアルセーヌルパンたるモーリスルブランだったら?と想像し始めると楽しくなります。
たとえユーロポールには絵画の痕跡が掴めなくなっていたとしても、ルパンと対決しているシャーロックホームズたるコナンドイルなら、私立探偵として絵画の行方を最後まで追ってくるということもあったりして?
欧州の美術館から盗まれた絵画という設定だけで、おもしろい妄想がいくらでも膨らみますね。わっくわっく。絵画が盗まれたときの具体的シチュエーションが欧州勢の登場とともにいつか明かされたらいいなと密かに願っています。

■富豪の謎

もうひとつの気になることと言えば富豪のことでしょうか。富豪はなぜ暗殺の対象となったのか?暗殺を依頼した人間は誰だったのか?
織田の数ある仕事のうちの些細なひとつだったにすぎないのかもしれませんが、織田に依頼をするからにはたぶん普通の人ではなさそうです。

設立秘話によれば、織田ほどの凄腕の殺し屋は報酬が桁違いであり、一般の勤め人が払えるような額では動かない。Vさえもが、頼ろうとするほどの腕前。
そういう殺し屋にお願いできる人はほんの一握りだと考えると、織田に仕事を依頼していたやつらは一体どんなやつらなんだろうと気になってしまいます。

富豪が殺されたのは本編軸から起算して13年前ということになりますが、13年前といえば、記録上で天空カジノが建設された年でもありますので、航空機の輸入で財を築いたという富豪とその件は本当になんにも関係がないのかな?なにかの口封じだったりするのかな?と色々勘ぐりたくなります。

13年前には設立秘話の天使事件もありました。終戦後まもなくの時期で、福沢は少し前まで継戦論者暗殺をしていた。継戦論者の中には、軍閥関係者も含まれているらしい。

富豪の生業は航空機の輸入といいながらももしそれが戦闘機だったりしたら、富豪は自分の利益のためにも戦争を継続してほしいと思っていた可能性もある。
福沢はかつて誰かと組んでいたのか、誰かと一緒に暗殺をしていたのか、そのあたりはまだよくわかりませんが、福沢が暗殺をやめたあとも、福沢と組んでいた誰かは変わらず継戦論者を抹殺したいと思っていたのなら、富豪の暗殺を指示したのはその人だったというのも考えられますよね。

■おわりに

太宰を拾った日については発売日以降、3つの記事に分けて考察を書いてきましたが、考察を書きながら結構たっぷり堪能できたなあと個人的には満足感を感じています。

しかしそれにしても、織田作の考察というのはほんとに至難の技でして。織田作とは「感じる」キャラであって、「考えて説明する」キャラじゃないのかもしれません。織田作自身が「語りえぬ」領域に存在していると感じますので、織田作のことについて語れば語るほど、自分の中にある感覚的なものと紡ぎ出した考察の言葉がどんどん乖離してしまって、何も言わなきゃよかった…と最後には後悔の念に包まれてしまいます。

なにはともあれ、また気づいた点などありましたら、随時記事を書かせて頂きます。

お題主様へ
返信が極めて遅い上に、頂いたお題への回答としてはまったく的外れな内容になってしまい大変申し訳ありませんでした。お題を頂き、ありがとうございました!

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