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【編集後記】文スト民のための太宰治 作品紹介

※この記事は文豪ストレイドッグスの考察です


■解説動画の本編はこちら:https://youtu.be/s9cZfmL_6xA

①畜犬談

おさむが嫌いなもの「犬」。そして満面の笑みで犬に手品を見せつけるというおさむの奇行(単行本6巻)。それらの元ネタと思われる作品です。
太宰治はとにかく犬が嫌い。なぜなら自分に似ているようなところがあるから。獰猛な本性を隠しながら人間に対していつも媚びへつらい愛嬌を振りまくその姿が、自分の嫌いな部分とそっくりで嫌なんですって。太宰治にとって人間と犬は似た者同士なのでしょうね。弱い者同士。
畜犬談のギャグ要素だけを動画に詰め込みましたが、小説の後半は心にしみる見事なお話になっていますので原作もぜひ。

畜犬談(青空文庫)


②如是我聞

志賀直哉から受けた批判が太宰治の自殺の一因になっているのではないか、そう騒がれた原因ともなった如是我聞。「君のような人間の無思慮の批判が命がけでものを書く作家の首括りを助長するのだ」と太宰治は志賀直哉を批判しています。もちろん自殺の理由の真相はわかりません。
太宰治が残した遺書は体を成しておらず泥酔の中で書かれたものだそうです。一説には太宰治は酔った勢いで心中に同意したものの心の底では死ぬ気はなく、相手の女性(スタコラサっちゃん)に無理矢理川に引きずり込まれて死んだとも。あるいは川に入る前に既に絶命していたとも…。とにかく色んな噂があるようです。

太宰治が批判した志賀直哉に対しては色んな文豪が色んなことを言っています。太宰治が敬愛していた芥川龍之介は、太宰治とは対照的に志賀直哉を高く評価しています。
一方で、織田作之助や坂口安吾は太宰治と同じように志賀直哉をディスってます。
織田作之助いわく志賀直哉の小説は「人間の可能性という大きな船を浮かべるにはあまりに小さすぎる河」。
坂口安吾いわく「神や哲学の言葉を弄んでいるだけで自分の位置を安定させること以外関心がないニセ苦悩」。
みんな揃ってひどいですね。
この三人はきっと気が合ったのだろうなということを感じさせてくれます。

如是我聞は色んな人への愚痴や不平不満で満たされた作品なのですが、とても痛快な一面を持っています。太宰治の影にかくれて「そうだ!そうだ!」といい気分になって一緒に攻撃していると、不意に太宰治がくるっとこちらを向いて「お前もな」とブスっと刺してきますので、鬱憤が溜まったときなどに読んでみてはいかがでしょうか。いいカンフル剤になります。

如是我聞(青空文庫)


③人間失格

『人間失格』はひたすら破滅の一途をたどりますよね。人間が怖いから道化を演じる、拒否したら噛みつかれそうで怖いから無抵抗になる、普通の幸せにさえも恐れおののく。幸せで怪我をしてしまうほどの弱虫。その弱虫が一世一代の決意で信頼の天才に望みを託すも、最後はその信頼さえもが破滅の原因になってしまいます。
そんな主人公を癒すもの、あるいは主人公に傷つけられた人たちを癒すものは、時間だけなのかもしれません。
「ただ、一さいは過ぎて行きます。」これが唯一の救いであり、時間による風化以外に主人公たちを癒せるものはないのだろうと感じます。

人間失格と同じようなつくりをしているのがBEASTではないでしょうか。
BEASTに登場する敦も芥川も太宰も、弱さや痛みによって破滅してしまいます。院長への恐怖を克服できずに殺害してしまう、復讐心に憑りつかれて大切な人を見失ってしまう、一人の人間に執着して世界を闇に陥れてしまう。まさに欠点のオンパレード。彼らに弱さを克服する力はなさそうですよね。弱さに振り回され、その結果、無実の人たちを巻き込んで不幸にしてしまいます。
そしてここでもやはり「時は流れゆく。時は流れゆく。時はただ流れゆく。」のです。時の流れだけが登場人物たちの傷ついた心を癒せる。弱さを克服する力を己の中に持たないものは、ただ時による風化を待つしかないのでしょうね。「人間になれるその日まで」芥川も敦もただひたすら風に吹かれながら生きるのだと思います。

ところで、人間失格で一番気になるワードといえば「トラ」ですかね。
葉蔵と友人の堀木が「悲劇名詞」か「喜劇名詞」かを当て合いっこするゲームをしますのが、そのときに悲劇(トラジディ)のことを「トラ」と呼びます。山月記を思い出せば、虎とはまさしく悲劇。
虎になるトラジディ。すごいダジャレ。
文ストってやっぱり「トラ」ですよね?

人間失格(青空文庫)


④グッド・バイ

絶世の美女を引き連れて、愛人のもとを訪ね歩く主人公。愛人たちにグッドバイと言いながら別離を告げていく切ない話...と思いきや、とんでもないコメディなのです。
キザなことを言いながらコメディを演じる。まさにムルソーの太宰さんと中也ですよね。
五衰事件の最中にはなぜだかそのことが信じられず、ひたすらに悲劇だと思い込んでしまっておりましたが、種明かしされてみたらやっぱり笑劇なのでした。
妻のふりをする怪力女。吸血種のふりをする怪力男。太宰さんの考えることってほんとどうしようもないわねって半ば呆れのようなものを感じつつも、笑劇を悲劇だと思い込んでしまっていたことを恥ずかしく悔しく思ってしまうのでした。
グッドバイですっかり騙されてしまった愛人たちも、真実を知ったときにきっと同じような悔しさを噛み締めるのでしょうね。よくも騙したなクソ野郎。

グッドバイは未完ですが、ある程度の構想はできていたらしく、本当は最後に主人公の田島が妻からグッドバイされるという展開の予定だったらしいのです。ギャフンと言う田島、いやギャフンと言う太宰さんは永遠に描かれない幻なのでしょうね。

グッド・バイ(青空文庫)
「グッド・バイ」作者の言葉


⑤道化の華

トランプで繋がる完璧な友情。
『太宰を拾った日 Side-A』と『道化の華』はふたつで1セットだと思っています。Side-Aに浸ったのちに浸りたりなければ、ぜひ『道化の華』を読んでみることをおすすめします。個人的には太宰治作品の中で最も好きな小説です。そして至る所に「太宰さんみ」を強く感じる作品でもあります。
漁船で引き上げられる自殺未遂患者、顔のガーゼ、道化、芝居、自殺の理由、トランプ、友情。太宰さんがいっぱい詰まっています。

冒頭にある一文「ここを過ぎて悲しみの市」は『神曲』に出てくる地獄の門に書かれている言葉ですが、私にはどうしてもこの小説は天国で書かれたもののように思えて仕方がありません。とにかく美しさで満たされた至高の小説。だけどメタ小説という斬新さも持ち併せている。澄んでいた頃の太宰治とでも言うべきか。

道化の華では自殺の原因をなにもかもと言っていますが、もっとご興味ある方はwikipediaに太宰治と自殺という長文の項目(もはや特集記事)がありますので良ければ色々と分析してみてください。

道化の華(青空文庫)


最後に

本当に困りますね、太宰治先生は。
今回も翻訳のためにChatGPTくんに作品の内容を放り込んだり、解説動画の内容を放り込んだりしたのですが、その度に怒られるんです。
お前は俺たちのコンテンツポリシーに反していると...。暴力的なことが書かれていて迷惑行為だからやめろと...。
自殺のことばっかり書いてあるのが良くないみたいですね。AIにも太宰治は公序良俗に反するということがわかるようです。
一応怒られるたびに、これは文学だ人間理解のために欠かせない活動なんだと反論を送りつけるのですが、それでも毎度怒られます。
このままChatGPTくんに目をつけられてアカウント停止になったらどうしようかしら。困るなあ困るなあ。


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