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最近読んだアレやコレ(2021.09.04)

 体温計をなくしてしまい、ネットで新品を取り寄せるなどのイベントがありまして。しかし、元々なくしてしまった方が部屋の隅に転がっているのを見つけてしまいました。以降、両脇に体温計を挟むことで体の左右の体温を比較することが可能になった私です。右半身だけをクーラーに当てるなどして極度に冷やすと左右の体温に差異が出るのか、今度試してみようと思うんですけどどうでしょう。私は果たして恒温動物としてのアイデンティティを保つことができるのか。あと、体温計を両脇に挟むと、見た目がめちゃくちゃアホみたいでおもしろいですね。完全にどうかしてしまった人になる。片側だけで扱うものを、両側で扱っているとアホみたいに見えるという発見。頭の悪い食いしん坊キャラが両手にスプーンとフォークを持ってウキウキしてる描写も、その原理なんでしょうか。

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芙路魅/積木鏡介

 前もどこかのnoteで書いた記憶があるのですが、天才だと思う日本の小説家は4人いて、筒井康隆と宮部みゆきといしいしんじ、そして積木鏡介です。あくまで「天才」というカテゴリに属するだけで、「好き」や「おもしろい」とは別軸なのですが……やはり、好きだし、おもしろいですね、積木作品。3人の幼児の臓腑が撒かれてから19年、高校生、看護師とランダムに被害者を変えて発生する連続惨死事件と、その傍らに立つ謎の少女・芙路魅の正体は? 講談社ノベルスの『密室本』企画(懐かしい!!!)の1作であり、130ページ程度の軽い作品でありながら、行間から漂う瘴気と、仕掛け絵本のように次々と花開いてゆくおぞましきは、まさに積木小説の十八番。肉体的な残酷描写を描きこみながらも、苦痛からはどこか遠く離れ、ひたすらに朦朧とさせられるこの読書体験は、まさに悪夢と言えるでしょう。ミステリの形式をとり、ホラーの演出を仕掛けつつも、最早ジャンルはここにはなく、その異形性だけが小説の形をとってそこに置かれている。最後に明かされる密室を開く鍵は、決してトリックでもなければ、解決編でもないように思います。強烈。おもしろかった。


ほしとんで(3~5巻)/本田

 ウワーッ!読みだめてる内に完結しちまった!ということで、3巻からまとめ読み。俳句ゼミに属する真面目な大学生たちを描いた漫画。1~2巻の感想でも書きましたけど、登場人物が皆、真面目に授業に取り組み、勉強しているのが大好きです。大学生ものは、サークルや生活が題材になることが多いですけれど、やっぱり勉強している姿が一番魅力的に感じます。それにしても、作中で登場人物たちが読む俳句が本当に素晴らしい。個々のキャラの記号的な特性、具体的なエピソードを俳句として落とすのではなく、その人間から絞りでたエキスを言葉として結晶化させたような……非常に「芯をとらえた」五・七・五が、ガンガン出てくるのには圧倒されます。ゆえに、連句編、登場人物総出演で句を繋げてゆく最終巻の展開は、本作のフィナーレとして相応しいものであり、そして、それを成立させるにあたっての作者の恐ろしいほどの手間暇にはただ拍手を送るほかありません。視点の数だけどの平行世界が、連句を綴ることで1つにまとまるという無茶苦茶にリッチな漫画体験でした。登場句で一番好きなのは隼さんの「づかづかと仏殿に入る山の蟻」ですね。隼さん、あざといキャラでよかったな~。


四元館の殺人/早坂吝

 主人公のスマホにインストールされた人工知能が探偵役を務める、探偵AIシリーズ第3弾。新規性に対して挑戦的でありながらも、同作者の他作品と比べるとライトカロリー……という印象を本シリーズには勝手に抱いていたのですが……やったなぁ!おまえよぉ!やってくれたなぁ!! 早坂吝という作家が持つ致死性の「毒」、目ぇガン開きにしながらギラッギラッのクソ真面目さででとんでもない悪ふざけをするというその心意気、しかとあっしが受け止めさせていただきやした。……しかし、館もの×AIテーマの落とし込みとして、酔った勢いで「この真相」を思いつくならまだわかる。ただそれを、正気に返ることなく、がっちり練り込んで本当に長編ミステリに仕上げてしまうのは一体なんなのか。作者独特の軽薄さは館の外壁を上滑りしているようでいて、実はただならぬたくらみを、読者に対する殺意を、その館に込めている。驚きの真相を通り越して、最早、呆れるしかない大ボラ。解決編で、思わず手を叩いて笑ってしまった。笑うたら負けよ。めちゃくちゃおもしろかったです。ボンクラ小説が好きな人は是非読んで欲しい。


忌名の如き贄るもの/三津田信三

 不幸を押しつける先として、本名とは別の「忌名」をつける。虫くびり村に伝わるその儀礼の中で、その年、思わぬ人死にが出た。原因は儀礼の失敗か殺人か。儀式の裏に隠された秘密とは? 本作の白眉はやはり、最終章で明かされる「村の秘密」に尽きるでしょう。たった1言で済む真相であり、しかも読み返せば余りにも明白……なのに読者には予想ができないという、推理小説の理想を体現したギミックでした。しかも、それが解き明かされることで、本作が隠していた本当の「怖さ」がいきなり輪郭を明瞭にする瞬間たるや……。主題である「ホラーとミステリの融合」の100点満点の有言実行であり、脱帽するほかありません。あと、死人の目線で儀式の思考を語るという開幕がとにかく強い。ずるい。結構な大長編なのに、先が気になって1日で読んでしまった。刀城言耶シリーズは序盤中盤はローペースなことが多いのですが……今回は、頭から尻まで攻撃力が高く、いつもよりエンタメ志向だった気がします。あと主人公の友人のオカンが何故かヒロインを差し置いてパーティ入りしてるのも、意味がわかんなくておもしろかったですね。なんでオカンが現場に着いてくるんだ。シリーズの中でもトップクラスに好きな1作です。強くおすすめ。