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【映画】文脈の理解がないまま総決算を観る実験

 以下は、文脈の理解がないまま総決算を観る実験です。つまりは仮面ライダー本編を一切観たことがないまま「劇場版 仮面ライダージオウ Over Quartzer」を観るとどういう感想を抱くのかという人体実験です。とかく特撮にうとい人生でした。観たことがあるのは、レンタルビデオ店のウルトラマンの怪獣図鑑みたいな怪獣の登場シーンを集めた総集編ビデオくらいで、戦隊ものもライダーも本編を観たことは一度もありませんでした。仮面ライダーの知識としては、石森章太郎が原作だということと、バッタの改造人間でバイクに乗ってキックをするということくらい。敵がイーッと言うショッカーとかいう黒タイツの連中であるということ。あとは「アオイホノオ」と「東島丹三郎は仮面ライダーになりたい」を読んでいるということ。私の体内には、ライダーを楽しむ文脈どころか、「ヒーローもの」を楽しむ文脈すら根付いておりません。

 じゃあ、なんで観ようと思ったの?一時期TLを賑やかしており、「出来がよい」と友人も太鼓判を押していたからです。脚本が下山健人だというのも理由です。私はカブトボーグの大ファンなんで、カブトボーグの脚本家は無条件に信用してしまう習性があります。あとはやはり「ほぼ仮面ライダーを知らない人間が平成仮面ライダーの総決算を楽しめるのか?」という興味です。それでは、解説役の仮面ライダー有識者(友人)とビデオを電子上で用意し、再生ボタンに指を合わせ……。

【再生】

・60分という短い再生時間にビビる。

・謎の古墳で炎が吹き上がり新時代を祝っているが、祝い方がめちゃくちゃ原始的で首をひねる。

・髪の長い奴が、髪が長いのできっと悪い奴だなとあたりをつける。

・平成ライダーってなんだよ、明治ライダーとか大正ライダーとかもいるのか?と思ったが、発表時期区分的にファンがそういう呼称で読んでいたことを浅いネット知識からぼんやりと思い出す。ファンが呼ぶ時代区分について作中で言及していいのか?すげえメタだな……。

・唐突に胡散臭いオッサンが出てきて話をけん引する。テンポが凄い。

・シジマゴウくんは本作のゲストキャラでクリムちゃんというヒロインを助けようとしているんだなという理解。

・クリムちゃんはヒロインではなく、さっきの胡散臭いオッサンだった。

・ものすごい勢いで沸いて出てくる登場人物とあらゆる過程を省いて始まるバトルに脳みそがパンクし始める。後に観返して気づいたが、クリムもちゃんと最初に名乗っていた。

・ゴウくんの変身姿、ピザの配達員みたいですね……。

・私「たくさんライダー出てくるけど全員悪の組織に改造された昆虫人間なの?」友人「『ヒーローの力と敵の力の源流が同じ』というコンセプトだけを引きついでる感じ」私「なるほどなあ」

・顔面に「ライダー」とか、文字を現実化するデザインめちゃくちゃトンチキなんだけど、作品テーマと思しき「時間」と絡めて何らかの形で結実されるんだろうなと当たりをつける。

・髪の長い奴が、思いのほか主人公たちと仲良さそうだった。

・友人がやたらと「こいつはウォズ」と連呼するので髪の長い奴とシジマゴウだけ名前を覚えることができる。

・「こいつはウォズ」ってファンの間の内輪ネタとかなんですかね……?

・忍者の口が軽い。

・いかにもキッズ映画って感じのフランク忍者と織田信長のシーンがややキツい。ものすごく簡単に信長に謁見できる雑さにもビビる。

・ウォズくん、キザだけど作品世界からなめられているというカワイイ系のアレなので、たぶん、本編でめっちゃ熱い活躍したんだろうなという当たりを付ける。友人は特に何も教えてくれなかったので未だにこれの真偽はわからない。

・ライダー、変身時の起動音声がクソうるさい。

・バックノズルとジェイルオルタナティブだ。

・「現実」と「虚構」の話をし始めたので、ワクワクし始める。私は特撮ものには疎いが、そういうテーマを扱った推理小説が好きで、そういう推理小説ばかりを読んできた。

・平成ライダーってみんなこの変な腕時計つけてたんですか?

・唐突にラスボスが湧いて、爆笑する。

・織田信長の影武者の話自体が、この展開への綺麗な前ふりになっていることを理解して、脚本うめぇ~ってなる。

・他の平成ライダーから腕時計を集めたのが、TV本編での出来事なのか、映画の出来事だけどテンポのためにカットされているのかわからず混乱する。

・友人「本編で一年弱かけて集めたよ」

・えっじゃあ、シジマゴウは本編からハブられた上に、この短い尺であんまり活躍もしないままお話を済まされたの……?かわいそう……。

・平成生まれを吸い上げる装置、むちゃくちゃだけど、ラスボスの目的が平成ライダー全体のシナリオの書き直しということを踏まえると、平成ライダーの平均視聴者やその生まれた土壌自体も吸い上げる(読み取る)必要があるということで、大変筋が通っていて、なるほどなあとなる。「平成ライダーの力を集める」=「平成ライダーを平成ライダーとして成り立たせる外部環境と外部観測者を収集する」ということですね。

・唐突に出てきて主人公を鼓舞したオッサンがマニアックなファンサービスなんだと友人が語ってくれたが、よくわからない。

・真ジオウさん、現実と虚構の区別のついてない人である。現実の出来事の連なりを、美しいとか醜いとかいう尺度で語るんじゃありません。

・真ジオウさん、BLEACHにめっちゃいちゃもんつけて、成田良悟のノベライズを褒めたたえてそう。

・真ジオウさん、「『お前たち』の平成は醜い」という台詞からして、自分の人生はもう物語として作り換えてしまったんだな。完全に夢の中で生きる人なんだな。悲しいけど熱いラスボスで結構好きよ。

・ジオウくんの奮起、いいシーン。この映画は平成ライダーの総決算ではあるけれど、あくまで己は「平成ライダーの総決算」を描く道具ではなく、一人の個人であり、他のヒーローと並列にならぶ一主人公に過ぎないという宣言ですね。平成ライダーを俯瞰し再編集を試みるラスボスの敵としてあまりにも相応しい立ち位置。

・たくさんライダーがわちゃわちゃ出てくる。ファンは激熱なんだと思うけど、さすがに特に何も思わない。でもどいつもこいつもデザインがパンチ効いてるし、クソやかましいので賑やかで楽しい。

・「歴史(お話)として正しい織田信長」を演じさせられたゲイツくんが、「お話として正しくないジオウ」であるジオウくんこそが自分たちの王だって言うのは、いいシーンですねえ。ゲイツくんは信長じゃないよという話である。

・前半の織田信長と影武者のパートでテーマを一度完結させ、それを「平成仮面ライダーの総決算」に落とし込むことで、視聴者にわかりやすくその内容を呑み込ませる脚本がクソ巧み。凄い。やたら雑だった信長とのあれこれすら、「平成ライダーのお話は凸凹で歪だった」というキーをはめ込むための前ふりだったのね。

・長篠の戦いも史実通りの現実とは異なる虚構として固定化してしまっている以上(ライダー絵巻はあるけど)、結局のところ平成ライダーたちの凸凹もやがてはそうやってお話として美しく均されてしまう。しかし、それは現実を材料に、その上っ面にゆっくり時間をかけて形成されるべきもので、望まずともどうしようもなく形成されてしまうべきもので、現実自体をお話の美醜を基準に合わせて組み替えてしまうのは本末転倒だということなのか。

・「時代/現実」を「平成」という、言語化され要約され美しく均された「名前/お話」にまとめあげるのは、その時代の中で実際に行われた歩みとその延長線上にある未来の歩みの副産物であるべきであり、つまり、顔に「ライダー」とか書いてある言語化デザインは、まさに実際にこの時代の最後の瞬間を歩いているジオウくんこそが、言語化・虚構化の過程の最後の一要素(ライダーを「ライダー」という名前/お話に決定する最後のトリガー)となることを示しているわけですね。

・「平成」という名前に合わせて現実を意図的にまとめるのではなく、現実が自然と「平成」という名前を書き上げるべきであると。つまり、ライダーたちのキックが偶発的に「平成」の字を書いてしまうべきなんだと。

【停止】


 ……以上が、一切の文脈の理解がないまま、平成ライダーの総決算を見るとどういう感想を抱くのかという実験の過程であり、これを結論としてまとめるならば(この映画に対して「まとめる」「感想文を書く」って行為自体が凄い皮肉になるのめっちゃいいですね)、「文脈的な熱さには全く乗れないが、総決算を成立させるための脚本の巧みさに感動する」でした。「うおおおおおお!!!」じゃなくて「はぁ~、すごいよくできてるなあ」って感じ。つまり、その作品自体がよくできているなら、最終回だけつまみ食いしても充分楽しむことはできるということですね。そういえば、事前にトンチキな映画だって聞いてたんですけど、そういった要素の多くが意図が極めて明確で、納得が勝ったので、あんまりそうは思いませんでした。強いて言うなら、炎を噴く謎の古墳とナチュラルに現代に残留した忍者がヤバかった。