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【2018忍殺再読】「エグゼクティブ・スプレンダー」

短期集中表紙連載 ヨロシ・サトルのCEOバンザイ

 ヨロシサンCEO・サブジュゲイター、日々を満喫するの巻。本編で邪悪な活躍を果たしたキャラクターが、その邪悪さを変じないままにコミカルで憎めない活躍をするショートエピソード……これは実質ONE PIECEの短期集中表紙連載と言ってもいいのでは? サブ公の妄想そのまんまみたいな「いかにも」感あふれるCEO生活は、ほんやくチームの与太話アナウンス時空に片足を突っ込んでおり、実際、エピソード序盤、朝のスケジュール確認のシークエンスで、ナインさんが「本日は9:00からウィルキンソン氏とのニンジャスレイヤープラスCMの撮影です」とか言ってそのままプラスの宣伝に移っても違和感ないと思います。「CEO」の戯画化っぷりが「タフな海の男」とかそういうアレと同じなんですね。

 それにしても楽しいエピソードですよね。主人公のサブ公が終始ウキウキしているのに引っ張られ、エピソード自体が浮かれ調子でふわふわしている。ニンジャスレイヤーの登場人物って、目的を果たしても、暴走して破滅したり燃え尽きてむなしくなったり虚無の暗黒にのまれたり意地悪なボンモーに夏枯れの時代を切り抜かれたりいきなり湧いて出た狂人に殺されたり大体ひどいアレになっているので、夢を見事叶えて毎日幸せいっぱいに充実した生活を送っているサブ公は貴重だと思います。あまりに貴重すぎて、初読時にはヨロシサンに捕獲保存されたサブ公が培養液の中で観てる夢かと思いましたもん。夢オチバージョンが読みたい人は『美女と竹林』を読めばいいと思います。どっちもバンブーが出てくるし……。

善人の真似をしたら実際善人

 サブ公がニンジャ特有の邪悪さや他者共感能力の低さを失わないままに、「合理的な判断」から優良企業のCEOの如く振舞っているのがとっても好きなんですよね。勿論、表出している部分だけ見てもヨロシサン・インターナショナルは到底優良とも善良とも言えないわけですが……ですが、暗黒一辺倒というわけでもなく、自分たちの利益のために真面目に優良善良っている部分があるのも確か。ヨロシサンはトリロジー時代にも「無償の善意とは、時としてもっとも経済的」とか言ってましたし、現在の姿はその欺瞞の延長線上にある考えるとすんなり飲み込めます。「狂人の真似をしたら実際狂人」とミヤモト・マサシは言いました。それならば「善人の真似をしたら実際善人」なのかもしれません。サブ公は善人!かっこいいぜ!

 自我があるかのように振舞う人形の精度が上がり、自我の有無が外から判別できなくなったとき、それはもう自我があると言ってよく、そうなれば、小説上での視点の「混ざり」を通じて人形視点でも自覚が芽生える(ように記述できてしまう)。人を模した製品が「独りで歩ける」(ウォーカロン)ようになったように、人の形をとって人の真似をしたリルルがのび太と友達になったように、名医を真似したカブセは名医になり、シゲオの狂気には筋が通り、ユンコはカワイイがゆえにユンコである。このようにトリロジー時代では中身と外身の混合が幾度となく語られてきました。

 では、AOMではどうでしょう? ただの印象ではありますが、AOMでは中身と行動が断絶している……混合することなく異なる二つが一人の人間として並立しうる様が多く描かれているように感じます。それはたとえばシンウィンターの正心の、しかし理由なき「家族は大事」であったり、スキルツリー拡張過程と無関係に出力されるサツガイ付与ジツであったり、ただの暴力単純バカの大暴れが救いのヒーローのように活躍してしまうことだったりします。また、外内混合から外内断絶への変化において、トリロジー側から橋渡しを行ったのが鷲の翼編~ネヴァーダイズにおけるフジキド/ニンジャスレイヤーの物語であり、AOM側から橋渡しを行ったのが新・サイバーパンクの少女こと「映画の真似をする」アンドロイド・コトブキなのかなあと思ったり。

 邪悪なニンジャであるサブジュゲイターが、邪悪なままに善良な経営を行っているということ。未だエピソードになっていないその断絶の先に来るものは、果たして彼を通じて描かれるのか。それともそんな面倒ごとは他のニンジャのやるべきことで、偉大なCEOは今後も幸せCEOライフをエンジョイし続けるのか。サブ公の未来からは目が離せないことですね。

■note版で再読
■11月8日