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完璧なディストピアの作り方

 地上を舐め尽す警報音に追われ、僕は廃棄場の底にいた。

 〈オルダ〉の多脚刺肢に貫かれ、イトーは満足げに笑って逝った。漂白と脱臭を塗り重ねた今の地上でそれは貴重な感情だった。

「人間性が大切なんだ」

 彼の言葉を思い出す。 

 ネオサイタマに夢中になってニュースピークに憧れた大学時代。僕とイトーが冗談半分で立ち上げた「焚書愛好会」の活動は、SNSで拡散されあっと言う間に広まった。RPの参加者は増え、やがて地球人口と等しくなった。スーパーで買った卵からひよこが孵り、鶏に育つような奇跡。だが満足にはまだ早い。地上451階から見下ろす光景は僕たちの愛する作品そのもので、しかし大切なものに欠いていた。

「人間性が大切なんだ」

 イトーはそう言った。全員が諦めたならそれはユートピアでしかない。踏み潰される人間性があってこそ、この遊園地は完成するのだと。

「レジスタンスを立ち上げよう。このディストピアを完璧なものにするために」

【続く】