【第7章】奈落の底、掃溜の山 (21/23)【忠犬】
【解錠】←
「……ひょこっ?」
「ん。目を覚ましたか?」
左腕一本で、難儀そうにシャワーを浴びていたアサイラが、気配を感じて、背後を振り返る。
バスルームのピンク色の壁に寄りかかるように失神していたシルヴィアが、まぶたを開く。ぷるぷる、と小刻みに狼の耳を震わせる。
「ああ、水がかかっちまったか。悪いな、狭い浴室で」
「いちおう、浴室プレイも想定している造りなのだわ」
湯のなかに身を浸した『淫魔』が、バスタブの縁であごをついている。
「これで、あなたは自由なのだわ。なにをしてもいいし、どこに行ってもいい」
シルヴィアに対して、なにかを補足するように『淫魔』は言う。
アサイラはシャワーを止めて、シルヴィアのほうに身を向ける。さすがに、股間の怒張は鎮まっている。
獣人娘は、しばし沈思黙考の素振りを見せる。やがて、全裸のアサイラを見上げる。
「なら……そちらのことを、マスター、って呼んでも?」
「……はあッ!?」
完全に予想外の返答に、アサイラは素っ頓狂な声をあげる。シルヴィアは、自身の豊満な肉体を抱きしめながら、小刻みに震える。
少女退行が抜けていないのか、あるいはこれが、獣人娘の本来の気質なのか。
「ここにいたい……いさせてください。帰りたくない」
シルヴィアは、おびえるように言葉を紡ぐ。
「……任務に成功しても、失敗しても、叩かれるの。痛いのは……いや」
狼耳の娘は、なかば顔面蒼白となり、いまにも泣き出しそうな瞳で、すがるようにアサイラを見つめてくる。
アサイラは困惑し、左腕で後頭部をかく。
シルヴィアは、セフィロト社のスーパーエージェント──上級幹部のはずだ。だというのに、どんな待遇を受けていたのか。
「それじゃあ、私も手伝うから、アサイラから良い返事がもらえるように、二人でご奉仕するのだわ」
「うん!」
いやらしい笑みを浮かべながら、浴槽から身を引き上げる『淫魔』に対して、シルヴィアは純真爛漫な表情でうなずき返す。
→【手懸】
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