190630パラダイムシフターnote用ヘッダ第07章18節

【第7章】奈落の底、掃溜の山 (18/23)【離別】

【目次】

【合流】

「ちょうど、こいつを倒したところだ。推定、セフィロトエージェント」

「それは僥倖だわ。うら若い乙女に暴行するのは、感心しないけど」

「死にものぐるいでやって、このザマだ。そうでなければ、こっちが死んでいたか」

「……ふうん」

『淫魔』はすました表情で、ガレキ野原を見やる。

「そういうおまえこそ、よくここまで来れたな」

「苦労したの。感謝するのだわ」

「互いの手間賃で相殺して、チャラだ」

「グリン」

 突然『淫魔』は、両手で自分の長髪をかきむしる。

「あー、だめだわ! 全身がぴりぴりする……お肌が荒れちゃうのだわ!!」

「そろそろ、潮時か」

「勇者サマ……いっちまうだら?」

 ワッカのどこか無感情な声に答えぬまま、アサイラは錆びた金属片の地面のうえに立ち上がる。

 アサイラは、ぐったりと脱力した獣耳のエージェントを抱え起こす。女の全身を覆う漆黒のコンバットスーツを、無理矢理、はぎ取っていく。

 複合素材の装甲の断片を、一つ一つワッカのほうに放り投げていく。

 あとにはレオタードタイプのインナーウェアを身につけた獣耳の女の肢体があらわになる。腰元には、耳と同様に犬か狼のような立派なしっぽが生えている。

 女エージェントの首もとには、チェーンのついた金色のプレートがかかっていた。アサイラは、それを手に取る。獣耳の女性は、わずかに身じろぎする。

「いままで奪ってきた『社員証』と、色が違うか?」

「これ、スーパーエージェントの社員証だわ! アサイラ。あなた、ほんとうによく生きていたわね……」

 アサイラは、びっしりと文字が刻印された金色のプレートを懐に納める。ワッカのほうを見れば、防護服ごしでも戸惑いの気配を感じられた。

「ワッカ。こいつの装備品は、おまえが持って帰れ。悪くない収穫物だろ?」

「……勇者サマ」

「助けてもらって、急に立ち去って、すまないな。勇者と一緒に悪魔を退治して、お宝を奪い取った、ってみんなに伝えるといい」

「みんなには、勇者サマから言ってくれ! それに、女神サマのことだって、紹介したいだら……」

「これ以上、長居すると分かれづらくなってしまいそうだからな」

 ワッカを見おろすアサイラの背後では、『淫魔』が『扉』の構築に取りかかっている。普段よりも、集中を要している様子だった。

「アサイラ! その娘は、連れて帰って尋問するのだわ」

「この次元世界<パラダイム>からの脱出は、できるのか?」

「できる。少し荒れると思うけど」

『淫魔』の返答を受けて、アサイラは左腕一本で獣耳の女性を担ぎ上げる。

「それじゃあな、ワッカ。いろいろとありがとう。みんなにもよろしく伝えてくれ」

「あ、あァ……」

 ワッカは、言葉に詰まり、嗚咽をこぼす。アサイラは、気持ちを振り切るように発掘者<スカベンジャー>へ背を向ける。

 アサイラの眼前には、ノイズまみれの『扉』が具現化していた。

「通るなら、早く。維持するのも、けっこう大変なのだわ」

『淫魔』が、開いた『扉』の向こう側の空間から顔を出す。額には、わずかに汗がにじんでいる。アサイラは、『扉』のなかに足を踏み入れる。

「勇者サマぁ──ッ!!!」

 閉じる『扉』の隙間から、ワッカの叫び声が聞こえてきた。

【傷痕】

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