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調布飛行場連中 その9

ロードスポーツの爆弾
 「ロードボンバー騒動」は衝撃的だった。三栄書房から出版された「モトライダー」という創刊間もないバイク誌に、突如『ロードスポーツの爆弾! YAMAHA XT-S 500』として発売告知されたのが「ロードボンバー」だ。ご丁寧な事に綴じ込み附録のポスターまで付いていた。
 バイクファンから熱望されていたXT500のオンロードバージョンが遂に出た、僕はビックリ仰天かつ狂喜した。早速、当時バイクを買っていた通称「ウェスタン(仮名:あくまで調布飛行場連中内での通称)」というバイク店に行き、詳細を聞かせてもらう事にした。
 ところが店に行って、またまたビックリする事になった。店主は「そんな話は全く知らない」「ヤマハからは何も聞いていない」と言って、まるで信用してくれず全くお話にならない。
 僕がホラを吹いているように思われるのもシャクだ。そこで僕は近くの本屋まで行って「モトライダー」を買って来て、これでどうだ!という感じで店主に見せた(ちなみに雑誌の代金は店主が出してくれた)。半信半疑で僕の差し出した「モトライダー」誌を見ていた店主は「ロードボンバー」の記事を読み進むに連れて、次第に興奮して来たように見えた。
 「これは売れる」と呟き、綴じ込み附録のポスターを、そこら辺にあった恐らく金切り用のハサミで適当に切り取り、マジックインキで「ロードスポーツXT−S 500 新発売(だったかな?よく覚えていない)」とあまりキレイとは言えない字で大きく書き殴り、セロテープで店の壁にこれまた無造作に貼り付けた。そして、来店した他のお客さんにも「ほら、XTのロードバージョンが出たよ!」と盛んにアピールしていた(ヤマハから何も聞いてないんじゃなかったの?)。

正体はエイプリルフール企画
 その後、この騒動は出版社のエイプリルフール企画だった事が判明する。しかしあまりに反響が大きくなり過ぎ、次号かその後の号で誌面に謝罪記事が掲載され、編集長が引責辞任する事態になった(といってもその時の編集長は出版社の社長が兼務していたので、出版社を退職までした訳ではない)。
 ロードボンバーの正体は、もちろんメーカー製(ヤマハ製)市販車では無く、エンジンこそXT500のモノを載せていたが、フレーム・スイングアーム・タンク・シート・マフラーはワンオフのオリジナルで、他は様々な車種の純正パーツ等の流用だった。その完成度の高さや、シングルでもマルチに対抗し得るという制作コンセプトの正しさは、前述の鈴鹿6時間耐久レースでの活躍で、見事に証明される事になった。
 しかし僕はあまりにも残念すぎて、詳しい事情を聞くために出版社に電話してしまった。出版社の対応は非常に丁寧だった。恐らく多数の読者から、問い合わせや抗議の電話が殺到していたのだろう。正確な製作費までは教えてくれなかったが、XT500の価格の何倍も掛かったそうだ。
 このロードボンバーについては、バイクエンジニアの島英彦氏が著した「オートバイの科学」という本に製作の経緯が詳しく書かれている。大変面白いので一読する事をお薦めする。
 ロードボンバー騒動の真相が判明するまでの間、「ウェスタン」には複数の購入予約が入っていたそうだ。もちろんその中の一名が、恥ずかしながら僕である事は言うまでもない。
 結局は架空の新車騒動だったが、数多(あまた)のライダーを落胆させた罪作りな企画を仕掛けた出版社に対し、ヤマハから苦情が来る事はなかったそうだ。これがもしホンダ相手だったら、損害賠償裁判とか起こされそうだ。
 ホンダは過去にスズキの原付「スーパーフリー」がホンダの原付「スーパーカブ」のデザインに酷似しているとして訴訟を起こし、勝訴した事があったと記憶している(スーパーカブ事件)。それなら「ヤマハメイト」は良かったのかな。
(つづく)

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