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調布飛行場連中 その11

金田一、C100に乗る
 小宮山君は、トライアル練習中の骨折で外出もままならない僕のためにホンダスーパーカブ、それもOHVのC100というレアモノを貸してくれた。テールランプがリアフェンダーに直付けでは無く、ステーを介して付くタイプだ。1.5型とでもいうのだろうか。当時でさえ、既に二十年以上前のバイクだったが、破損も欠品も無く快調そのもののコンディションだった。エンジン音もOHVためか、その後のOHCのカブとは異なり、独特のまろやかな感じの音だったと記憶している。当時においても非常に貴重なこのビンテージカブを、小宮山君がどういう経緯で入手したかは、多分聞いたのだろうが、すっかり忘れてしまった(最近、入手経緯を再び教えて貰った)。
 現行型のカブと同様に自転車でいうところの「女性乗り」が可能で、足を振り上げなくても乗れるため、ギブスを巻いた足でも容易に跨る事が出来た。メンタルを病み始めていた僕は、天気の良い日は午後になると気分転換と暇つぶしを兼ねて、ギブスで膝が曲がらずステップに載せられない右足をブラブラさせたまま、C100に乗って調布飛行場まで行った。そして夕方になって仲間が来るまで、のんびりと読書をするのが日課となった。
 外に出歩けるようになった事と、仲間と会って話が出来るようになった事で、不眠症も程なく治ってしまった。自分でも分かり易いというか、随分と単純な性格だと思う。
 その時の僕の格好といえば、バケットハットを被り(当時、原付はヘルメット非着用でも大丈夫)、モスグリーンのミリタリーコートを着てジャージのズボンを履いていた。帽子のカタチとヨレっとしたコートの雰囲気が、当時人気のあった横溝正史の小説の主人公「金田一耕助」に似ていたために、今関さんから「飛行場の金田一」と命名されてしまった。くたびれた服装に、当時でさえ既に二十年選手の、くすんだ感じの茶色のスーパーカブでヒョコヒョコと現れるのだから(片足がぶら下がった状態だから速く走れない)、そう見えなくもないか・・・。
 最近になって小宮山君から聞いたのだが、このC100は現在、浅間記念館(軽井沢にある古いバイクの展示館)に保管されているそうだ。
 ちなみにこの項目のタイトル画像にC100を入れたくて、ホームページにあるC100の画像を使用させて欲しいとホンダに連絡を取ってみた。しかしアッサリと断られてしまった。広報用のプレスキット画像だから問題無いと思ったが、ダメだった。残念!

メインスタンドはデラックスの証(あかし)
 小宮山君からは、C100の他にもバイクを借りた事がある。ホンダSL90デラックスというバイクだ。何が「デラックス」かというとスタンダードタイプに加えて、タコメーターとメインスタンドが追加装備され、確かフレームカラーがシルバーからブラックになっていたように思う。オフロードバイクであってもメインスタンドを付ける事が、この時代のバイクの「デラックス」の定義なのだ。
 SL90を借りた理由はよく覚えていないが、タイヤが減っていて走れないのを僕がタイヤ代を出すから、とか言って借りたような気がする。何でそんな気がするのかというと、今では絶対に考えられない事だが、自分でタイヤ交換した事を覚えているからだ。SL90はチューブタイヤだったので自分でも出来たのだ。どのみち当時は、今では当たり前のキャストホイールもバイク用のチューブレスタイヤもまだ無く、その登場は暫く後の事だった。
 このSL90は、元々僕の同級生の日吉君が乗っていたバイクだ。なぜ小宮山君に譲ったのか経緯は忘れたが、「パープルレインのプリンス」のバイクよろしく、外装がメタリックパープルに塗装されていた。塗装のクオリティそのものは、日吉君が知り合いの塗装工場に頼んだらしくキレイではあったが、SL90にメタリックパープルは全く似合わなかった。どちらかというと族車風ではあったが。
 これまた最近になって小宮山君から聞いたのだが、なんとこのSL90は、塗装がオリジナルに戻されレストアもされて、どこかに(聞いたが忘れた。最近の事はすぐ忘れてしまう)展示されているそうだ。

リアルレーシング(ただしサウンドのみ)
 僕の同級生ではもう一人、伊東君もバイク乗りだった。調布飛行場には何回か連れて来ていて、今関さんに彼のハスラー90だか125だかのキャブレター調整をお願いした事もあったと思う。
 しかし伊東君といえばスズキRG250Eだ。ガンマが出る前の2ストツインで、GT250の後継バイクだ。乾燥重量は126キロと超軽量。軽量化のためかタンクの鉄板までスゴく薄くしていて、両足で強くニーグリップ(両膝でタンクを挟む事)するとタンクがたわみ、タンクキャップから「シュッ」と空気の漏れる音がした位だった。彼はこのRGでクラッシュしてしまい、その修復時にマフラーをビートチャンバーに交換していた。
 このビートチャンバーだが一応サイレンサーは付いていたが、全く消音してないんじゃないかと言う位に、とにかく猛烈にうるさかった。今なら絶対に警察に通報されるレベルだ。パワーが出るとか出ないとか以前の問題で、うるさくて気軽にフル加速なんて出来なかった。エンジンをかけて走りだせば、どこであろうと、たちまちサーキットと化してしまう位の喧しさ(やかましさ)だった。
 そのうるさいRGを理由は忘れたが、なぜか借りていて、深夜の環八を走った記憶がある。スロットルを少しでも開けていれば、パーシャル(スロットルを一定に保つ事)でもやたらうるさく、交番を見つけるといち早くスロットルを完全にオフにして、ドキドキしながら惰性で通り過ぎた。幸い、信号待ちで交番の前に止まるような事は無かった。
 途中、前方の道端に見るからに暴走族とおぼしき一団がたむろしているのを発見した。しかしスピードを落とすと因縁を付けられるんじゃないかと思い、止む無くパーシャルで通過する事にした。周囲に響き渡るモノ凄い爆音に、予想通り族連中が一斉にこちらを振り向いた。ヤバイ!と思ったが、次の瞬間、彼らは笑顔で大きく手を振り、うるさいRGに声援を送ってくれているようだった。あ〜、ビビって損した・・・。
(つづく)

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