【ワンドロ】無題BL(未完)

 おにいちゃん、と呼んでいたことは覚えている。田舎の、父親の実家、近所の家だ。
 俺が小学生の頃は夏休みになるといつも三、四日ほど、父親の実家に帰省していた。田舎は見渡すかぎり田畑でなにもなくて暇だったが、父の祖母はスイカやらアイスやら子どもが喜びそうなものをしこたま用意してくれていたので、俺は父の実家が好きだった。
 田舎では大人は大概ずっと大人と話しているから、スイカやアイスを食べたあと、俺はよくひとりで外へ遊びにでかけた。あんまり遠くにいっちゃ駄目よ、という母の言いつけを守りつつ、なにか面白いものでもないかと探索をした。
 おにいちゃんと初めて会ったのはその時だ。いつの年だったか、もう思い出せないが、父の家の近くに住んでいたおにいちゃんは比較的歳も近くて、出会ってすぐに仲良くなった。
 おにいちゃんとは外で遊んだり、おにいちゃんの部屋で遊ぶこともあった。おにいちゃんの家はいつも家族がみんな留守で、まるで一人で暮らしているようだった。部屋には漫画やゲームがたくさんあって、ひとりっこだからいっぱい買ってもらえるんだ、と言っていた。
 クーラーの効いた部屋で一緒に格闘ゲームをしたり、ごろごろ漫画を読んだりするのが楽しかった。また来ていいよ、とお兄ちゃんが言ったから、俺は毎日、毎年通っていた。その間、おにいちゃんの家族とは一度も会えなかったが、当時の俺はたまたまだろうと思っていた。
 最後におにいちゃんと会った年の日、おにいちゃんの部屋でおにいちゃんはいつもより静かで、俺は機嫌でも悪いのかと思った。話しかけてもどことなくぼんやりとしていて、喋りたくないのかと思った。俺はしょうがないから漫画を読んで時間を潰していた。そうしていたら、おにいちゃんが俺の名前を呼んだ。俺が振り返るとおにいちゃんが思ったより近くにいて、気がつけば抱きしめられていた。おにいちゃんの両手が俺の背中から尻までを何度も撫でた。気持ち悪かったのを覚えている。
 おにいちゃんがなにかを言って、俺の服の中に手を入れたから、俺は思いっきり暴れて、逃げるように父の実家に帰った。突然帰ってきた俺に、母がなにか言っていたが、返事する気になれなかった。なんであんなことをしたんだろう、ということで頭がいっぱいだった。
 それを最後に父の仕事の都合で帰省する機会がうまく作れなくなり、高校最後の年、数年ぶりに我が家は父さんの実家を訪ねた。
「そんな若い子、近くに住んでたかんね」
 俺の質問に父の祖母である婆ちゃんは首を傾げた。
「近所だったよ。二階建ての一軒家にいつもひとりでさ」
「んー、婆ちゃんも最近歳じゃけん」
 婆ちゃんの隣に座る母さんがひらめいたように言う。
「ここらへんって住んでた人が亡くなっちゃって、もう誰も住んでない家もあるし、どっかの子をその家の子だって勘違いしたんじゃない?」
「漫画とかゲームとかあったんだって!」
「家の中はそのままなら、そういうこともあるんじゃない?」
 あ、不法侵入されてるのかも。母さんは陽気にそんな結論をだした。


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