闇堕ちしても歯は大切に


俺は戦士、アマレス。今、目の前で魔王の
部下と名乗る女と戦っている最中だ。
しかし、この女誰かに似てる様な……
「魔王様に楯突く者よ、ここから先は通さん」
やっぱりこの声……アイツそっくりだ
「くくく……そろそろ気づいたかな?」
誰だっ……!?後ろから仮面を被った……子供?!
「ソイツは1ヶ月前に行方不明になってた
女だよ、確かな名前をペガサスとか言ったっけなぁ」
「ペガサスだと……私の名はマーサだ間違えるな」
ペガサス……まさか
「ペガサスさん……?ペガサスさんなのか?」
「ご名答♪」
仮面の子供は酷く悪意を持ちながら言った
「お前の知ってるペガサスさんはなぁもう
いないんだよぉ?今ここにいるのは……」
その時、部下と名乗る女の容赦ない一撃が
俺に襲いかかった!
「魔王様の忠実な下僕 マーサ ノルドなんだよぉっ!!」
仮面の奴までもビームだかよく分からん攻撃をし始めやがった……くそっペガサスさんに
何をしやがったのか
「やっちまぇえっ!!!マーサ!!」
「言われ無くとも!!」
止めろっ……ペガサスさん!あんたは何度も俺と戦ってきた仲間じゃ無いか!それがどうしてその仲間と殺し合い……嫌に金的ばっかり狙ってくるなぁおい
「ええい!」
ぐはっ……しまった!仮面の奴の魔法が直撃し……まずっ
「死ねえええええっ!!!!」
ペガサスさぁあああんっ!!!!
んっ……?あれ?剣が振り下ろされないぞ?
頭上を見上げると、剣を構えたままペガサスさんはフリーズしていた
そして、剣を落としてしまった
「たいっ……いたいっ」
「え?」
なんだ……水滴がっ……俺の顔に……?
「歯が……いたい」
まさかこれ涙かっ!?ていうかえ?!
「お前まさか虫……ぎゃんっ!」
ペガサスの蹴りが腹を抉る様に俺に飛んできた
「ふざけるなっ!!魔王様に仕える者が虫歯等になるはずがない……ううっ……ない」
「涙ずっと出てるそ」
その頬は明らかに腫れていたし、目からは大粒の涙がぽろぽろ零れていた。これは間違いないだろう俺は確信した
「おい、口の中見るぞ」
「や、やめ……殺すぞっ!」
暴れる彼女を押さえ付け、強引に口を広げる
口内を見て思わず、俺は唖然とした
パッと見ただけで分かるぐらい大きな穴の空いた歯がそこには何本もあった。前歯も犬歯も奥歯もとにかく真っ黒な歯が目立つ。それを支える歯茎も真っ赤に腫れてしまって、おまけに親知らずまで生えてきているのだ
「あんた、相当歯磨かなかっただろ」
「み、磨いてたもんっ!!これは……その」
顔を真っ赤にして視線を逸らす彼女の腫れた
頬を俺は人差し指でつついてみた
「いっ……いだああっ……ごめんなさぁぁいっ歯磨きちょっとサボっちゃいました…」
「それだけじゃ無いだろおい」
「嫌だぁっ!!これ以上は言うもんかっ……ふぎゃっあああっ!!!」
「どうした?!」
まるで電流を浴びせた様に彼女の身体な突然
震え出した
「めんどくせぇなあ!これで良いだろ?」
か、仮面の野郎……
「ま、まいばん……こっそりおかしぬす……んで……たべてまし……た……はみがきしたあとに……」
「急に喋りだした?!まさか」
俺はすぐさま仮面の男の方に目を向けた
男は左手をペガサスさんに向け、何か呪文を唱えている様であった
「なるほど、そのよく分からん術で無理やり
喋らせたって事か。つまり糖分に溺れさせて
歯痛で苦しませたのも……」
しかし、俺がそう言うと仮面の男は首を横に振った
「じゃあ美味な菓子を大量に用意して糖分に溺れさせた……」
これも男は首を横に振った
「じゃあつまり自分から勝手に糖分を摂取して、歯磨きをサボっていたわけか!?」
男は激しく頷いた
「はぁ……洗脳されると人はこうも変わるもんかねえ。あの虫歯に厳しいペガサスさんが
こうもあっさり虫歯になるとは」
「虫歯に厳しい?」
「ああ、ペガサスさんはとにかく虫歯になりたくない人でなどんな激しいスケジュールの中でも歯磨きを忘れないんだ。菓子なんかほとんど食べな……」
俺はそれを言ってる中である事に気がついた
「なるほど、お前らは甘いもんを餌にしてペガサスさんを誘き寄せたってわけか」
「うっ………!!バレた?!」
「そしてこの城で生活させる中で糖分の魔力に気付かせ、自ら糖分を摂取する様にしたと」
「それはその女が勝手に……」
俺はすぐさま、仮面の男を蹴り飛ばした
「やっぱりお前らのせいじゃねえかよ!!」
「ひ〜っ」
「ちょっと!魔王様の部下にひど……ううっ
いだいっ……ちょっと治まってたのにぃ…」
ペガサスは俺に何か言おうとし、背中側に経たりこんだ。目の下に泣いた跡が出来てる
「今まではどうやって誤魔化してた?」
「い、痛み止めのくすり……」
薬があるのか……俺は魔王城の備品ラインナップを改めて羨ましく思った。痛み止めの薬なんかここから出れば王族ぐらいしか手にする事は出来ない高級品だ
「とにかく……治療を」
俺はペガサスさんの左腕を引っ張った
しかし、反対の腕を仮面を男が引っ張る
「何のつもりだ?」
「この女はもう魔王軍の物だ、治療はこちらでする」
「ふざけんなっ!!魔王の手下がやる治療なんか信用出来るかっ!」
「そっちこそ治療の金も無さそうじゃないか!」
「歯科術士の治療は保険対応なんだ……よっ!それに王族御用達のところに俺の貯金を
つぎ込めば……離せっ!」
「そっちこそ!」
「いたっ……いだいっ!!虫歯が何だか引っ張られてるのかわかんないけどとにかくいたいっ!!ひ〜」
だが、その時
「って……あたし何でこんなとこ居るんだっけ?しかもアマレスまで?!」
「おっと」
どうやら混乱して洗脳が解けたらしい
「そうだ、森の中でおか……モンスターに捕まってそこから記憶が」

「って」

「いっだああああっ!!歯がめっっっちゃ
痛いっ!!!!何でぇ?!」

すぐさま俺は引っ張っていた手を離した。
すると、ペガサスさんは砂埃を撒き散らす様にその場で暴れだし、ついでに仮面の男を殴り飛ばした

「さて、行きますよペガサスさん」
「あ、うん。ってどこへ?」

「歯科術士のとこに決まってるでしょ!!」
「えっ……!?あ……私、歯の痛み気のせいだったみたい。お金も無いし」

俺は彼女の手を片方の手で握り、もう片方の手で頬をそっと押した

「いっっっだあああああああい!!!!」
「でしょうねえ」

「嫌だぁっ!!歯科術士嫌だぁ!!!離せぇえっ!!!こらぁっ!!!」
「嫌ですよ、離したら逃げるでしょ」

「あ、そうそう」

俺な倒れてる仮面の男に視線を向けた

「次同じ事したらてめぇの口に剣ぶっ刺すからな」
仮面の男はすぐに返した
「へっ……逆にてめぇの口に剣ぶっ刺してやるよ」

「歯、ちゃんと磨いて待ってろばーか」

「うああっ……どうしてぇ……今まで虫歯なんてなった事無かったのにぃ……」
「はいはい、とにかく行きますよ。あんまり暴れないでくださいね」


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