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【徹底検証】大西が試合に出た「明日」の勝率は!?

 私が好きな応援歌に、大西宏明のベイスターズ時代の応援歌が挙げられる。その歌詞はこんなものだ。

大空高く舞い上がる
君が放つ打球に
明日の勝利が今
すぐそこにある

 以前ブログでも書いた通り、これはおかしな応援歌だ。今まさに打席に立っている選手の応援歌なのに、歌っているのは「明日の勝利」なのである。今日の試合、今の打席については言及されていない。大空高く舞い上がる打球を放つことにはなっているが、それが柵を越えたり野手の間を抜けたりするとも歌われない。サードフライで終わりかもしれないのだ。
 加えて、大西がベイスターズに在籍した2008~2010年の3年間は、ご存知の通り、チームの暗黒期真っただ中。未だにユーチューブなどで大西の応援歌のコメント欄を見ると、「今日勝てるとは言っていない」「明日の勝利が今すぐそこにある(掴めるとは言っていない)」など、盛大な煽りの対象となっている。

 「じゃあ、大西が打席に立った翌日はちゃんと勝てていたのか……?」

このヤケクソともとれる応援歌を聞いているうちにそんな疑問がわいてきた。
 こうなれば、徹底解明するしかない。今日は大西が試合に出場した翌日のベイスターズの勝敗を検証していこうと思う。

 今回、ソースに使用したのはnf3-Baseball Data House-(http://nf3.sakura.ne.jp/ )。過去のものも含め・チーム、個人の成績がデータベース化されている。
 今回は、大西が100試合以上出場した2008年に絞って各データを調べていく。


〇すぐそこではなかった

 まずは、2008年に大西がどれくらい試合に出場していたのかからだ。上記のサイトでは、年度ごとの選手個人の成績に加え、何月何日に出場(先発時のみ)を参照できる(http://nf3.sakura.ne.jp/php/stat_disp/stat_disp.php?y=2008&leg=0&tm=YB&mon=0&stvst=all )。残念ながら、代打や守備固めなどの途中出場のデータまでは網羅されていないようなので、今回も大西がスタメンに名を連ねた時のみのデータとなる。ただし、偵察として形式上スタメンに入れられた投手とすぐに交代して試合出場している場合は、「実質スタメン」とカウントする。

 2008年、大西がスタメン出場したのは計68試合。その翌日、厳密に言うと翌試合日のベイスターズの勝率は、以下の通りだ。

68試合26勝38敗4中止
勝率.382

 同年の内川聖一の打率を少し超えるくらいの、何とも頼りない勝率である。
 月別に見ると、10月に勝率10割(ただし、出場3試合でその翌試合日は2勝1中止になっただけ)を記録したのと、7月に14試合で7勝7敗だったの以外は、全ての月で負け越している。
 明日の勝利は全然すぐそこにはなかった。ただ、この2008年は歴史に残る3年連続90敗以上の初年度となった暗黒期中の暗黒期だ。チームの成績と照らし合わせなければ本当の価値はわからないだろう。
同年のチーム成績は以下の通り。

2008年のチーム成績
144試合48勝94敗2分け
勝率.338

 内川の打率に負けている。3試合やってやっと1勝できる悲惨さ。まあ、知っていたが……。
 これを見ると、大西の存在は一応、ある程度チームの成績を引き上げていたといえよう。何せチームが挙げた48勝の半分以上は、大西が試合に出た翌日に挙げられたものなのだから。
 つまり、「明日の勝利が今すぐそこにある」というあの応援歌は、一応ある程度実態に沿っていたということになる。


〇そもそも、なぜ「明日の勝利」を願うようになったのか?

 実態に即しているとはいえ、それはある程度の話でしかない。そして何より、なかなか勝てないからこそ勝利を願ってファンは叫ぶものだろう。いったい、なぜこのような歌詞の応援歌になったのか。
 ちなみにこの歌、実は流用なのである。元々は南海やダイエー、巨人を経て98年のみ横浜に所属した岸川勝也の応援歌だった。が、岸川はベイスターズでは7回しか打席に立っていないので、もうこれは実質大西固有の応援歌とみなし、岸川についてはノーカンとする。

 先ほど参照したサイトには、かなりマニアックな情報も載っており、各選手の対左右別成績や、球場別成績、月別成績なども見ることができる。その中に、打席別成績というものがある。第1打席、第2打席など、打席ごとの安打数や打率など。
 もはや、いったい誰が何のために算出して、誰が見るんだかもよくわからないデータであるが、これが応援歌と密接に関わっていそうなのだ。

 大西の条件別成績のページ(http://nf3.sakura.ne.jp/2008/Central/YB/f/33_stat.htm )を参考に私が作成した打席別打撃成績は、以下の画像である。

大西 打席別成績

おわかり頂けただろうか。明らかに、打席を重ねるほど打率も出塁率も上がっている。4打席目に至ってはほぼ4割の打率を誇っている。

 ここから推測されるのは、「大西宏明スーパーサイヤ人説」だ。
仮に、大西の成績が良くなる終盤に、ベイスターズがビハインドになっているというケースが多ければ、大西は逆境になればなるほどレベルアップするサイヤ人ということになる。
 ファンとすれば、もうビハインドになって今日は諦めムード。でも目の前では大西が大空高く舞い上がる打球を放っているのだ。「明日に期待しよう」そう思うのも無理はない。

 となると、チームの得失点状況のデータも欲しい。そしてそんな頭のおかしいデータもこのサイトには存在した!

 2008年ベイスターズの、各イニング別得失点状況(http://nf3.sakura.ne.jp/2008/Central/YB/t/teamdata.htm )を参考に作ったのが、以下の画像。

イニング別チーム得失点

 見立て通りだった。勝とうが負けようが、ベイスターズは初回の失点数が群を抜いている。そしてもう1つ注目しなければならないのが……得点が多いのは、勝利時で5回、敗戦/引分時で8回、そう、中盤から終盤にかけてなのだ。村瀬校長も書いていた、あのベイスターズお家芸「追いつかない程度の反撃」が如実に表れている。

 恐ろしいことに、ベイスターズの得点と大西の打撃成績は比例していた。もう間違いない。序盤で大量失点、ファンは諦めてスタンドで麻雀や流しそうめんモード。その時はまだ大西のエンジンもかかっていない。
 そして肩……いやバットも温まった中盤以降、大西は火を噴き始めるのだ。ファンは思う「それ、もっと早くやれよ!」。悲しいかな、大西がどんなに頑張ろうとももう今日の勝利は絶望的なのだ。
 「明日は、頼むぞ」全ベイのそんな思いがこめられ、「明日の勝利が今すぐそこにある」と高らかに歌われていたのである。
要するに、やっぱヤケクソだった。


〇おまけと結論

 最後に、もう1つ世にも悲しいデータをお送りして、今回はお別れしよう。このマニアックすぎるデータベース、個人の打撃成績の欄に、「HR勝敗」という項目がある。その選手がホームランを打った試合でどれだけ勝ち、負けたか。http://nf3.sakura.ne.jp/2008/Central/YB/f/33_stat.htm 
 大西は2008年に4本のアーチをかけたが、その結果は何と0勝4敗!大空高く舞い上がった打球がフェンスを越えたが最後、もはや明日の勝利を願うことしかできない男だったのだ。

 大西の応援歌は、ある程度実態に沿っていた。いや、その裏側にあるのは、世にも悲しい実態だった。大西はたった3年間でベイスターズを去ることになるが、そのプレースタイルは「追いつかない程度の反撃」という、ある意味で最もベイスターズらしさを体現したものだったのだろう。

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