すずらん(第5話)

4日後、俺は学校に復帰した。復帰初日は学校まで父が気遣ってか送ってくれた、いつもの登下校ルートを外して。「純平、じゃあな」「うん。」1週間ぶりの学校はいつも通りだった。まるで何も起きてなかったかのように。
 唯一違ったのはいちねえの机に花が添えられていたところだ。お昼休みの賑やかな教室のなかでいちねえのせきだけ浮いていた。まるでだれも触れられない空間になっているかのように浮いていた。上級生の教室であり、外から見ていたのでまるでどこか遠くの事のように他人事のように感じた。「じゅんちゃん!どうしたの?!」声をかけてくれたいちねえはいない。そして「一葉!じゅんちゃんきたよ!!」と言ってくれたいちねえのクラスメイトは目を合わせてくれない。目を逸らされた。居場所のなさを感じ自分の教室へ戻った。いつもならクラスでドッヂボールをしていたがなんか現実味がなく、教室でぼーっとしていた。美奈の席は空席。ただ風邪で休んでいるみたいだ。夢か現実かわからないまま学校が終わった。俺が美奈の家に配布物を持っていくはず。美奈の机の上のプリントをまとめて渡辺先生(俺たちの担任の先生)のとこへ持って行こうとした。「広瀬くん持ってかなくていいよ。先生が今度持っていくから。」「え」俺に気を遣ってくれているのか、なんかよそよそしい。「気をつけて帰ってね。」さようならを言って帰るしかなかった。
下校で初めて現場を通った。たむけられている花束の多さ、割れた縁石、道でキラキラしてる何かは車の破片なのだろうか。しゃがみ込んで手を合わせる。目を閉じたらいちねえとの日々を思います。涙が止まらない。(けど、いちねえがもういないことが今となってはあの時はまだ受け入れられていないのかもしれない。)「僕、大丈夫?」背中から声がした。「警察なんだけどちょっといいかな?」その言葉を聞き終わらないうちに俺は走って逃げ帰った。美奈といちねえのいない家の前は特に。そして帰ったら布団に顔を埋めた。泣いていたはずなのにいつの間にか夜になっていた。

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