「Juvenilizm-青春主義-」感想文(後編)

前回の続きです。
「Juvenilizm-青春主義-」感想文(前編)

⚠個人的解釈をダラダラと語っています。他人の青春主義に介入するつもりはありませんので、どうか寛容な心でお読みください。
⚠書き手が中途半端な音楽かじり虫です。中途半端な知識で中途半端に書いているのでご容赦ください。間違いがありましたら、そっとご指摘いただけますと幸いです。



下記の通り、アルバムの物語はシームレスに進みます。そのため、前編で語った解釈を引き継ぎなら語る部分が出てくるかと思います。前編を読んでから後編をお読みいただくことをおすすめします。

聴き進んでいくとシームレスに物語が進んで行くコンセプト・アルバム。
東京都〇〇市を舞台に、思春期の葛藤から、出会い、別れ、青年期までの多彩な感情をレイヤーしていく起伏に富んだ楽曲、物語を紡いでゆく詞、色鮮やかに時を繋げて行くインタールード、時に耳を奪われるセリフ。 爽やかなアイドルらしさと、俳優の匂いが同居する「シネマティックアルバム」

M!LK ニューアルバム「Juvenilizm-青春主義-」が2020年3月11日(水)リリース決定!!


M7 Ordinary-最高の退屈-

作曲・編曲:奈良悠樹

全体的にお洒落な仕上がりのトラックですが、そこに重なってくる三人の声で、良い意味で気の抜けた雰囲気になっています。

「Ordinary-最高の退屈-」には、「幕間」の性格があるような気がします。前後編を分ける地点をこの曲にしたのもそのためです。
もちろん「Searchlight-僕らが僕らになる方法-」「Lost and found-am 0:00-」も似た性格をしています。ただ、この2曲は次の曲への導入という役割が強いのに対し、「Ordinary-最高の退屈-」は明確な「休憩時間」に思えました。
続く曲「We’re Here!!!」が明るく華やかな空気を持っているため、必然的にそうなっているだけかもしれませんが、第1幕と第2幕の間に突然訪れるトイレ(※必ずしもトイレのための休憩ではないが)という現実のような、「物語」から「自分」へ意識が逸れるような感覚がありました。

詩集から顔を上げれば息継ぎのようにぼくらの生活がある

『玄関の覗き穴から差してくる光のように生まれたはずだ』

これは歌人・木下龍也さんの短歌です。突然なんだと思われるかもしれませんが、「Ordinary-最高の退屈-」を聞いたときのふっと息をつける感覚に、この短歌を思い出しました。

このアルバムは制作が2019年から始まってゆっくりじっくり作られたものだそうなので、今みたいな社会になることは予測されていなかったと思いますが、ありふれた日常を「最高の退屈」と表現するこの曲は今だからこそ刺さるものがあります。
お気に入り曲で被るのもわかる。


M8 We’re Here!!!

作詞:ma-saya 作曲・編曲:徳田光希

曽野舜太くんの歌声は華やかな響きを持っているので、華美なオケでも負けないどころか映えますね。舜太くんのミュージカル出演を待っています……。

「夢恋語り バカ騒ぎ 賑やかなノリで」という歌詞の語感が楽しくて好きです。ちなみに作詞のma-sayaさんは別界隈で好きな曲の歌詞を書かれていました。嵐の「Ready To Fly」、Hey! Say! JUMPの「Farewell」など。

サビでコードが下降する曲に弱い自覚があります。この曲の場合は「心から今夜」から「みんなが笑っている」あたりまで。全体的に明るい雰囲気のある曲に持ってくることで、ただ明るいだけじゃなく哀愁漂う雰囲気も感じさせています。
また、メロディやオケなど、全体的に懐かしさをまとった曲だな、というのが第一印象でした。ベタで、無鉄砲で、とびきりキラキラした愛が詰め込まれた日々を、いつか「若かったな」と思い出すだろう。「永遠じゃない今」を思わせる曲だな、と感じました。


M9 Don’t think, Jump!

作詞・作曲・編曲:浅利進吾

アルバム曲のイチオシです。好きだ〜!
浅利進吾さんは知っている曲だと嵐の「Everything」の作曲家さんでした。

頭のシンセサイザーは「DEAR LIFE」の歌い出しと同じように、一瞬で景色を変えてくれる音になっています。
イントロからアウトロまでずっとサウンドが気持ちよいので、そこに乗っかったまま最後まで聞けます。駆け抜けていくピアノとシンセサイザーが最高にかっこいいです。

Bメロの「振り返るにはまだ」のあとや、サビの「胸にあるなら」のあとなど、歌に呼応したり、共鳴したり、「第2の歌声」のような役割のあるピアノだなと思います。
もともとアップテンポな曲が好みだからだと思いますが、甘さのあるフレーズより、とめどなく音が溢れるフレーズにピアノを使っているほうが好きです。ピアノの音自体に甘さがあるので、甘いフレーズに使うと過多に感じてしまいます。クレープ屋さんのクリーム増量サービスという感じです。(個人の好みの話なので、クリームが好きな方を否定する意図はございません。わたしにもクリーム増量したい気分のときもあります。)ゆっくりした曲なら、ジャズオルガンが好きです。ピアノがクリームならジャズオルガンは紅茶かな。話が逸れました。
また、サビの「何回転んだっていい」からのピアノの低音部の流れが好きです。この部分の、ピアノが入る前の一瞬の緊張感がしびれます。デデッッッ!デレレの「ッッッ!」の部分。(文章で説明するのが難しいですね。落ちサビだとわかりやすいかもしれません。探してみてください。)

スピード感を持って前に突き進むような曲ではありますが、サビのメロの響きが暗く、なんとも言えない苦味成分があります。青春特有の刹那的な輝きというか、前向きな言葉の裏にある少しの不安感というか、そういう「危なげ」があるからこそ、よりこの曲の美しさが映える気がします。夕焼けの落ちる道を駆け抜けているような景色に見えました。
落ちサビの吉田仁人くんの「やり遂げたいことがあるのならば」の歌い方が好きです。何かを想うような、切ない響きがあります。「やり遂げたいこと」に焦がれる気持ちの表れでしょうか。


M10 Lost and found-am 0:00-

作曲・編曲:奈良悠樹

グッピー大量死ポイントですね。思春期から青年期へ、という部分はこのあたりなのかな、と思います。「Don't think, Jump!」から時が経ち、「自分」という悩みから「他人との関係」という悩みに変わっていきます。この曲から「嫌い」までは、そんな転機に思えます。

物音や話し声みたいな音が聞こえるので街の中に独りなのかな、とも思ったのですが、これらの音から受ける印象が0時ではありませんでした(このあたりの受け止め方には育った環境の違いが出るかもしれません)。
わたしには記憶の中の景色に思えました。あるいは夢かもしれません。夜中に目覚め、幸せだった記憶に思いを馳せながら、ため息を漏らす。そんな曲に聞こえます。

この曲における「found」ってなんだろう、と思ったのですが、「Lost and found」で遺失物取扱所という意味なんですね。大人になる中で失った何かを探しているのでしょうか。
蛇足ですが、わたしは街中でお気に入りのマスコットを落としたことがあります。絶望しました。同じ商品を買っても、一緒に旅をしたあの子ではありません。そんなとき、ダメ元で問い合わせた忘れものセンターで、我が子が見つかりました。案外、このアルバムの主人公が失くした「何か」も、見つかるのかもしれません。ほんとうに蛇足だったな。


M11 last moment

作詞・作曲・編曲:丸山真由子

単語の並べ方や重ね方にごちゃごちゃした心情がごちゃごちゃしたまま表れている歌だな、と感じます。

クレジットの「ピアノ:岸田勇気」を初めて見たときの衝撃は忘れられません。好きソシャゲ(前編でも聞いたな……)の好き曲のピアノで出会い、そこから岸田さんの参加されているバンドを聞いたり、YouTubeを見たりしています。某歌手のライブも、岸田さんを目当てに行きました。
この曲のピアノには、水面で反射する光みたいな柔らかさとまばゆさがあります。アウトロの最後でピアノだけ残るのも好き。最近だと、「最愛」のピアノも岸田さんによる演奏です。
岸田さんのピアノの魅力が端的に伝わるかな、と思う動画を置いておきます。


2番Aメロの山中柔太朗くん「キミの声が聞きたい」の歌い方がなんとも言えず良いです。切ない場面ですが、100%苦しい声というよりは、やさしくて、もしかしたら眉を下げつつ笑っているのではないかとすら思えてきます。自分の声がどんな風に武器になるか完全に理解していて、心の臓のちょうど弱いところを的確に刺されます。


M12 嫌い

作詞・作曲・編曲:松室政哉

「Lost and found-am 0:00-」と矛盾しますが、「嫌い」は思春期の歌に思えます。実際に「嫌い」の出来事が起こったのは「last moment」よりも前で、「last moment」の出来事をきっかけに「嫌い」のことを思い出している。そんな回想シーンという解釈です。

曲の始まりと終わりの2小節が、同じ形になっています。下降した後にわかりやすく解決するコード進行も印象的です。ハッピーバースデートゥーユーを歌うときに、伴奏が一度曲の終わりの「ハッピーバースデートゥーユー」を弾いてから始めに戻って歌い出す感じ(伝わるでしょうか……)に似ています。
このイントロは「陳腐さ」の表れだと感じました。「気の利いた言葉が一向に出ない」という歌詞がありますが、簡単で取るに足らない呆気なさがある気がします。最後、「どうしようもないくらい君が好き」で終わるところにも、そんな「陳腐さ」を感じ取れます。

その檸檬の冷たさはたとえようもなくよかった。

梶井基次郎『檸檬』

考えすぎてしまいそうなこの曲の「僕」が最終的に行き着く先はとてもシンプルです。人間、最後の最後で語彙がいちばん簡単なものに落ち着くという点で、上の一文を思い出しました。さまざまな感情が織り込まれた「どうしようもないくらい君が好き」なのだと感じます。

板垣瑞生くんの声は、ほんとうに濁りのない響きをしているなあと思います。この無垢な声がベースにあるから、感情が強く乗っても歪まずにまっすぐ届くのでしょう。
また、塩﨑太智くんの低い声にα波を感じたり、落ちサビの柔太朗くんの「言ってしまった」の「た」の放し方に降参したりもしました。


M13 ERA

作詞・作曲・編曲:園田健太郎

園田さんに人生預けたいくらい好き。「ERA」に向ける感情が大きすぎてうまく言語化できないのですが、頑張って書きます。

まず、さまざまなことを抜きにしても音楽の完成度が高くて、イントロから心を掴まれます。ドラムのツクチャーン!もピアノのティロリンッ!も「最高」の確定演出です。オケに奥行きと広がりがあってたまらなく好きです。
この曲も「ピアノ:岸田勇気」です(「last moment」より先にこっちを知りました)。「ERA」のピアノがもともとM!LKの曲に使われているピアノでいちばん好きだったのですが、演奏されているのが岸田さんだと知り頭を抱えました。美しさとまばゆさと強さがあり、キラキラしつつも胸が詰まるようなピアノの流れが大好きです。岸田さんとの出会いの曲もそんな曲でした。アウトロがわかりやすいです。

余談ですが、園田健太郎さんもこのソシャゲのキャラクターソング制作陣の一人です。M!LKは二次元コンテンツのファンの方に訴求力の高い制作陣が揃っている印象です。

そして歌詞。誰もが自分の歌だと思える歌詞なのに、M!LKが歌うと紛れもなくM!LKの歌だという説得力があります。

「勝手に進む時間の後ろ髪掴まえて」という歌詞が印象的です。この歌詞を聞くと「幸運の女神に後ろ髪はない」という話を思い出します。前から猛スピードでやってくる女神。通り過ぎてから振り返って掴もうとしても、後ろ髪がないから掴めない。チャンスを掴めるのは向かってくる一瞬だけ、といった話だったと思います。
時間は不可逆です。あえて「掴まえて」みることで、実際は巻き戻すことのできない人生の苦さを思わせます。「行くなと叫ぶ」のも、行ってしまうとわかっているからだと思います。

2番Aメロの「腹の底」という言葉。「分かった振り」をしているのが「頭」だとしたら、「腹の底」は内に秘めた情熱の部分かな、と感じます。
黒い部分を隠し持っている人に対して「腹黒い」と言うので、「腹」は「内側」というイメージが強いです。また、空っぽになったり満ちたりするところから、強い欲や願望が連想されます。心臓よりも深いところに、燃えるような想いを感じるフレーズです。

2番Bメロ「僕らは言わば挑戦者」がすごいです。新メンバー(今この表現をするのは相応しくないかもしれませんが)加入時はまだファンと呼べる存在ではなかったので、リアルタイムで体感したわけではありませんが、当時の風当たりは相当強かったように思います。(直接痛い言葉を投げかけることには賛同しかねますが、メンバーの増減に複雑になる気持ちはわかります。)それを受けてでもM!LKを選んでくれた3人に対して、最高の賛辞とも言える歌詞だと感じました。

「積み重ねた一秒よ どうか明日を裏切るな」が、ここの歌割りを佐野勇斗さんに任せたことも含め大天才だと思います。佐野さんには過去の一切を背負う覚悟があるように見えます。その気持ちを臆せず口に出すところもかっこいいです。

駆け抜けていくような印象のある楽曲ですが、「思い通りにはいかなくても」で結ばれることで、とてつもない余韻が押し寄せます。「時代を作れる」と高らかに歌うだけでは終わらない。「いろんなことがありました」だけでなく、これからもきっと思い通りにいかないことってあるよな、と受け止めつつ、それでも前に踏み出す。「報われたいよな 最後笑ってたいよな」の「最後」がどこなのかはわかりませんが、報われ笑っているM!LKを見届けたいです。


M14 君がくれた宝物ならココにある

作詞:corin.、園田健太郎 作曲:corin. 編曲:corin.、津田ケイ

こんな風に言ってくれるなんて、なんて素敵なアイドルなんでしょうか。ありふれた言葉ですが、ほんとうに「推しに元気をもらう」毎日なので、「君という宝物」はこっちの台詞だと声高らかに言いたいです。

歌い出しが「駆け抜けた時間はきっと奇跡だった」と過去形になっているところから、それまでの曲とは何か一つ違う視点であることが窺えます。やや苦い心情を思わせる1番と、明るい展望を見せてくれる2番。

この楽曲はこれまでの歌を少しずつ拾う内容に感じられます。「君がくれた宝物ならココにある」でこれまでの歌にどんな返答をしているのか、わたしなりにまとめてみました。ややこじつけな箇所もありますし、もっと探せば他にもあるかもしれませんが、どうかご容赦ください。

このままずっと 駆け抜けたい君と(DEAR LIFE)
もう…決して忘れない 仲間という奇跡(We're Here!!!)
→正直すぎる君と僕らが駆け抜けた時間は きっと奇跡だった

変わり続ける毎日に 変わらない僕らじゃもうダメなんだ(Winding Road)
→変わり続けるこの世界の早さに戸惑っても 君は君だと僕らが歌うよ

自分だって わかんなくて どうしたい? Oh myself! 問いかけて 向き合って 答えはどこにある(Don't think, Jump!)
→答え合わせのない自問自答を繰り返すだけの 日々ならもう止めにしよう

気の利いた言葉が一向に出ないんだ(嫌い)
→言葉にならない想いは君のもとへ

期待はずれな今日があるから 明日笑える(晴れのち曇り時々虹)
→白黒だった景色も今じゃこんなに色づいて 明日はもう少し鮮やかだろう

僕らが必死に伸ばした手を 君が掴んでおくれよ 僕ら握り返すから
(ERA)
→積み上げた日々を また繋ぐための手と手だろ?

「ありがとう」言い出せずに 飲み込んだ思い出が溢れ出す(last moment)
→精一杯のありがとうをこの歌に込めて

乾いた僕が歌えないラブソング(かすかに、君だった。)
→君への想いをこの歌へ

さまざまな経験をして大人になっていく主人公が、過去の自分を肯定しながら「君」への想いを確かめる歌詞に思えます。


青春主義とは何だったのか?

私はこの「主義」を「信じ続けること」と捉えました。「Don't think, Jump!」のところで触れましたが、青春は刹那的な輝きによって成り立っていると思います。儚いからこそ輝くのではないかとすら思います。ただ、成長して失われてしまうことを前提に生きるのではなく、信じ続けて生きる主人公だからこそ、最後に「宝物」を獲得できたのではないでしょうか。
アイドルは、きっと青春に似ています。未完成で有限で最高に輝いている。さまざまなアイドル像がありますが、わたしにとってのアイドルはいつの日も希望です。だからこそ、そんなアイドル自身による「青春主義」の表明は、わたしに勇気を与えてくれました。わたしも青春主義でいたいです。

ここまでお読みくださりありがとうございました。

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