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平成最後の夏、人生で初のアナログシンセ。

はじめまして、Tajima Haruoです。
トランスやアンビエントを中心に曲を作っています。

このたび、DTM開始一周年を記念して憧れのアナログ・シンセサイザーを購入しました。
往年の名機のミニサイズ復刻版、KORG MS-20 miniです。
今までの人生でも指折りの感動を得たので、とめどなく溢れてくる気持ちをノートに吐き出していきます。
この記事を通して、ソフトシンセで打ち込みをしている方々にアナログシンセの良さを少しでも伝えられたら良いなぁと思っています。

まずMS-20 miniの構成について簡単に書いておきます。詳しくはKORGの公式サイトを読んでください。

・2 VCO, 2 VCA, 2 VCF, 2 EG, 1LFO
・セミモジュラー
・モノフォニック

話の順番が前後しますが、MS-20 miniというのは先ほど少し言ったように、過去に出た機種のミニサイズ復刻版です。1978年に出たMS-20というアナログ・シンセサイザーが元になっています。当時としては安価ながら多機能で変幻自在に音作りができたため、90年代のゴアトランスでもよく使われていました。そのあたりで特に有名な人物といえばサイケデリック・トランスのレジェンド、Simon Posfordでしょうか。

僕はゴアトランスを作ろうと思ってDTMを始めたのですが、そのへんの知識はアナログシンセを買おうと考えるようになるまでは全く無かった(せいぜいRoland の機種をいくらか知っていた程度)ので、最初はあまり購入意欲が向いていませんでした。

大きく気持ちが変わったのは、佐野電磁氏がMS-20 miniをひたすらいじり回すというKORG公式の紹介動画を見てからでした。

心底楽しそうにMS-20 miniをいじり倒している姿が最高ですね。これを見ているうちに、気持ちはMS-20 miniを買うほうへ傾いていきました。
思い返せば、買ったDAWもBitwig Studioで、自在なモジュレーションをDAWで出来るというところに惹かれて選んだものでした。だったらやっぱりセミモジュラーだろう、パッチングで色んな音を作ろうじゃないかと思い、購入を決意したわけです。

さて実際に購入してからの感想になりますが、率直に言うとこんなにワクワクした体験は生まれて初めてでした。

買って、届いて、開封して、セッティングして、電源を入れて初めて鍵盤を弾いた瞬間に出てきた音は紛れもなくアナログの太くザラッとした音でした。

それからしばらくは夢中になって鍵盤を叩いていたと思います。楽しすぎて時間を忘れて遊んでいました。あまりに楽しかったのでその時間の記憶が特に曖昧です。ずっとスゲースゲー言っていた気がします。
上に挙げた動画で佐野氏もおっしゃっていたようにパッチケーブルの抜き差しの音が気持ち良くて、ついつい色んなパッチングを試してしまいます。
当然ながらあのパッチングも……。

パッチングはソフトシンセに慣れ親しんだ方だと身構えるかもしれませんが、見た目に反して直感的に感じました。「こう動いてほしい」という変化のイメージに合う動きをするものをOUTに、動いてほしい対象をINにして繋ぐだけですし、適当にパッチングしてみてもIN/OUTの関係で繋いでいれば何かしら変化すると思うので耳でわかります。
写真で繋いでるパッチはMS-20ユーザーに広く知られているワザで、SIGNAL OUTやPHONE OUT、要するに音の最終出力段を外部信号として入力してやることでフィードバックループを起こすというものです。これがおそらくArturiaのBRUTEシリーズに搭載されているBrute Factorの元ネタでしょう。緩いサチュレーションから過激なオーバードライブまで出せます。ESPの出力をAMP OUTではなくBPF OUTにするとまた違った味わいが出ますし、AMP OUTやBPF OUT自体をSIGNAL INに送ることでも過激な音が出せるのでかなりムチャクチャなことに使えるパッチテクニックだと思います。

さて、やっぱりMS-20 miniの良さを語る上で欠かせないのはオリジナルのMS-20が名機たる所以の一つであるフィルターモジュールだと思います。
よく言われるのはMS-20には前期・後期でVCFが違う、前期型のほうが変化が過激だという話ですが、MS-20 miniには前期型であるKORG35というVCF回路が入っています。まぁオリジナルの前期・後期の違いについては僕は知らないのですが、単純にアナログフィルターは良いなと思える響きがあります。
MS-20 miniを買うまではソフトシンセだけで音作りをしていましたが、バーチャルアナログシンセのフィルターとは全然違います。最終的にアナログの音の"質感"というのは、フィルターを動かすときの手触りというか、指先の感触のことなんだろうなとも思うようになりました。

フィルターを延々といじっているだけの様子を適当に録音したのが以下の音源です。正確に言うとフィルターのEG Amountとかも回してるのですが。

フィルタースウィープといえば最初に思い浮かべるのはもちろんアシッドサウンドです。アシッドに欠かせないのは自己発振するレゾナンスですが、MS-20 miniのPEAKはとても暴れん坊です。たとえばPEAK 7.8くらいのところではカットオフ周波数のピークが緩やかに発振し始めているのに対して、8.0に上がったあたりで突然強烈に自己主張してくるのです。最大の10まで上げると耳をつんざくような音が出て大変なことになります。最高ですね。
とはいえTB-303の元祖アシッドサウンドに比べると不向きな特性を持ったフィルターだと思います。その辺は住み分けをきっちりして使っていきたいと思います。

実機のTB-303に近いサウンドを求めるならCyclone Analogic TT-303がありますね。ソフトウェアでもD16 PhoscyonとAudioRealism Bassline 3がリアルだと評判で、実際僕はPhoscyonの音で今のところは満足しています。話は逸れますけどPhoscyonはDecayだけでなくAttackもエンベロープのパラメーターとして持っているので実機より奇っ怪な音とか頭のネジが緩そうな音とかが出せます。

さて話を戻しますが、パッチベイ、フィルターと最終出力に近い段から順番に感想を言ってきたのでいよいよオシレーターの話をしましょう。

MS-20 miniのオシレーターは2 VCOです。VCO 1では三角波、ノコギリ波、可変幅パルス波、ホワイトノイズが、VCO 2ではノコギリ波、方形パルス波、ハーフパルス波に加えてリングモジュレーターが搭載されています。
この2基のオシレーターがやんちゃ坊主で、2VCOで鳴らしてみると微妙にピッチが合いません。ぴったり合わせてもわずかにズレていて、緩やかな唸りが発生します。開発者インタビューで西島氏の言っていた「微妙なデチューン」です。

このデチューンというのがまさにアナログの妙味で、ノート情報を打ち込めばピッタリそのとおりに鳴るデジタルのオシレーターとは全く異なる響きを演出します。ふつう唸りが出ると不快に思うものですが、チューニングが合っている状態の超低周波での唸りはむしろ空間的な広がりを感じさせる心地良い動きです。

出てくる音は40年前のアナログ・シンセサイザーの音ですが、それが古臭い音だとは感じませんでした。
もちろん当時を知っている方は違う感想が出るでしょうが、僕はオリジナルのMS-20が生まれた時代の人間ではありません。そんな僕の耳にMS-20 miniの音は新たな世界をもたらしました。

MS-20 miniの説明書には「シンセサイザーは楽器です」ということが書いてあります。シンセサイザーはまさしく楽器なのです。デジタルで打ち込みをしていた頃には無かった手触りがそれを思い出させてくれました。

もともと中学生の頃に吹奏楽部に所属していた自分にとっては、楽器を鳴らすのにいちいちセッティングをする手間があるというのはむしろ馴染みの深い感覚でした。その頃はチューバをやっていて、部活動が始まると楽器庫からチューバを運び出し、ケースから取り出して組み立てて、チューニングをしてから吹き始めるというのがルーチンでした。
MS-20 miniも同じです。僕はデスク周辺に常設するスペースが無いので専用ケースにしまって自室に置いてありますが、鳴らす際にはPCのところへ運び出して、ケースから取り出してケーブル類を繋いでノーマルセッティングに合わせてチューニングをします。アナログシンセは温度などの環境によって音が変わってしまうというところまでまさにリアルな楽器です。

ところでソフトシンセ専門の皆さんはオーディオインターフェイスをお持ちでしょうか。アナログ・シンセサイザーなどを録音する際にはオーディオインターフェイスが必要になります。僕はSteinberg UR22mkIIを使用して録音しています。

よくオーディオインターフェイスはDTMに必須かどうかという議論が(入門者向けの話として)なされていますが、楽器を録音するのには必須です。そうでなくても色々と便利だったりするので持ってて損はないと思います。録音しないのであればこれくらいの機種でも充分でしょう。気が変わって歌い手になりたいとか思い立ったときにも使えます。

さて、一ヶ月ほどMS-20 miniを使ってきて、今後自分はどういう形でDTMをやっていきたいかというのを考えたんですが、アナログシンセの面白さを知ってしまった以上、もうデジタルのみでの打ち込みには戻れないことを感じています。
アナログ最高!

とはいえデジタルを完全に捨てるのは違います。
MS-20 miniでSupersawは出せません。Sylenth1なら5秒でSupersawを作れます。適材適所とはよく言ったものです。
それと、アナログシンセを、特に構成が分かりやすいMS-20 miniを使って音作りをやったことでデジタルシンセも使い方が分かってきました。
今までにSylenth1とPolysynth (Bitwig Studioに搭載されているポリフォニックの2OSC VAシンセ) とを使ってきた経験で何となく分かっていたはずなんですが、パラメーターをどう動かしたらどう音が変わるかというのがもっと直感的に身につきました。
直感です。頭ではなく手がシンセサイザーを理解するのです。手が!

そもそもデジタルシンセはマウスでUIをカチカチやる都合上、手の動きが複数のプロセスを通すことを想定して思考ベースで音作りをせざるを得ません(少なくとも僕自身がそうでした)。フィジコンにアサインするパラメーターも限度があります。
一方でMS-20 miniはつまみを回すかパッチングするかが全てなので手を動かすプロセスは1ステップです。

これは実際にアナログシンセをいじったことがある人なら共感してもらえると思っているのですが、つまみを回すだけで済む状態だと人はとりあえずつまみを回してみます。ケーブルを挿すだけで良いならとりあえずケーブルを挿してみます。そこから「やっぱりこうしようか」や「これだけでも良いじゃん」などの思考が発生します。つまり手が頭を動かすのです。
この感覚を体得してからSylenth1を久々に立ち上げてみたら、マウスでカチカチする手の動きが以前よりも滑らかになっていました。頭ではなく手が考える音作りです。

ここまで書いてきて、KORG MS-20 miniを買って良かったという僕の率直な気持ちがどれだけ伝わっているかが不安ですが、みなさんもアナログシンセに興味を持っていただけたでしょうか。
今はソフトシンセが豊富にあって、デジタルで何でも鳴らせます。往年の名機の音も高精度なモデリング技術でソフトウェア化されていたりします。そんな中であえて場所を取るハードウェアの、しかもアナログ・シンセサイザーを使うというのは無駄な手間のように思われるでしょう。しかしそこには確実にデジタルとは違う体感があります。

もし、この記事を読んでアナログシンセに興味が出てきたという方がいたら、是非ともお近くの楽器店で実機に触れてみてください。鍵盤が弾けなくとも、適当な音を出しながらフィルターのカットオフを回してみるだけでもその機種によって全然違う姿を見せてきます。

最後に、MS-20 miniの抱える煩雑さなどについても一応触れておきます。
正直なところ、MS-20 miniは40年前のシンセサイザーを復刻しているため、モダンなアナログシンセに比べたら融通が利かないところがあると思います。
DAWからノート情報をMIDIで入力する際、ベロシティは送れません。しかもDAWで打ち込んだMIDIノートに隙間が無いとトリガーが繋がって出力されるのでノートの末尾は少し隙間を空けて打ち込む必要があります(Bitwig Studio以外のDAWを持ってないので他のDAWでどうなのかは未検証です)。それにそもそもMIDIでやり取りできる情報はノートメッセージのみですので、オートメーションを書くといったことはできません。DCカップリング対応のインターフェイスが無い限りは(あればBitwig StudioのHW CV OUTでオートメーションもモジュレーションも制御できます)。
その他、ミニサイズ復刻ということでオリジナルではフォン端子だったところが全て(SIGNAL OUTもPHONE OUTも全て!)モノラルミニ端子になっているため、オーディオインターフェイスにはモノラルミニ-フォンのケーブルや変換コネクターが必要になります。
そういうものが些細なことだと思える人、煩雑さを楽しめてしまう人には自信を持ってMS-20 miniをオススメします。

ちなみにKORG MS-20 miniでアナログ・シンセサイザーに対する気持ちが高まりすぎて、つい最近2台目のシンセサイザーを買ってしまいました。
ギリシャ発の新進気鋭のメーカーDreadboxのNYXです。

すごくクリアでスムーズな、それでいて太くザラッとした良いアナログの音が鳴るので一目惚れしました。Dreadbox製品の日本語レビュー記事はネットに全く上がってないみたいなので、届いたらノートを書いてどんどん情報を発信していくつもりです。

以上、まだまだ言いたいことは沢山ありますがここまでにしておきたいと思います。何度でも言いますが、人生で初めて買ったアナログシンセ、楽しいです。最高!

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