11月12日発売-AZKi 1st Full Album 「without U」ライナーノート風

ホロライブの音楽レーベル「イノナカミュージック」に所属するVシンガーAZKi(@AZKi_VDiVA)が11月12日、初となるフルアルバム「without U」を発表した。バーチャル空間における音楽活動を開始してから1年がたった今、その軌跡を本アルバムから読み取っていく。

「without U」という答えと、新たな始まり。

 アルバムのスタートを飾る曲は「without U」。アルバムタイトルと同名の曲をはじめの1曲に選択したのは、1stオリジナルソング「Creating world」を発表してから月1曲のペースでオリジナルソングを公開し、1st LiVE「The Shitest Start」開催にいたる、昨今の音楽シーンにおいても怒涛といえる活動を経て手にした自信と答えだと感じる。

 それを象徴するのはAZKiの歌に対するアプローチと、歌詞の世界観。清楚でありながら芯の通った歌声の彼女が感情を吐き出すかのように歌ったのは、8thオリジナルソング「いのち」でみられた一つの変化だ。そして2曲間に共通する世界観は「君がいて、私が歌う意味」であるが「いのち」では言い聞かせるような自問という印象があったのに対し、「without U」では"君"に向けてはっきりと自答している。
 Vシンガーとしての存在と開拓者(AZKiファンの名称)との関係性に対する迷いがなくなったことが歌詞、そして「いのち」以上に感情的な歌声から感じられるこの曲を自信をもって1曲目に据えることで、以降の曲、そしてアルバム全体の流れにおいても重要なメッセージ性をもたせている。

変わること、変わらないもの。

 2曲目以降について誇張や偽りなく触れるために、前置きをさせていただきたい。このアルバムはアルバムとしての完成度が非常に高く、感じたものはまさに「輪廻」そのものであるということだ。曲順をタイトルで見ても、曲調で見ても、歌詞で見ても明確に感じるのは間違いはないと思う。12月29日に開催される4th LiVEのサブタイトルが「AZ輪廻」であるのも偶然ではない。

 それを前提に2曲目以降について触れていくが「コトノハ」「嘘嘘嘘嘘」「自己アレルギー」はそろってバンドサウンドで構成されており、これは12thオリジナルソング「ERROR」から繋がる彼女の成長によって生まれた振り幅といえる。激しい曲調とエモーショナルな歌声は、これまでの「らしさ」をよい意味で1つ飛び越えていると同時に、序盤で3曲続くことによりアルバム全体の楽曲性においてわずかに不安を感じたのは正直なところであった。

 それゆえに続く「虹を駆け抜けて」が強烈に刺さる。この流れにはやられたとしか言いようがない。この曲を聞いた時点で、もうこのアルバムも、これからのAZKiも大丈夫だと確信できるほどに、言ってしまえば安心したのだ。だからこそ、6曲目の「ちいさな心が決めたこと」をまっすぐに受け止めることができる。AZKi自身が作詞作曲を手掛けた曲であることが大きな部分であるが、ここまでの曲の流れがAZKiのこの一年間のキャリアにシンクロしていて、それは奇しくも私が2曲目以降に感じた一喜一憂の流れと重なった。

「終わり」をどう捉えるか。
 

 そんなことを言うと、じゃあアルバムのストーリーとしてはまさにクライマックスじゃないかと思われるだろう。だが、先ほどの前置きを思い出して欲しい。「輪廻」において終わりとは同時に始まりでもある。だからこそ「世界は巡り、やがて君のものになる」のだ。全13曲において中間にあたる7曲目がこの曲であることは必然であり、これはAZKiとしての活動テーマの本質にそん色ないのではないだろうか。個人的な感想を述べれば、作詞作編曲を手掛けたさめのぽきがキックの音色とリズムを心音に見立てる手法をとったのは自身もVシンガーによる制作プロジェクトを手掛けているからこその、バーチャルへの思いの表れと感じている。

 となると8曲目からの「Midnight Song」「Reflection」「のんびりと、」の流れもすとんと腑に落ちる。序盤3曲とは反対に「らしさ」に溢れた曲でありながら、大人びた雰囲気から無垢な可愛さまで表現していく様は確実に進化を遂げながら、根っこの部分が揺らいでいないことを感じられる。
 そして11曲目「フロンティアローカス」。創造・開拓してきた世界、これからの新天地への決意を歌う緩やかながら明るくポップな楽曲だ。ローカスは"場所"や"軌跡"を意味するが"遺伝子の位置"を表す言葉でもあり、バーチャルシンガーの楽曲でこの単語をチョイスできるのは巧妙の一言だ。
 ここまでくると既発表曲である「リアルメランコリー」と「Starry Regrets」のアルバムRemixがラストを飾るのも頷ける。回帰もまた「輪廻」なのだから。

「without U」によって循環するアルバム

 そしてもう一曲、ここで紹介しなければならない曲がある。ここまで読んでくれた人ならこのアルバムの14曲目があると気づいてもらえると思う。
 
 そう、「without U」である。
 
 これは主観で、語弊があれば申し訳ないが、よいアルバムとは「聴きごたえがなく、それでいて聞き続けたくなる」ものである。この曲順で聞きたいと思えるもの、さらに言うと文字通りヘビーローテーションしても耳も心も疲れないものだ。このアルバムの完成度が非常に高いと言った音楽的理由はこれに尽きる。この記事を書いている今現在も延々とアルバムを通しでループしているが、いい意味で聞き終わった感がなく、むしろ毎回なにか新鮮な気持ちで聞いている自分がいる。

 それは「without U」と言う曲がアルバムの最初の曲でありながら、最後の曲でもあるからだ。最初の「without U」でAZKiはここまで来たんだと感じた後、すべてを聞き終えてもう一度聴くとだから「without U」なのかと今度は納得してしまう。そうやって循環して聞けるストーリーを持ったこのアルバムは、何度でも言うが「輪廻」なのだ。