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旅に生きる2019/09/11 ~地名から読み取る~ ③それでは追及いたしませう

※皆さまからの投げ銭で旅をする記事です。投げ銭が多いと旅先でお風呂に入れます(´;ω;`)

お詫び(画像の手ぶれが酷くなります。雨で設定画面をタップした状態になり手ぶれ補正が外れてしまったのが原因かと思われます。申し訳ありません)

宮沢賢治記念館 (13)

標高183m胡四王山。

宮沢賢治記念館と山猫軒が賑やかなこの低山にはひっそりとした道がある。

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みやけんがイーハトーブと名付けた地名に関して。

簡単に反論はできる。

「創作に使うため改変したんだ」「個人的なモノだ」

たしかに。

ちょっと捻った地名に改変したりするのは珍しくもないことである。

だがここで逃してはならない。

後世、清潔に整えられたみやけんを暴くのだ。


みやけんは非常に郷土愛が強い。

だから岩手県を理想とし愛した。

『イーハトヴ童話 注文の多い料理店』の宣伝用広告ちらしには

「イーハトヴとは一つの地名である。強て、その地点を求むるならば、大小クラウスたちの耕していた、野原や、少女アリスが辿った鏡の国と同じ世界の中、テパーンタール砂漠の遥かな北東、イヴン王国の遠い東と考えられる。実にこれは、著者の心象中に、この様な状景をもって実在したドリームランドとしての日本岩手県である。」

とみやけん本人が書いたと推論される宣伝文句が出ている。


岩手県、花巻市という故郷の自然を誰よりも知り尽くした男が、

『歴史や由来を消し去る』ことは矛盾である。


このような反論も可だ。

「言葉のアイデアは元の地名だ。だから矛盾していない」

追撃はこうだ。

『別な言葉へ移し替えているのに元の地名から逃れられていないではないか』

みやけんが完全独自に生み出しても否、みやけんが元々の地名からひねったとしても否なのである。

みやけんがちゃんと記録を残しておくか誰かに意味を話していればよかったのだがそれをしていない。

だがそのわからないが、素敵な響きを井上ひさしが富田勲がヘクトが作品のタイトルにした。

イーハトーブを冠した会社もある(しかもあのパソナの系列だ)

そして岩手県が、花巻市が使っている。

みんな『ルーツは岩手県』と知っているし『理想郷であり原風景』と知って使っている。

だが『岩手』本来のもつ意味に付加した言葉として観光的に、そしてイメージ的に使っているだけであろう。


みやけん本人はどうだったか?

きっと日常では使わなかっただろう。使われても周りが困る。羅須地人協会に集まった若い農民達に説いたかもしれないが彼らもそれを実用することはなかった。


ここで『たびいき』恒例のきな臭い話題へ入り込むが、

みやけんと言えば『国柱会』

右翼だ国粋主義だというテーマでここは触れない。

戦前に使われた『八紘一宇』

国柱会の田中智学の『造語』である。

よく左翼関係は叩くし右翼関係は持ち上げる。

当時の社会情勢もあるわけだがだいたいスローガンを作る時は『意思の強い表示』である。

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みやけん本人は政治というか、そもそも軍国的なことや国粋主義なことは嫌っている。

彼はただ純粋に法華経に受けた衝撃を信じたのだと思う。

だがなぜ他の、いや日蓮系統の伝統宗派でもよかったではないか?彼が国柱会を選んだのはなぜなのか。

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実家への反発もあり父が信者であった宗教(浄土真宗)を嫌い、

だが好戦的な感じはしない。

国柱会は石原莞爾や井上日召など極端な人間が多いが、その反面そういう路線と真反対な人間も所属しており、他団体のように対立で瓦解や分派するわけでもなかったのが興味深い。


たぶんここにポイントがある。

『時代の流れ』は嫌いだ。

反権力ではないが、農民のために尽くそうと一貫した行動をとっている、そしてみやけんの作品は往々にして『理想郷』と『本来は理想郷に住む資格のある民百姓が苦しんでいる』こと、そして家業の古着屋と父親の態度という原風景から、『助けられるのに助けない人』『志のある人が共同体を為すこと』を求めて出した答えが『国柱会』なのではないかと。


そもそもどこかに所属しなくても己のみで信仰を完結昇華させることはできる想像力は人一倍持っているはず。

きっとみやけん的身の程身の丈で自分が把握、実現可能な『八紘一宇』が

『羅須地人協会』であって、

その他地質調査のおり休ませてもらった家々に配ったというお題目の札、

そして遠い夢として

『故郷の岩手がいつかみんなが助け合える理想郷になってほしい』

と願った結果が『イーハトーヴ』なのではないか?

つまり静かに内に秘めたる強い願いの『お題目』なのではないだろうか?

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気持ちはわかる。

だが例えば自分が「住んでいる土地が理想郷になってほしいので『デスメタタールタウン』と呼びます」とやったらどうか?

気持ち悪い。

だがそれが素晴らしい才能で愛されている男が残した『呪文』であればどうか?

意味はよくわからないけど使う・・・・無意識だがたくさんの人間が『唱える』ことと同じだとみやけんは考えたのではないか?


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彼は出版物の売れ方としては非常に不幸なほうであろう。

ゴッホのようなものだ。だがゴッホと違うのは売れてはいなくとも「彼は素晴らしいよ」と認めてくれる人が複数いたことだ。

そのかわり作品が出来上がると朗読をしていたような気がする。

また自作の劇を演じたり、教員時代に生徒に演じさせたりしている。

原稿を幾度も書き直したり、出来上がったモノを何度も加筆修正して『最終決定稿』がないのも(これがファンや評論家を翻弄させる)


『常に声に出して伝える』こと前提だからではないか?

幾度か朗読して相手の顔色や反応によってわかりやすいようにと加筆していく・・・・

だから学者の知識という基礎の上に堅苦しい文章ではなく、子供でも反応できる『オノマトペ』を組み合わせて声に出した時にバイブス上がるように仕掛けていったのではないか?


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みやけん、君は『お題目』も『詩』もみんな

声に出す事で何かに至ろうとしたのではないのか?

だとすれば地名を言い換えたのは『作品上で使うための改変』ではなく

やはり君の願いを込めた『呪文』なのではないかね?

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つまり君そのものが『宗教』だ。

『イーハトーヴ』に花巻市の治水の歴史なぞ詰まっていない。

君は地質調査で他人に見せる地図にはちゃんと

「Quartz porphyry」「alluvium」と専門用語を使っている。

あれほど魔法のように言葉に命を吹き込んだ君が平易に伝えようとかそういう意味合いだけで言葉の質を下げる事は絶対にしない。


文章やその文章の中で使う記号は子供相手でも『伝える内容のレベルを下げてはいけない』からだ。

難解な解説をわかりやすい言葉に置き換えるのはOKだが、円周率が3ではないように、地名も『使われているモノを捻じ曲げる』わけにはいかない。

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だから『理想郷』という目的のために『音』を重要視して元の『岩手』から動かそうと願ったのではないかね。

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と、なれば今岩手県で君が故郷の観光業に大いに利用されているのは『成就への道』なのか。

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だが君のことを追及したから君が堕ちるわけではない。

いわゆる『信仰で迷惑をかけるタイプ』ではないからだ。

同じ神にお祈りを捧げても経典を手にする者と銃を手にする者がいる。

それらをわける垣根はただただ『攻撃性』である。

熱を帯びた『信仰心』がそれに混ぜられてしまう場合もあるし、それに自ら混ざって『暴力に対しての正当性』を持たせようとする人間もいる。


聖書の嘘を暴き出す学者は世界中にいるが、彼らも日曜には教会に通い祈りを捧げ、

『聖書の嘘を暴くことでより信仰が深まる』とすら言う。

つまりまやかしではない真の教えに近づく行為だと言うのだ。


今回自分がみやけんの『言葉を声に出す』ことに勝手にいちゃもんをつけてみたのも同じだ。

みやけんの作品だけをもっと見たほうがよかろう。

遺族が神聖なるものにしてもみやけんの望んだ『農民や自然とのゼロ距離』から遠くなるだけだ。

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もちろん遺族だって責められるものではない。

そうすれば食っていける。

岩手県も米と漁業に次いで観光が賑やかな奥州藤原氏、美しい山々に『宮沢賢治』というキラーコンテンツを手にできている。

winwinだな。

最後に理想郷が岩手県にできたとしてもそれはみやけんが望んだものよりももっと換骨堕胎されて柔らかく着地するはずだ。

『すきとほる複六方錐』『人の世界の石英安山岩』はやはり人間の後付けに左右されるものではないだろうよ。


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それにきみは何か壊すことはできなかった。

平和だ。それは実に日本的である。

そして『言葉』から離れられなかったところもやはり日本人だ。

宗教人でも革命家でも、嫌でも実家の金を使い変化を起こせる立場に君臨する事もなかった。

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君の生まれた土地は理想郷ではないが、相当に理想郷に近い国である。

歪んでいない視線で見つめるには少しだけ病弱で早く死にすぎたのかもしれない。


に続きます

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