廣島ミュージックホール

「これ以上のものが他にあるというの?答えはノーさ」

2021年5月19日。
僕は初めて広島㐧一劇場にいた。
広島にある大きなストリップ劇場が閉館するというニュースを聞き、
僕は福岡から新幹線に乗ってやってきた。
劇場に通い始めて1ヶ月。ストリップのことも劇場のこともまだあまり知らなかったけど。

劇場は徹夜組も出て早朝から長蛇の列だった。
開場と同時に満席となり、立見の人もたくさんいる。
ロビーには溢れかえる人と沢山のスタンド花。
初めて来た僕でも只事じゃないことが分かる。

運良く盆近くに座ることができた。天井が高く、横に広く、とても大きな劇場だった。目の高さにステージがあってワクワクする。
照明が落ち、オリーブの首飾りをバックにアナウンスが流れる。「エレガントでエキセントリックなパッションステージをお楽しみください」。

その日はほとんどが初めて観る踊り子さんだったけど、どの踊り子さんも㐧一劇場との別れを惜しみ、全力でステージに立っていることが伝わって来た。胸が熱くなる。

三番目の踊り子さんのショーが始まって僕は泣いた。
演目は「広島の空」、曲はゴトウイズミさんの「劇場」だ。
こんなにもうっとりしたのは初めての経験だった。完全な美しさだった。
ベッドショーが終わると踊り子さんは紅い盆の上に両手をついて客席に向かって深々とおじぎをした。
ただただ涙が止まらなかった。きっと一生忘れないと思った。

翌日の5月20日、広島㐧一劇場は閉館した。

お気づきの方もいらっしゃるかと思いますが、今回のイベント「廣島ミュージックホール」は広島㐧一劇場へのオマージュです。
広島にもう一度踊り子さんが集まったらきっとみんな元気になってくれるんじゃないか。そんな思いで企画しました。

出演は、オルガン座よりゴトウイズミさん、バーレスク界よりMiWAROCKさん、広島㐧一劇場にも出演していた踊り子の栗鳥巣さん、若林美保さん。フライヤーのデザインは飯田華子さん。各方面のエンターテイナーがヲルガン座に集まり、情熱と愛が形となった夢のような一夜でした。足を運んでいただいた皆さん、本当にありがとうございました。

劇場が好きだ。
煙草のにおいのするロビーから大きな扉を開けてホールに入る。
お気に入りの席を見つけて腰を下ろしてワクワクしながら待っていると照明が落ちて音楽とアナウンスが流れてきて、踊り子さんがステージでとキラキラと輝き始める。
僕は時間を忘れてうっとりする。

廣島ミュージックホール最後の演目は若林美保さんの「劇情」。歌はあの日㐧一劇場で聴いたゴトウイズミさんの「劇場」。

「踊り子は劇場のものです。広島は無くなりましたが、全国で頑張っている劇場はまだあります。広島の思いを繋いでいくために…」。ゴトウイズミさんは曲の中で㐧一劇場への思いを語ってくれた。
純白のシルクに若林美保さんが紅いキスマークをつけて優しく微笑む。

廣島ミュージックホールは一夜限りの夢の劇場です。
この夢の続きはいつになるかはまだわかりませんが…。またお会いできるその日まで、あの日の劇場に溢れていた暖かさと笑顔と愛が、いつまでも皆さんの中にありますように。


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