写真を撮ることで、歩いてこれた。
あの、人生ではじめての写真の個展をしています。
いろんなひとが見に来てくれて、お祝いもしてくれて。写真に感想を言ってくれます。作品を買ってくれたりもします。うれしいです。
この展示期間中、あたらめてしみじみ思ったことがあります。
「ああ、写真を撮ってきて、本当によかった」
大学生のころに、まだスマホが当たり前でない、そんな時代にカメラに憧れました。そこから家電量販店でカメラの販売員のアルバイトをしながら知識を身につけ、自由に写真とたわむれてきました。
見た目が子どもっぽいと売り場で侮られると思い、箔をつけるためにフォトマスター検定準一級という資格も取得したり、とにかく毎日飽きもせず写真のことを考えていました。
一眼レフを持って大学に行く日々。友だちを撮りまくっていました。その一部がいまではわたしの大切な作品になっています。撮られることを照れたり恥ずかしがったりしていた友だちも、いつしか一緒に写真を楽しんでくれるようになりました。
友だちでよく被写体になってくれる葵ちゃん。
話しながら撮るのが、楽しくて、楽しくて。
いまとなっては、作品というだけでなく、とっても大切な思い出でもあります。写真はあざやかに記憶をよみがえらせてくれるスイッチ。時間が経てば経つほど、ともに過ごした時間の尊さが身にしみて感じられるんです。
社会人になると、写真を撮る機会は減っていきました。自分の何かが消耗していって、なかなかシャッターを切ることなく。
新卒で入社して、たしか5ヶ月ほどで大阪に異動することになって、見知らぬ土地での生活。楽しさもありましたが、知り合いもおらず、もともとぐうたらなので、休みの日に出かけることもなく過ごしていました。
このままじゃ、だめだ。
焦燥感に突き動かされて、小豆島へ。はじめてのひとり旅をしました。何かを変えるんだ、それを確かめるんだ、と思っての旅行でした。
心細いひとり旅。そんなときも、わたしには写真がありました。
とってもいい旅の理由になってくれたのです。
旅の最中は、ずっと何かを書いていました。日常を離れゆっくりと考え、知らなかった瀬戸内海のやさしい色の海を見つめ、孤独感にさいなまれると首にぶら下がっているカメラを撫でて、残しておきたいものを写しました。
何者でもないわたしが、「写真を撮るひと」になれる。
そのことがわたしを勇気づけ、旅する理由をつくり、前に進む力をくれました。「ひとりで旅行をしているひと」ではなく「写真を撮るひと」になれる。ちょっと背筋が伸びて、勇気がわいてきました。
そして、カメラを持って歩くと、それだけで、目に見える景色のすべてが変わるんです。
かたち、色、ひかり、動き。
旅行だけではありません。
それがたとえ毎日見慣れているものであっても、まるで違って見える。
降りそそぐこもれびの光、信号機、ひっそりとした雑草、ゴミ、サンダル、雨、なんでもです。
写真を撮るって、ひかりのなかを旅するよう。
ふと実家の近所で写真を撮ってるときに、そう思いました。
わたしにとっての写真は、そんな風に生きるための道具だと思っています。
写真に助けられながら進んできたわたしですが、ひとり旅が終わってしばらくして身体を壊しました。意地になって自分をごまかしながら進んでいましたが、身体がついてこなくなり、膝カックンされたような感じでした。
やりきれなくて、部屋にもいたくなくて、夜、近所を徘徊したりもしました。でも、カメラがありました。わたしには、カメラがあったのです。
何者でもないわたしが、「写真を撮るひと」になれる。
ちっぽけで、さみしくて、行くあてもなく。
そんなわたしに、写真がありました。
資格もなにもいりません。
上手いもヘタもありません。
ただ、首からカメラをぶらさげているだけで、なれるんです。
徘徊していたときに撮ったこの写真、今回の展示でも飾っています。
この写真を見て、「素敵ね」「好きだわ」と感想をくれる方々がいらっしゃいました。「この作品を買おうかしら、うーん来週までに考えておく」と言ってくれたひとも。
あの日、よれよれの格好で彷徨っていた自分に、教えてあげたいです。
「信じられないかもしれないけど、いまあなたが撮ってる写真を、好きだって言ってくれるひとが現れるんだよ」
なんだか過去の自分が、自分の写真で救われるような、やさしい時間でした。個展をやって、よかった。
「ああ、写真を撮ってきて、本当によかった」
幸せを噛みしめて、これからも写真を撮っていきます。
個展に来てくださった方、この記事を見てくださった方、ありがとうございます。あなたのおかげで、わたしは写真のよろこびを味わえています。
さいごまで読んでくださり、ありがとうございます! サポートしてくださったら、おいしいものを食べたり、すてきな道具をお迎えしたりして、それについてnoteを書いたりするかもしれません。