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ブラジャーを買うのは怖くない。

今日は、下着の話をする。ブラジャーの話だ。とても真剣に書く。だから、下着屋さんに行くのがちょっと怖いと思っている、抵抗感があるひとに、ぜひ読んでほしい。

じゃあ、いこう。

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知り合いの年下女の子と一緒にごはんを食べていたとき、白シャツ姿の彼女のからだのラインに違和感を覚えて、わたしは躊躇しつつも、たずねた。服装にも無頓着な彼女。聞かずにはいられなかったのだ。

「ブラジャーって、どんなのつけてるの?」

彼女は答えた。もう何年も、ブラジャーを買ったことがない。ずっと同じものを使っている。だってパンツとちがって、壊れたり破れたりしないから。サイズを測ったこともない。でもきっとAだと思う。

わたしは衝撃を受けた。そして、おせっかいが発動してしまった。気まぐれなやさしさが、振り切れてあふれてしまったのだ。せめて、サイズだけは合ったものを着てほしいと、思ってしまった。

彼女は両親と死別していて、ずっと幼いころから家にひとりだったと以前すこしだけ聞いたことがあった。

女の子は、ちょっとずつ胸がふくらむ。劇的な変化じゃないから、いつブラジャーを買うかもよくわからない。からだが勝手に変わっていく怖さもある。じぶんひとりで考えて調べて判断して、買いに行くようになるというのは、むずかしいと思う。

その数日後、ほかの買いもののために大きな駅に彼女と一緒に出かけたとき、そんなに乗り気でない彼女を連れて、「サイズを測るだけでもいいから」と下着屋さんに行った。いろんなお店があるけれど、できるだけセクシー路線じゃない下着屋さんを選んだ。

わたしはなにも決めない。それだけは、決めていた。だから、店員さんに相談しつつ、しつこいくらい彼女に質問した。

「あんまり締め付けのない、ワイヤー無しのタイプのほうがいいかな?こっちと比べてどう?」
「このタイプのブラジャーだったら、どの色がすき?」

彼女は、いままで考えたこともないことを聞かれて、戸惑っていた。それでも、着るのは彼女だ。わたしが決めることはできない。質問を重ねて、店員さんのアドバイスも踏まえて、仮にふたつの下着を選びサイズを測ってもらった。

店員さんは、やさしくいろんなことを教えてくれる。

「ブラジャーの寿命は、一年くらいって言われてるんです」
「今日測ったサイズも、目安です。ブラジャーによってちがうこともあるんですよ。それから、三ヶ月くらい空いたら、また測ったほうがいいです」

はじめて聞く話に、彼女は驚いていたように見えた。わたしも一緒に驚いた。驚いていろいろ質問してしまった。ほんとうにブラジャーが一年限りの命なのか、三ヶ月で計測ってマジなのか……売りたいだけの文句か、当たり前の基礎知識なのか、あまり詳しくないわたしには判断できないが、でもそのくらい手をかけて身につけるべきものなんだとは思う。

選んだふたつのブラジャーは、どちらも着け心地はよかったと試着室から出てきた彼女。お金の問題もあるので、ひとつを選んで買うという。じゃあ、と。わたしは、もうひとつのブラジャーを彼女にプレゼントした。誰か年上の女のひとに下着を買ってもらう経験があってもいいと思ったのだ。それに、本人が望んでいる訳でもないのに付き合わせてしまった罪悪感もあった。

それから別れるまでの帰り道、彼女にわたし自身のブラジャーの話をした。小学生のときに母が家を出たから、はじめのころは下着はイトーヨーカドーで父と一緒に買いに行っていたこと。でも父は女性の下着売り場コーナーに入りたくないから遠くに待機していて、お金だけレジで払ってくれたこと。大きくなってからは、友だちと買いに行くこともあるけれど、ひとりで買いに行くことが多いこと。下着屋さんは怖くないし、ひとりでも入れるし、わからないことは今日みたいに店員さんに教えてもらってきたということ。

彼女は戸惑いっぱなしだったけど、すこしでもブラジャーを買うことは怖くないことが伝わるといいなあ、と思っている。それからじぶんのことを大切にしてほしい、と願っている。

今回のことで、そんな風にブラジャーのことをまったく知らず、じぶんのサイズもわからず、下着屋さんに行くことが怖いと思っている女の子は、きっと彼女だけじゃないと思った。そんな女の子に対して、わたしはいま、このnoteを書いている。

大丈夫だよ。こんな時代だし、じぶんで家でサイズを測ってネットでブラジャーを買うこともできる。でももしよかったら、最初はどこをどうやって測るのかもわからないと思うから、下着屋さんに行ってみてほしい。セクシーなデザイン以外のブラジャーも、お店には並んでる。それをじぶんの目で見て知ってほしい。

ちゃんとサイズの合ったものを着ることは健やかに暮らすために必要なことだし、なにも恥ずかしくない。堂々と、買いに行こう。そして、これはわたしの勝手な願いだけど、じぶんがすきだなあ感じたものを身につけることを、楽しんでほしい。

ブラジャーとの関わりかた、まだまだわたしは知らないことがたくさんあるので、これから調べて、もっと悩むひとのチカラになれるようなことを考えたい。そう思う。

さいごまで読んでくださり、ありがとうございます! サポートしてくださったら、おいしいものを食べたり、すてきな道具をお迎えしたりして、それについてnoteを書いたりするかもしれません。