見出し画像

透明日記「いくつかの話」 2023/11/28

「なつ休みの日記」
8月3日
食べてはいけない花を食べてたくさんの人が死んだ、と言われている公園で、磁石崎さんと強い磁石を使って砂鉄を拾いました。磁石崎さんは、ハチが飛んできたので石を投げて殺しました。でもハチはすこし生きていて、苦しそうだったので、ぼくは磁石崎さんのこめかみを石でなぐりました。それから、自分のこめかみを石で割り、みんな一緒に苦しみました。磁石崎さんはそのまま死んでしまいました。それまでは、死ぬほどたのしかったです。

「コンビニの事件」
本日未明、20代から80代の男性と見られる男性がコンビニで朝食と見られる商品をレジに運び、20代から80代の女性と思われる女性の手に商品を渡した。男は白か黒か赤か緑色のキャップを被り、女は20cmから200cmぐらいの身長だったとみられている。
男はキャップを被っていなかったという証言もあり、女には身長がなかったという証言もある。店内に設置された監視カメラには何も映っておらず、「俺が監視カメラだ。」と名乗る証人も現れた。一方、目撃者はいなかったという確かな証言もあり、捜査は難航している。
近所に住む男性は、「お赤飯ですか?お赤飯やったら、オニギリで10個が限界です。それ以上はちょっと、恐いですね。」と、事件直後の心境を打ち明けた。

「羽の生えたギャル」
マンションで一羽の羽の生えたギャルがぼくの前を過ぎ去った。すごい速さで、笑っていた。羽の生えたギャルはいつも、マンションで輝いている。廊下や階段、壁や手摺に飛び跳ねて、この世ならぬサーカスの運動をする。それが本当に、美しい。人間の世界にはない、自然の美なんだと思う。

「全老人と全若者」
(全老人と全若者が議論している。全老人の中からポツポツと死んでいく者がある。)

全若者「毎日毎日、同じことばかりじゃないですか、飽きないんですか。」

(全老人、話し合う。全老人の中から叫び声が上がっている。)

全老人「そうですね。」

全若者「真っ直ぐ歩いたり、左や右に曲がったり、後ろに振り向いたりするのは、もううんざりですよ。これ以上の発展はあるんでしょうか。」

(全老人、話し合う。あちこちで泣き叫ぶ者がある。)

全老人「そうですね。」

全若者「それは嘘じゃないですか。真っ直ぐ歩いたり、左や右に曲がったり、基本はそれしかないんじゃないですか。」

(全老人、話し合う。返答まとまらず、どちらが左だったかの確認に時間を要する。左が左だとする人、右の逆が左だとする人で意見が分かれる。言い合いの最中にも死んでいく者がある。収まりがつかず、間に合わせの返答を出す。)

全老人「そうですね。」

全若者「さっきから、そうですね、そうですねって、それしか言わないじゃないですか。」

(全老人、話し合う。そんなことはないという意見が多数上がる。「そんなことはない」に返答が決まりかけたとき、自陣の返答内容を一字一句書き留めていた律儀な老婆キョウコが前に出る。冒頭からの内容を確認したところ、全若者の主張が正しい可能性があると告げる。キョウコ、何者かによって刺殺される。あちこちからキョウコを支持する人々が集まり、殺害されたキョウコが正しかったことが立証される。)

全老人「そうですね。」

(全若者、呆れる。が、全老人の上空に無数の魂が天に昇る姿を目にする。上という方向があった、上という方向があった。上の時代だ。全若者は全老人を追い越せとばかりに自殺し始める。)

全若者「もう議論する必要はなさそうです。上という方向がありました。」

(全老人、話し合う。全若者の融和的な姿勢に緊張がほぐれる。それをきっかけにたくさんの者が死ぬ。混乱が広がる中、落ち着いて返答する。)

全老人「そうですね。」

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?