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その席に座るのはオレだぁと叫びたい人はどれくらいいただろうか

絵を描いているときは、たいていラジオを聞いている。あるベテラン音楽アーティストのラジオ番組を《ながら聞き》していた。


DJはこれまでのゲストの中で最年少かもしれない…と前置きをし紹介されたのが、20代前半の女の子ふたり組のユニットだった。

彼女たちは2020年に結成し、海外の無料音楽プラットフォームで週間チャート1位をとり音楽界隈で話題となっていると説明される。

わたし自身音楽の歴史の流れなどはわからないし、聞いている曲も偏りがあるから彼女たちの【すごさ】は聴いても感銘を受ける…ことはなかったが、テクノ特有の浮遊感からふつうじゃないパワーを感じることはできた、と思う。

彼女たちの音楽は世界で評価されている。
そして地方から、あらゆるものが集中している東京のラジオ番組に呼ばれ憧れのベテランDJとトークを交わすというすごいことをやってのけた。
この短期間に。
非常に現代的で、井上陽水の詞を借りると《タイムが縮んでいる》だ。

けれどこの番組回で彼女たちをはじめて知ることになったわたしは、胸にわだかまりをつくりながら最後まで堪えて聞いていた。


会話が弾まない。なかなか、なかなか
DJは会話の糸口がないか様々なことを質問する。
けれど、答えは「はい、」と遠慮がちに返答するだけでその先が見えない。
高校受験する中学生でさえ面接でもう少し言葉を紡げるんじゃないかと要らぬ心配をしてしまうほど、彼女たちは緊張していた。

しまいには、「なにか、言いたいことはないの、」と優しく問われる始末。彼女たちの不慣れさにスタジオのスタッフも苦笑いが漏れる。ふたりの初々しさに「いいねぇ…」とこぼすベテランDJも思わず苦笑。

もしわたしがふたりのファンだとしたら、「あぁ、めちゃくちゃ緊張してるんだ、普段はもっと○○なのにね、かわいい」となっていたかもしれない。
しかし、残念ながらそうはならず、ちょーーーーっと失礼じゃないかしら、と思っちゃった。

DJに対しても、番組に対しても、リスナーに対しても。

わたしだってすきなアーティスト・アイドルがいて直接話せるイベントに参加するときは緊張と楽しみが ない交ぜとなり記憶が飛んでしまうくらいよくわからないことを口走ったりする。
が、一瞬だがそのわずかな時間をお互いにとって楽しかった、と満足できるひと時にしたいではないか。お互い、にとって

まだまだ20代だし、音楽の流れの一つを担ってきた大ベテランを前にしたら普段の会話もままならなくなるのは当然…かもしれない。実際、普段はもっとしゃべるんですが…とこぼしていた。
でも、そこはもう少し頑張ってほしかった。

ベテランに気を遣わせてはだめなんじゃないかな、と老婆心。そんなに年齢かわらんけど、私。DJが困り果てて[間ができたときに使う]小道具で何度も彼女たちとの距離を縮めようとしていた。DJもなんとか会話を引き出そうとしていた。

この回を聞いてわたしは、無数の、駆け出しの、ベテランDJの番組に呼ばれたい若いアーティストのことを考えた。

僕、オレ、わたし、あたしはもっとたのしく会話できる。たくさん質問したいし、自分(たち)のことを知ってほしい。絶対爪痕残す。いい番組にできるはず。とじれた人はいなかっただろうか、と想像した。

まわりに同じ音楽を聞いている人がいないと話したその地方からたちまち音楽の中心地に呼ばれ、戸惑いもあったのかもしれない。本当はもっと話したいこと聞きたいことがあったのかもしれない。実際、ネット検索して出てきたインタビュー記事などから、彼女たちはこれまでの音楽シーンを深く網羅していてとてもコアだが良質な音楽を吸収してきたようだ。

音楽では饒舌だがまだことばは難しい最中で、レアな時期なのかもしれない。再び彼女たちが同番組に呼ばれ、「前回は全然会話が弾まなかったねぇ…」と気恥ずかしい笑いが持ち上がり盛り上がるのかもしれない。

最近は何でもそつなくこなせる若手が増えてきたから非常に珍しいパターンだったのかもしれない。パーソナリティが困り果てるゲスト。
面接より会話が続かない音楽番組。

そんな許容しようとする気持ちと、ベテランDJと対面できるソファに座りたかった無数のアーティストへのおせっかいに憂う気持ちが対立し、結局楽しかったと思える放送を聞きたかなぁ、といちリスナーのわたしはいじわるな心で淀んでしまった。

……だが、収録後彼女たちが、もっと話したかったのにぃ…!と悔しがり反省会を開いているのではと勝手に想像して、心を落ちつかせた。




※サムネのイラストはテクノポップをイメージして制作。



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