エピソードA-3:父とお金にまつわるエトセトラ 其の三。

ひとり暮らしの大学生活も1年が過ぎようとしていた2月、それは母からの突然の電話だった。

「あんた、来年、授業料免除受けられへん?お父さんがな。。。」

倒れたわけでも死んだわけでもない。正月に帰省した際も元気だった。電話の向こうで声がしたので、失踪したわけでもなかった。電話をかわった父は、声の調子もいつもと変わりなく、そして言った。

「あのな、俺、仕事辞めてん。でな、来年金ないんやわ。何でって?おかん(母)に聞いてくれ」

父の勤め先は全国企業の子会社で、全国各地に結構な数の支所があった。高卒で就職して以来35年、自宅から車で50分以内にある4か所の支所を、数年毎に渡り歩いていた。それが、事業統合で2か所に減るという。また週休3日制を自主施行していたせいか、ずっと平社員だった。なるほどリストラかと思ったが、そうではないらしい。それどころか、人生初の昇進で係長として、自宅から5番目に近い支所に辞令がでたという。それなのに、

「片道1時間って、そんなん無理ですわオレ。係長もイヤやし、辞めます」

といって、しかも3月末ではなく今日辞めてきたと。そして予想どおり「退職金は全部オレのもの」と主張した。既に使い道は決まっているから人にはやれない、のだそうだ。子供の尻拭いというわけではないが、結局翌年の学費と仕送りは、祖母が年金と老後の蓄えから出してくれることになった。祖母は私の大学進学には猛反対だったが、この時は快く出してくれてとても感謝している。

其の四 につづく。


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