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【Review】2019年J1第12節 川崎フロンターレVS.名古屋グランパス「相手が速い方がかわしやすい、って言ってましたよね風間さん」

はじめに

 2019年J1第12節の川崎フロンターレは、1-1で名古屋グランパスと引き分けました。
 試合前から両チームサポーターがそわそわしていた今節、かくいう私もワクワクしていて、和幸のとんかつと共にこの一戦を満喫しました。
 名古屋優位で進み、率直に負けてもおかしくなかったと感じます。特に65分のソンリョンのビッグセーブがなければ負けていたでしょう。それでも引き分けを拾えたのはなぜなのか。そんな疑問を持ちながら、今シーズンを代表するであろう好ゲームを振り返っていきたいと思います。

恐れを超えた名古屋

 以前も感じましたが、名古屋の選手たちを見て「ボールもらうことを恐れないな」と改めて思いました。ボールを扱う高い技術と、それに自信を持つことがこれほどまでプレーに出るのかというのを見せつけられました。去年はまだボールを受けることに怯えていた場面もあったのに、なんと成長が速いことでしょう。中村のコメントも、おそらく名古屋の選手たちを見て我が振り直そうと思ったのでしょう。

中村「もっともっと質を上げていかないといけない。もっとボールを握らなくてはいけないし、崩さないといけない。引かずに前からボールを取れるシーンもたくさんあった。このクオリティを突き詰めていく。そういうことを再確認した試合だった。」
(引用元:川崎フロンターレ公式HP「ゲーム記録:2019 明治安田生命J1リーグ 第12節 vs.名古屋グランパス」<https://www.frontale.co.jp/goto_game/2019/j_league1/12.html>)

 名古屋はその強みを活かして相手陣地の狭いエリアでのパスワークで勝負を仕掛け、そのためにすぐに奪い返す守備も徹底していました。
 とはいえこの戦いに関しては川崎も負けていませんでした。自陣でボールを奪った川崎は名古屋の守備の網をかいくぐるパスワークを見せます。特に前半29分のシーンは、名古屋もお手あげのボール回しだったのではないでしょうか。最近だと川崎相手にハイプレスをかけてくるチームがいないので久々に見た光景でしたが、まだまだ健在でした。

味方の矢印をまとめるジョー

 名古屋の目指す「速いサッカー」を支えているのがジョーでした。個々人の持つ前向きの矢印の大きさと速さ(矢印に速さがあるのか?とかいうツッコミは置いておいて)をジョーが最前線で引き受けています。普通はそれらをまとめるのが難しいのですが、名古屋ではそれをジョーがまとめてくれます。
 ジョーの役割は全員の光を集めてそこを原点に一気に発散させる、まるでレンズの焦点のようなイメージです(もしくは元気玉?)。ジョーは一旦ボールを引き受け、サイドに散らして再びゴール前に、といった基本的な動きの質が極めて高いです。なので普段のように谷口とジェジエウがポストプレーのポイントで奪い切ることが出来ませんでした。
  少し脱線すると、名古屋サポからジェジエウすごい!みたいなコメントを見ましたが、今日はかなり手こずってたように見えます。これまでならもっと一対一で勝ってカウンター発動!だったような場面でも、良くてファールくらいには抑えられていました。川崎が上手くいかなかった原因の一つはここにあります。
 話を戻すと、ジョーが全体のエネルギーを殺さないことが名古屋の速いサッカーを支えています。川崎はその前の攻撃のスイッチ、たとえばシミッチのところにプレッシャーをかけることで名古屋の攻撃を遮断しようと試みましたが、米本や中谷がスイッチの役割を担えるようになると、ちょっと止められなさそうです。

中村「あ、ヨネ、気づいてた? そのとおり。ヨネはまだ、シミッチほど違いは作り出せないからね。今は、まだね」
(引用元:飯尾篤史「誤審騒動で埋もれるのが惜しすぎる。
川崎vs.名古屋はJ史上屈指の名勝負。」<https://number.bunshun.jp/articles/-/839376>)

逆転の想いをダミアンに込めて

 川崎のスタメンに少しだけ触れると、知念のスタメンは小林の怪我とダミアンの疲労を考えた上でのは消去法だったように見えました。ポストプレーと裏抜けによる最終ラインを下げさせることを期待されていたのでしょうが、4試合連続ゴール時の調子からは遠く、反撃の起点にはなれませんでした。ちなみに裏抜けは途中から長谷川がその役割を担っていたように見えました。
 第8節湘南戦(4/19)ぶりスタメンの阿部は、マテウスと名古屋の即時奪回守備への対策でしょう。前者は阿部の気がきく守備、後者は技術の高さとパスコースを作る巧さへの信頼がその理由です。とはいえ絶好調ではなかったことと、初めてコンビを組む馬渡との連携不足からパスミスが目立ってしまいました。
 さてこの試合で多くの川崎サポが気になったのが田中に替えてダミアンを投入した采配でしょう。まず前提として今季はリードされる展開がほとんどありません。負け試合はたいていが終盤の失点です。なのでビハインド時の采配自体が新鮮です。はっきりとリードされた展開としてはリーグのセレッソ戦とACLの蔚山戦がありました。そして後者では今節と同様に田中に替えてダミアンを投入しているので、追いつきたい時の鬼木監督のパターンとも見れるのでしょう。
 そしてこの試合でいえば、田中がすでにバテているように見えました。前半見せていた出足の早い守備が徐々に陰りを見せていました。田中はだんだんとポジションへの戻りが遅くなる特徴があり、たいていはその後のダッシュで帳尻を合わせますが、今回はそれが致命傷になると鬼木さんは判断したのではないでしょうか。
 中村をボランチに下げるかの葛藤はあったでしょう。まだ本調子ではない中でシミッチと米本と対峙させるリスクは大きいです。ただそれ以上に点を取りに行く意志を示したかったと思います。引いて受けるのではなく、残り時間で同点、そして逆転するぞというプランを交代で示すためのツートップ采配だと感じます。あとは中村を残したかったんだと思いますが、彼の重要性は後ほど。

相手が速い方がかわしやすい

 鬼木さんの采配に見えるのが、名古屋の矢印をずらそうという意図です。負けていてもおかしくないと感じた試合でしたが、川崎はこの名古屋の矢印をずらし続けることで勝ち点を拾えたと思います。みぎさんの言うところの「名古屋の枠」で戦うことから逃れようとしました。鬼木監督になってから相手の土俵で戦わない事が上手くなっており、それが2連覇にも繋がっているのだと思います。
 先述のように名古屋の強みは矢印の大きさと速さです。ですがかつて風間さんは下のように述べています。ここでは自分たちがボールを持っているシーンが想定されていますが、非保持でも同様だと思います。

風間八宏「相手がボールを持っているこちらに、すごいスピードで向かってきているということは、裏を返せばチャンスでもあります。車をイメージしてみると、わかりすいと思います。時速100キロで走っている車は、瞬時に止まったり、切り返したりするような動きはできません。トップスピ ードで向かってくる相手は100キロを出している車のようなもの。つまり、ボ ールの位置をちょっと変えるだけで、簡単に外すことができるというわけです。なおかつ、次のプレーに移るまでに時間もかかります。だから、相手がトップスピ ードで来ている時は、選手たちには「ゆっくりやれ 」と言います。」(太字引用者)
(引用元:風間八宏(2017)「超「個」の教科書–風間サッカーノート–」双葉社,第5章,第5項,8-9段落.)

 つまり名古屋の強みはひっくり返すことで弱みになりうるのです。たとえば中村の起用。名古屋を相手にすれば中盤での即時奪回合戦が繰り広げられることは予想できるので、それをさせないためにはボールを落ち着かせる選手が必要です。中村もその役割をわかっていたのでカウンター合戦に応じるのではなく、サイドチェンジを多く入れる事でチームには落ち着きをもたらし、さらに名古屋の矢印を左右に分散させました。
 この試合で必要だったのは中村のように相手を見てプレーできる選手です。本調子でなくても阿部を起用したのは同様の理由でしょう。そう考えると、100キロを出す相手に20キロでプレーするのが得意な家長が欠場していたのは普段の相手以上に痛かったのかもしれません。
 名古屋は矢印がはっきりしています。その大きさと速さを真っ向から受け止めるのは難しいです。でも川崎なら外すことができます。「風間さん、速い方がかわしやすいと言っていたでしょう」。鬼木監督はきっとそう考えていたんじゃないでしょうか。

おわりに

 純粋に1人のサポーターとして興奮する試合で、途中からレビューのこととか忘れてました。ダミアン決めた時とか家なのに叫んじゃいましたし。こういった試合なら普段サッカーを観ない人でも楽しめる、それくらい選手たちの躍動と喜びが伝わってくる試合でした。
 とはいえ引き分けですし、内容でも負けてたのは悔しいですね。次戦う時はぜひとも勝ちたい(名古屋まで観に行こうかな)。

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