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【Review】2019年J1第9節 川崎フロンターレVS.ヴィッセル神戸「統一した繋がない意志、混乱した終える意志。」

はじめに

 2019年J1第9節の川崎フロンターレは、2-1でヴィッセル神戸に勝ちました。これで今季初の3連勝です。

 怪我人続出のためポゼッション放棄を選択した川崎は、全体の意思を統一した戦いで見事勝利。どんな時も繋ぐ谷口が簡単にボールを捨てる判断をしていたのがチームの方針を象徴していました。「中途半端に繋がず」に勝ちに徹したことが良い結果をもたらしました。

イニエスタに負けず劣らずの田中

 勝因の一つはイニエスタを封じたことで、その立役者は間違いなく田中碧でした。イニエスタが怪我明けでらしくないミスが多かったことを考慮しても、素晴らしかったと思います。彼の特徴の一つに相手との間合いの取り方が上手いことがあります。相手とボールの間への体の入れ方が良く、ボール奪取能力が高いのはそのためです。イニエスタ相手にも、初めは交わされましたが、徐々に間合いを見極めてプレー出来ていました。自ら志願してイニエスタのマークを担当した田中でしたが、その任務を達成し自信がついたのではないでしょうか。

田中「最初は飛び込んでうまくやられたんですけど、少しずつ距離感を掴んできて修正できた。全部が全部やられる感覚はなかったです。もちろんやられる場面もありましたけど、いかにクリーンに取れるかは意識していたので、そういう意味では取れる回数も多かったので、良かったです」
「最後のほうは嫌がって僕のところから離れていきましたね。そこは良かったです。自信にもなりました」
(引用元:サッカーダイジェストweb「イニエスタを困惑させた超新星!川崎の生え抜きボランチ田中碧に漂うブレイクの予感」<https://www.soccerdigestweb.com/news/detail2/id=57787>)

 もちろんチーム全体のハードワークあっての田中で、この試合は攻撃よりも守備面でチームの意識が高かったように見えました。

大島「アクシデントやケガ人で少しバタバタしたところがあったが、試合に関してはみんなでいい守備ができて、チームとしてやることが明確だったかなと思う。」
(引用元:川崎フロンターレ公式HP「ゲーム記録:2019 明治安田生命J1リーグ 第9節 vs.ヴィッセル神戸」<https://www.frontale.co.jp/goto_game/2019/j_league1/09.html>)

たとえば2トップのコース限定は守備を強く支えていました。神戸は右からダンクレー、サンペール(山口)、大崎の3人で攻撃を始めるのに対し、川崎は小林、知念の2トップで対応、常に数的不利で守ることになります。これは普段よりも奪う位置を下げるための選択でした。川崎はダンクレーを基本的に放置して大崎からの攻撃に照準を合わせました。大崎のサイドにはイニエスタが位置していますが、それでも勝算があったのでしょう。上述の通り、田中がイニエスタを封じることに成功します。

イニエスタの後退は神戸の停滞

 田中の守備に手を焼いたイニエスタは徐々に低めの位置でボールを受けるようになりました。その位置に山口やサンペールが代わりにポジショニングできれば良いのですが、それが出来ないのが今の神戸の欠点。中盤の3人がゴールから離れてボールを受けるようになっていきました。ここに川崎がボールを持たれたのではなく持たせたと感じる要因があると思います。前半の途中から三田の投入まではこうした状況が続きました。
 イニエスタが引いてもらうようにビジャが静かになりました。焦れずに落ちてこないあたりは生粋のFWだとは思いながらも、何も出来ずにもどかしそうにも見えました。ダンクレーから直接ビジャにボールを届けようとはしたものの、やや無謀でカットされ、カウンターの起点にされていました。
 神戸のもったいなかったのはそんなダンクレーからの展開が少なかったことです。せっかくプレッシャーが弱くフリーなのに、前方近くに受け手がいないためにパスが出せません。ポジション的には山口が受け手になれればベストなのですが、相手と距離を保って受けたい山口は引いて受けるシーンが多く見られました。そんなダンクレーから攻撃のスイッチが入り始めたのは古橋が右サイドに移動、そして三田が入ってから。出し手として優れたダンクレーと西から効果的な縦パスが入り始めます。こうして徐々に神戸は攻勢に出始めました。

西VS.登里から攻勢に出る神戸

 終盤で印象的だったのが西VS.登里が増えたことです。それまで西のマークは長谷川が、登里は小川や古橋を担当していました。しかし古橋と三田が大島と長谷川の間でボールを受けることで、長谷川は内側に絞らざるを得なくなり、結果西が上がるスペースが生まれました。
 こうして西と登里がマッチアップすると、神戸は登里を前に釣り出すことに成功し、SBの裏のスペースに古橋や三田を走らせて活用しようとします。川崎としては谷口や大島がカバーリングに走る必要が生まれ、ポジショニングが綻びます。失点はおそらくこの試合で初めて大島がカバーリングした場面で、ゴールを決めた古橋をフリーにしてしまった遠因はここにありそうです。
 その後も度々西の攻め上がりから神戸はチャンスを作りました。同点には至りませんでしたが、神戸は西に高く位置取らせ、イニエスタや古橋の近くでプレーさせられると攻めに迫力が出ると思います。

プレーを切れなかった川崎

 全体を通して狙い通りに進めた試合でしたが、終盤の神戸の攻勢の受け方には課題が残りました。この試合で川崎が優位に立てたのは2トップのポストプレーとサイドハーフのドリブルという武器を見せ続けたからです。つまり彼らのガス欠は一番気を付けなければいけないポイントでした。にもかかわらず対応が後手を踏んだのは今後の改善点です。
 遅れた原因は大きく二つ、一つは采配です。たしかに難しかったと思います。3点目を取れそうな気配があり、取れれば試合を決められていました。とはいえ体力面で90分間替えずに戦いきるのは無理で、どこかで撤退戦に切り替えなければいけないことはわかっていたはずです。また山村に与えられた役割が不明だったのも課題です。はじめは2トップに位置するも、ビジャの負傷後は一列下がって中盤を五枚にするなど迷いが見えました。チームとして割り切って戦えていたので決断のブレがもったいなかったです。
 もう一つはピッチ内の選手たちがプレーを切れなかったことです。82分の失点後に鬼木監督は鈴木の投入を決断し、83分過ぎには準備完了していましが、実際にピッチに入ったのは88分30秒頃と約5分もの間プレーを切ることが出来ませんでした。ここで指摘したいのは切るチャンスはあったということです。何度かボールを奪っていましたが、そこでの判断はすべて前へのクリア。誰一人外に出して交代を早めることはしませんでした。
 幸いにも1失点で済みましたが、疲労で戻りが遅くなっていた齋藤を突かれて同点に追いつかれていてもおかしくなかったと思います。あの時間帯は攻め込まれ続けていたこともあって、一呼吸ほしい状況でもあったので、迷わず外に蹴り出す選択をしてほしかったです。そう思うと昨年ホーム札幌戦(7-0大勝)で、中村が田中の交代を早めるために大きく蹴り出したのは、実は相当難しい判断だったのかなと感じました。

おわりに

 実は今節は神戸まで遠征してきたのですが、生観戦でもっとも印象的だったのが大島が審判と多く話していたことです。普段のDAZN観戦だとわかりませんでしたが、かなりこまめにコミュニケーションを取っていました。一般に試合をコントロールする審判とのコミュニケーションは、試合を円滑に、そして自分達に有利に進める上で重要です。最近のレビューでは試合をコントロールする大島を書いていますが、こうした些細な、けれど重要なポイントでも大島は試合を支配しようとしています。末恐ろしい…。
 最後になりましたが、馬渡のFKは見事でした。情報がないのを逆手に取って狙ったとはいえ、技術が無ければ入りません。改めて彼の技術の高さを見せつけられました。と同時に、苦しい時に流れなど関係なくセットプレーはチームを救ってくれることを痛感しました。中村不在時のプレスキッカー問題に解決の光が見えてきたので、次はCKからのアシストを期待したいところです。




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