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【Review】2019年J1第21節 川崎フロンターレVS.松本山雅FC「ボールは動けど松本は動かず」

はじめに

 2019年J1第21節の川崎フロンターレは、0-0で松本山雅FCと引き分けました。
 3連戦最後ということで、選手起用も体力や調子を優先的に考慮してそうなスタメンでした。中三日でもスタメンフル出場だった選手の1人が家長というところで、彼のタフネスと器用さに頼りたい鬼木監督の思いを感じるような感じないような。詳しくは前節レビューを。
 そんなわけで日程面から体力と準備に差が生じる2チームの対戦ということで、松本にとっては狙い通り、川崎にとっては苦しみ続けた試合になりました。

カウンターだけじゃない

 まず松本で称賛したいのが阪野で、85分の決定機を沈めていれば完璧な出来でした。川崎としては昨年の天皇杯に続きまたしても阪野に苦しめられました(思い出したい方はハイライトをどうぞ)。ボールを収めて攻撃の起点になりつつ、ファーストディフェンダーとしてパスコースを遮断することで後ろを助けるなど、阪野の獲得は松本にとって起爆剤になりそうです。
 松本はそんな阪野と2人のシャドー杉本とセルジーニョを中心に攻撃を展開します。とはいえ単純なカウンターだけでなく、彼らにWBが参加する形も見られ、縦の速さと横幅を使った攻撃が随所に見られ、この辺は反町監督の狙い通りだったでしょう。
 加えてただ縦に蹴って運ぶのではなく、後ろでボールを回そうとするシーンが以前より増えていた気がします。一つの狙いは、反町監督が「消耗戦」と表現したように松本は基本的に自陣でボールを持てない想定だったため、自分たちの時間を増やしてボールを持たれる時間を減らすことでしょう。
 もう一つが選手を前に送り出す時間を作ることです。松本はこの試合、前田の裏抜けではなく阪野の競り合いを攻撃の起点にするため、こぼれ球のためにその周辺に選手を配置したり、逆に展開するためにWBが上がっておいたり、なにより阪野に駆け引きの時間を与える必要がありました。そうしたことから、ミスをしても後ろで回そうとしたのでしょう。

網目の細かい松本のフィルター

 川崎を無得点に抑えたキーマンとして藤田とパウリーニョのダブルボランチは外せないでしょう。彼らがゾーンを忠実に守り、川崎のパスコースを遮断し続けたことが一つの勝因でした。
 マンツーマン主体で守備をする松本の中で、彼らを含め中盤の4人はゾーンを強く意識していました。彼らはまず背後へのパスコースを遮断するようにポジショニングし、その上でプレスをかけていました。ここで背後にいるのは主に知念と中村です。松本は川崎のボランチがボールを持つと、時に阪野、シャドー、ボランチの三層構造でパスコースにフィルターをかけ、中央突破を防いでいました。
 この守備には二つの欠かせない要素があり、一つが運動量です。90分通して川崎の横の揺さぶりに対してもスライドしてついていくことが求められます。そしてもう一つが動きながら背後の敵を認知し続けることで、ここがボランチの2人が優れていた点だと思います。ボールと敵、そして味方の位置を認知し、そこからボールホルダーの視界を想像し、パスコースに立つ。2人は試合後、頭が相当疲れていたでしょう。
 これによって川崎は、中央にいる知念と中村にボールを配給できずに困りました。知念がサイドに、中村が後ろに下りてボールを受けようとしたのはそのためです。前半の川崎のアタッキングサイドが左から42%、17%、41%だったのが松本の守備が上手くいっていたことを表しています。

ボールを動かしてどうにかしようとする川崎

 今節は3連戦最後の、広島遠征後の中三日で迎える、そして飲水タイムが設けられるほどの気候の中での試合ということで、普段よりも走れないことはわかっていました。実際この日の走行距離は102.523km、前節広島戦の110.785kmから約8kmも減っていました。一方でパス本数は868本、今期平均が655.8本であることと比べると多いことがわかるでしょう。川崎は足ではなくボールを動かすことで松本を攻略しようとしました
 たとえば前半途中から中村がサイドチェンジを数本繰り返しましたが、これは守備陣を横に揺さぶろうとしたものです。さらにいつものように中村は自分が動くことでボランチを釣り出そうと試みます。これらは今まで何度も見てきた光景でした。
 ところが松本の守備は動きません。横の揺さぶりに対しては運動量はもちろんですが、選手間の位置関係が大きくずれないよう、ある程度ゾーンを定めて守っているように見えました。それゆえ中村の動きに対しても人が大きく動くことはありませんでした。
 可能性があったのは大きく二つ、一つが最終ラインの選手を巻き込んだ局地戦。最終ラインは比較的マンツーマンの傾向が強く、そのため32分に中村がフリーでボールを持てたように、選手が交差すると対応が遅れます。もう一つが斜めの楔で、ボランチのフィルターは動かないものの、シャドーは奪いにいくタイミングでフィルターが乱れるため、SBが持った角度からだとシャドーとボランチの間が開くことが多かったです。ただこのコースに中村と知念が被るシーンが何度もあったのが悔やまれます。

バタバタと足掻く川崎

 鬼木監督は采配で足掻きました。その一つがサイドの入れ替えでした。鬼木監督としては中村が落ちて出し手として機能すれば、松本のフィルターをくぐり抜けることも可能だと踏んでいたのでしょうが、上手くいきません。そこで中央突破を一旦諦め、サイドをえぐる方針にチェンジしたのではないでしょうか。

鬼木監督「あと両サイドを変えたところで言いますと、少し5枚の相手に対して内側、内側という形で、ポジションはとりますけど、ボールが外回しになっていてそこからの仕掛けというのがなかった。単純にコンビのところと、外からでも仕掛けられるような、例えばマナブ(齋藤学)であれば右足で向こうから行けるように、家長であれば左でクロスを含めてというところで、最初はプランを組みました。最終的に2トップにするときにまたちょっと変えたということになります。」
(引用元:川崎フロンターレ公式HP「ゲーム記録:2019 明治安田生命J1リーグ 第21節 vs.松本山雅FC」<https://www.frontale.co.jp/goto_game/2019/j_league1/21.html>)

 ただ入れ替えた趣旨である外からの仕掛けには繋がらず、サイド突破は長谷川の投入を待つことになります。長谷川と登里のコンビはある程度仕掛けられる一方で、家長と車屋は連携がいまひとつで、互いのやりたいことを理解していないように見えました。たとえば距離感が悪いために同数でも1対2の局面になってしまったり、車屋がサイド崩そうとするタイミングで家長は中に入ったりと、普段組んでいないせいか噛み合わない場面が多かったです。となると少し鬼木監督の采配が場当たり的だったの気も。

谷口「本当に相手が引いていたので、自分はフリーでボールを持てていた。僕が高い位置で食いついてくれれば、他が開く。そういうポジションを取って、相手を動かせればと思ってやっていた。崩しきるところまでいけなかった。」
(引用元:同上

 ほかにも谷口が上がる工夫も見られました。相手を食いつかせる狙いがあったようですが、実際にはあまり食いつかれず、むしろフリーで持ち上がれる状況でした。特に相手のシャドーが川崎のボランチや中村に食いついた時に、松本のフィルターの外から縦パスを送れるのが効果的でした。69分のダミアンへの楔のパスや、92分の長谷川へのスルーパスがそのパターンによるものでした。中盤が中央に寄ったその外側を通すパターンをもっと作れるとこじ開けられたかもしれません。

おわりに

 全体を通してどういったプランニングだったのかが見えない試合でした。FW2枚準備させていたことから、疲れさせて後半勝負という思惑に見えましたが、後半2人を入れた時にはガス欠になっていたように思います。家長が指摘していますが、攻め続けていたせいか、どこではっきりと攻勢に出るかがチーム内で共有しきれていなかったのかもしれません。

家長「今日に関しては、連戦だったのもあるが、リスクをかけるタイミング、どこでいくのかというのは全体としてもイメージを共有できなかった。」
(引用元:同上

 3連戦の最後で体力的に厳しかったことも考えると、引き分けという結果にはそこまで悲観する必要はないと思います。むしろ広島戦の負けの方が悔やまれます。
 クラシコからチームの調子は下向きに感じますが、そろそろ上昇させたいところ。次節が選手だけでなくサポーターもなんか昂ぶる名古屋戦というのが吉と出るか凶と出るか。この目で見てきます

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