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【Review】2019年J1第10節 川崎フロンターレVS.ベガルタ仙台「勇敢な仙台に立ちふさがった2人の若武者」

はじめに

 2019年J1第10節の川崎フロンターレは、3-1でベガルタ仙台に勝ちました。今季初の4連勝で4位まで浮上。現在首位FC東京相手に引き分けたのが最後明暗を分けそうですね。
 仙台戦で忘れてはいけないのがホームとアウェイ席の間に緩衝帯がないこと。歴代1位の入場者数25789人を記録したのはこのためでしょう。

 2011年の震災以降、復興支援で友好的な関係を築いてきた両チーム。緩衝帯のない席割りはその友好の象徴といえます。現在ほかのクラブではこうした事例は聞かないように、緩衝帯がないことは当たり前ではありません。ないこと、さらにはファンサービスへの敬意を忘れてしまっては、いつの間にか失ってしまうかもしれません。歴史に感謝しつつ、来年も緩衝帯なしで開催できることを願っています。

守から攻に勝機を見出そうとした仙台

 仙台は渡邉監督の哲学から全体的に繋ぐ意識を高く試合に臨んでいました。それが特に現れていたのが守備から攻撃への切り替え時(ポジティブトランジション)で、自陣深い位置で奪っても蹴り出すのではなく繋ぐことを試みていました。
 そこで重要だったのがジャーメインとハモンロペスの2トップで、彼らがボールを収められるかがポイントでした。というのも川崎は攻撃から守備への切り替え(ネガティブトランジション)が速く、前がかりにボールを奪いにきます。そのため後ろに残す選手は少なく、カウンターのリスクは大きいです。仙台は川崎の前への矢印の逆を突き、川崎の2CBに2トップを当て同数で攻撃の起点を作ろうとしました。

渡邉監督「要は我々が守備をしているところから攻撃に転じるときに川崎さんのプレスに手を焼いたという事は実際にあったと思います。それを回避するための準備というものは、前線が2トップのところで2対2になっている状況も結構ありましたので、そこでひっくり返せれば状況も違ったでしょうし、一つ収まれば全く違った状況も作りだせたと思います。回数は少なかったですけど、前半にそういうようなシーンも実際にあって、通らなかったパスもクオリティさえ高めていけば裏もとれているという状況もベンチでは確認をしていましたので、見えているところは悪くないというところだと思います。」
(引用元:川崎フロンターレ公式HP「ゲーム記録:2019 明治安田生命J1リーグ 第10節 vs.ベガルタ仙台」<https://www.frontale.co.jp/goto_game/2019/j_league1/10.html>)

 しかし渡邉監督が述べているように2対2の場面では2人のCB、特に初スタメンのジェジエウが立ちはだかりました。主に対峙することの多かったハモンロペスは、チーム戦術のせいか足元で受けることが多く、そのためジェジエウの得意な土俵、つまり身体的な競合いで勝負を余儀なくされました。スピードを活かしでスペースで受けられると良かったのでしょうが、おそらく距離感を保ったまま押し上げたいチーム方針を考えると足元優先になるのでしょう。一方のジャーメインも谷口に抑えられるシーンが多かったです。ただこちらの場合は登里とのマッチアップも多くあり、数的不利な場面も見られました。
 とはいえ仙台は2トップでボールが収まるとチャンスに直結していました。たとえば27分の攻撃、ジャーメインが谷口に競り勝ってサイドに展開、そのまま振り切ってPA内に進入してボールを受けたシーンは渡邉監督の言う「ひっくり返せた状況」でした。ああいった場面をもっとたくさん作りたかったのだと思います。

統一できなかった守備意識

 その前の攻撃に繋げる守備においては少し引いてしまいました。本来のゲームプランでは、前からプレスをかけてボール保持率を半分までいかなくとも45%くらいまで引き上げて(実際は39%)、川崎をもっと疲れさせたかったのだと思います。コイントスで勝った仙台がピッチを交換したのも前半凌いで、川崎が疲れた後半で勝負をかける意思の現れだと感じました。

渡邉監督「ゲームは守備の部分で我々が一番やりたいことをなかなかやれなかった前半だったかなと思います。これは暑さもあって、コンディションの部分も恐らくあったでしょうし、後ろに重心が行ってしまって下がらずをえなくなってしまったというところ、そこは我々の選択肢としては一番最後なのですが、そこを強調してしまった部分があったのか、そこの時間が長くなってしまったがゆえに、押し込まれる時間が増えたというところが、実際にもったいなかったなと感じています。」
(引用元:川崎フロンターレ公式HP「ゲーム記録:2019 明治安田生命J1リーグ 第10節 vs.ベガルタ仙台」<https://www.frontale.co.jp/goto_game/2019/j_league1/10.html>)

 しかし上述の通り前半の守備は思うようにいきませんでした。その要因の一つがコンディションでしょう。リーグ戦、暑さを考えると1試合通してプレッシングは無理で、行く時と下がる時をどうしても使い分けなければいけません。ただそのバランスは難しいと思います。この点に関して川崎はある程度持てる前提なのでガンガン行っても問題ありませんし、神戸戦では持てないと割り切っているのではっきりと使い分けていました。仙台はこの使い分け統一できていないように感じました。
 たとえば1失点目のシーンでは、奪った後に蜂須賀が素早く高い位置を取ろうとする一方で、最終ラインは押し上げようとしません。理想では奪って後も近い距離でパスを回したい仙台としては、全体を素早く押し上げる必要があるのですが、あのシーンでは何度か攻守の入れ替わりが続いたせいか、蜂須賀の上がりが浮いていました。そのために生まれたギャップを小林に突かれて失点しており、現在の課題が出たシーンだったと思います。

仙台は強くなれるチーム

 もう一つ仙台で気になったのが受け手が困るパスが多かったことです。バルセロナだとミリ単位でパスを通すと言いますが、仙台の場合左右のどちらに届けたいかが曖昧でした。それこそ再び1失点目の場面は、ジャーメインがサイドに流れて受けようとしているので彼の左足(タッチライン側)にパスを届けるべきです。しかし右足、つまり中央寄りで相手DF側にパスを出しているため奪われています。
 そのほかにも仙台の特徴に三次元で通そうとするパスが多いことがあります。これは大きなサイドチャンジだけでなく、サイドから中央に入れるパスでも浮き玉を活用していて、たしかに相手の裏を突くには有効です。しかしその分受け手に要求される技術が高く、余裕がないと難しいので、結局奪われるシーンが散見しました。仙台の得点シーンのようにダイレクトで手放せるようなポジショニングがとれていれば有効だと思いました。
 とはいえ、試合を通して繋ごうとする強い意志を仙台から感じました。簡単に逃げるのは簡単です。2トップを走らせた方が楽な時もあります。しかしそこで繋ごうとしない限り、繋げるチームにはなりません。守から攻で繋げるチームが強いチームならば、繋ごうとした仙台は強くなれるチームです。仙台はこれから強くなるチームだと感じました。次当たる時が恐ろしくも楽しみです。

交通整理ができてきた川崎のサイド

 さて川崎が狙っていたのは仙台のCBとSBの間です。これは元々仙台が持つ弱点ですが、詳しくは以下のプレビューをご覧ください。付け足すとすると、この原因の一つは5バックの名残だと思います。特にSBが外に位置するのはいつもの景色に近い位置を自然と取ってしまうからだと思います。この辺りは時間をかけなければ修正が難しいでしょう。

(出典:サッカーアナライザー「監督の"男気"が引き起こす弱点同士の激突【川崎vs仙台プレビュー】
」<https://note.mu/socceranalyzer/n/nc017f5e69735>)

 ここを狙う上でポイントがサイド2人(左右)と小林です。サイドは前節神戸戦と同じ布陣でしたが、今節もタッチライン際に選手を配置することに成功します。この目的はドリブラーの2人をマークしたい仙台の思いを逆手に取って相手SBを外側に釣り出すことです。こうすることでCBとSBの間のスペースを攻めやすくなります。

長谷川「いつも通りにノボリくん(登里享平)が内側に入って、自分が外にいる方が相手のバランスは嫌なのかなと思っていた。もちろん、自分が内側に入った時に、ノボリくんも幅を取ってくれた。どちらも遜色なくやれたので、良かった部分が多かった。」
(引用元:川崎フロンターレ公式HP「ゲーム記録:2019 明治安田生命J1リーグ 第10節 vs.ベガルタ仙台」<https://www.frontale.co.jp/goto_game/2019/j_league1/10.html>)

 長谷川のコメントにあるように、登里は前の選手に合わせて外内両方のポジショニングができる選手ですので、左サイドの交通整理は比較的上手く行くことが多いです。一方の右サイドはこれまでそこが噛み合っていなかったのですが、ここ最近の馬渡は登里のようなポジショニングを会得しつつあり、右も円滑になってきています。ただ守備では齋藤に振り回されるシーンがあるので、今後泣き所になる可能性は十分にあります。

新たな前線の形〜小林と脇坂〜

 サイドの2人に対して小林はCBのピン留の役割を担っていました。つまりCBの視界に入ることで自身を警戒させ、CBの意識をできるだけ中央に寄せさせ、サイドのカバーに行かせないようにしました。
 こうした結果が実ったのが先制点のシーンでした。あのゴールは小林の強みの核が現れていました。というのも小林の最大の強みは相手選手を外す動きです。SBはサイドハーフが引っ張ってくれるおかげでCBとの勝負に専念できる小林は、すっと相手の視界から外れてフリーのポジションをとりました。そこにパスが出たのでシュートまで一直線、タイミングをずらしたシュートも秀逸でした。
 そして意外だったのが脇坂と小林の相性の良さです。「憲剛二世」と呼ばれていたので、脇坂のイメージは中村に近いものでした。しかしこの試合を見る限りどちらかというと香川に近く、相手選手間の狭いスペースで受けることが上手い選手でした。
 加えて素晴らしいのが外す動きを見れていることです。

脇坂「1点目は最初はトラップをして打とうと思ったが、意外とセンターバックが距離感が近くもなく、遠くもなかった。遠かったら自分で打とうと思っていた。ユウさん(小林悠)は左側で背負っていたので、これならいけるなと思って出した。」
(引用元:川崎フロンターレ公式HP「ゲーム記録:2019 明治安田生命J1リーグ 第10節 vs.ベガルタ仙台」<https://www.frontale.co.jp/goto_game/2019/j_league1/10.html>)

コメントにあるように脇坂は小林がCBを外していることを認識し、さらに後ろから追う相手SBも見えた上でパスを出しています。狭いスペースで受けれて出せる選手は貴重ですし、何よりもエース小林が「ヤスト(脇坂泰斗)は練習からやりやすさを感じている」と言うくらい相性が良いので、川崎のトップ下争いにこれから食い込むことは間違い無いでしょう。

おわりに

 この試合初スタメンの脇坂、ジェジエウが活躍したのはチームとして非常に大きいです。新戦力の台頭は鬼木監督の実力主義の采配が産んだ競争の結果だと思います。
 同時に良い傾向なのがパススピードの向上です。もちろん肌感覚でしかありませんし、速いのが常に是というわけでもありません。けれども速いパスでなければ崩せない場面があるのも事実です。これまでの川崎はパススピードが上がらないせいで、相手の守備陣形が整ってしまい、手をこまねくシーンが何度もありました。
 そうした課題を考えるとこの傾向は良い方に捉えていいと思います。懸念としては速さ一辺倒になってしまうことがありますが、そこは大島が復調すればバランスを取ってくれるでしょう。

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