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【Review】2019年J1第19節 川崎フロンターレVS.FC東京「思い出した昨年までの強さと全得点に絡んだ下田」

はじめに

 2019年J1第19節の川崎フロンターレは、3-0でFC東京に勝利しました。上位争いで迎えた多摩川クラシコを制し、勝ち点差を4に縮めました(1試合未消化)。
 チームに勢いをもたらした先制点は小林のJ1通算100点目。それでもすぐに切り替えて味方を鼓舞する姿は頼もしく、昨年の仙台戦大逆転を思い出しました。
 もう1人頼もしく見えたのが下田。個人的な話ですがサッカー部の同期に似ているのもあって前から愛おしく思っていて、この試合で泥臭くひたむきなプレーにはグッときました。後半はそんな下田愛多めでお送りします。

負けてなるものか精神

 ふわっとしていますが、この試合の勝因の一つは「負けてなるものか」という想いを全員が持って90分間プレー出来たことでしょう。特にそれが表れていたのが球際の強さ最終ラインの高さです。
 球際の強さを特に発揮していたのが田中で、東京でボールを保持することが多い高萩や橋本に対して強く体をぶつけていました。何度か強く行き過ぎてかわされるシーンもありましたが、阿部のテクニカルファールなどでリスクを処理することで試合を通して球際に厳しくいくことが出来ました。

小林「前からプレスをかけて、そこに後ろがついていく。そういう連動する守備をやってきたし、ハードワークすることもそう。知念やダミアン(レアンドロ ダミアン)がいるので、潰れても良いと思って自分もやっていた。」
(引用元:川崎フロンターレ公式HP「ゲーム記録:2019 明治安田生命J1リーグ 第19節 vs.FC東京」<https://www.frontale.co.jp/goto_game/2019/j_league1/19.html>)

  前節は下げてしまうことが多かった最終ラインですが、今節は高く維持していました。それを支えていたのが前からのプレスで、小林のコメントにあるように潰れても大丈夫というメンタルを持つことでプレスの強度を維持していました。最終ラインも前線を信じて恐れずにラインを高く設定して守っていました。ラインを高くしたことで永井やオリヴェイラに抜け出されるシーンもありましたが、集中したカバーリングで対応していました。
 こうした川崎のプレーの効果として、たとえば東京は出し手と受け手のタイミングが合わせられません。出し手は速いプレスを一旦かわす分パスが遅れてしまいますし、受け手は最終ラインとの駆け引きにリソースを割かざるをえません。それぞれを気持ち良くプレーさせないことで、東京の攻撃を分断しました。
 鬼木監督は普段以上に強い気持ちを持って相手と闘える選手を重視して選んだでしょうし、同時に選手が強い気持ちを持って闘えるようにメンタルをコントロールしていたと思います。2連覇時にも感じましたが、こうしたある1試合に向けて選手の士気を高めるのは鬼木監督の強みだと感じました。

カウンターの芽を摘んでいたパスコースカット

 まず守備では役割を十二分に果たしていました。相手の攻撃を止めるだけでなく、攻撃に繋げるまでの一連の流れで貢献していました。特にすごいポイントが運動量パスコースカットです。
 下田は両チームトップの走行距離を記録しました(11.328km)。ボランチに与えられたミッションの一つが前からのプレスに連動することで、そのため守備でも多く走ることが求められます。そうしないとFWの守備が無駄になるからです。運動量で相手ボランチを上回っていたことで、中盤の制圧に成功しました。
 一方で一番感動したのが東京FWに対するパスコースの切り方です。数えていませんがおそらくインターセプトが最多ではないでしょうか。下田は常に背後を気にしてパスコースに立つようにポジショニングしていました。特に被カウンター時にオリヴェイラの位置をすぐさま把握しコースに入る動きはスムーズで、カウンターの芽を摘んでいました(たとえば1:05ののシーン)。
 東京の強みは縦に速い攻撃ですが、その選択肢を的確に削っていたのが下田のパスコースカットでした。東京はこれによって別な選択肢を選んでいるため下田の頑張りは見えにくいです。しかしよく見ると東京が迂回してボールを運ばされて遅攻しているシーンがあり、下田の動きは東京の攻撃力半減に貢献していました。次節以降はぜひ下田のコースカットに注目してみてください。

3点全てに絡んでることを知ってほしい

 では攻撃はどうかというと、2アシストという数字はもちろんですが、2点目も起点は下田の鋭い縦パスだったことを踏まえると3点とも絡んでいます。えっ?と思ったあなた。2点目のハイライトを見返せばそこに下田の縦パスがあるはずです。
 全体を通して見てもパス本数はチームトップの113本(DAZN記録)で、チームの心臓として機能していたでしょう。いつも以上に攻守の切り替えを早くしたかった狙いを持っていましたが、下田は自身の特徴を活かしてシンプルに縦パスを入れてリズムを作っていました。
 プレスキックも健在で、下田らしい鋭く曲がって落ちるキックで小林の得点をお膳立てしました。ちなみにチームとしてアウトスイングを徹底していたのは空中戦に強いGK林を避けるためでしょう。下田が述べているスペースははニアのオリヴェイラと永井の後ろのスペースのことでしょう。

下田「あれは練習していた形で、良いボールを蹴れたし、(小林)悠くんがうまく決めてくれて良かったです。人は狙っていないですけど、スペースにうまく落とせました。」

 それでも課題はもちろんあって、たとえば中村が落ちて下田が前に上がった場面では良さを出せていませんでした。間で受けるための動きや後ろ向きでのボールの受け方は慣れておらず、ボールを奪われるシーンがありました。押し込んだ時の打開策としてボランチの攻撃参加は必要になるので、この辺りは今後も求められるでしょう。

中村と心中の気持ちだったのではないか

  最後にちょっとだけ妄想を。鬼木監督は中村と心中する気持ちだったように思います。「憲剛を出してダメならしゃあない」と思っていたんじゃないでしょうか。この試合は気持ちの部分は鬼木監督が、ピッチ内は中村がコントロールするという分業がはっきりしている点で、なんとなく昨年の広島戦に似ていると感じます。
 「60分で交代する予定で前半から飛ばしてたんだけど(笑)」というコメントを残していますが、プレーを見る限りは、少なくとも後半はセーブしているように見えました。最終ラインにプレッシャーをかける場面ではダッシュしていましたが、プレスバックや守備への切り替え時は無理せず小林に任せていました。フル出場を考えていたのではないでしょうか。どこかで90分間出場しよう、もしくは鬼木監督からしてほしいと伝えられていたのではと思います。
 鬼木監督の中村への信頼の理由は「中村にしかできないことがある」からでしょう。たとえば長谷川監督も言っていたようにゲームコントロールの力は、川崎では中村が唯一(最近だと大島も)です。この試合のように「強気に戦う」というのは聞こえはいいですが、一歩間違えれば前一辺倒になりかねないため、そこのバランスを取れる選手は不可欠です。
 さらにボランチのサポートをしながら攻撃を展開できるというところでは、脇坂や家長と比較しても上でしょう。2人とも単発的に実行することは可能ですが、中村の場合は的確に選択してやり切れるのが特徴です。ここでいう的確とは「相手が嫌がることを的確に」を意味します。自分たちと相手を同時に見て攻撃のタスクを触れるのが凄い点です。
 もう一つ加えると、選手の強い気持ちを維持できることがあるでしょう。直接味方を鼓舞するのはもちろんですが、それ以上にサポーターの力を自分たちに還元することが中村はできます。その最たる例が両手を上げるだけでサポーターが湧くあれです。小林や谷口も味方を鼓舞していますが、両手を上げるだけで一気にチームを盛り上げられる中村にはまだ敵わないでしょう。
 これらのことから鬼木監督は中村を信頼していて、東京戦には不可欠だと考えて復帰プログラムを計算していたとすれば、もう脱帽するしかありません。なんて、勝手な妄想です。すみません。

おわりに

 シックスポインターに勝利し、優勝争いに踏みとどまった川崎。同時に自分たちのスタンダードを再確認できた試合になりました。2連覇できた時の自分たちの強さを思い出せたのではないでしょうか。
   最近は試行錯誤を繰り返し方向性に迷いがありましたが、方向性はある程度はっきりしたためスタメンも再構築されるのではないでしょうか。その時に今節ベンチを温めた家長やダミアンは、鬼木監督の求める条件を達成できるのかは注目でしょう。

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