フォーメーションは星座、概念があるから言葉がある。

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フォーメーションは星座

 グアルディオラは「フォーメーションの数字なんて単なる番号に過ぎない」と言った。名監督の言葉を文字通り受け止めるつもりはないが、単なる番号にも意味はあるだろう。なぜなら「フォーメーションは星座」だからだ。どちらも多数のものの配置に名前を付けるという点で共通している。星座は複数の恒星の配置をなんらかの連想されたものの名前で呼び、フォーメーションは11人の選手の配置を数字や名前で呼ぶ。ふむ、わからない。

星座が見える人と見えない人

 さて論理の飛躍を埋めていくためにまずはクイズを。次の画像は何座か?

正解は「かみのけ座」。星座線を引っ張っても納得できないかもしれないが、正式に認定されている共通概念なのでグッと堪えてほしい。

 私をはじめ、天文学に疎い人にとって夜空には「無数の星」が見えるだけだが、詳しい人にとっては「白鳥」や「さそり」、さらには「かみのけ」が見える。「かみのけ座」というものは、そのような言葉をもつ人々にしか存在しない。逆にいえば「ことばがないということは概念がない」ということを意味する。

言語活動とは「すでに分節されたもの」に名を与えるのではなく、満天の星を星座に分かつように、非定型的で星雲状の世界に切り分ける作業そのものなのです。ある観念があらかじめ存在し、それに名前がつくのではなく、名前がつくことで、ある観念が私たちの思考の中に存在するようになるのです。
(引用元:内田樹(2012)『寝ながら学べる構造主義』文春新書

 はじめから「かみのけ座」があったわけではなく、無数にある星に誰かが切れ目を入れてまとまりを作ることで「なんらかの形」を見出して名前がつけられた、その言葉を共有する人たちにとっては「かみのけ座」は存在するが、私のようにその言葉を共有しない外部の人間にはそのような概念は存在しない。概念、ものの考え方があるからことばがある

5レーン理論は新星座の発見

 はじめの「フォーメーションは星座」に戻ると、フォーメーションも星座同様に11人を切り分けることで「4-4-2」のような名前が与えられる。つまり名前にはものの見方、考え方が隠されている。たとえば「4-4-2」の数字にはDF、MF、FWという「切れ目」が前提にある。この3つのポジションに分けるというサッカーの見方を共有しているから、単なる数字でも伝わる。これを単なる番号と見るのか、それともある世界の見え方と見るのかで数字のもつ意味は大きく異なる。 たとえば5レーン理論は新しい星座の発見といえる。これまではタッチラインと平行に11人に切れ目を入れていたが、この理論では垂直に切れ目を入れることで、新たな見方を生み出している。つまり「5レーン理論」ということばによって、私たちはフォーメーションを異なる角度から見ることができるようになった。ここにこの理論の価値がある。
 他にはチアゴ・モッタの「2-7-2」システムにも新たな見方、切れ目の入れ方が隠されている。ここには「GKのMF化」という考え方が含まれており、単なる数字と片付けることはできないし、話題になるほどの革新性をもった概念の誕生といえよう。

まとめ

 というわけで長々と書いてきたが、単にフォーメーションと星座に共通項を紹介したかっただけなので、軽く流してください。ただ今回の話は外来語の輸入とも関連が深いため、「戦術ピリオダイゼーション」などの議論とも関連でもいずれ論じたい。一応参考までに翻訳に関する本の書評を書いているのでよければ。

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