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【Review】2019年J1第15節 川崎フロンターレVS.コンサドーレ札幌「2トップへのこだわり見せた鬼木監督」

はじめに

 2019年J1第15節の川崎フロンターレは、1-1でコンサドーレ札幌と引き分けした。11戦負けなしも、2試合連続の引き分けです。
 2トップにするも得点は少なく、車屋の右サイドバック起用など采配に不満が残った方も多いのではないでしょうか。というわけで今回は采配をメインに考えていきたいと思います。

2トップを起点にしたスタメン

 浦和戦に続いて2トップで挑んだ川崎ですが、実は大分戦も最後10分は2トップでした。この3チームに共通するのが3バックだということ。数えたわけではありませんが鬼木監督は3バック相手に2トップで臨ことが少なくなく、昨年の湘南、長崎の連戦が個人的には印象に残ってます。
 一番の狙いは中央に2人、サイドに2人配置することで、相手最終ラインの間隔を広げて攻めるスペースを作ることだと思います。川崎の強みの一つであるサイドの崩しを最大限に活かすためには、まず相手を中央に寄せる必要があります。その際に1人では脅威になりにくく中央に寄せられないため、ほぼ常時FW2人をCB3人の近くに配置したいのです。こうすることで相手のCBはサイドに強く出ることが出来ず、結果サイドで優位を生み出すことが出来ます。
 こうした理由から鬼木監督はまず2トップを起点にスタメンを考えていたと思います。鬼木監督就任以来、手堅くなった分攻撃も落ち着いていて、「取ろうと思えば取れる」という状況ではありません。ダミアン獲得にも現れているように、昨シーズンの守備を維持しつついかに点を取るのかというのがいまの川崎の課題であり、その解決を優先しているように見えます。
 実際どうだったかといえばある程度は狙い通りだったと思います。たとえば左WBの白井が家長のマークで右サイドまで移動していたように、札幌はマンツーマンを徹底し、カバーリングを多用していたので守備時のポジショニングが安定していませんでした。失点シーンも左右に揺さぶられてマークがずれたことから生まれています。そうした札幌のマンツーマンを逆手に取って、はじめから配置した2トップで守備ラインを動かそうとした試みは上手くいったのではないでしょうか。

サイドの組み合わせ

 4バックをいじるリスクを考えれば、2トップにすると自ずと中盤は4人になります。さらに心臓であるダブルボランチを維持すると、残る2人を左右に配置することになります。ここでサイドの選手に求められるのが幅を取ることです。つまり中央の狭いスペースで受けることよりも、サイドで相手を引き付ける脅威、たとえばドリブルが求められます。長谷川や齋藤はこうした役割を果たすにはうってつけで、今節では最近好調な長谷川が起用されました。
 では右の家長はどういった役割を求められていたのでしょうか。おそらく幅を取ることと2トップと絡んでPAに侵入することの半々でしょう。幅を取るだけなら齋藤の方が良いようにも思いますが、広げることの目的は広げたスペースを突くことです。その役割を、もちろん長谷川も担っていましたが、強く任せられるのが家長、という判断だったと思います。加えて大島守田と三角形でビルドアップに貢献できるのも大事なポイントでしょう。
 ただ家長をサイドハーフに据えた時に課題なのが右サイドバックの人選です。2試合連続で車屋が起用されましたが、左利きのため幅を取ることができません。たとえタッチライン沿いでボールを受けても左足でボールを保持して後ろ向きになってしまうため、守備側からすると守りやすいです。途中で意表を突いた縦パスがありましたが、そういったプレーがもっと増えるなら車屋の右起用もありでしょう。とは言え現状は厳しく、2トップで挑むには明らかな弱点を抱えていました。
 後半から両SBを入れ替えたのもそうした弱点への対応でした。家長が内外の自由な動きに対して車屋が合わせられていたので、前の動きに柔軟に合わせられる登里を右に充てました。気になるのは鬼木監督は車屋を右SBに置いた時のデメリットは十分にわかっているはずで、さらに登里を右に置く選択肢も試合前には持っていたはずです。そんなデメリットを飲み込んでも車屋を右に配置したのには何らかの理由があるはずなので、おそらく次節も右に持ってくるのではないでしょうか。少し長い目で見ていきたいと思います。

鬼木監督「前半を見ていた中で、ノボリ(登里享平)とシンタロウ(車屋紳太郎)のところで言いますと、多少、左は単独でも行けそうだなというところ。あとは右の方でもう少し流動性とかコンビネーションのところではノボリのポジショニングとか推進力を上げていきたいというところでした。相手を見て決めました。」
(引用元:川崎フロンターレ公式HP「ゲーム記録:2019 明治安田生命J1リーグ 第15節 vs.北海道コンサドーレ札幌」<https://www.frontale.co.jp/goto_game/2019/j_league1/15.html>)

 大島が「後半は、配置と人が変わって、右からも左からも前にプレーできる回数が増えた」と述べたように、後半は右サイドからの攻撃も増え、かつ長谷川は相手の脅威であり続けたので、相手陣地に押し込む展開になりました。さらには左右に揺さ振れるようになり、結果的に同点まで持ち込むことができました。

2トップにすると居場所がなくなる脇坂

 さて多くのサポーターの脳裏によぎったのが脇阪でしょう。たしかに最近好調の脇阪には期待を持ってしまいます。しかし前節同様に2トップが優先され、脇阪は起用されませんでした。ベンチに入っていて不調というわけではなさそうなので、鬼木監督は2トップに拘りつつ保険で脇阪を入れたのではないでしょうか
 脇阪の特徴を活かすには相手最終ラインとボランチの間のスペースで、前を向いた状態でボールを持つ必要がありますが、3バック相手に1トップ+脇阪トップ下というのは難しいです。1トップでは相手CBが2人も余り、どちらかが後ろのスペースを気にせず前に出て守備をすることができるため、脇阪が前を向いてボールを受けることが困難になります。そうした場合はサイドの選手がPAに侵入するなどして相手ゴールに迫る動きを見せる必要がありますが、そうなる相手のサイドの選手も中央に絞り、より詰まってしまいます。
 3バックの場合、人数にゆとりがある分ボールホルダーに強く当たる傾向があります。1人が強く行き、他の選手がスペースを埋める形です。そうしたマンツーマン強めの相手に対して近距離で崩す局地戦のような攻めは、いまの川崎はあまり得意ではありません。むしろ密集するなら広げて、広げたら間を突いて、というように相手を見ながらプレーすることが得意です。登里が重宝されているのがその表れと言えます。
 家長の役割を脇坂に求めなかったのは、おそらく脇坂にサイドで張ってもらった時の怖さがないと鬼木監督が考えているからでしょう。脇坂をサイドに置いた場合、コンビネーションで崩すことが基本になるためサポートを送る必要があり、ボランチの運動量が増えます。もしくは小林のように「段差」に顔を出せる選手を同時に起用する必要があるでしょう。

小林「タツヤ(長谷川竜也)が運んだ時に横についてあげるとか、そういう動きをしないと崩せない。後半になってツートップは変わらなかったが、段差を作ったり、クサビのところで斜めの位置に顔を出すとか、そこは意識して入った。」
(引用元:川崎フロンターレ公式HP「ゲーム記録:2019 明治安田生命J1リーグ 第15節 vs.北海道コンサドーレ札幌」<https://www.frontale.co.jp/goto_game/2019/j_league1/15.html>)

おわりに

 というわけで今節は采配をメインに振り返ってみました。勝ちきれない試合が続いて不満の溜まっている方も多いようですが、個人的に鬼木監督の狙いは悪くないと思っています。ただ右サイドバックのような人材不足が弱点として露出してしまう采配をしているのが気になるところです。長期的に見ているのか、はたまた隠れた指示があるのか。鬼木監督の考えを聞いてみたいポイントです。
 チームはこれで引き分けが7つ目、リーグ最多です。勝ちに近い引き分けなのか、負けに近いのか、この意思が統一されていれば引き分けが続くのはさほど悪いことではないと思います。引き分けはもっとも感触が分かれる結果なので、すり合わせて次節に臨んで欲しいところです。

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