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【Review】2019年J1第17節 川崎フロンターレVS.ジュビロ磐田「ゴール前には誰がいく?川崎は小林、磐田は。」

はじめに

 2019年J1第17節の川崎フロンターレは、3-1でジュビロ磐田に勝利しました。
 ACL日程調整で2週間空いたため試合勘が鈍っていましたが、見事勝利。最近の課題だった追加点も挙げられました。一方で終了間際に失点を喫し、締め方に課題は残りました。

サイド攻略の先

 磐田はボール保持時、後ろの人数を増やして確実にビルドアップ。と思いきやいきなりロングボールを蹴るなど、ビルドアップして丁寧に攻めるという感じではありませんでした。パスミスが多かったので、割り切ってシンプルな攻めにしていたのかもしれません。
 そのロングボールを前線で受けていたのがロドリゲスとアダイウトンという馬力のある2人。彼らは自由に移動しながらボールを受けていて、川崎としては守りにくかったです。特にサイドでもらう動きで、川崎攻略の第一ステップである「CBとボランチにサイドのカバーリングをさせる」というのはできていました。ただサイドで起点を作った後が今ひとつで、後ろに人をかけている分、PA内に進入する選手が少なかったので攻撃に迫力がでません。理想では田口山田あたりがそこに顔を出すべきなのでしょうが、サイドのサポートやカウンター警戒に注力しすぎたせいか上手くいきません。
 対応策として名波監督はまず針谷を入れて2人を押し上げます。J初出場でしたが落ち着いて前にボールを供給して、磐田の攻めの精度を高めていました。さらに80分に上原を投入。ファーストプレイではアダイウトンがサイドに流れてボールを受けると、一直線にPA内に進入しました。これはそれまで後ろもしくは横でサポートしていた田口とは違う動きで、相手ゴール近くでプレーすることを求められていたのでしょう。最後には一矢報いるゴールに繋がっていました。

マクロとミクロの判断

 川崎はマクロとミクロで判断の質が変わりました。まず大きなところでは磐田に対して前から守備にいかないという判断をしました。ここは成長だと感じる部分で、これまでは多少強引でも前線からプレッシャーをかけていました。奪いどころがはっきりせず、ただプレッシャーをかけることが目的になっていたように見えました。しかしこの試合では無理せず引いて守るという判断をしていたようですし、実際観ててもそうだと思いました。

脇坂「焦ってボールを取りに行かずに、しっかりとラインを引いて戦うという判断ができたのは、夏の試合の判断で大事。耐えた中でユウさん(小林悠)の得点があったと思うし、そこで耐えられなかったら失点して前半が終わったかもしれない。あそこをゼロで我慢できたのは良かった。」
(引用元:川崎フロンターレ公式HP「ゲーム記録:2019 明治安田生命J1リーグ 第17節 vs.ジュビロ磐田」<https://www.frontale.co.jp/goto_game/2019/j_league1/17.html>)

 一方でミクロ、つまり個人では判断が遅く質が低かったと思います。ボール奪った後は磐田が前から積極的に奪いに来なかったことからゆったりとボール保持できました。しかしゆったり持てたことに加え、試合勘が戻っていないことからプレー判断が遅く、パス本数が少なくテンポが作れません(パス本数618本、平均は644.8本)。そのため相手を動かすことができません。揺さぶれたとしても、判断が遅いため守備陣形を整える時間を与えていました。

鬼木監督「前半からああいう形で動かしたかったのですが、少しテンポというものが出ずに、止めて考える、止めて考えるというのが多かったです。後半に向けてはシンプルに中と外をどんどん使うと、まさしく1点目が入ったシーンがそういうシーンでしたので、そういうことをやれば入るよということは伝えました。」
(引用元:同上)

 鬼木監督のコメントにあるように、判断のテンポを上げることで川崎は徐々に攻勢に出ます。この点は大島が意識してパスを回していたように思います。1点目のサイドチェンジも大島ですが、それ以前にもシンプルにサイドに散らすボールを蹴っていたので、おそらくパステンポを上げて相手を左右に揺さぶりたかったのだと思います。
 ちなみに先制点の場面ですが、小林曰く、車屋は右足では絶対にクロス上げないらしいです。とはいえ前半に低くて速いクロスは上げてたので、得点シーンのような浮き玉クロスは右足では上げないということなのでしょう。これまでもそうでしょうが、今後戦う相手は一層気にしてくるポイントでしょう。

小林「得点場面は、シン(車屋紳太郎)が右足では絶対にあげないと思っていたので、切り返した瞬間に入ることを意識した。」
(引用元:同上)

サイド中心の交代策

 川崎としては後半早々に追加点を挙げられたのが大きかったです。他方で磐田は失点後、針谷とエレンを同時投入で流れを変えようとします。狙いは針谷は先述の通り山田と田口をより前でプレーさせるため、エレンは守備強度が落ちる家長のサイドの攻勢を強めるためでしょう。これが功を奏し、磐田は怖いプレーを見せはじめます。ただそれでもゴール前に誰が行く?問題は解決できず、小川や川又の怪我の影響がモロに出ていました(大久保は何処へ)。
 川崎はいつも通りサイドの選手を替えて運動量を維持する作戦。まずは戻りが遅くなっていた家長の位置に阿部を、続いて攻撃を牽引していた長谷川に替えて齋藤を入れました。阿部は期待通り鋭い守備でエレン投入後に活性化していた磐田左サイドを抑えてました。攻撃では減っていた裏への抜け出しを行い、磐田守備陣を下げさせるなど、相手の嫌がることを的確に遂行していました。
 一方で齋藤は攻撃への意識が強すぎるせいか、守備の戻りが遅いのが気になりました。特に最後の失点のシーンは齋藤の戻りが遅く、田中と大島がカバーリングに入ったところからでした。先ほども書いたように川崎の失点の多くはCBとボランチが自分の陣地を捨てたカバーリングから始まります。逆にいえばサイドの選手はボランチに負担をかけない守備が求められます。スタメンで長谷川が選ばれているのは、攻撃だけでなくこうした守備での役割を果たせるからなのでしょう。

スペースを作る側に回った脇坂

 この試合は3バック相手でしたがトップ下に脇坂を起用しました。3バックとトップ下については前回のレビューを見てみてください。2トップにしなかった理由は色々あると思いますが、ただ単に2トップが失敗だったというわけではないと思います。

 ゴールという結果を残したから脇坂最高!というほど脇坂個人が良かったわけではないでしょう。むしろ3バックに対してトップ下を起用するために工夫をしていたことが重要だと思います。
 たとえば小林と脇坂はできるだけ中央、かつ近くに位置していました。前回はFWが中と外との間に段差を作る動きをしていましたが、この試合ではそれを家長やボランチ2人が担い、磐田のCBが小林を常に警戒する状況を作っていました。これはFWがサイドに流れる磐田との大きな差で、この差が勝敗を分けました
 さらに田中がゴール近くに飛び出す動きを増やしていたように感じました。磐田守備は人に対して守備するため、小林や脇坂に食いつくことが多く、スペースが生まれることが多くありました。そこを田中が使うことで攻撃に厚みを出していました。
 初めに見たとき脇坂はゴール以外の印象が薄いなと感じたのはこのためで、つまり普段はスペースを使う脇坂が、スペースを作る側の役割を果たしていたからです。この点は本人の意識の問題なのか、それとも鬼木監督の采配なのかが気になるところです。ただそれ以上に、中村のようにスペースを自分で作って自分で使うようなプレーへの第一歩だと感じました。

おわりに

 これでリーグ戦は折り返し(※16節未消化)。負けた記憶をたどると3月の第4節ガンバ大阪戦まで遡ります。それでもきっとモヤモヤしてるサポーターは多いような気がするのは、スタートダッシュに失敗&ACL敗退&ここ数試合の内容のせいでしょう。
 たしかに個人的にも下り坂をそろそろと下っている印象です。ただそれは主力の年齢や3年目のマンネリ感などから、鬼木監督も予想していたはず。前半戦はなんとかチームの景気を下げ止めようとしてきたのだと思います。結果として優勝争いに加わっているので成果は出ているといえるでしょう。
 正念場は割と近くて19節東京、20節大分の上位連戦は大きな意味を持ちます。おそらくここを強く意識しているはずです。天皇杯と鳥栖戦はきっとその意識が隠れた采配になると思うので、気にかけたいと思います。

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