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【Review】2019年J1第14節 川崎フロンターレVS.浦和レッズ「岩武を封じるにはまずは岩波を。」

はじめに

 2019年J1第14節の川崎フロンターレは、1-1で浦和レッズと引き分けました。ラストプレーでこぼれ落ちた勝ち点3。なんともいえない疲労を感じた試合後でした。
 全体で見れば守勢に回った前半を凌いで後半の反撃に繋げた修正力、対応力は見事だったと思います。相手の情報が少ない中でも、試合と向き合って対応出来る力が付いてきたと感じた試合でした。

気迫の守備の矛先は…

 大槻新監督の下で再スタートを切った浦和は、気合い十分に前から奪いにくる守備を仕掛けてきました。一方で新体制でかつ非公開練習ということで、浦和がどう出てくるか読めなかったために川崎は慎重に試合に入らざるを得ませんでした。そのため開始15分の川崎は受けに周り、何度かピンチを招きました。

大島「相手は試合の入りから迫力があった。監督が変わってそういった部分を求めてきたと思うし、他の試合を見た中でも、強度の高いプレッシャーをかけてきた。何をやって来るのかわからないところがあったので、受けるわけではないが、どうやってくるかなと構えた部分もあった。」(太字筆者)(引用元:川崎フロンターレ公式HP「ゲーム記録:2019 明治安田生命J1リーグ 第14節 vs.浦和レッズ」<https://www.frontale.co.jp/goto_game/2019/j_league1/14.html>)

 浦和はまず登里に狙いを定めました 登里がサイドでボールを受けた時のパスコースは通常3つで、谷口、守田、長谷川です。これらを武藤、柴戸、岩武が塞ぐことで、登里から選択肢を奪おうとしました。川崎は守田がCBの間に落ちないビルドアップをする時、谷口が中央に寄るため、その分登里との距離が遠ざかるという特徴があります。今回はそこを狙われた形でした。
 武藤は基本的に登里をマークしますが、奪いどころと判断すると谷口にプレスをかけて守備のスイッチを入れます。ここでポイントなのがWBの岩谷が長谷川のマークを捨てて、登里の位置まで上がって守備をしていることです。武藤は岩武が連動していることを確認しながら谷口に寄せていました。この時、長谷川のマークは岩波が上がって担当しています。
 この作戦はチーム全体を前に必要があるため、運動量が求められます。なので大槻監督は走れることを一つの基準に置いていたと思いますし、早い時間帯での交代策も、運動量を維持したかったからでしょう。

--後半、早い時間で交代カードを2枚切った。どういう狙いを出そうとしたのか?
大槻監督「前半、おそらく運動量、走行距離というのは自分たちのほうが出ていたと思う。その運動量の担保をしなければならないというのは試合前から思っていた。ボール保持、判断のところで、体力面が削ぎ落とされるところを、担保したかった。」(太字筆者)
(引用元:Jリーグ公式HP「試合結果・データ:川崎F vs 浦和」<https://www.jleague.jp/match/j1/2019/060107/live/#recap>)

 浦和の守備は功を奏し、開始早々二度ほどボール奪取に成功、チャンスまで繋げました。そのどれかが決まっていれば試合は全く異なるものになったでしょう。

岩武を封じるために岩波を封じる

 幸運にもピンチをくぐり抜けた川崎は、浦和の守備に対応していきます。まず谷口が登里に少し寄ることで、サポートの確実性を高めました。
 もう一つの方が効果的で、岩武の上がりを牽制するために、岩波に負担をかけました。先述の通り、岩武が長谷川のマークを捨てて登里にプレスをかけることが守備の肝でした。そしてその影にいるのが長谷川のマークを引き受ける岩波でした。
 というわけで川崎は岩波の近くに選手を配置することで、岩波を最終ラインに押し留めようとしました。具体的にはダミアンが岩波の近くでボールを受ける回数を増やします。こうすることで岩波は前に出られず、連動して岩武も長谷川のマークを捨てることができなくなり、登里に時間的な余裕が生まれます。

試合としては守備に関してはタツヤ(長谷川竜也)を使いながら、前半立ち上がりのところで岩武選手がどこまで出てくるかを見ていたが、けっこう出てきた。そこでこちらとしては前に出すぎず、フリーになるポジショニングを意識していた。
(引用元:川崎フロンターレ公式HP「ゲーム記録:2019 明治安田生命J1リーグ 第14節 vs.浦和レッズ」<https://www.frontale.co.jp/goto_game/2019/j_league1/14.html>)

 浦和の勢いを受け止めた左サイドから川崎は反撃に出ました。岩波をピン留めしているとはいえ、岩武は人に強く当たる守備でボールダッシュを試みます。そうすると岩波と岩武の距離が広がるので、下のコメントにある通り登里と長谷川はそれを逆手に取りました。得点の場面も相手守備のギャップを上手く突いたプレーだったと思います。

曖昧な言葉「そういう、ああいう」

鬼木監督「最初にも話をしましたけど、2点目3点目というところ、そこをしっかりととり切らないというところですね。選手にはいつも言っていますが、相手のラッキーパンチを食らうこともありますし、そういう意味でいうと、そこのところで最後に慌てずにすむようにするには2点目3点目、突き放すということが一番必要だと思いますし、実際そういう状況になって、今回のような状況になったときには全員で、シンプルなことですけど声を掛け合って、その中でも穴を作らないということを続けていくしかないと思っています。」(太字筆者)
(引用元:同上

 終了間際の失点で勝ち点2を失った今節。「追加点で試合を決めるべきだった」とも、「手堅く逃げ切るべきだった」とも思えます。ただどちらが良かったかはわかりませんし、セットプレーなのでああいった失点が起きうる状況でもありました。ですのでここで考えたいのが鬼木監督がどういった判断をしたかということです。

鬼木監督「自分自身の中ではそんなにやられるという思いとか、大きな不安とかは実際に試合をやっているなかではないです。ただやはり2点目3点目をとれない時の選手を見ていると、やはり不安とは思わないのですが、気持ちのところでどっちつかずというか、点もとりたいし守りもしなければいけないしというところがあったのかもしれないですね。ああいう場面になったときには全員が集中力を高めるしかないと思っています。ただ、やられ方としてはよくないと思っていますね。」(太字筆者)
(引用元:同上

  上二つのコメントを見る限り「そういう状況」や「ああいう場面」のような曖昧な言葉から、鬼木監督自身がどっちつかずな印象を受けます。追加点を取りに行くフェーズから守りきるフェーズにどこかで切り替えたのだと思いますが、その切り替えがどのタイミングだったかがコメントから、そして試合からもわかりにくかったです。
  試合を見ている時は二枚替えの時点で一点を守り切る方向に舵を切ったと感じました。選手だけを見ると追加点を取りに行くようにも思えますが、マギーニョ投入後から浦和に攻め込まれていたこと、そして後半42分まで動かなかったことを考えると、守り切る判断で、だからこその山村だと。つまりそういう状況になったと判断したからの二枚替えだと感じました。
 ところが実際には山村にボールを預けて前進を試みるプレーが見られました。ただ前線でキープさせるだけでなく山村の近くに選手を集めてパスを回しました。つまりまだああいう場面になっていなかったと考えていた可能性もあります。
 あくまで個人的な予想は前者、つまり逃げ切るフェーズだと判断した上での山村知念の投入です。山村が試合を締める役割を持っていると選手も共通で認識していると思います。ただ山村を中心としたボールキープに慣れておらず、結果的に前に人数をかけてしまっているのが現状なのではないでしょうか。
 どちらにせよコメントを見る限りは状況判断が曖昧だったのではと思います。答えは鬼木監督の頭の中にしかないので推測はここまでにしますが、こういった判断の曖昧さは後で痛い目に合うことが多いので(実生活でも)、早めに潰してほしいです。

おわりに

 采配が終了間際の失点の原因というつもりはありません。そもそも確率的に終了間際のゴールが多いのがサッカーですし、セットプレーということもあるので割り切りも必要だと思います。むしろベンチワーク含めたチームとして試合の進め方に迷いはなかったか、と問う必要があるように感じました。
 とはいえプラスに捉えれば、今の川崎には選択肢があるからこそ適切な状況判断が必要なのであって、常にガンガンだった時代もあったなあとしみじみ思ったりもします。。鬼木監督以降は「1-0で逃げ切る」という選択肢を持つようになり、本家まではいかなくとも鹿島ることができるようになってきました。せこさんの言うように「ここまで磨いてきた武器をどこで抜くかの選択」がいまの川崎の位置付けだと思うので、武器の選び方にこれからは注目すると面白いかもしれません。

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