【逆噴射小説大賞】『殺させ屋』

「お待ちしておりました。担当が中でお待ちしております、こちらへ」

 事務所に入ると、OL風の中年のおばちゃんが僕を案内してくれた。

「弊社の社名とは別に、わたしどもが何と呼ばれてるかはご存知ですよね?」

 その事務所にはちゃんとした社名もあるけど、不法行為を生業としているからか、あまり正式名称で呼ばれることはない。知っている者たちからは一様にこう呼ばれている。

 『殺させ屋』と。

「はい『殺させ屋』、つまり殺人のほう助。お客様のニーズに応じ、対象を殺せる状況を作り上げるのが弊社の業務。ですがあくまで、そこまで。弊社の従業員が対象に直接手を下すことだけは、絶対にございません。実際に手を下すのはお客様ご自身です。ご理解ください」

 廊下の奥の部屋に通されると、こわもての中年と、年若い少女が待っていた。

「担当を務めさせていただく、近藤と松田です。よろしくお願いします」

 眼光するどい中年の男が名刺を差し出した。

【続く】

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